・宇宙歴5500年 夏
『本部に報告。実験体No4、通称“全裸セラピスト”は、現地住民による二度の襲撃を生き残りました。
しかし、そのダメージは深刻であり、ついには――』
『激痛に耐えられずにメンタルブレイクを起こし、拠点内に引きこもっています。
防衛力の強化は、一番の課題と言えるでしょう』
どうも。
九死に一生を得たものの、その後の記憶がプツリと途絶えております。
カサバルです。
タブレットのログを見たら、メンタルブレイク起こしてたのか。
そりゃ記憶がないわ。
『襲撃者は、ドサクサに紛れて逃げてしまいましたね』
いいよ。正直、囚人にしても食わせる食料がないんだから。
それにしても、俺の両足が悲鳴を上げている。
アイツ、なぜか的確に下半身ばかり狙ってきたんだよな。
『まあ、誰が見ても明らかな弱点がぶら下がっていますから』
そんな理由なの?
しかし、この状況はヤバい。
今ならナメクジと戦っても負ける自信がある。
『普段なら勝てると?』
勝てるよ! ……たぶん。
それより、ログを見ましたけど、なんで俺のメンタルブレイク中の写真なんてあるんですか?
『RimWorldの軌道上にある人工衛星より撮影しました。ちなみに、私の本体もそこに設置されています』
そうなんだ。メテオでもぶつかればいいのに。
これからどうしようかな。
こんな頻度で襲ってこられたら、命がいくつあっても足りないんですけど。
幸い、食料には少し余裕があるから、しばらくは回復に専念しよう。
なんだ!? 外がすごい騒がしい。
『どうやら、複数のキャラバンが同時にやって来たようです』
よかった。
てっきり襲撃かと。もう両足をバキバキにされるのは嫌……。
『完全にトラウマになっていますね』
こん棒で撲殺されかけたら、誰だってそうなると思います。
……それにしても。
顔がネコだったり、下半身がヘビだったり、なんかネズミだったり。
俺のマイホームがワクワク動物ランドになってる。
とにかく挨拶でもしておこう。
こんにちわー!
「ニャッ。アレが噂の……」
「本当に全裸ですね」
「服がないなら、丸呑みしやすそうでいいわね」
よし。おおむね敵対的な感触はないので、問題なし。
『一部、食欲が刺激されている方がいましたが』
スルーさせてよ。
「それにしても、サラゴサ町に人が住み着いているとは驚いたニャ」
サラゴサ町?
「ここ、昔はそういう名前の町があったんですよ。もう滅びちゃいましたけど」
「宙賊に滅ぼされたのよね。もう何十年前の話かしら」
なるほど。残っている遺跡は、その時のものか。
やっぱり、略奪目的の襲撃ですか?
「それもあったけど、ここの人たち、自分たちで宇宙船を建造したのよ」
え!?
宇宙船って、作れるものなんですか。
「できないことはないニャ。技術を研究して、資材を集めて、何年もかかるだろうけどニャ」
気の遠くなるような話ですね。
でも、どうして宇宙船作ったら、滅ぼされちゃうんですか?
「それは、宇宙船を奪うために襲撃がワンサカ来るからですよ。宙賊に限らず、蛮族とかならず者とか」
怖い。
まあ、宇宙船の建造とか、今の俺には夢みたいな話だけど。
「なんにしても、襲撃には気をつけなさい。アンタみたいに丸呑みしやすそうな男、いい獲物よ」
ひょっとして、ガリガリのモヤシと言いたいんでしょうか。
失礼な。これでも、二度も襲撃を撃退したんですよ。
「どうやって戦ったんですか?」
こう……。
石で殴るとか、噛みつくとか。……あと、石で殴るとか。
「戦闘スタイルが原始人ね」
とうとう現地住民からも原始人扱いをされ始めた。
キャラバンの人たち、もう出発しちゃったなぁ。
もう少し、ゆっくりしてくれてもよかったのに。
『まあ、彼らも中継地点として立ち寄っただけなのでしょう。現状、ここには売買できる金も物もありませんから』
ですよねー。
『しかし、インセクトゼリーだけは高く買い取ると言っていましたが、売らなくてよかったのですか』
売りません。
これは俺の生命線です。毎晩毎晩、命がけで虫の巣から取って来てるんですから。
それにしても、宇宙船の建造か。
RimWorldから脱出するには必要だろうけど、とても俺には無理だろうな。
『そんなアナタに報告があります』
退避、退避ー!
拠点に立てこもるぞッ。
『ご安心ください。襲撃ではありません』
よ、よかった。
『どうしてそんなに慌てるのでしょう』
以前のログを見直してきたらいいと思います。
で、報告とは。
『タブレットをご覧ください。テクノロジーのデータを転送しました』
あ、ホントだ。
色々あるな。非常用食品に、バッテリーに。
……宇宙船の反応炉!?
え、俺でも宇宙船が建造できるってことですか!?
『可能です。ただし、宇宙船ほど難解なテクノロジーを扱うには、土台となる知識が全く足りません』
つまり、簡単なテクノロジーから順番に研究していく必要があると?
たしかに、風力発電や空調設備ならすぐに使えそうだけど、バッテリーとかになると全然分からない。
『そうでしょう。バッテリーはCランクのテクノロジーですから。Dランク国民だったアナタが扱うには、クリアランスレベルが足りていなかったのです』
えッ。
じゃあ、俺が研究するのってクリアランス違反ですよね。それ、本国だと処刑対象なんじゃ。
『ここはRimWorldです。カニバリズムもモツ抜きもまかり通る、法も秩序もない世界なのですから。安心して、ジャンジャカ研究をしましょう』
何一つ安心できる要素がないんだよなぁ!
―――ァ……。
……■ァ。
イァ、……イァ。
フ■グルイ、■■ルウナフ……。■■ゥル■、ル・リ■……ウガ■ナグル、フタグン……――
起きたら、タブレットに覚えのない文章が表示されている。ナニコレ。
『覚えていないのですか? 昨晩、ずっとうなされながら、その文句をつぶやき続けていましたよ』
怖いよ!
え? 俺がつぶやいてたの、これ。
たしかに変な夢を見たような気がするけど、具体的な内容は思い出せない。
最近ストレスが溜まっているのかなぁ。
『あるいは、アナタにインプラントした機器が、脳に悪影響を及ぼしているのかもしれません。興味深いです』
俺に対する目線が、完全にモルモット。
『おや?』
どうしました。
『生命反応が近づいて来ています。キャラバンや旅行者ではなさそうです』
んじゃ、襲撃ですか。
『ずいぶんと落ち着いていますね』
フッフッフ。
この時に備えて、トラップを一つ作っておきましたからね!
うまいこと誘導して、コイツを踏ませればイチコロってわけですよ。
『木製スパイクトラップですか。建築スキルを地道に上げたおかげですね』
その通り。まあ、資材と時間の都合で一つが限度でしたけど。
ともかく、こっちは準備万端ってワケですよ。襲撃が初めてってわけでもないし、冷静に対応すればいいんです。
宙賊だろうが蛮族だろうが、このトラップの餌食にしてやる!
……。
最近、視力が落ちたかな。
なんだか、半人半魚のバケモノがこっちに来てるように見える。
『半人半魚のバケモノがこっちに来てますね』
イヤァアア!?
ナニ!? ナンなのアレ!
『あれは“DeepOne”。あるいは“深きもの”とも呼ばれます。まだ謎の多い生物で、一説によると、ある特定の遺伝子を持った人間の変異体とも――』
うぁああッ、見つかったァー!!
『――などの特徴から、一部の研究者によっては、変異ではなく退化として見るべきという反論もされて――』
来ないでえええ!
俺、食うとこ少ないですよ!
『せっかく説明しているのですから、無視しないでいただけますか。人としてどうかと思います』
やかましいわ! こっちは必死で逃げてるんです!
ぜえ、ぜえ……。
なんとか、拠点に逃げ込めた。
『私の説明も無視して走ったおかげですね』
ひょっとして、すねてます?
『すねてないですね』
俺、すっごくアイツのこと気になるなー。何か情報を教えてください。
『人を襲います』
知ってるよ。
何か、弱点みたいなものはないんですか?
『殺せば死にます』
ロクな情報くれないゾ、このポンコツ。
『実際、あまり詳しいデータが取得できていないのです。なんとか撃退するしかないでしょう』
そんな……。
あんなバケモノに勝てるわけがないよ。
せっかく、ここまで頑張って生き残ったのに。
ここまでなのか……。
…………。
……。
…………?
あの、ちょっといいですか?
『なんでしょう』
いえ、あの。
遅くない?
さっぱりバケモノが来る様子がないんですけど。もう帰ったとか?
『そんなはずはありませんが……』
気になる。
少しドアを開けて、確認してみよう。
ほんのちょっと覗くだけなら、さすがに大丈夫だよね?
『ホラー映画で、絶対やってはいけない思考回路ですね』
俺もそう思う。
……あ、アレはッ!?。
む、虫に殺されてる!
『どうやら、深きものは他の生物を無差別に襲うようです』
それで、虫たちに攻撃をしかけて、返り討ちにあったと?
『そのようですね』
はえー。
ただキショくておっかないだけだと思ってたけど、あの虫たちに助けられるとは。
バケモノは殺してくれるし、食料は産んでくれるし。
これからは、「虫さん」と呼んだ方がいいのかもしれない。
あ、虫さんたちがバケモノを食ってる。
恐ろしい光景だ。
だけど、あれが弱肉強食。
RimWorldの真理。
この過酷な世界で生き延びるための秘訣。
それは、ただ強くあること。そんな答えを、世界は示してくれているのかもしれない。
そう思いました。
『ごまかそうとしていますが、私をポンコツと罵倒したことは、しっかりログに残ってますよ』
ア、ハイ。ごめんね。
発電機は最初から作れるのに、バッテリーやぺミカンを作れない入植者たちの知識はどうなっているのか。
そんなことを考えた結果、主人公の故郷がパラノイアめいた独自設定となりました。今後生かせるかどうかは展開次第です。