・宇宙歴5503年 夏
『なるほど。拠点防衛に成功した上に、全員生存の場合のオッズは137.9倍ですか。予想よりも配当がつきませんでしたね』
全員、一斉射撃! 撃てー!
『なんだかんだ、スタッフたちも全裸セラピストと仲間たちを3年間も観察しています。彼らならもしかすると、と心の片隅で思うところがあるのでしょう』
え、ちっとも効いてる様子がない……。って、ゴリゴリに地面を割りながら突進してくる!?
『しかし、RimWorldは非情な世界なのです。果たして、未知の怪物を相手にして、どれだけのことができるやら』
おたすけー!
『ちなみに、つい先ほど勢い良く宣戦布告をした全裸セラピストたちは、迫る怪物から必死で逃げ惑っています。まあ、そうなるでしょうねぇ……』
ぜ、全然ダメだ。銃弾を撃ち込んでも効いてないし、あいつ移動がメチャクチャ速い。こんなのどうしろって言うんだよ、逃げるので精一杯だ。
「ピィイイ!? し、死んでしまうのであります!」
「おじさん、こんな時のための盾役だろう! その手の斧は何のためにあるのさッ」
無茶言うな。あんなの相手に格闘したら一瞬で挽き肉にされるわ!
『ふむ。未確認生物にわずかな傷を確認。通常の攻撃を完全に無効化しているわけではないようですね。火力による討伐は充分に可能です』
そんなこと言われても。足を止めたら死ぬのに、反撃なんてできないって!
「カ、カサバルさんッ。これはバフィたち、どうにもできないですぅ」
そ、そんなこと言ったって──ウブヘッ。
「隊長がずっこけたでありますッ」
「そんな、カサバルさんが潰されちゃうです!」
くっ。み、みんな俺にかまわず逃げろ! 道連れになってしまうより、振り返らずに走るんだ!
「じゃーね、おじさん。いい墓石を彫ってあげるからね。気が向いたら」
少しは悩むそぶりを見せろ薄情者ぉ!
そんな。ここまで生き抜いてきたのに、ミミズに潰されて死ぬなんてあんまりだぁああ!
……。
…………。
………………アレ? なんか、怪物が帰っていってない?
「怪物さん、穴の近くをうろついているですぅ」
ぜえ……ぜえ……。いったい、どうなってるんだ。
『ふむ。離れている間に、穴を壊されることを警戒しているのでしょうか』
た、助かった。こっちももう限界だった。
「本当に良かったよ、おじさん。ボクは大丈夫って信じていたからね」
何もなかったよう顔して戻って来るな、スパロウ。秒速で見捨てたことは一生忘れないからな。
『とりあえず、攻撃しても穴からある程度の距離を取れば追ってこないことは確認できましたね』
そ、それなら俺たちでも戦いようがあるぞ。
「チュー。怪物を攻撃してすぐに退却という戦法をし続ければ、安全に戦えそうでありますな。勝利の鍵はヒットアンドアウェイであります」
そういうことなら、俺も遠距離攻撃に加わろう。いつもの斧じゃなくて弓を取ってくる。
「ウサイヌさんたちも拠点で待機ですぅ。うっかり怪物さんに近寄ったら大変ですぅ」
よーし、希望が見えてきた! 星くずサバイバーズとゲストの皆さん、攻撃を継続だ!
うおー!
『戦闘開始からおよそ5時間が経過しました。いい加減、この絵面にも飽きてきましたね』
「さ、さすがに天才のボクでも疲れたよ。いったん休憩にしないかい?」
ダメ! 得体の知れない怪物だぞ。少し時間を与えただけで回復する可能性もある。一気に畳みかけないと。
アイちゃん、怪物の様子は?
『そうですねぇ』
『まだピンピンしてますねぇ。怪物の思考を推測するに、なんか身体がヒリヒリするなって感じでしょうか』
ウソでしょ。これだけ銃弾と矢を撃ち込んでるのに、どれだけ生命力に満ち溢れてるんだよ。
『そもそも、こちらの武装が貧弱すぎるのです。3年もサバイバルしているのに、どうして未だに弓矢など使っているのですか。火薬を持ってきなさい、火薬を』
しかたない。ライフルを買うのが限界だった。
「もうさー。誰か一人が囮になっている間に、全員で穴を壊した方がいいんじゃない?」
「クセニア殿、それは悪手であります。穴を失った後の怪物の行動が予想できません。もし本格的に自分たちを追いかけるようになったら、均衡が崩れるのであります」
このまま頑張るしかないかぁ。
『そして、さらに5時間です』
……や、やっと怪物の動きが弱ってきた。
「へへっ。いい感じにドバドバ血が流れてるな。こいつは最高だぜ、おい!」
元気だなぁ、流血嗜好者。
「チュー……。トロフィム殿と違って、自分たちはもう体力の限界であります。お風呂に入りたいのであります。隊長、そろそろ休憩しませんか?」
うーん。さすがに半日間ずっと戦闘を続けているのはきつい。みんなもヘロヘロだ。
あんなに出血しているなら、後は時間の問題か? できるだけ早めに決着をつけたいけど、どうするべきなんだ。
「でも、そろそろストレスも溜まって来たよ。見なよ、バフィお姉さまを」
「お、オクシュ……おくしゅり……」
あ、メンタルブレイクの兆候も出てきている。全員、一時撤退!
『結局、こうなるんですね』
クソッ、武器の強化に手をつけられなかったのが、ここで響いてくるとは。
みんなー、ご飯よー!
「ご、ごは……オクシュ……」
スパロウ、バフィの口に晩御飯を詰め込んどいて。
「お姉さま、あーん」
「モゴゴ」
うーむ。やっぱり、半日ぶっ続けの戦闘は無茶だったか。空腹や娯楽の不足で、みんなのメンタルがボロボロだ。
『ただでさえテレパシーの悪影響を受けていますからね。短期決戦に失敗したのは、痛恨でしたね。ここに至って、放置されていた武装の貧弱さが浮き彫りになりました』
どうしたものか。自分たちで作るだけの技術もないしな。現状はキャラバンから買うしかないけど、銃とかは高いんだよ。
「そんなの、襲ってきた宙賊を返り討ちにして奪えばいいじゃねえか」
どっちが強盗か分からない発言。いや、このリカーブボウやリボルバーはそうして手に入れたから、あまり言えないけど。
『まあ、敵としてもそこまで強い武装で襲うほど魅力的なコロニーではありませんし。仮に軍用ライフルなどで襲われた日には、抵抗する余裕もなく全滅でしょうしね』
怖い。結局さ、がんばって強力な武器をそろえたとしても、それを目当てに敵がまた襲ってくるわけで。イタチごっこじゃない?
「そうだとしても、防衛に直結するのでありますから、今後は武装の強化も視野に入れるのであります。長距離用の狙撃銃や、短距離で威力を発揮するショットガンや短機関銃。選択肢は多い方がよいのであります」
まだまだ、足りないものは多いなぁ……。いつになったら、何の心配もなく暮らせるようになるんだろう。
『今のままだと、一生無理ですね』
心が折れそうだ。
「チュッ。隊長、自分はとにかくお風呂に入ってくるのであります。もう全身がドロドロで」
『いえ、お待ちなさい。事態が動いたようです』
えっ、何があったのさ。まさか怪物が拠点に向かってきてるとか!?
『アナタたちにとって悪い知らせではありませんが』
『たまたま通りがかった旅行者の二人組が、怪物に襲われているようですね』
あああああああああ!? 最悪のタイミングッ。
『これはいい。格闘戦のデータも欲しかったところです』
鬼! 悪魔!
みんな、緊急出動だ!
「チュー、お風呂ぉ……」
と、とうとうやってやったぞぉおお!!
『ふーむ、戦闘開始から驚きの15時間。とんでもない泥仕合でしたねぇ』
スパロウ、襲われていた旅行者はどうなった。
「残念だけど、一人はもう手遅れだよ。天才のボクにも、どうにもできない」
そ、そんな……。俺たちの事情に巻き込んで、犠牲を出してしまうなんて。
「アンタさー、落ち込みすぎ。あの怪物から一人助けられただけでも上出来じゃない」
……クセニアさん。
「まー、アタシと同じラックルが死んじゃったのは残念だけどさー。結局、この星を旅するっていうのは、こういうことなのよね。生きるも死ぬも、死んだ本人の責任なの」
それは、そうなんでしょうけど。
「だから考えすぎ。ちょっとは、このウミウシ男を見習ったら?」
「ヒャッハー! バケモノ狩り最高! ここに来て大正解だったぜー!」
絶対に嫌だ。ここまで突き抜けたくない。
「おじさん、気を抜くのが早すぎじゃないかい。まだ問題の大穴は残ってるんだよ」
そうだった。怪物を倒したし、これ以上被害が出ないうちに穴を塞いでおこう。
みんな、最後のひと踏ん張りだ。
「チュー……。お、おフロ……」
レ、レモン?
「おふろぉおおおおお!」
「隊長のケチ! 露出狂! 歩く公然わいせつ罪!」
いやぁああ! こっちがメンタルブレイクした!?
『まあ、時間の問題でしたねぇ』
「今すぐお風呂に入るのであります、男ども! 不潔であります!」
「お、なんだ。ケンカ売ってんのかネズミ娘。買うぜコノヤロー」
買うな!
バフィッ。スパロウッ。お願いだから、殴り合いが始まる前にこのお風呂狂いを浴槽にぶち込んできて!
『どこまでいっても締まらないですねぇ、アナタたちは』