・宇宙歴5502年 春
どうも。
月日が流れるのは、早いものですね。
訳も分からず1人用のポッドで砂漠に降下したのは、昨日のことのように感じるのに。RimWorldでの生活も3年目に突入し、今はツンドラで生き延びています。
カサバルです。
あ、ところでアイちゃん。ちょっと確認しときたいんだけど。
『なんでしょう』
いやぁ。
去年みたいにさ、新年迎えたとたんに拉致されて別の場所で目覚めるなんてこと……ないよね?
『別の場所。例えば、動植物が豊かで非常に暮らしやすい温帯森林などですか』
あ、けっこう魅力的。
『ご安心を。アレは例外的な措置でした。アナタたちには、ずっとこの極寒のツンドラで生活してもらいます』
やったね、チクショー。
いや、いいんだけどね? 苦労して、けっこう拠点もマトモになってきたし。
『マトモ?』
そんなことより、「ネオ・サラゴサ町ホテル化計画」にとりかからないと。
安全に休憩できるスペースを提供することで、周辺の派閥に星くずサバイバーズをアピールしていきたい。
となると、客用のベッドが1つじゃ足りないよなぁ。木材は少ないけど、増やしてみるか?
幸い、バフィが植樹の研究をカンカンカンカンカンてくれたから、木材の供きゅゴリゴリゴリゴリゴリできる見通しだからガゴゴォオオオン
うるっさいな! 何の音だよ!
「隊長! 現在、防壁を建築中であります」
なんだ、建築現場の音か。なら、しかたないね。
「とりあえず、拠点の西に通じている洞窟をふさいでいるのであります。これで西側から襲撃が来ても、時間が稼げるのであります」
ふむふむ。
「建材には石灰岩を採用しております。花崗岩には劣るものの、なかなかの耐久性なのであります」
はえー。すごい。
俺も時間があれば石材を集めておくから。その調子で頼んだよ。
「了解であります」
さて。
建築はレモンに任せていれば安心だな。
もう少しで植物が育つまで気温も上がるだろう。だから、俺は食料調達をがんばらないとな。
まずは、コメの栽培を優先するのは確定だよね。去年の反省を踏まえると、治療用のヒールルートを増産すミョンミョンミョンミョンミョン余裕があればデロデロデロデロデロジャガイモも植えボッガァアアアアアン
うるっさいな! 今度は拠点の中から!?
「あ、カサバルさん。今、ウサイヌさんたちのご飯を作ってるですぅ」
なんだ、調理現場の音か。なら、しかたないn
チョット待った。今の、料理で出るような音だったっけ!?
「今までは、カサバルさんにペットフードを作ってもらっていたですぅ。でも、バフィもこの子たちに作ってあげたいですぅ」
ああ、そうなの。
「クゥーン……」
「……ワフ」
俺の、気のせいなんだろうか。
ウサイヌさんたちから、何かを訴えるような眼差しを向けられている。「私たち、生きるか死ぬかの瀬戸際なんです」みたいな。
…………。
「あ、少しだけ材料が余ったから、普通のお料理もしたですぅ。良かったら、カサバルさんに味み」
気のせいだったな。じゃ、俺は作業に戻るから。
「ガルッ!?」
「ワッフ!?」
サヨナラ!
「いってらっしゃいですぅ」
さて、お仕事がんばろっと。
『秒で家畜たちを見捨てましたね』
見捨ててない。
……あの、ところでバフィの調理スキルって。
『“無謀”レベルではない、とだけ申しておきましょう』
……察した。
ムムム。
『どうしたのですか、渋い顔をして。いつも以上に顔面が汚いです』
サラッと暴言を吐かれたような気がするけど、そこは置いといて。
とうとうインセクトゼリー以外の食料がなくなっちゃって。
できればゼリーには手をつけずに、春になってから売ろうと思ってたんだけどな。
『現状、数少ない金策ですからね』
そうなんだよ。売った金を、医薬品とか武器の購入に使いたかったのに。
まいったな。冬の初めにヨットさんが来て、消費する食料の計算が狂った。
『責任転換はやめなさい。アナタだって、メンタルブレイクして、コメを貪り食っていたでしょうが』
スミマセンでした。
というか、実は今も精神状態がやばいんだよな。
何回もメンタルブレイクしてきて、ボンヤリと分かるようになったんだよね。そろそろクるな、って。
『ドヤ顔で語ることではありません。何回でも確認しますけど、アナタは本当にセラピストだったんですよね? 自分をそうだと思い込んでる患者ではなく』
今でもセラピストですけど、何か?
『まあ実際、最近のアナタの心情は悪化する一方です。いつ発狂してもおかしくないですね』
えー。そんなにメンタルやられること、何かあったっけ?
『ヨットに繰り返し告白しては、玉砕しているでしょう。女性に袖にされたことで、メンタルがズタボロです』
ソレが原因!?
『完全に脈なしなのですから、いい加減あきらめなさい。未練がましい』
あ、あれは大昔のヘンテコな機械が原因なんでしょ。俺の意志ってわけじゃないし。
何より、精神年齢が幼女なスライム女性に、本気で告白するわけないじゃん。
「見栄を張らずに、本性をさらけ出しなさい。アナタ、染色体がXXの生命体であれば見境なしにいけるのでしょう?」
俺をどんなケダモノだと思ってるんだ。
油断せずに気をシッカリもっていれば、もう告白なんてしない!
「あ、バルバルー」
カサバルです。
どうしたんですか、ヨットさん。
「えっとねー。野イチゴ見つけたんだー。あれ食べたーい」
それはありがたい。食料採取なら、俺の仕事だな。
ヨットさんは、これから拠点に戻るんですか。
「そーだよー。ねおさらごさ町のお掃除するのー」
がんばって掃除するヨットさんも、カワイイですよね。恋人になりましょう。
「やだー」
…………。
『…………』
油断せずに気をシッカリもっていれば、もう告白なんてしない!
『勝手にテイク2にもっていかないでください』
「隊長! 客室のベッドを増やしたのであります」
ん。ありがと、レモン。
俺も手伝って、不衛生な土の床にはタタミを敷き詰めた。これなら、最低限の休憩を取ってもらえるだろう。食事をする時は、俺たちのテーブルを兼用してもらう。
「どうせ滞在してもらうなら、商売もしたいでありますな。特定のスペースに、自分たちには不要な物資を集めて、客人に購入してもらうのであります」
おお。
今は無理だけど、なんだかワクワクしてくる。
『あとは、こんなボロ小屋で我慢してくれる忍耐の持ち主を待つだけですね』
ケンカ売ってるのか。泣くぞ。
「ねーねー、バルバルー」
カサバルです。
「……キャスバル?」
惜しい! けど、その名前は、なんか不吉な感じがする。
「それよりさー、おっきい女の人が2人、近くにいるよー?」
あれは、前にも拠点にやって来た大きいヘラジカの人!
『以前、アナタが無遠慮に胸部をガン見していた種族ですね』
あれは反省してるから。
それにしても、3メートル近い巨体は迫力があるな。
片方はびっこを引いている。足を怪我しているみたいだ。
「どうやら、襲撃にあったみたいでありますな。キャラバンの本体から、はぐれてしまっているのでしょう」
それは見過ごせない。
よーし。できるだけ、友好的なスマイルを浮かべて。
こーんにーちわー!
「あら、また蛮族が襲ってきたのね」
「手負いとはいえ、舐められたものね。殺すわ」
違いますけど!?
俺は、星くずサバイバーズの代表者です。ノットバーバリアン。
「そう言えば、そんな名前の派閥がここら辺にできたらしいわね」
その通り。見たところ、お連れのお方は足をくじいてお困りのご様子。
俺たちは、過酷な旅路を歩む皆さんを、心より応援する者です。俺たちの拠点、ネオ・サラゴサ町にご招待します。リーズナブルな癒しの空間、ヒーリングスッペースが今ならアナタたちのモノに。
足が治るまで、俺たちの拠点でごゆっくりされては?
「…………うさんくさい」
よし! 感触はバッチリ!
『医者に行きなさい。目と耳、もしくは頭の』
ささ、どーぞコチラへ! 絶対に後悔はさせませんよ!
「……どうする?」
「いいんじゃない? だましていたとしても大丈夫よ。こんなヒョロい男なら、片足使えなくても余裕でポッキリやれるし」
ポッキリって何を!?
「背骨を180度ひん曲げて、後頭部とアキレス腱をピッタリくっつくようにさせるわ」
嘘は言ってないですよ。そこは命を懸けて断言します。
あ。でも、何を癒しとするかは個人の感性だから、そこは保証できないかも。
実際に行ってみて、「なんか話と違うな」と思うことがあってもしかたない。だって、フィーリングの問題だもの。ね?
「急にすごく予防線を張りだすわね」
「怪しいじゃない。やっぱ、ここでポッキリいっとく?」
ダメぇ!
ふぅ。どうなることかと思ったけど、無事に拠点へ案内できたぞ。
最悪、一生ブリッジからの四足歩行で生活するハメになるとこだった。
『その前に死にます』
で、どうですか。
癒されてますか? 癒されてますよね? 癒されていると言ってください、何でもしますから。
「そこまで必死にならなくても、何もしないわよ」
「野宿せずに安眠できるだけ、天国だわ」
セーフ!
「でも、アンタたちが本格的に客を呼ぶのなら、物足りないわね」
「家具を置くとか、娯楽を用意しないと。さすがに厳しいと思うわよ」
まー、そこは今後の課題ということで。
スタートしたばっかりなんで、これから設備を増やしていきますよ。
「ところで、宿泊料金なんだけど」
フッフッフ。
なんと、ベッド1つにつき破格の20シルバーです。良心的でしょ?
「それなんだけど、アタシたちも持ち合わせが少なくて。半額にならないかしら?」
いやいや。
これだけの設備を用意するのにも、かなり物資と労力を使ったんですよ。これより安くしたら、投資した分が回収できないし。
「ねぇ、10シルバーでいいでしょ。オ・ネ・ガ・イ」
ちょ、距離が近い! そんなに迫られても、ダメなものダメで……。
「はぁい、ギュー」
はんがくおっけーでえす。
アッ、そんなハグされたらアッ、巨大ボディーにふさわしいアッ膨らみが俺の顔にアッ!
……。
…………。
違う、バキバキの腹筋だコレ!
身長差がデカすぎて、つま先立ちしても届かない。
クソッ、俺があと50センチ高ければ、男の夢に頭が届いたのに! ウワーン、あぁんまりだ―!
「うーん、体力全快ね」
「おかげで助かったわ。お礼に、できるだけこの派閥の噂は広めてあげるから。またお世話になったらよろしくね」
さよーならー。
ぜひまたいらしてくださいね。ウヘ、ウヘヘ。
『かろうじて好印象を与えられましたね』
大成功!
「コーン……」
「チュー……」
なんか、バフィとレモンの視線が冷たいけど。
このツンドラの空気よりも、なお寒々としたものを感じる。反抗期かな?
『純粋な侮蔑の視線です。それよりも、彼女らの派閥との関係に変化が生じています』
『わずかながら、友好度を稼げたようですね。まだ先になるでしょうが、この調子で関係が深まれば、同盟を結ぶこともできるかもしれません』
よし。星くずサバイバーズ存続のためにも、周囲の派閥との関係は重要だ。
もっともっと宿泊施設を拡張して、お客を呼び込むぞ。RimWorldに広がれ、友愛の輪!
……今度は竹馬でも用意しとこう。
『欲望丸出しで接客するのはやめなさい』