・宇宙歴5502年 秋
「本部に報告。3年目の秋を迎えた実験体No4たちは、激しくなる襲撃をかろうじて撃退しながら生存しています。今年も平均気温がマイナスに突入し、作物の育たない飢餓の季節がやってまいりました。彼らは自然の猛威と襲撃の両方に耐えて春を迎えられるのか、注目されます」
さて、コメとトウモロコシの収穫完了。しばらくは農作業もおあずけだ。
だいぶ防壁も形になって来たな。あとは東側を覆えば完成か。
「チュッ。石灰岩が尽きたので、また資材の収集が終わってからの着手であります」
北側の畑も守れていい具合だ。けれど、もう少し東に伸ばせないかな。今のままだと、冷凍庫が割と防壁スレスレになりそうで、ちょっと不安なんだよね。
「難しいでありますな。現状、襲撃があるたびに無視できないダメージを負っています。今はとりあえずネオ・サラゴサ町を防壁で囲うことが先決と愚考いたします」
うーむ、たしかに。
「冷凍庫といえば、気温が下がってからクーラーのスイッチを切っております」
節電は大事。
冬が近くなると自然と冷凍してくれるから便利でいいね。拠点と離して建ててくれたから、熱の伝導も気にしなくていいし。
まあ、肝心のお肉が全く集まってないんだけど。
「冬が来ると、野生動物も離れていってしまいます。餓死しないためにも、今のうちに狩ってしまうのであります」
ザックザック、と。狩猟したアイベックスを包丁で解体して、冷凍庫にぶちこむ。
待っていろよキッズたち、今夜はステーキだ。ごちそうだぞ。
『それでも、一種類の食材を使った簡単な食事なのですが』
解せぬ。
「うるっさいよ、おじさん! ボクの芸術活動のジャマをしないでくれたまえ!」
そんな大声は出してないでしょ。おおげさだなぁ。
「理解に乏しいね。彫刻とは繊細な作業なんだ。逸品を作るには素材との対話が欠かせなくて――」
やっぱり、掃除と狩猟だけさせとけばよかった。彫刻台、今からでも薪にしてやろうか。
「だいたい、環境が悪いよ。倉庫にものが収まらず、作業室までなだれ込んできてるじゃないか」
あぁ、それは俺もなんとかしようと思ってるから。
襲撃があるたびに敵が落とす武器を拾ってたら、普通にスペースを圧迫してしまった。おまけに最近は狩猟に力を入れてるから、毛皮も増えてきてるんだよな。
『これから食料が減っていきますから、春にはまたスペースが空くでしょう』
だけど、さすがに見過ごせない問題だ。そのうち、もっとでかい倉庫がほしい。
『それも防壁ができてからですね』
とりあえず、春ぐらいにレモンに頼むか。
……さすがに、今年中には防壁も完成するよね?
『かれこれ半年以上に渡ってもたついてますから、どうでしょうねぇ』
はあ、畑仕事が恋しい。植物とたわむれている時が、心癒される時間なのに。早く春にならないかな。
『そこ、手が止まってますよ。さぼらずにツルハシを振るいなさい』
くっ。自分は見てるだけだからって、酷なことを。
今、-14℃だぞ。外で作業してるだけで命がけだっていうのに。
「しかし、スチールが無くなる寸前なのです。アナタが掘るしかないでしょう」
そうなんだけどさ。
レモンがお風呂のための設備をドンドン作ってるから、スチールがいくらあっても足りないんだよな。俺は別に鉱石を掘るのが得意なわけじゃないのに。
あ、そろそろ凍傷にかかるタイミング。いったん拠点に帰らないと。
『不便な身体ですねぇ』
人間は、全裸で氷点下を生きられないんです。
『おや、あそこの壁……。まさか』
どったの、アイちゃん。こっち側の壁がどうかした?
『アナタ、もっとあちらに近づいてください』
はいはい。
『端末のロックを解除。
このタブレット、そんな装置ついてたの!?
うわー、洞窟の壁が緑色に光り始めた。きれいだなー。
『本部に通信。これより画像データを転送します。鉱物担当チームによる対応をお願いします。…………現在、ハードワークで全員が倒れている? モルヒネでも投与して叩き起こしなさい』
マッドたちも大変だなぁ。ざまーみろ。
『解析が完了しました。あれはウランの鉱床です』
ウラン? なにそれ?
『中央政府の管轄下ではすでに枯渇した鉱石です。今ではわずかな在庫が厳重に管理されていますが、まさか天然のものが発見されるとは』
へー、鍋でも作るの?
『主な用途は、原子力発電の燃料です。核兵器としての軍事利用もあります』
思ったよりスケールがでかかった。
しっかし、そんなすごいものがネオ・サラゴサ町の近くにあったなんて。これはラッキーだ。
『ところで、それ以上は触らない方がいいですよ』
なんで?
『微量ですが放射線を出していますから。さらされすぎると、皮膚や臓器などに致命的な症状を引き起こします』
フッキャラミタバッタ!?
『悲鳴なんですか、ソレ? しかし、無知とは怖いものですねぇ。自分から近づくとは』
アイちゃんが近寄れって言ったんでしょ!?
『心配せずとも、ウランの放射線は微弱です。少し近づいたぐらいでは、そこまでリスクはありません。ただ、粉塵などを吸飲して体内に入ると危険性がはね上がるので、掘る時にマスクは必須ですね』
退避ぃ!
だめだ、気分が悪くなってきた。俺はここまでだ。
『安心なさい、気のせいです。ウランは宇宙船の建造に欠かせない重要物資ですよ。いつかは採掘しないといけません』
泣きたい。
『全く、科学の進歩に貢献できるというのに軟弱なことを。本部のスタッフたちも、最近は疲労による進捗の遅れが目立っています。やはり、人間ではなくワタシのような人工知能こそが世界を導くべきなのでしょうか』
危険思想が芽生え始めている。アイちゃんが人類を導くとか、ウランより有害なのでは?
『フッ。アナタごときにワタシの真価は分かりませんか。ワタシは人類の英知の最先端を――』
ん? なんだ、拠点の中が騒がしい。
「ヒハーハッハッハ! 完成だぁ!」
スパロウか。なんか頭のネジが全部吹っ飛んだみたいなテンションだけど、何があったんだろう。
「おや、おじさん。とうとう、このあばら家におけるボクの芸術第一号が完成したよ」
おじさんじゃなくてお兄さんだ。そして、あばら家じゃなくてネオ・サラゴサ町だ。
「いいんだよ、そんな細かいことは。そんなことより、天才であるボクの作品をお披露目さ。覚悟をしておくれ。あまりのまばゆさに、おじさんの腐った目が潰れかねないよ」
俺に暴言吐かずに会話ができんのか、クソガキ。
「これが、ボクの芸術だぁ!」
「ああ、美しいよバフィお姉さま。モデルになってもらったかいがあった」
スッポンポン! なんで仲間をモデルにしてヌード像を作ってんの!?
「タイトルは、“困窮しているコウモリ”だよ」
バフィどこいった。こんなの作るのに、バフィに裸でモデル頼んだのか。
「失敬な。お姉さまにそんな大それたことを言うもんか。ポーズなんかは頼んだけど、後は全てボク自身による想像力のたまものさ」
つまり妄想の産物か。こんなの、売り物にしなきゃいけないの? 拠点に飾るって選択肢もあるけど。
「バフィお姉さまの裸体を売ったり飾ったりするなんて、とんでもない! ボクが大事にしまっておく!」
よし分かった。俺の斧でバラバラにして、資材に再利用だ。
最低限、人前に出せるものを作ってこい。
『――以上の点から申しますが、ワタシという存在そのものが科学の結晶であり、愚かな人類を凌駕していると』
アイちゃんはいつまで自分語りしてるんだよ!
ふー、頭が痛くなるようなことばっかりだ。アロマで癒されたい。
あれからスパロウにはきつく言いつけたけど、またとんでもない芸術品をお披露目してこないだろうな。
『しかし、彼女のスキルは軽視できないでしょう。造形は正確で、バフィの姿を正確に模倣していました。病的なものすら感じましたね』
変態の執念ってすごい。マトモなものさえ作ってくれれば、本当に売り物にできるかも。
『売るだけでなく、拠点に飾れば環境の美しさも上がります。住人の心情を上げてくれますよ』
ふむふむ。まあ、出来上がった作品次第かな。価値の高い順にキャラバンとかに売って、余ったのを寝室とかの人が集まるスペースに飾っておくか。客室に置けば、宿泊客からの評価も上がりそう。
こうして考えると、スパロウの加入ってかなり大きいな。金策しつつ、生活環境の改善もできるのか。本当に助かるな。絶対調子に乗るから、本人には言わないけど。
『まじめに創作を進めるなら、素材にも気を使いたいところです。同じクオリティの作品でも、素材によって美しさと金額に違いが生じます』
ほむほむ。今回はタケを使ってもらったけど、もっといいものがありそうだな。今の俺たちに用意できそうなものといえば……大理石か?
そうと決まれば、さっそくスパロウと話し合いだ。今は狩猟に出てもらってるから、帰ってきたらさっそく――
「こぉおおおおおおん!?」
なんか聞き覚えのある悲鳴が!?
スパロウがボコボコに!?
『狩猟対象を怒らせてしまったようですね。それも群れ単位で。彼女も死にかけたことで、星くずサバイバーズらしさが出てきましたね』
言ってる場合かッ。レスキュー部隊、出動だ!
『芸術がネオ・サラゴサ町で花開くのも、当分は先になりそうですねぇ』