葬儀場の棺の中にはよく見知った少女が横たえられている。
もう何度も見た景色。
夢を見ている自覚がある。
「沙夜さん」
何故なら、棺の前で呆然と立ち尽くすあの日の自分の情けない後ろ姿も視覚しているのだから。
まるで陳腐なドキュメンタリー映画を見せられている気分だ。
「ねえ、起きてよ⋯⋯沙夜さん」
棺の中の彼女を見て、無理だと理解しながらも僕は彼女の名前を口にする。
もう、そんな資格はないと思いながらも。
白い着物を着せられた彼女は体中に凄惨な傷を作りながらも綺麗だった。綺麗なままだと、決して惨たらしいなどと僕の脳と理性は感じなかった。
「⋯⋯⋯⋯沙夜さん」
望月沙夜の遺体はあちこちが欠損していた。
右腕の半分が切り落とされていた。
左指の二本が炭化して無くなっていた。
脇腹の一部は抉れ、杭のようなもので貫かれた穴もあった。
両足は潰れて形を留めて居なかった。
そのままでは哀れと体の欠けた部分には葬儀屋さんが詰め物をして誤魔化してくれたのだという。
「……嫌だよ、こんなの」
顔や首も火傷痕が幾つもあったが死化粧を丹念に施してくれたお陰で彼女はとても綺麗だった。
もう目を覚ましてくれないことだけが残念だった。
彼女は死んだ。
望月沙夜は大人になる前に若くしてその短い生涯を終えた。
御伽装士として数え切れない多くの人々を守り切った代償がこれだった。
「⋯⋯⋯⋯おえっ」
山中にて目を覚ます。
神通力を一気に大量に消費したせいで気を失っていたようだ。
押し寄せる吐き気に無理矢理意識を揺り起こされて、そのまま嘔吐する。
とは言え久しくまともに食事と呼べる行為はしていないので吐き出されるのは胃液ぐらいだ。
「⋯⋯今度はどうする?」
蹲って息を整えている俺を六人の気配が取り囲んでいる。
他人が見たら狐に化かされたとでも思うだろうか?
俺の目の前には姿形が寸分違わない六人の自分がいる。
鎧下駄の能力で生み出した分身体だ。
よしよし、成功だ。
まだやれたと安堵する。
とは言えこの無理をするのなら流石に何か飲み食いして栄養を補給をしておくべきだった。
三十年前は幾らでも出来た裏技だがここ数年はやる度に昏倒してあの夢を見る。
「構想した通りに五人は各地方に飛んで適当な御伽装士から怨面を奪いながら下準備を進めろ。くれぐれも殺すな。生き恥をかかせてやれ。一人は三重に行って探し物だ。助っ人を用意してある」
ゆっくりと立ち上がり指示を出す。
日常使いを始めた頃は不慣れで何度もすっ転んだこの鎧下駄もすっかり身体の一部のように馴染んでいる。
「くれぐれも総本山付きに出くわすなよ。それに高天原家の三つ子や夜舞家の者は相手にするな。仙台のソウテンとゲツエイとか言う御伽装士もだ」
六つの影は無言で頷くと疾風のように散っていった。
今回、余計な客演は要らない。
なに、延々と終わらない戦いの日々から解放されれば彼らも幸せだろう。幸せだ。
「いざ、いざ、いざ⋯⋯救いを始めよう」
そして、僕もーー俺も動き出そう。
さっそくの大仕事に取り掛からなければいけない。
※
京都・貴船。
鞍馬と双璧を成す京都の奥座敷として知られる土地。
貴船川の清流の真上に座敷を設けて涼を感じながら料理を味わう貴船の川床などは京都の夏の風物詩として有名だろう。
夜の貴船ならば渓谷沿いに建ち並んだ料亭や神社へ続く小道に朱色の灯篭の幻想的な灯りが京都でも指折りの納涼地を彩る。
そして、そんな貴船山の奥地をカランコロンと下駄の音を鳴らして、謎の鴉面を所有するあのチェスターコートの男は歩いていた。
宵の口の山中は一面の真っ暗闇だ。
けれど、男は星明りだけで十分とばかりにろくに整地もされていない悪路や傾斜を一本歯の下駄で楽々と進んでいる。
「さて、俺の知る情報と読み漁った文献がここでも合っているなら、この辺りにあるはずだが……オン・カンラ」
登山者ですら踏み込まない深部まで辿り着いた男はそこでようやく術で指先に照明となる火を発生させて周囲をくまなく探索した。
そして、巧妙に崩れた岩と生い茂る苔で覆い隠した隠し通路を発見する。
「あったな。後は俺に本当に運が開くか否か、これで決まる」
男は胸の高鳴りを鎮めながら意を決すると隠し通路の先へと足を進める。
通路自体はそれほど長くはなく抜けた先には一軒の社が厳かに佇む小さな空き地があった。周囲は岩壁や鬱蒼と生えた木々、そして大昔の御守衆の術者が施した認識阻害の術で完全に俗世と隔離されている。恐らくは衛星写真といった上空からでも正攻法では発見できないようになっている。
「徒労で終わらないでくれよ」
一体どれだけの歳月を風雨に晒され続けてきたのだろうか?
触れれば簡単に朽ちていく木製の扉を開けて男は社の中に入っていく。
「まさかとは思うが社ごと燃えないよな? 頼むぞ」
夜目を凝らせば、薄っすらと簡素な社内の輪郭が男の視界には広がる。
暗闇のままでは埒が明かないと男は術で二基の篝火に火を灯し、そして探し求めていた存在を目の当たりにすることになった。
「…………これだ」
パチパチと音を立てて燃える優しげな二つの炎が照らすのは奇妙な石柱だった。
間違いなく石のはずなのによく見れば樹木や蔦が幾重も絡まった女性の像の様にも見える。否、そうとしか見えないこれは石柱に非ず、石像なのだ。
そして、違和感はもう一つ。
石像は小さな社の中に鎮座させているには不自然なほど太くて長い。
それもそのはずでこの社はこの柱か巨木の如く長大な石像を祭るために後から建てられた物なのだ。
「御伽装士……過去も、未来も貴方たちはどうしてこうも愚かなんだろう」
男は憐憫に満ちた声で樹木に絡め封じられたような冷たい女人像を見つめる。
女の顔には男もよく知る魔道具が貼りついていたのだから。
怨面。それをこの石の女人は顔に被っていた。
「■■・■■■■・■■・■■■——変身」
男はおもむろに懐から取り出した自らの鴉面を被ると呪文を唱えた。
世界の終わりが訪れたような禍々しい光が放たれて、男を仮面の異形に変えた。
なんと言うことか、その姿は紛れもなく御伽装士のそれであった。そして、変身を遂げた男は女人像に手を触れる。
「オン・カンラ! お目覚めよ」
御伽装士に変身した男の手から夥しい量の神通力が石の女人像に注がれていく。
やがて、石像がメキメキと音を立ててヒビ割れていく。
決して石の像が壊れていくのではない。
数百年の歳月を眠り続けていた封印が解かれているのだ。
「オオオ! どうか! どうか! お目覚めよ! 汝の名を改めて呼びましょう!」
男は知っていた。
この貴船の地に古の御伽装士が封印されていることを。
罪を犯したわけではない。
罰を受けたわけではない。
ここに封じられた御伽装士はかつて世と人々を救うために恐るべき化神を祓うため、その身を賭したのだ。
けれども、時代とは歴史とは時にどこまでも無情で残酷になる。
相次ぐ戦乱や天変地異、更には諸外国との繋がりを得たことでの動乱の数々。激動の時の流れの中でいつしかその存在が御守衆の中枢から忘れ去られてしまっていたことも男は知っていた。
「いまこそお目覚めよ……鬼一法眼!」
男がその名を叫んだ瞬間、まるで願いが天に届いたとばかりに石像が砕け散った。
封印が解けたのだ。
その証左とばかりに石像という繭を破るように若い女と怨面が中から飛び出した。
「うぅ……う……ん……っ」
女は一糸纏わぬ姿で生まれたての小鹿のように社の古びた床に伏してしまうが冷たい外気と篝火の熱、何よりもすぐ近くにいる男の気配でおよそ八百年ぶりにその瞳を開いた。
「誰じゃ……
女は自分の四肢に力が入ること、己の身体の自由が自分にあることを確かめながらゆっくりと立ち上がる。
狭い社の中に自分以外の誰かがいることも、そしてそれが男であることも承知でいながら女は生まれたままの姿であることに羞恥を感じている素振りも一切見せることもない。
武人を思わせる毅然とした佇まいで、薄闇の奥に立つ男に問う。
「そなたが妾を起こした者で相違ないな?」
篝火に照らされて鬼一法眼と呼ばれた女の姿が露わになる。
見目麗しい女人であった。
若草色の長い髪に切れ長の鬼灯のような朱色の瞳。
それでいて太く短い麻呂眉が寒気を覚えるような彼女の美貌にどこか愛嬌を与えていた。
しゃんと背筋を正せば、たわわに実った乳房が大きく揺れる。
肢体の美しさは言うまでもなく、もしも審美眼のある人間がこの場にいたのならば彼女をこそ至高の美術品と褒め称えただろう。
「はい。俺の方からもお尋ねしたい。貴女が鬼一法眼?」
「左様。可笑しなことを問うのう」
男の質問に女は自明を問うのか?とどこか呆れた様子で返事をした。
鬼一法眼。
室町時代に書かれた書物などに登場する伝説上の人物として知られる謎多き貴人。
法師陰陽師とも、京八流と呼ばれる剣術の開祖でもある兵法家とも。
或いは鞍馬山に住まいし大天狗にして源義経の師匠とも言われている。
「御守衆であれば妾のことを知らぬはずがなかろ……う?」
「ああ、まだ変身を解いていなかったですね。無礼をお許しください」
「
「はい?」
男の御伽装士としての姿を見た途端に鬼一法眼の態度が一変した。
まるで旧い友に偶然にも出会ったような。
もしくは今生の別れを済ましたはずの知人を見つけた時のような、そんな反応だった。
「いや、すまなんだ⋯⋯なんでもない。忘れてくれ」
けれど、怨面を外した男の顔と格好を見て鬼一法眼は直ぐに我に返った。
目の前にいる男は素顔を包帯で覆い隠しているが自分が知る偉大なる原初の御伽装士であった男とは漂う匂いこそ微かに似ているがまるで別人だ。
「驚かせてすまぬ。そなたの姿が余りにも妾が知る男によく似ていたものでな」
そもそも、自分はかの先人が幼子を救うために永遠の命を差し出し千年を越える生涯に幕を下ろした瞬間に立ち会っていたではないかと自省する。
「無理もありません。貴方は八百年以上もこうして封印を守り眠り続けていたのですから」
「なに⋯⋯?」
「けれど、どうか誇ってください! 貴方の尽力のお陰で平安の世を脅かした恐るべき化神は見事に討滅されたご様子ですよ。いえ、貴方と完全に混ざり合ったと言うべきかもですが⋯⋯」
男は少々露悪的に言い過ぎたかと背筋に冷や汗を流しながらも、鬼一法眼の表情が自分の言葉一つで青くも赤くも変わっていくが愉快で仕方無かった。
「まさか⋯⋯ハッ、ハハ」
男の言葉に流されるように鬼一法眼はやけに重みを感じる背中に恐る恐るに手と視線をやった。
「美しい、と俺は思いますよ? 鬼一法眼様、貴方の美貌も相俟ってまるで天使のようだ」
精気の感じない冷淡な声の世辞にぞわりと不愉快な気分が走った鬼一法眼の背中で漆黒の羽根が羽ばたき篝火の炎が大きく揺れた。
これは奇跡か神の悪戯だろうか?
鬼一法眼の背中には艷やかな黒い羽根が生え揃った立派な翼が生えていた。
平安時代の在りし日に正攻法では討伐叶わない大化神を何とかするために行った禁呪の代償か彼女の肉体に化神の一部が混ざり込んでしまっていたのだ。
「どうか心を強く持ってください鬼一法眼。俺としては貴方が貴方のまま目覚めてくれたことを心から嬉しく思います」
封印から覚めてみれば人間と化神とが混ざり合ったバケモノになっていた。
到底すぐには受け入れられない事実に鬼一法眼が無言で立ち尽くしていると男は持参していた女物の着物を彼女の差し出した。
「どうかお召しください。女性をいつまでも裸のままにしていたこと、無粋な視線を送ったことを含めてどうかお許しください」
「薄っぺらな世辞はいらん。妾の裸体を舐め回すように観察していた癖に股座はぴくりとも動いていなかっただろう? 赤面して慌てふためけばまだ可愛らしいものを」
「失礼。俺の心は既にある女性に釘付けにされているもので」
「カッカッカ! ようやく、面白みのあることを言うたではないか小僧」
自らが置かれた状況を是非もないと割り切ったのだろう、さも当然に言い切った男の言葉に鬼一法眼は渡された着物の背を裂いてから袖を通すと初めて楽しげに笑った。
「改めて聞かせよ。妾がバケテングを心中紛いに封印してから、どれだけの時が経った?」
「八百年以上。いまは西暦2023年。元号は令和と言います」
「そうか」
「もう一つ、気を悪くすることを言いましょう。俺はもう御守衆ではありません。御守衆は貴方のことを忘れ去ってしまっている」
男の口から発せられる言葉は酷なほどに鬼一法眼の心を刺し貫いた。
「平安の世から令和に至るまでに数え切れない戦乱と混乱が日本を襲いました。御守衆もやむを得ないと同情する部分はあるかもしれませんが彼らは貴方と貴方の献身を何もかも全て忘れてしまったのです」
男は強く断言した。
そして、貴方の封印を解いた自分はそうではないと念を押すかのように。
「そなたの名は何という? まだ聞いていなかったのう」
「胸を張って名乗る名前はもう持ち合わせていませんがどうしても呼びたいのなら
「儚鴉? 坊やと言い間違えそうな呼び名だな」
「……坊やと呼んでもらっても一向に構いませんよ。そっちの方が呼ばれ慣れていた」
声色こそ一音低くなりはしたが男は珍しく嬉しそうに口元を小さく緩めた。
「では、儚鴉よ。御守衆でもないそなたが何の謂れがあってこの鬼一法眼を呼び起こした? この様子では妾も御守衆に戻ったところで歓迎もされまい。暇潰しの戯れるに付き合ってやろう」
「では僭越ながら⋯⋯」
鬼一法眼のまだどこか空元気にも映る上機嫌な様子に男は逸る心を抑えながら平伏して彼女に告げる。
「鬼一法眼。麗しき古の御伽装士よ。貴方に化神たちを統べる女王になっていただきたい」
儚鴉と名乗った男は仄暗い深淵のような双眸で鬼一法眼を見つめながら、自らの願いを告げた。
恐るべき野心。
けれど、それすらも彼にとっては大願成就のための布石に過ぎなかった。
(全ては御守衆……彼らが無用となる世界のために。お伽噺のような英雄も怪物もこの世界から退場してもらおうか)
※
三重県。
伊勢志摩のとある山間部には小さな集落が存在している。
廃藩置県や市町村合併などを経て地図上では名前を失って久しいその土地の名は
けれど近隣に暮らす人間はいまもかつての地名を使うことも珍しくない。
そして、遡ること江戸時代に庄屋をしていた名残でいまもこの土地の顔役をしている一族は村はずれにある大きな洋館風の屋敷で暮らしている。
一族の名前は龍宮。
龍宮邸二階にある執務室では二年前と変わらず海の家の従業員めいた金髪にラフな服装で流がPCと睨み合って事務仕事に没頭していた。
龍宮の現当主は姉である潮なのだが現役の御伽装士ということもあり、書類仕事を始めとした裏方周りの殆どは弟の彼が代行していた。
「今月の三重で起きた被害報告はまだ期日に余裕あるな。先に頭目に送る装士たちのシフト表の見直しを終わらせておくか」
彼自身の御守衆としての本職は技術開発を主に担う職人組の一人なのだが中部支部の頭目補佐の一人も兼務しているので平時であっても多忙なことが多かった。
アンティーク調の両袖デスクの隅に置いていた麦茶が注がれたグラスはとっくの昔に氷が解けてぬるくなっているが仕事が捗っている様子の彼は気付いた様子もなく、代わりにお茶請けとしてグラスの隣に用意していた琥珀糖に手を伸ばす。
「ん?」
食べ尽くした覚えはないはずなのに空振りした自分の手に首を傾げると黒い人影が琥珀糖が盛られた小鉢を机から下げていた。
「お仕事お疲れ様です流様」
流が視線をPCから逸らすとデスクの傍らには黒い光沢を放つダークスーツに身を包んだ容貌魁偉な初老の巨漢が音もなく立っていた。
白髪交じりの黒髪をオールバックに仕上げ、口元には往年の名プロレスラーを彷彿とさせる立派な口髭を蓄え、右目には眼帯を当てた風貌は威圧感の塊なのだが本人が醸し出す温和な佇まいがそれを絶妙に緩和している。
「ですがもう夕方の五時です。どうかおやつの類はしばしお控えくださいませ。本日の夕食は下拵えから気合を入れておりましたので」
「もうこんな時間か? 気付かなかったよ、ありがとう兼さん」
兼さんと呼ばれた男は本名を
身長195㎝。体重100kg。
今年で齢六十四になるが筋骨隆々の体躯に衰えの文字はなく、その動きは猫のように静かでしなやかだ。
戦士の風格を備えながら、重低音のその声音は柔らかくゆとりがあって彼が積んできた人生という名の経験の厚みを物語っている。
「姉貴からの連絡は?」
「ええ、一時間ほど前に無事に化神を撃破と。海が良い感じに荒れているので鍛錬がてら少し泳いでから帰るとのことで潮様からは六時までには帰宅すると」
「そうか、なら戻ってくるのは六時半ぐらいだな」
「七時あたりのご帰宅かと……潮様が夕食にリクエストされた夏野菜の揚げびたしもそれぐらいを目安に食べ頃に調整しております」
「ハハ。兼さんの方が一枚上手だ」
飲みかけの麦茶を飲み干して、小休止とばかりにしばしの間二人が談笑していると屋敷で暮らすもう一人の使用人が執務室の扉をノックして顔を出した。
「ご主人ー、兼さーん! ちょっといい?」
物怖じしない活発な声の主はクラシカルなメイド服に袖を通した桜色の髪をツインテールにした少女だった。彼女もこの屋敷に住み込みでメイドをしながら修行中の装士の卵で名を
「どうしましたか勇魚?」
「お客が来てるんだけど、なんか妙で……道に迷ったから電話貸して欲しいだって」
「携帯持ってないのかそいつ?」
「あと、それから犬たちが少し唸ってた」
「一先ず、私が応対しましょう。勇魚、お茶の用意をしておくように」
どうにも腑に落ちない珍客の来訪に首を傾げなら、兼定は客人を待たせている玄関へと足を急がせた。そこにいた者が凶事を巻き起こす招かれざる客だとは思わずに。