・宇宙歴5502年 夏
チュー。
ようやくコメと薬草が収穫できるのはいいのでありますが、自分だけでは作業が進まないのであります。今日中には、終わりそうにないでありますな。
『肝心の栽培担当がインフルエンザで倒れていますからね。復帰には時間がかかるでしょう』
そのために自分は防壁の建築ができず、また襲撃への備えが遅れてしまうのであります。そして戦闘で重傷を負って……。悪循環でありますな。
せめてちゃんとした医者がいれば、復帰も早まるのでありますが。都合よく、助けてくれる人物など現れないものでありましょうか
『さすがに、そこまで現実は甘くないかと』
で、ありますな。
それにしても、知らない間に畑が広くなっているのであります。
新しく植えてあるのは、木綿と茶でありますか? チュー。今の自分たちには、食用となる作物の方が重要だと愚考するのでありますが。
いえ、能天気なようでいて、サバイバルにはまじめな隊長のことであります。きっと、何か考えがあってのことでありましょう。
『本人が言うには、同じ植物ばっかり世話してたら飽きるから、と』
数秒前の発言は、なかったことにしてほしいのであります。
自分たちが生きるか死ぬかの瀬戸際なこと、本当に分かっているのでありますか?
ここはRimWorld。常に最悪の事態を想定して動かねば、次の瞬間には物言わぬ死体に変わってしまうのでありますよ。あまり自分の趣味を追及されても、困るのであります。
……そう、いつ死んでしまってもおかしくないのであります。
隊長が倒れ、バフィ殿は研究に専念している今だからこそ。
自分が動くべきでありますな。
カサバル、復活!
『おかえりなさい』
事前に薬草を集めることができていて助かった。我ながらファインプレーだったな。
『ご覧ください。少女たちを働かせている間、ずっとベッドで寝ていた男のドヤ顔がこちらです』
サバイバルっていうのは助け合いだから。
ね、レモンもそう思うよね?
「え、誰ですか?」
ん!? 見慣れたネズミしっぽと耳が見えたけど、この人レモンじゃない!
『アナタが寝ている間に、単独で訪問した宿泊客です』
そうなんだ。ラットキンのお客さんなんだ。
「…………」
ア、無言で銃を構えるのはやめてください。
人違いで話しかけただけで、怪しい者ではないんです。こんな格好で言っても説得力ないでしょうけど。
『一応は自覚があったんですね』
アイちゃん、シャラップ。
「もー、冗談ですよ。ここに来る前に、ムースの人たちから話は聞いてましたから」
ムース……。
ああ、あのヘラジカの人たちか。
良かった。ちゃんとネオ・サラゴサ町の宣伝をしてくれてたんだ。
「あなたが、噂の全裸セラピストさんですね。初めまして」
ちょっと待った。その不名誉なニックネーム、近隣に知れ渡ってるの!?
自分から名乗った覚えもないのに、どうして?
『バッチリ言いふらしておきました』
そんなことだろうと思った。
まあ、それはいったん置いといて。
ようこそ、ネオ・サラゴサ町へ。今はまだ設備も整っていないんですけど、ゆっくりしていってください。
ラットキンのお客さんは初めてですね。星くずサバイバーズにも、ラットキンの子がいるんですよ。もう会ったかもしれませんけど。
「そうなんですか? 来てから一度も見てないんですけど」
アレ、そうなんですか? 野外での作業が忙しいのかな。
「クーリンの子には会いましたよ。とってもカワイイ女の子ですね。ちょっと目の焦点が合ってなくて、指が小刻みに震えてましたけど」
あ、そろそろ暴れ始めるサインですね、ソレ。ミントキャンディ口に詰めてケアしておくんで、ご安心を。
それでは、俺は仕事があるので。存分にくつろいでください。
それにしても、本当にレモンを見かけないな。
拠点にも畑にもいない。狩猟に出てるにしても、時間がかかりすぎている。
まさか、緊急事態かッ。
『レモンなら、ずっと拠点の西にいますよ』
あ、そうか。アイちゃんは人工衛星で俺たちを監視してるんだった。
『観察と分析と言いなさい』
なんのこだわり? しかし西側なんて何もないのに、どうして……。
「ヂュウウウウウウウ!」
レモンさん、レモンさんや。鬼気迫った顔でがんばってるところ悪いけど、いったい何をしているのかな?
「ハッ。地下から水をくみ上げる風力ポンプを設置しているのであります。これによって、お風呂用の水を確保するのであります」
なんで風呂を、よりによって今!? そんなことしている場合じゃないでしょ!
「自分なりに考えた結果であります。今後お風呂に入ることもできず、不潔な身で死んでしまう。そんな最悪の事態を回避するためであります」
どこにもいないと思ったら、コッソリこんなことを……。
「隊長にバレたらまずいので、寝る間も惜しんで建築していた次第であります」
堂々と言うんじゃありませんッ。貴重な建材をこんなことに使って。
「防壁には向かない大理石であります。ネオ・サラゴサ町の快適性を高めることは、ホテル業をするのにもテナントを勧誘するのにも肝要。自分のしていることは、一切星くずサバイバーズの方針から逸れていないのであります!」
ンマー、この子はこんな時ばっかり理論武装して!
「…………ダメでありますか?」
んんー。
まぁ、いいよ。どっちみち、いつかはお風呂を作るって約束してたし。
建築をがんばってくれてるんだから、余裕のある時には好きなように動いてくれていいよ。
「やったであります! では、さっそくボイラーを併設して――」
さ、今から2人で畑仕事だよ。
「エッ。だって今、好きなように動いていいと」
余裕のある時って言ったでしょッ。サッサと今夜のご飯を集めに行くぞ!
「お世話になりましたー」
こちらこそ、ご宿泊ありがとうございましたー!
すごい。最先端医薬品を2つももらえるなんて。なんていい人なんだ。
「さすがは慈愛をモットーとするラットキン種族。自分も鼻が高いであります」
同じラットキンでも、自愛ばっかり強いレモンとは大違いだ。
「隊長!?」
しかし、なんだかんだ少人数のお客さんには満足してもらってるんだよね。この素人営業の宿屋さん。
やはり受け入れられるキャパシティを拡張しなくては。
『それも当分先の話になりそうですね。……おや、通信装置に微弱な反応が? これは、なるほど』
どったの、アイちゃん。不穏なんだけど、襲撃じゃないよね。
『いえ、タブレットで無線通信をキャッチしました。アナタのレベルに合わせて説明すると、なんらかのメッセージを送るノロシのようなものです』
俺がノロシを使ってたと思ってんのか、この人工知能。昔は普通に電話ぐらい持ってたわ。
「それで、通信はなんて言ってるですぅ?」
『まあ、今回は伝えてもいいでしょう。どうやら敵対派閥に追われている人間が、助けをもとめているようです。敵を追い払えば、アナタたちの派閥に参加するらしいですよ』
おお! 渡りに船じゃないの、俺たちにとって。さっそく迎え入れよう。
『しかし、よりによって星くずサバイバーズに助けを求める結果になるとは。前世でどんな悪いことをしたのでしょう』
アイちゃん、シャラップ。人工知能が、人の前世に思いをはせないで。
『ちなみに通信の相手は、ラックル種族5人に追われているそうです』
今回は聞かなかったってことで、ヨロシク。
「あぅ、見捨てるですぅ?」
「バフィ殿、今回はしかたがないであります」
レモンの言う通り。
ラックルって、あの蛇の人たちでしょ。ただでさえ身体能力で負けているのに、人数も向こうが上じゃ戦えないよ。
自分でもひどいと思う。でも、星くずサバイバーズのリーダーとして、そんなでかいリスクを負うことはできない。
このSOSは断固としてスルーさせてもらう。それが俺の判断だ。
『そうですか』
『相手は10歳の幼い少女なのですが。かわいそうに、薄情な大人に見捨てられてしまうとは。明日には奴隷かモツ抜きか』
アイちゃん、すぐにネオ・サラゴサ町の場所を伝えて! バフィはヨットさんを呼んでくるんだ!
「了解ですぅ」
「やっぱり、こうなるのでありますな」
分かってるんだよ、自分でも甘い判断ばっかりしてることは。
でもしかたないじゃん、なんでか知らないけど子供ばっかり助けを求めて来るんだから。ここは小学校じゃないってのに。
『何にキレているんですか』
とにかく、戦闘準備をしないと。病み上がりの身体に鞭打って、出撃だ。
『今度はどんな理由で死にかけるんでしょうねぇ』
不吉なこと言うな!