・宇宙歴5502年 春
『本部に報告。襲撃をなんとか生き残った星くずサバイバーズですが、負傷した全裸セラピストが感染症で倒れました。
今回は複数人による襲撃が行われました。つまり、それだけ彼らが魅力的なターゲットになったということです。
今後も激化する襲撃に、現在の戦力で対応できるかどうか。ワタシは引き続き観察を続けます』
はー、はー。すっごい吐き気を我慢して、なんとか感染症の自己治療を終わらせたぞ。
「カサバルさん、感染症なんかに負けちゃダメですぅ」
ありがとう、バフィ。
吐き気がするのは、また別の原因なんだけど。拠点の掃除、大変だったんだよ?
「隊長が回復するまでは、おとなしくインセクトゼリーでしのぐのであります」
そうして。
しかし、医薬品が残り1つなのはまずいな。ヒールルートを収穫できるまで、いよいよムチャはできないぞ。
「それかキャラバンから買うしかないですぅ。こっちは運任せですけど」
『3年目にして、ここまで安定感のないコロニーも珍しいですね。まあ、そもそも自分のコロニーを築けた実験体が少ないのですが』
正直、俺も自分が生きてることにビックリ。
最初にRimWorldに連れてこられた時は、絶望しか感じなかったもの。
「チュッ!? 隊長は、RimWorld星域の出身ではないのでありますかッ」
そうだけど。言ってなかったっけ?
「初耳であります。てっきり、ツンドラの氷の中から目覚めた古代人の類だと」
「え? バフィは実験で化石からよみがえった原始人って聞いてたですぅ」
2人の間で、俺ってどういう認識になってるの!?
『とりあえず文明人扱いはされていませんね』
うるさい。しれっとバフィにウソ教えないで。
俺は、アイちゃんの組織にRimWorldに連れてこられたんだよ。いつか宇宙船を作って、みんなでここから脱出するんだ。
「え!? バフィ、RimWorldから脱出するですぅ!?」
ウソでしょ、バフィ……。
1年と半年も一緒に生活してたのに、なんで把握してないの?
「だって、そんなの一言も言ってくれなかったですぅ!」
言ったよ!
言ってなかった。
バフィと出会ってからのログを見直したけど、ホントに宇宙船のウの字も言ってなかった。そりゃ分かるわけないわ。
『目標も共有してなかったのですか。組織として壊滅的すぎるでしょう、アナタたち』
だって、たいていはその日を生き延びるのに全力だったから。サバイバルの先の話なんてする余裕なかった。
ま、まあ。そういうワケだから。これから脱出を目指してがんばろうね。
「がんばりますけど、脱出は遠慮したいですぅ」
「自分も同意であります」
なんでさ。
「カサバルさんはRimWorldが嫌いかもしれないですぅ。でも、バフィたちの故郷ですぅ」
「自分も死ぬのはごめんでありますが、脱出したいとは考えていないのであります。ここで安全に衛生的に生きられるなら、それが最善であります」
……そうなんだ。
ふう。なんとか感染症が治った。
『進行度が80%以上。ギリギリでしたね』
うん。そうだね……。
『元気がないですね。せっかく助かったのに』
だって、バフィたちと一緒に脱出を目指してるつもりだったから。まさか、2人に断られるとは。
『彼女たちにとっては、RimWorldの生活が日常ですからね』
ねえ、アイちゃん。あんまり考えないようにしていたんだけどさ。
俺って実際、もう故郷に帰ってもどうしようもないよね。
『あまりに長く中央政府のコントロール下から離れていますからね。戻っても、異分子としてひっそり処分されるのがオチでしょう』
やっぱり。
『脱出はあきらめますか?』
そうはいっても、このままRimWorldで生きていられる気がしないんだよなぁ。現に死にかけてるし。
……帰るべき故郷はないけど、ここに永住する覚悟もない。
──俺はいったい、この果てしなく広がる宇宙のどこに、居場所を求めれb
「バルバルー、みてー! ハタケほってたらカエルさんでてきたー!」
あ、ちょっと今、シリアスなとこなんですけど。一瞬で台無しにしないで。
『しかたないですね。アナタという存在自体が、シリアスには不向きなのです』
どういう意味だよ。
「みてー、みてー」
はいはい、見ますって。そしたら、カエルさんは埋めなおしてあげましょうね。まだ寒いんだから。
「わかったー」
それにしても、畑で何してたんです? 春になって作物植えたばっかりなんで、あそこでは遊ばないでほしいんですけど。
「えっとね、プレゼントうえてたのー」
プレゼント?
「そうだよー。ミンチョみんな大好きなモノー」
へー。そんなもの植えてくれたんだ。楽しみだなぁ。
どれどれ。
……。
ア、アレは……。
「たっくさんのミントだよー!」
い、イヤァアアアアアア!?
フウ、フウ。
レモンにも手伝ってもらって、なんとか畑にばらまかれたミントを植え替えたぞ。あやうく俺の畑でテロを起こされるところだった。
『真の脅威は、味方にいたということですね』
それは前にやっただろ!
「チュー。せっかくヨット殿が植えてくれたのですから、そんなに必死にならなくても」
レモンはミントの恐ろしさを知らないんだよ!
コイツらは悪魔なんだ。さわやかな香りにだまされてしまったら、もう助からない。気づいた時には、我が物顔で畑を占領してしまうんだよ。
俺は、ミントのもたらした地獄を、実際に見たことがあるんだ。もう5年も前のことになる。
『5年前……まさか、“ミント・アポカリプス事件”!?』
そう、俺はあの場所にいた。
アロマセラピストになる前、俺は穀物生産エリアで働いていたんだ。昔から植物が好きな俺にとって、最高の仕事だった。
しかし、突然ヤツらがやって来た。決死の抵抗もむなしく、俺の職場は緑色の侵略者たちに覆われていった。
『最終的に、隣接したエリアごとナパームで焼き払ったんでしたね』
そう。俺は最初から最後まで無力だった。
だから、決めたんだ。アロマセラピストになって、二度と
『アロマセラピストって、そんな職業でしたっけ?』
レモンもミントの恐ろしさ、分かってくれたね。
「わーい! ミントとれるの、たのしみだねー!」
「チュッ。いい香りでありますな」
聞けよ、俺の話。
それにしても、このミントどうしようか。処分しようとするとヨットさんが涙目になるから、とりあえず隔離したけど。
「隊長、ミントからはおいしいデザートが作れるのであります。それを食せば、全員の心情が改善できるかと」
そうなの?
なら、とりあえず育ててみようか。
『軽いですねぇ、悪魔の扱い』
星くずサバイバーズって、みんなメンタルに無視できない問題抱えてるからね。
なんとかなるんなら、悪魔にだって魂を売る。
「ならば隊長、よい機会なので意見具申するであります」
何かな、レモン。
「ハッ! 拠点の南に、新しい寝室を建造するのであります!」
寝室を? 今のじゃダメなの?
「ダメとまでは申しませんが、バラバラの建材で建てられたため、見た目の美しさに難があるのであります。よりきれいで広い寝室で、心情面での問題を解決するのであります」
ムムム。
理屈は分かったけど、作るなら防壁が先じゃないかな?
「どっちみち、耐久性のある石灰岩のブロックが足りていないのであります。半面、もろくても美しい大理石は余っておりますので、そう時間はかからないかと」
うーむ。
「加えて、今後のネオ・サラゴサ町は南に拡張していくはず。生活の基盤を移すことで、より効率的な作業ができるのであります」
分かった。そこまで言うなら、やってみようか。
期待してるよ、レモン。
「チューッ。必ずや成し遂げてみせるであります!」
おお、すごい気合いだ。
んじゃ、さっそく建材を運ぼう。
「あ、コチラはバフィ殿に手伝ってもらうのであります。隊長は並行して、防壁用の石灰岩を集めてください」
そう? バフィは研究があるから、俺の方がいいと思うけど。
「大丈夫であります。それでは!」
うーん?
・宇宙歴5502年 夏
どっこいしょ、と。
だいぶ石灰岩を切り分けられたな。
そろそろ寝室も完成目前だろうし、楽しみだなぁ。
『工程をチェックしていませんが、よろしいのですか?』
大丈夫だって。レモンの建築スキルも上がってるし、変なことにはならないでしょう。
でも、ちょっと顔を出してみようかな。仕事にも一区切りついたし。
どれどれ。
「レモンちゃん、ベッドは運び終わったですぅ」
「ご苦労であります、バフィ殿」
お、やってるやってる。もうほぼ完成してるじゃない。
「これで終わりですぅ?」
「いえ、まだ最も重要なものが未完成であります」
「え?」
え?
「隊長が見ていない今がチャンスであります。ベッドの横にシャワーを設置して、寝ながら入浴できる夢の寝室の完成であります!」
ストォオオオップ!
「ヂュー……。メチャクチャ叱られたであります」
当たり前だろ!
やけに俺を遠ざけてると思ったら、こんなこと企んでるなんて。お風呂はまだ作らないって言ったでしょ。
「シャワーは作らないと言われてないのであります」
屁理屈!
「うわぁ、壁も床もピッカピカですぅ」
「ぴっかぴかー」
うーん。シャワー設置未遂はおいといて、たしかにいい寝室だ。見ていて、気分が良くなるね。
「ハッ。新しい壁には全て大理石を使用しております。床は大理石タイルとタタミを併用し、ゴージャスかつ心落ち着く空間を実現しているのであります」
『すごいミスマッチだと思うのですが。落ち着きますか、コレ』
落ち着くからいいんだよ。
『しかし、タタミと大理石ですよ。もっと、こう、統一感というものが』
変なとこにこだわるな。
「テーブルもこっちに持ってきて、研究台を前の寝室に移したですぅ。これでバフィも集中して研究できるですぅ」
よかったね、バフィ。
「惜しいであります。隊長が来なければ、ベッドで寝ながらシャワーを浴びられたのに」
嫌だよ、そんなの。どんな神経してるんだ。
この風呂狂い、微塵も反省していない。
『せめて、大理石の方にベッドを置きなさい。タタミではなく』
しつこい!
「カサバルさん、せっかくの新しい寝室ですぅ。怒ってたら、台無しですぅ」
それもそうか。
それじゃあ、みんな。今日はもう休もうか。また明日からがんばろうね。
……。
「スゥ、スゥ」
もう、バフィ。毛布がずれてる。
大きくなっても、寝相が悪いのは変わらないんだから。風邪ひくよ。
「チュー、お風呂ぉ」
レモンは寝言でまで風呂のこと言ってる。
どんだけ好きなんだよ。いつかは、ちゃんと作るからね。
……。
…………。
いつの日か、みんなと離れ離れになる時が来るとしたら。
その時、俺は……。
『やはり大理石とタタミのチョイスは──』
シリアスさせてよ!
えー、今回の謝罪なのですが。
18話で配達人からシルバーは受け取らないと書きましたが、前回のスクリーンショットを見直すと不自然にシルバーが増えてました。これはシルバーもらってますね。
3年もシリーズ続いたせいで、完全にド忘れしてたみたいです。
今回だけは見逃してください。何でもしますから!(2年ぶり3回目)