・宇宙歴5502年 秋
うっぎゃぁああああ!
『はい、けたたましい悲鳴から始まりました。実験体No4は秋に入ってから農作業を中止し、防壁建築の手伝いを主に行っています。そろそろ完成の目途もついてきましたが、果たして、彼らの築く防壁とはどのようなものなのでしょうか』
指がぁ、指がぁッ。
「あう。カサバルさん、指をトンカチで打っちゃったんですぅ」
「隊長、しっかりしてください。そんな調子では防壁が完成しないであります」
だって、指がかじかんで。見てよ、全身真っ青。
『元から不健康な肌色していたでしょう』
やかましい。この星に来てからは、バリバリのアウトドア派だぞ。
「でも、あと少しですぅ。これが完成したら、バフィたちも安心できるですぅ」
「チュッ。うむ、まあ、そうでありますな」
なんだか歯切れが悪いね、レモン。
「わ、我が一族自慢の前歯をバカにするのでありますか!」
してないだろ! 言葉のあやってやつだよ。
「チュー。実は、防壁も完成間近なのでありますが、最後の仕上げをどうするか悩んでいるのであります。これがなかなか決まらず」
仕上げって、このままネオ・サラゴサ町を囲んで完成じゃないの?
「カサバルさん……。拠点の防衛って、そんなに単純じゃないですぅ。バフィは専門家じゃないですけど」
「その通りであります。防壁を拠点の周りに建築するのは、敵の侵入ルートを制限して、こちらに有利なゾーンに誘導するという意図なのであります。完全に拠点を覆ってしまえば、逆に敵の行動が予測できないのであります」
ムムム。前にも似たこと言われた気がするけど、正直、よう分からん。
まあ、これに関しては俺もズブの素人だから、レモンに任せるよ。安全に直結することだ。物資のことは気にしなくていいから、今あるもので可能な限りがんばっておくれ。
「了解であります」
どうでしょう。これぐらいのシルバーなら、現時点で俺たちでも支払えます。
「……ふむ。そうねぇ、この金額でうちのキャラバンから売れる武器と言えば」
ドキドキ。
「いいのがあったわ。この半自動ライフルならどうかしら。品質も標準品で、悪くないはずよ」
おお。とうとう弓矢から卒業できそう。いいタイミングで武器商のキャラバンが来てくれて助かった。
ね、レモン。
「たしかにライフルは欲しいところでありましたが。確認でありますが、狙撃銃は売っていないのでありますか?」
「残念。ついこの間、売れちゃったのよ」
「そうでありますか」
ずいぶんと残念そうだけど、いいじゃんライフルが手に入ったんだから。
「しかし、狙撃銃と比べると威力も射程も劣ってしまうのであります。長射程の武器が一つあれば、こちらが取れる戦術の幅が大きく広がります。サバイバルのためにも、そろそろ手に入れたいのでありますが」
ほう。射撃の名手スパロウも来てくれたから、たしかに欲しいところだ。いっそのこと、素材を集めて自分たちで作っちゃう?
『銃火器に関する研究を進めていませんし、そもそもアナタたちの工芸スキルでは無理です。アナタはいつも医術系の人材が足りないと言っていますが、工芸もかなり絶望的ですよ』
え、俺たちってそんな不器用集団だったの?
『一応、レモンは情熱を持っているので、コツコツと作業を行えば伸びるはずですが』
そんな余裕はない。今でさえ建築の手が足りてないのに。
「とりあえず、この半自動ライフルを購入であります。今後、狙撃銃を持っているキャラバンがあれば、優先して買い取りたいものでありますな」
さて、武器も強化されたことだし、お仕事の続きだ。俺は資材の収集をがんばらないと。
とりあえずはスチールが枯渇しているし、花崗岩も拾ってきてブロックに加工する必要があるな。まずはみんなのご飯を作ってから、取りかかるとしますか。
「ねー、バルバルー」
カサバルです。どうしたんですか、ヨットさん。晩御飯はこれから作るところなんで、寝室でゆっくりと待っていてください。
「あのねー、お客さんつれてきたよー」
お客さん?
「おさんぽしてたらねー、ここにお泊まりにきたって人たちにあったのー」
おお、久々の宿泊客だ。
『物好きもいるものですねぇ』
アイちゃん、シャラップ。今は食料に余裕もあるし、存分にもてなして俺たちの存在を売り込むぞ。さて、今回はどんな人たちが……。
『ほう。たしかゼノオーカと言いましたか。シャチの遺伝子を組み込んだ好戦的な種族とはデータにありますが、今回のサバイバルで目にするのは初めてですね』
…………。
「どうしました?」
あ、アバババババ。オゴー!
『どうしたのです、急に苦しみ始めて』
わ、分かんない。ただ、あのシャチの人たちを見たら、急に全身に悪寒が走ったというか。初めて会う種族の人たちなのに、なんかトラウマ植え付けられるようなことあったっけ?
気分が悪い。とりあえず、対応はバフィにお願いしよう。
えー、俺が対応しなきゃダメなの?
「ですぅ。お客さんが、どうしてもオーナーに会いたいって」
どうしてだろう。
『クレームじゃありませんか。気分を害された罰として指を一本ずつバキバキにへし折ってやる、とか』
仮にそうだとしたら、もう宿屋はやめる。そんなバイオレンスな宿泊客を招いてられるか。
はー、行きたくない。ちょっとだけ顔を見せてすぐに逃げよう。
お客さま、入りますよー。
「キャー!」
入るなり、悲鳴が!?
「ねー、あの人よ。噂通りじゃない」
「うむ。半信半疑だったが、驚いた。期待以上に魅力的な殿方だ」
「素敵!」
……俺は、夢でも見ているのか。
あんなに美人な女性たちが、みんな俺を見て黄色い声を上げている。男に生まれてきて良かった。
『そんなバカな……』
どうも、お客様方。わたくし、このネオ・サラゴサ町のリーダーをしているカサバルです。ちなみに、現在の交際関係はフリーです。
『絶対、今までの人生ずっとフリーだったでしょうが』
フッ。来たようだな、オレのモテ期。
「アハハ。泊まって良かったわ。たまには陸に上がってくるものね」
「そうよねー。私たち、あなたの噂を聞いてからずっとワクワクしてたのよ」
ほう。ちなみにお嬢さんたち、俺の噂とは?
「うむ。このコロニーに、暴力を振るえば極上の鳴き声を上げてくれそうな殿方がいると聞いてな」
ほうほう。なるほ……。
え、なんて?
「いいわね、あのガリガリのお腹。肋骨に沿ってヤスリで削ってあげたい」
「私は首絞めかなー。あの細い首がポキッといく寸前で楽しみたい」
「素敵!」
…………。
『ああ、なるほど。嗜虐性をそそられる方向だった、と』
「なあ、カサバル殿。今夜は客室の鍵を開けておくので、一緒に楽しまないか? 具体的には、指を一本ずつバキバキにへし折って差し上げるので、悲鳴を聞かせてもらいたいのだが」
俺はどうやって楽しめばいいんだよ!
・宇宙歴5502年 冬
「隊長、いい加減に部屋から出てきてください」
やだ。カサバル、もうお部屋でない。怖いもん。
「いつまで引きこもってるのさ。もうあのお客さんたちも、遠くに行ってるころだよ」
……ホントに?
「本当ですぅ。それに、カサバルさんが引きこもっている間に、レモンちゃんがとうとう防壁を完成させてくれたですぅ」
なんだって!?
おお、本当にネオ・サラゴサ町の周りに頑強な壁が建てられている。けれど、南東の方に穴があるな。
「あれはわざと開けているのであります。襲撃者たちを誘導するためであります」
うん?
「できればトラップを敷き詰めるゾーンを作りたかったのでありますが、物資が全く足りなかったので、とりあえずの完成といたしました。まだまだ防衛力を高める余地はあります」
トラップが機能しないなら、どうやって戦うの?
隊長、こちらをご覧ください。
うお、ごっつい銃が設置されている!
「原始的なガトリングガンであります。その他にも壁とバリケードを組み合わせて陣地を作り、銃撃戦になってもこちらは遮蔽物を利用しながら戦えるのであります」
なるほど。防壁の隙間を見つけた敵が入ってきたら、このガトリングとバリケードでお出迎えするのか。敵をこっちの有利なゾーンに誘導するって、こういうことか。
すごいぞ。ここまできたら、もはやネオ・サラゴサ町じゃない。ネオ・サラゴサ要塞だ!
『ずいぶんとしょぼい要塞ですね。おや、北から複数の生命反応が』
襲撃かな。いいところに来た。このガトリングガンの餌食にしてやる。
『お待ちなさい。こんな生物、ワタシのデータに――』
さあ、来い!
……。
…………なにあれぇえええ!?
久々の神話生物襲来。