・宇宙歴5500年 春
どうも。
リゾートに来たはずが、全裸で浜辺に立ち尽くしています。
Casabal――カサバルです。
いや、どうしてこうなった。
なぜか出発前にもらったタブレットだけ残ってたので、とりあえず現状を記録してみる。
正直、これから何をどうすればいいのか分からない。
ん?
タブレットに文章が表示された。えー、なになに。
『アナタはこのたび、我々のプロジェクトにおける実験対象に選ばれました。
これは未開の惑星において一般人がどの程度生存できるかという、今後の宇宙開発に大きな意味を持つものです。がんばってください』
なるほどねぇ。
…………。
ふざけんなぁ! 俺の夢にまで見たリゾートを返せ!
せめて元いた場所に帰してよ!
『それはできません。知恵をしぼって、この
は? RimWorld?
宇宙開拓時代に人類が到達した最果ての星域。
凶悪な宇宙海賊や大昔に生み出されたミュータントがのさばっていると噂の。
嘘でしょ。
そんなとこに放り出されて、どうやって生き延びろと!?
秒で死ぬわ。
『生活の基本は、衣食住です。服はまだ難しいので、まずは食料と拠点を探すとよいでしょう』
あ、ご丁寧にどうも。
というわけで、ひとまず周囲を探索してみる。
潮風が涼しいな。もし冬にでも放り出されてたら余裕で死んでたよ。パンツもないし。
うーん。
分かってはいたけど、砂漠だな。
東が海岸で、ところどころに岩山がある。街とか集落とかは見当たらない。
まばらにサボテンやら小さな木が生えている中を、野生の動物たちがうろついている。
一応、人が住んでいた形跡はあるんだけどなぁ。
ボロボロになった壁の一部とか、よく分からない石碑とかが残ってたりする。廃墟を通り越して遺跡の部類だけど。
廃棄されてから10年以上はたってそう。
しかし、一応は人が住んではいるんだな。
『RimWorldの住民は、主に開拓時代の終わりに置き去りにされた植民の子孫ですね。他には、管理者から逃げ出してたどり着いた人工種族や、中央政府に追われる犯罪者や危険分子も潜んでいるようです』
ううん。想像以上にヤバい感じ。
しかし、一通り周囲の状況を確認して思ったんだけどさ。
これ、無理じゃない?
だって、まず食料がないもの。
海なら魚を捕まえられるかもしれないけど、それだけで生きていけるだろうか。
せめて森とかだったら、食べられる植物があったのに。
これ、確実に殺しに来てますよね?
『一応、まだマシな方です。熱病や猛獣のはびこる熱帯雨林に落とされた者もいますから』
人の心がないんですか?
『他には、一年を通して氷点下で、草木も生えない氷海に落とされた人もいます』
……全裸で。
『全裸で』
悪魔だ。悪魔がいる。
ああ、洞窟がある!
あそこを拠点にしよう。とりあえず雨風をしのげるだろうし。
お邪魔しまーす。
思ったより薄暗いな。足元に気をつけないと。
なんか岩壁がベチャベチャしてる。変な粘液がこびりついてるんだけど。
それに、なんかカサカサ音がするような――
あ、どうも。
……なんとか逃げ切れた。
『開始から数時間で死亡というレコードが生まれる寸前でしたね』
っていうか、なにアレ!?
とにかくデカくて気色悪い生物が巣を作ってたんですけど! 初めて見たけど、絶対人を襲うやつでしょ。
『開拓時代に遺伝子操作で生まれた虫たちですね。おそらく兵器としての運用を想定されていたのでしょう』
人間の闇を見た。
『今後、一度でも遭遇した生物のデータは、タブレットに送られます。いつでも確認できますよ』
中途半端にフォローしてくれるな。
どうして、そんなにRimWorldの環境に詳しいんですか?
『我々の組織は、秘密裏に外宇宙開拓の再開を計画していました。人工衛星や超小型調査機を活用して、ある程度の情報を得ています。その最終ステップとして、今回のプロジェクトが始められたのです』
へえ。いい迷惑。
しかし、あんなんがいるんじゃ、もう洞窟には近づけないぞ。
『では、野宿ですか?』
絶対に嫌だ。
どんな猛獣がいるかも分からないのに。完全にデスルートでしょ。
『正解です』
正解です、じゃないが。
と、いうわけで。
まずは遺跡を解体して、建材を手に入れて、と。
鉄製のカンオケとかあるけど、中に誰もいないので遠慮なく壊す。少ない木やサボテンを伐採して、木材も調達。
ある程度集めたら、場所の目星をつける。
よし、海岸近くに手ごろな岩場がある。
海が近かったら、食料も手に入れやすいだろう。
集めたスチールを使って壁とドアを建てよう。
…………やべ!?
……痛い!
『まだですか?』
しかたないじゃない!
がんばってるけど、ボロボロ失敗するんだよ!
『まあ、現時点で建築スキルが“無謀”レベルですからね。経験を積めば、改善されるでしょう』
はあ、はあ。
かなり時間と資材を無駄にしたけど、なんとか完成した。
こうして壁で囲ったら、上をトタンで覆っていって……はい、屋根もできた!
……あれ?
俺、どこからトタンなんて出したんだろう。
『サイバイバル技能の一つ、トタンの錬成ですね。どこからともなく、屋根として使えるトタンを無限に生み出せます』
俺にそんなパワーが眠っていたなんて。
『しかし、想定よりもかなり早く拠点ができましたね』
『木材でベッドも作りましたし、最低限の住居は確保できた、といったところでしょうか』
正直、自分でも予想外。
あれだな。人間、死ぬ気になればけっこうできるもんだなぁ。
あ、ところで質問なんですけど。
『何か?』
今さらなんですけど、誰ですかアナタ。
リアルタイムで質問に答えたりしてくれてますけど。
『ワタシは、実験を順調に進ませるために作られた人工知能です。主にデータの収集と分析を行います』
はえー。
よう分からんけど、すごい。
しかし、これなら意外となんとかなるかもしれないな。
程度はどうあれ、1人で拠点を確保したわけだし。
絶対、死んでやるもんか!
生きてRimWorldから脱出してみせるぞ!
もう無理、死ぬ。
『どうしました。まだ二日目の昼ですよ』
だって、腹が減って、腹が減って。
なんにも考えられない。
『まさか、朝からずっと釣りをして釣果ゼロとは思いませんでした』
俺もだよ。
でも、現状は他に食料調達の手段もないんだよなぁ。
収穫できる作物もないし。
『動物を狩猟するというのも考えてみては。ほら、あそこに手ごろなハイエナが』
死んでしまうわ! こっちは素手だぞ!
『では、種をまくのはどうでしょう。作物がないなら、自分で作るのです』
その手があったか!
というわけで、拠点の北東に畑を作ります。
ほとんど砂だけど、ほんの少しだけ土が集まってる場所がある。ここならマシだろう。
『植えるなら、コメをおすすめします。ジャガイモやトウモロコシに比べると収穫量は劣りますが、はるかに早く実りますよ』
じゃ、それで。
せっせと雑草を取り除き、コメを植えていく。
狭いだけあって、あっという間に終わったな。
……ところで、俺、どこから種を出したんだろう。
『サイバイバル技能の一つ、無限の種もみですね。どのような作物であれ、種を用意することができます』
俺にそんなパワーが眠っていたなんて。
とにかく、コメを植えたぞ。
これで食糧問題も解決だ。
『はい。それなりの量が収穫できるでしょう。5日後ぐらいには』
うん。知ってた。
どうしたものかなぁ。
もう、空腹が辛すぎて、ベッドに寝ているのさえ厳しい。
『しかし、ダラダラとタブレットをいじっていても、解決しないと思いますが』
しかたないじゃない。
拠点の外をハイエナがうろついてて怖いんだよ。
なんか、やたら俺の様子をうかがってたし。
『ハイエナの気持ちを推測するに、明日あたりには食いごろだな、って感じでしょうか』
やめて!
『実際、初期の栄養失調になっています。このままでは、このプロジェクトにおいて記念すべき最初の死亡者になりますよ』
嫌だ、そんなロクでもない称号。それより、よく俺の身体の状態が分かりますね。
『計画を始めるにあたって、身体に微小な機械をインプラントしました。あなただけでなく、一定範囲内にいる生物の健康状態を詳細に調査できます』
人の身体をオモチャにしないでください。
両親からもらった大事な身体なんですよ。名前も顔も知らないけど。
それより、そのインプラントされた機械って、変な機能ついてないでしょうね。
万が一、俺がRimWorldから脱出しようとしたら、身体の内側からボンッてなるとか。
『……』
何か言ってよ!
うん?
これ、昨日言ってた虫についてのデータか。
こんなの見てもなぁ。
どうがんばっても、勝てる気しないし。そもそも、虫の肉なんか食いたくない。
『遺伝子改良された虫。昼行性。基本的に巣の周りから離れないが、攻撃されると対象をどこまでも追いかける』
怖い。二度と近づかないでおこう。
『なお、巣から分泌される液が凝固したものはインセクトゼリーと呼ばれ、腐ることもなく栄養価の高い非常食としてRimWorldで重宝される』
…………。
……そろり、そろり。
よし、虫たちは寝ているな。
巣のそばに、ドロッとした緑色の塊が落ちている。たぶん、あれのことだろうな。
こっそりと、巣に近寄って行って……。
そい!
ぜえ、ぜえ。
二日ぶりのご飯だ。
……命がけで取って来といてナンだけど、本当に食えるのかな。
あ、イケるわ。
コッテリしつつも、後味がスッキリしてるというか。
正直、街で配給されてた合成食材より、何倍もおいしい。クセになる。
食料に困ったら、また取ってこよう。
でも、こんな調子で生きていけるのかな、俺。
いや、弱気はダメだ。
こんなわけの分からない実験に巻き込まれて、死んでたまるか。必ず生き延びてみせるぞ。
……せめて、最初の犠牲者になるのだけは、避けたいなぁ。
『その点なら、ご心配は無用です』
え?
『さきほど、氷海に落とされた方が、低体温症でお亡くなりになりました』
……。
ひょ、氷海の人ォ!
ネイキッドの砂漠スタートで食料は最初の関門です。
虫の巣を利用する方法に気づくまで、何度も入植者を餓死させました。