・宇宙歴5503年 夏
『本部に報告。夏を迎えた星くずサバイバーズですが、突如として拠点の付近に謎の大穴が出現しました。それと連動するように、実験体たちが常にも増して珍妙な言動を見せ始めています。
これは我らのプロジェクトにおいても初めて観測される事態です。さらなる情報収集のため、つぶさに状況の推移を記録いたします』
突然ですが! 緊急事態につき第10回ネオ・サラゴサ会議を開始します!
議題は、たった一つ。いつの間にか拠点の近くに出現していたバカでかい穴をどうするか。
まずは俺たちの置かれている状況を確認しましょう。ということで、アイちゃんから説明をお願いします。
『しれっとワタシを会議に参加させないでください。ワタシは実験体たちのサバイバルに対して、関与する立場ではありません』
そこをなんとかさ。頼むよ。何が起きているのか、アイちゃんなら分かるでしょ。
『……まあ、組織の目的は多くの情報を集めること。今回の件は、我々も初めて観測するケースです。多少は場を調整しても許容範囲でしょう』
ありがとう! さっすがアイちゃん、宇宙で一番の高性能AI!
『全く調子がいい。……現在、大穴の出現と共に入植者たちが錯乱するという事態が起きています。そして確認したところ、あの大穴の深くから奇怪なテレパシーが発せられている様子が見られました』
テレパシーって、あの動物を狂暴化させたり人を恋に落としたりする奴?
『その通り。厳密には太古の装置の起こすテレパシーとは似て非なるものですが、とりあえずは同じものと考えてください』
むぐぐ。そんな気はしてたけど、精神干渉は厄介だな。今だって、穴に向けて生贄を捧げようとする気持ちが繰り返し湧いてくる。
けど、今のネオ・サラゴサ町ならみんなのメンタルも維持できるだろうし、準備する時間はありそうだな。
『それは悪手です。テレパシーを分析していたところ、その強度が時間と共に強まっていることが判明しました』
え、精神汚染がどんどん強くなってる!?
『はい。今はまだ辛うじて正気を保っていますが、全員が耐えられなくなるのも時間の問題です』
ちなみに、みんなで穴を埋めるという手段は……。
『そう簡単な話ではありません。大穴をスキャンした結果、その底深くに巨大な生命反応を感知しました。穴を埋めようとすれば、穴の主が暴れ始めるでしょうね』
まずは大穴の中にいる何かを倒す必要があるのか。
というわけで、今の報告を踏まえた上で、できるだけ早く対応を行う必要がある。
星くずサバイバーズのみんな。プラスしてゲストのトロフィムさんとクセニアさん。ドシドシ意見をどうぞ!
「もうおしまいであります。全て投げ出して逃げるのであります」
「ボクも異議なし」
異議あり! いや、いよいよ詰んだら逃げるのもありだけれども。それは最後の手段だろ!
「けどさあ。そもそも、ボクたちが勝てる相手だとは思えないんだけど」
やってみないと分からないだろ。レモンも、あんなにがんばって大きくしてきた拠点じゃないか。簡単に捨てていいの?
「良くないのであります。自分が丹精込めてつくった浴場に寝室、温泉、お風呂。そしてお風呂。身が引き裂かれる思いであります」
やっぱり全部お風呂かい。
「……あの穴を鎮める方法はあるかもしれないですぅ」
バフィ、何か知ってるの。
「キャラバンにいた時、ある派閥の長老さんから聞いたことがあるですぅ。何十年も前、怪物さんが中にいる大穴のお話。おとぎ話としか思ってなかったですけど」
今はちょっとでも情報が欲しい。それ、どんな話だったの?
「大昔のことですけど、もっと東の方に小さな拠点があったらしいですぅ。みんなでがんばって暮らしていたけど、ある日、拠点の近くに大きな穴ができて。どんどん住民の頭がおかしくなっていって」
ふむふむ。今の俺たちと似た状況だ。
「その人たちには、穴を埋めるだけの戦力はなかったんですぅ。それで別の手段を使ったんですぅ」
ま、まさか……。
「はい。生贄ですぅ。拠点を訪ねてきた旅人さんをだまして、穴の中へ落としていったんですぅ。ただ、それもいつまでも続きませんでした。生贄を捧げられなくなった後、頭がおかしくなった住民たちで殺し合いが起こり、とうとうその拠点は滅亡したですぅ。不思議と、後には死体も血も残らなかったとか」
『なるほど。生贄で時間は稼げると。良かったではありませんか、宿屋をやっていて。しばらくはノコノコとやって来た客たちを穴に落として、戦力を整えましょう』
誰がするか、そんなこと! 俺たちは猟奇殺人鬼の集団じゃないんだよ!
『では、どうするのです。戦うにしても戦力は足りるのですか?』
あのー、トロフィムさんにクセニアさん。ちょっと相談なんですけど、俺たちと一緒に戦ってもらえたりしないでしょうか?
都合のいいことを言ってるのは承知ですけど、きっとお礼はします。その、アレです。俺が足をペロペロ舐めるぐらいなら、今すぐできるんですけど。
「いらねえよ、気色わりぃ」
「いらない。アタシ、足ないし」
ですよねー。
「んなことしなくったって、喜んで戦うっての。たまらねえな、バケモノ相手にドンパチするの。どれだけの血が流れるのか、想像するだけでワクワクが止まらねえぜ、おい!」
やったー! 流血嗜好者最高!
で、クセニアさんは?
「まあ、すぐに見捨てるのも後味悪いし? 戦いはするかなー。けど、どうしようもなかったら一人で逃げさせてもらうからね」
あ、はい。それでオッケーです。助かります。
二人がテナントで来てくれていて、幸運でした。なんて頼りになるんだ。
なんだか、希望の光が見えてきた!
「ところでさー。アタシは何と戦うんだったっけ? あんた?」
「お、いいな。景気づけにここで流血キメとくか?」
一気に光が陰ってきた。一人ぐらいマトモなテナントいないのか。
「おじさん、戦うのは分かったけど作戦はどうするの?」
そうだな。いつも通り、いざという時は俺とウサイヌさんたちが近接で相手の足を止める。けれど相手の正体が不明だから、ひとまずは様子見かな。
まずは射程の長いライフルで相手の出方をうかがいつつ、バケモノの動きしだいで対応を変えていこう。やばそうになったら防壁の内側に逃げ込めば、時間は稼げるはずだ。
それで本当にどうしようもなくなったら……。
『持てるだけの物資を抱えて夜逃げですね。そうなった時は、アナタの情けない姿もバッチリ撮影しておきますので、遠慮なくお逃げなさい』
やかましい!
ソロリ、ソロリ。
よし。まずは何事もなく穴に近づけたぞ。
「隊長。自分たちはいつでもいけるのであります」
『少しだけ待っていてください。今、本部のスタッフたちがポップコーンとビールの用意をしていますので』
俺たちの戦いを見世物にするな。もし俺が死ぬようなことがあれば、末代まで呪ってやるからな。
……スー、ハー。
よし! それではクセニアさん、ズドンと一発決めてください!
「誰に? あんたに?」
大穴にだよ!
「あいあーい。ズドン!」
『命中、確認』
みんな、戦闘開始だ。かかってこい、バケモノ。相手になってy──
…………ねえ、俺の気のせいかな。なんだか地面が揺れてない?
「ピィイイイイ!? どんどん揺れが大きくなっているのであります!」
ちょ、もう立っていられないんだけど!? 地震か、こんな時に!
『違います。生命体反応、大穴を急速に上昇。個の生命体が、これほどの運動エネルギーを発生させている? こんなデータは今までどこにも──』
「おい、てめえらボサッとしてるんじゃねえ! 出て来るぞ!」
は、ははは……。
いやいやいやいや。バケモノだってことは重々承知してたけどさぁ。何あれ。丘みたいなでかさのミミズが出て来るとか、聞いてないんだけど。
『全裸セラピスト』
分かってるよ。やるよ、やってやればいいんだろ!
よくも好き勝手に俺たちの頭をグチャグチャにしてくれたな! どんだけでかかろうと、あんまり人間様を舐めるなよ!
星くずサバイバーズ、戦闘開始だ!