・宇宙歴5501年 冬
『本部へ報告。旅に出たテナントと3時間ぶりの再会を果たした全裸セラピストたちは、未だに五体満足で生存しています』
イヤァアアアア!
『食料も、現状では充分な量をキープしています。虫からゼリーを盗んでいることに加え、オオカミなどが捕食した動物の食べ残しを、チマチマ集めて食肉にしているからです。完全にやっていることがハイエナですね』
助けてー!
『ちなみに悲鳴が聞こえるのは、自分がオオカミに追われているからですね。きっと天罰でしょう』
ヘブッ!?
『あ、転びました』
どうも。
たった今、命がけのレースを逃げ切り勝ちしました。
背中にのしかかられて首をベロンチョされた時は、もうダメかと思ったよね。
カサバルです。
『どんなミラクルを起こしたら、その状況から生還できたのですか、アナタ』
がんばったんです。
「バルバルばっかり、ワンちゃんと遊んでずるいー」
バルバルとは、ひょっとして俺のことでしょうか。
ヨットさん、俺はカサバルだって言ってるでしょ。今さらですけど、なんで3時間で帰って来たの?
「歩いてたらお腹すいたー」
あ、そう。
『経緯はどうあれ、オオカミに襲われた結果は無傷での逃走でした。外宇宙開拓プロジェクト内でのオッズは8.6倍です。的中させたスタッフの方は、おめでとうございます』
うーん、平然と人の命でギャンブルしてる。
『……惜しい。腕の一本ぐらい、いけると思ったのですが。ワタシの計算が狂うとは』
アイちゃんも賭けてたの!?
『いえ、まだ負けていません。次は2倍賭ければ取り返せます』
あら、ヤダ。この人工知能、ギャンブラーとして破滅的な思考をしているわ。
そもそも何をベットしてたの?
それにしても、最近はちょっと外に出るとオオカミが襲ってくる。おかげで、全然屋外での作業が進まない。
「冬になって獲物が少なくなり、肉食動物が飢えているのでありますな」
ムムム。
「いっそのこと、オオカミさんと戦うのはどうですぅ?」
悩みどころだなぁ。
今の俺たちの医療環境だと、かすり傷1つでもバカにできない。この前も感染症で大騒ぎになったし。
まぁ、とりあえずは様子見で大丈夫でしょう。いい機会だし、拠点でのんびりリフレッシュしよう。
『残念ですが、それは無理です』
へ?
『北から、武装した人工種族が近づいてきています。襲撃です』
しゅ、襲撃者が2人もいる……! 今までは単独で来てたのに。
『当然でしょう。アナタたちが大きな集団になるほど、向こうだって相応の戦力を出してきます』
これまでと同じようにはいかないというワケか。
ど、どうしよう。敵は様子見しているし、いっそ先制攻撃をしかけるか?
「お待ちください、隊長。あの種族は足が速く、接近されて乱戦になる可能性があります。ここは拠点に誘い込むべきかと」
「でも、そうしたら発電機とかの設備を壊されちゃうかもしれないですぅ」
ウググ。どうするべきなんだ。
『フッフッフ、悩んでいますね。これまでも多くの実験体たちが、激しさを増す襲撃に屈してきました。アナタたちがどのように対応するのか、これは良いデータが得られそうです』
おのれ。電子音声のくせに、なんて邪悪な声を出すんだ。
…………あれ?
『さあ、全力を絞って生き延びなさい。アナタたちの奮闘から得られるデータが、外宇宙開拓の礎を築き上げるのです』
あの、アイちゃん。盛り上がってるとこ悪いんだけど。
なんか、襲撃者がオオカミに襲われて、いつの間にか全滅してるんだけど。
『……』
なんか言えよ。
えっほ、えっほ。
ふぅ。しかたないことだけど、死体を運ぶのは気が滅入るな。
『わざわざ埋葬しなくても、襲撃者の死体など野ざらしでいいでしょうに』
でも、それはそれで、気分がよくないんだよな。
結果としてジャマなオオカミも駆除できたし。せめて墓ぐらいは作ろう。
『相変わらず、お人よしですね。損しますよ』
ほっといてよ。
ん? 見慣れない動物がいる。
「メー」
あれは、ヤギ? ちょっと違う気がするけど。
『ヤギ属のアイベックスですね』
初めて聞く名前だけど、RimWorld固有の動物なの?
『違います。元は開拓時代に連れてこられた個体が野生化したものです。中央政府の管理下では絶滅してしまいましたが』
じゃあ、こいつも元は俺と同郷なのか。そう考えると、親しみがわくな。
あ、こっちに近寄ってくる。人懐っこいのかな?
『ただし、RimWorldの動物にはある共通点がありまして』
ほーら、おいでー。
『不定期に暴走を起こし、人間を執拗に追い回す殺人マシーンとなります。まあ、そこまで頻繁に発生する現象ではありませんので、警戒するほどではありませんが』
『あっ』
ホゲー!?
死ぬかと思った。
『奇跡的なタイミングでしたね』
どうして、この星の生物は殺意マシマシなの?
『あれは一時的なものです。ある程度の時間が過ぎれば、おとなしくなります。原因は調査中ですが、開拓時代の遺物であるテレパシー発生装置が暴走しているというのが、有力な説です』
怖い。それって、人間には影響ないんだよね?
『さすがに殺人衝動は起こしません。ただ、心情の低下や上昇など、感情面に影響を与えます。それに』
それに?
『RimWorldにおいては、かなり独特な現象を引き起こします。例えば──』
「あ、バルバルー。傷なおったー?」
カサバルです。
だいぶよくなりましたよ、ヨットさん。今は拠点の掃除中ですか?
「そーだよー。泊めてもらってるおれいー」
ありがとうございます。
『寒さに強い彼女の体質は、ツンドラにピッタリですね』
うん。中身幼女なのが分かった時は心配だったけど、バフィたちとも仲がいいし、雑用してくれるだけで大助かりだ。
できれば、星くずサバイバーズに加入してほ、し、……イ?
『どうしたのです。脈拍が急上昇していますよ』
お、おかしいな。なんか、突然ヨットさんがキラキラして見える。
『……は?』
最初に見た時は、スライムみたいで驚いたけど。なんか、その不定形のボディが、逆にいい?
アッ、ちょっと彼女を視界に入れただけでアッ、すごいアッ胸がときめいてアッ。
『ビクビクするな気持ち悪い。……まさか、コレは』
あの、ヨットさん。
「なーにー?」
ヨットさんの声、聴いてるだけで甘い気分になれます。恋人になりましょう。
「やだー」
「そーいうの、よく分かんなーい。じゃーねー」
……。
…………はッ!
なんか、俺、おかしかった!?
『はい、いつも以上に』
ど、どうして急にあんなことを? か、身体が勝手に告白を!?
『先ほど言いかけた、テレパシーの影響です。近くにいる異性に急激な恋愛感情を錯覚し、年齢が親子ほど離れていようが、相手にパートナーがいようが、見境なしに求愛しまくります』
何その迷惑現象!?
『ふられて心情は悪化し、人間関係もギクシャクします。時によっては、派閥を内部から崩壊させてしまうこともあるとか』
冗談だと言ってくれ。
ふぅ。とうとう、冬が終わるな。
多少のトラブルがあったけれど、1年目と比べたらかなりマシだったよね。
「去年みたいに、凍りかけながら釣りをしなくてすんだですぅ。平和だったですぅ」
だよね、バフィ。もうサバイバルマスターを名乗っても許されるかな。
『1年目が、あまりにグダグダだっただけでしょう』
しかし、まだ問題が山積みなのも事実。
というわけで、第2回ネオ・サラゴサ会議を始めます。
今回のテーマは、「来年はこんなことしたいな、できたらいいな」というものです。アイデアのある人は、手を上げてから発言してください。
「はいですぅ!」
元気があって、いいですねぇ。バフィ、どうぞ。
「バフィ、さっき“植樹”の研究を終わらせたですぅ。この技術を使ってほしいですぅ」
とうとうできたのか! これでコメやヒールルートみたいに、自分たちで木を植えることができる。
タケである程度は代用できるけど、限界があるからな。やっぱり木材は必要だ。
「ただ、植えるのにもだいぶスキルが必要ですから、カサバルさんにがんばってもらうしかないですぅ」
『栽培スキルだけはプロ並みですからね。栽培だけは』
アイちゃん、シャラップ。
食料優先で、空いた時間に植樹をしていこうか。
他に意見がある人は?
「はいであります!」
では、レモン。
「もちろん、おふ」
あ、お風呂以外でお願いします。
「……」
そんなムスッとしないで。
「ヂュー。自分は建築担当として、より規模の大きい防壁が必要であると考えているであります」
防壁か。たしかに必要だけど、そこまで手が回るかな。石材で作ろうと思ったら、かなりの労力が必要だ。
「見ていただきたい画像があります。アイちゃん殿、お願いするであります」
これは、ネオ・サラゴサ町?
「少し古いものでありますが、中央がネオ・サラゴサ町であります。ご覧のように、ここは周囲を岩山に囲まれており、非常に防衛に適した立地をしているのであります」
ふむふむ。
「これを利用すれば、畑や発電機などの設備を囲える防壁でも、かなり石材を節約することもできるでありましょう」
なるほど。それが完成すれば、防衛力は大きく上がるな。
明日になったら、さっそく取りかかってもらおう。
さて、次の人。
「はーい!」
どうぞ、ゲストのヨットさん。
「眠くなってきたから、もうオネンネしていーい?」
もうちょっと待って。
さて、最後に俺のアイデアを発表しよう。
実はレモンに頼んで、数日前に新しい部屋を作ってもらったんだ。
「ベッドが置いてあるですぅ。何のための部屋ですぅ?」
「実は、自分も知らないのであります。隊長、どうするのでありますか?」
これは宿泊客用の部屋だよ。
『宿泊客、ですか? 宿屋でも始めるつもりですか』
その通り!
ネオ・サラゴサ町は交易路の途中にあり、けっこう人の往来が激しい。そこで、俺たちが安全に休憩できるスペースを提供し、見返りに宿泊料をもらう。
さらに俺たちの真心を込めたオモテナシによって、星くずサバイバーズの評判は上昇。お金を稼ぎながら他の派閥と仲良くなれるという、一石二鳥の計画だ。
「不安ですぅ」
「不安であります」
『無理でしょう』
ウソでしょ。自信満々のプレゼンが、ボロクソ言われてる。
『全裸の原人が経営してる宿屋なんて、成功するわけないでしょうに』
やってみなきゃ分からないだろ! 絶対に繁盛させてやる!
『どうなることやら。とにかく、活動方針は定まったようですね』
「来年はいい年になるといいですぅ」
そうだね。
思い返せば今年も波瀾万丈だった。いきなり知らない土地に放り出されて、一から全部やり直したんだもんなぁ。
虫さんに殺されかけたり、怪奇現象に巻き込まれて発狂したり。
『失恋も経験しましたね』
あ、あれはノーカンだから。
「隊長、そろそろ年が明けるのであります」
よーし、みんな整列。アイちゃん、写真お願い。
『ワタシをカメラマン扱いしないでください。……まあ、一枚だけならよいでしょう』
はい、チーズ。
・宇宙歴5502年 春
次回は、成長した入植者たちのスキルを紹介します。