・宇宙歴5501年 春
どうも。
襲いかかる襲撃者を、指先一つ動かすことなく撃退しました。
もはや、俺たちがRimWorld最強といっても過言ではないでしょう。
カサバルです。
『過言です』
「過言ですぅ」
そんな全否定しなくていいじゃない。
『むしろ、なぜ肯定されると思ったのでしょう』
それはさておき、キャラバンの皆さん。
俺たちを狙った襲撃に巻き込んでしまって、すみません。
「別にいいわよ。襲撃なんていつものことだわ。むしろ、たった一人ヤるぐらい、いい退屈しのぎよ」
うぅん。日常がバイオレンス。
やっぱり、RimWorldを旅するのには、大きな危険があるんですね。
「どうしても、拠点と比べて無防備になるのよね。キャラバンの規模が大きかったり、物資の価値が高くなるほど襲われやすいわよ。アンタたちも、交易で出かける時は気をつけなさい」
キャラバンか。
でも、こうしてよそから来てくれるんだし。そんなに危険なら、わざわざ出かける必要はないよね。
「それは違いますぅ」
あ、バフィ。
そう言えば、キャラバンにいたんだっけ。
「はい。キャラバンは、どうしても運べる物資が限られるですぅ。せっかくキャラバンが来ても、欲しいものが売ってなかったり、逆に売りたいものを買ってくれなかったりするのも、珍しくないですぅ」
そうなんだ。
こっちから他派閥の拠点に行けば、売買できる自由度が増すってことか。
「そういうわけだから、どこもリスク背負って交易してるのよ。武器に医薬品、食料。この世界で生きるには、いくらあっても足りないわ」
なるほど。多少の危険は、覚悟の上、と。
でも、キャラバンを組むのもいつの話になるかな。
見れば分かると思いますけど、売れるようなものなんて何も持ってないんですよね。
「ああ、ちょうどいいわ。そのことなんだけど」
はい、なんでしょう。
「この近く、虫の巣がいくつかあったわよね。もしかして、インセクトゼリーを持ってないかしら」
ああ、ありますよ。
毎晩毎晩、命がけで虫さんたちの巣から取ってきています。
「ホント? あれ、けっこうな値段で取引されてるのよ。売ってちょうだい」
インセクトゼリーか。
…………。
いいですよ。
持ってるのは、全部売ります。
『意外ですね。アナタが食料を手放すとは』
まあ、砂漠にいた時は考えられなかったんですけど。
ここなら野イチゴもあるし、そろそろ暖かくなって畑も作れそうだし。
ちょっとリスクは増えるだろうけど、今後のことを考えるなら、売っておこうかな、と。
お金を持っていたら、選択肢が増えるだろうし。
『アナタが、長期的な視野を持つとは……。これが、知性の芽生えなのでしょうか』
元から持っとるわ。知性。
そうだ。キャラバンの皆さん、こっちも商品を見せてもらっていいですか?
「もちろん、いいわよ」
バフィ、何か欲しいものはない? 買ってあげるよ。
「本当ですか!?」
噓なんてつかないよ。
いつもがんばってくれてるから。あまり高いものは買えないけど。
「ありがとうですぅ!」
スキップしながら商品を見に行った。
人工種族でジャンキーでも、やっぱり子供だなぁ。
何を買うんだろ。オモチャかな? お菓子かな?
『さて、ワタシは何にしましょうか』
シレッと買い物に加わろうとするな。
人工知能なのに、何が欲しいんですか。
『未知の物品なら、なんでもです。RimWorldの物は、全て研究資料となりますから。情報の収集こそ、ワタシの存在意義なのです』
なるほど。人工知能としてのあり方、というわけですね。
買いません。
「カサバルさぁん」
あ、バフィ。
欲しいもの、決まった?
「はいですぅ! えっと、このトリップできるマッシュルームにぃ、ハイになれる白い粉にぃ――」
あ、すみません。
こちらの商品なんですけど、クーリングオフさせてもらいますね。
「え…………」
そんなハイライトの消えた眼で見つめられても、ダメ。
「…………」
ダメ。
ね、ねえ。バフィさん?
「…………」
えっと。今夜も、虫さんたちからインセクトゼリーをもらってきて欲しいかな……なんて。
「…………」
どうしよう。
あの日から、ずっと口をきいてくれない。
『心に傷を負ってしまったのでしょう。汚い大人に裏切られたせいですね』
裏切る以外にどうしろと。
それにしても、思ってたよりインセクトゼリーが高く売れて驚いた。
袋いっぱいの銀貨を渡された時は、目が点になっちゃったよ。
『およそ600シルバーですか。大した金額ではありませんが、これまでのことを考えると、前進と言えるでしょう』
まあ、文字通り一文無しだったからね。
このお金は、できれば武器を買うのに使いたいな。やっぱり、拳銃とか飛び道具があるのとないのとでは大違いだし。
……ところで、思ったんですけど。
『なんでしょう?』
虫さんたちって、ひょっとして星くずサバイバーズの守り神的なサムシングなのでは?
『まもりがみ』
だって、食料は恵んでくれるし、敵は撃退してくれるし。
おまけに、こうしてお金まで手に入れられるなんて。
いやぁ、思い返せば、一目見た時から神々しいものを感じていたんですよ。
『ログを見返してみます? 思いっきり、気色悪いと発言していましたが』
あ。俺、過去は振り返らない主義なんで。
『本来、あの虫たちは生物兵器が管理下を離れ、野生化したものです。今は偶然アナタたちのメリットになっていますが、甘く見ていると痛い目にあいますよ』
分かってますって。
今後も、ちゃんと注意して――
「コオオォオオン!?」
な!?
い、今のキツネっぽい悲鳴は?
イヤアアアアアアア!
バフィが虫さんたちにモグモグされてるぅ!?
『早いフラグの回収でしたね。うっかり虫たちを起こしてしまったようです』
バ、バフィッ。
『むやみに飛び出すのは危険です。……と、話も聞かずに行ってしまいましたね』
うぉおおおおお、バフィ回収!
って、俺も狙われてる!?
『さて、全裸セラピストが虫たちと追いかけっこしている間に、本部への報告を済ませましょう』
助けてぇ、食い殺される!
『本部へ報告。全裸セラピストはツンドラの寒気もやり過ごし、気温も栽培可能なまでに上昇しました。食料については、少なくとも冬まで安定するでしょう』
来ないでぇええ!
『しかし、依然として戦力や物資の不足など、課題は山積みです。以前と変わらない生活を送っていては、進展は見込めないでしょう』
ああああ、囲まれたァ!?
『現状、食料には余裕が生まれそうです。その余裕の中で、将来を見据えた布石を打つことができるのか。注目されます』
なんとか、救助と治療が間に合った。
けど。
「…………」
うぅ……。
バフィ、ウンとかスンとか言っておくれ。
「ウン……スン……」
言ってくれた。
『余命4時間の中、よく間に合いましたね。しかし、当分は意識不明のままでしょう』
本当にギリギリだった。
……やっぱり、どこか気が緩んでいたのかな、俺。
危険なことは分かっていたけど、これまでなんとかなってたし。バフィが死なずにすんだのは、本当に幸運だった。
『では、もう蟲の巣に行くのはやめますか?』
……。
…………。
いえ、それはできません。
『ほう』
現状、やめるという選択肢がないんですよ。
長期に保存できる食料は貴重ですし、何より、今のところ唯一の現金収入の手段です。
安定した食料生産と、収入源の確保。
少なくとも、この2つをどうにかしない限り、危険を冒してでもインセクトゼリーはもらいに行きます。
それに。
『それに?』
多少のリスクを背負うのは、覚悟しないといけないと思うんです。
キャラバンの話もそうですけど、この過酷なRimWorldを生き抜くには、安全策だけじゃ行きづまる。
リスクとリターンを計算して、ギリギリを見極める。それが必要な局面が、きっとこれから何度もあるでしょう。
今は、あえてリスクを背負う時なんです。
『おお。アナタが虫たちから逃げ回る動画が、組織のスタッフに大うけです。良質のモンスターパニックだと』
俺、すごくかっこいいこと言ってたよ?
……ん?
『どうしたのです』
なんか、さっきから外が騒がしくない?
大勢でドッタンバッタンしてるような音が。気のせい?
『たしかに、生命反応がありますね。これは北の洞窟のあたりです』
洞窟……。
まさか!?
ナニやってるのぉ!?
『たまたまキャラバンが虫たちの近くを通り、そのまま戦闘になったようです』
やめてくださいッ。
争わないでぇええええええ!
う、嘘でしょ。
虫さんたちが、全滅した。
『まあ、普通の人間にとって、単なる駆除対象ですから。まだ2つも巣は残っているのですから、いいではありませんか』
そうなんだけどさ。
バフィもしばらくは意識不明だし、虫さんの巣は潰れるし、なんか散々だなぁ。
『落ち込んでいる場合ですか。アナタには今、やるべきことがあるでしょう』
……そうですね。
戦いの中で、キャラバンの人が何人か倒れている。
すぐに拠点に運んで治療しないと。
『不正解です』
え?
『見なさい。倒れたキャラバンの構成員が、武器を落としています。今の内にネコババしましょう』
そんなことだろうと思ったよ!
ハイエナはRimWorld住民の基本(偏見)