強制的にリセットすることもできますが、詰むときは普通に詰みます。
・宇宙歴5500年 夏
どうも。
暑さも和らぎ、だんだんと秋の気配が近づいてきた今日この頃。皆様はいかがお過ごしでしょうか。
俺は星空の下で浜辺に寝そべり、優雅にディナーを楽しんでおります。
カサバルです。
『一体、誰に話しかけているのでしょうか』
いいでしょ。気分だよ、気分。
少しずつ食料の備蓄が進んでるんですから、たまには余裕を持って過ごしてもいいでしょう。
最近、試しに浜辺に罠を設置してみたら、ちょくちょく魚が捕れるようになったし。
今日なんてロブスターが入ってた。
故郷じゃ高級食材だから、一生食べる機会なんてないと思ってたけど。何とも言えないほど美味ですね。
『水を刺すようですが、ロブスターとは殻を剝いてから食べるものです。そのままボリボリかじるものではありません』
そうなんだ。道理で食べにくいしクソまずいと思った。
『せめて火を通してから食べては? アナタは、コメも魚も生のまま食べていますね。少しは木材もあるのですから、焚火を起こして調理してもいいと思いますが』
……あの、分かってて提案してるでしょ。
『なんのことですか?』
この砂漠、四季があるってことは、いつか冬が来ますよね。
『来ますね』
木材は限られていて、俺は全裸ですよね。
『木材は貴重ですし、アナタは全裸ですね』
今から焚火で木材を消費してたら、冬に暖を取れなくて凍死しちゃうでしょ!
『凍死しますね』
ヤダ。なにこの人工知能。
すごくナチュラルにデスルートへと誘導しようとしてくる。怖い。
はあ。
それにしても、こんなに満面の星空なんて初めてだ。
排煙もネオンもないと、こんなに空ってきれいに見えるものなんだなぁ。
ただの星くずのはずなのに、ずっと眺めていても飽きないや。眠ってしまうのがもったいなく感じる。
『夜空に輝く星々の光。その中の一つは、私の搭載されている衛星かもしれません』
さ、寝よ寝よ。明日も重労働が待ってるし。
『なぜでしょう』
一気にムードを台無しにされたからです。
ん?
流れ星だ!
明日も平和でありますように! もう襲撃が来ませんように! あと――。
『一つの願いを三回唱えないとダメらしいですよ』
え、そうなの? じゃあ、まだ見えてるからもう一度……。
っていうか、なんか流れ星、ドンドンこっちに近づいて来ているような。
『おや、あれは……』
ぎゃあ、めっちゃ近くに落ちた!
『あれは流れ星ではありません。脱出ポッドです』
そうなの!?
と、とにかく現場に行ってみよう。
ああ、女の人が倒れてる!
ひどい怪我だ。完全に気を失っている。
『どうやらポッドの墜落事故のようですね』
ち、治療しないと!
見たところ、拠点に運んでる暇もない。この場で応急手当てだ。
よし、こんなものかな。
改めて見たら、最初に出会った人と良く似てるな。同じ種族なんだろう。
とりあえず拠点に運んで寝かせよう。
ウッ。しっぽがあるせいか、けっこう重い。
ハアッ、ハアッ……。
『本部へ報告。息を荒げた全裸の男性が、意識のない女性を住居へ連れ込もうとしています』
悪意のある表現やめてッ。
「うぅ……。ここは?」
気がつきましたか。
無理に動こうとしないで。ここは俺の拠点です。
「そう。私、生きてるのね」
はい、生きてますよ。
ひどい怪我ですけど、後遺症が残るようなものではないです。
安心して、今はゆっくりと休んでくださいね。これから食べ物も持ってきますから。
「そう。一つ、お願いがあるのだけど」
なんでしょう?
「モツ抜きするなら、腎臓一つで見逃してもらえないかしら。足りなければ、肺も片方取っていいわよ」
その提案、なんか覚えがある!
っていうか、抜きませんよ!?
「売るんじゃないの? じゃあ、どうしてわざわざ助けたのかしら。言っとくけど、私はどこの派閥にも所属してないから、身代金も取れないわよ」
一体、俺はどんな風に見られているんだろう。
『全裸の原始人、もしくは露出狂でしょうね』
黙ってて。
「……本当に、ただ助けてくれただけなのね。どうして、こんなに良くしてくれるのかしら? 人のおせっかい焼く余裕があるようには、とうてい見えないけど」
まあね。ここで暮らし始めて一ヶ月以上たつけど、まだ服すら手に入れられてないからね。
でも、アナタと同じ種族の人に会ったことあるんですよ。その時、色々とRimWorldのことを教えてもらったんです。見返りなしに。
「それで私を? 呆れたわ。そんなに甘くて、よくRimWorldで生きてこられたわね」
俺もそう思う。
さあ、食べ物ですよ。これを食べて、しっかり栄養をつけてください。
「……」
ああ。両手、怪我してますもんね。口を開けてください。
「お優しいことね。……でも」
何です?
「アンタみたいな甘い人間、私は嫌いじゃないわ」
それはどうも。
「それじゃ、ありがたく食べさせてもら――ちょっと待って。どうしてロブスターを丸ごと差し出してくるの? まさか、それをそのまま私の口に……」
ささ、ごちそうですよ。遠慮なくお食べなさい。
「ちょっ、せめて殻を――モガァッ!?」
早く元気になってくれるといいなぁ。
さようならー! お元気でー!
『彼女は無事に旅立ちましたか』
うん。
全快するまで待った方がいいって言ったんだけど。動けるようになったから、もういいって。
大丈夫かなぁ。
だいぶ怪我は回復してたけど、それにしては顔つきがゲッソリしてたよね。どうしてだろう。
『皆目、見当がつきません』
だよねぇ。
心配だなぁ。これも置いて行っちゃったし。
『それは、彼女の持っていた拳銃ですか』
そう。せめてものお礼だって。
気にしなくていいのに。
『ですが、銃器が手に入ったのは歓迎すべきでしょう。石を投げるよりは、よっぽどまともな戦闘手段です』
まあ、そうなんですけど。
正直に言うと、まともな武器が手に入ったことが嬉しくてたまらない。
防衛の他にも、トカゲとかの小さな動物なら狩猟して食料にできそうだ。
こうしてチャッと拳銃を構えて。
どうです、似合いますか?
『サルにオモチャのピストル持たせた感じがありますね』
やかましい!
しかし、ポッドの墜落事故か。
一歩間違えたら、俺もあんな大怪我を負ってたのかな。
『それは聞き捨てなりませんね。実験にあたり、我々は細心の注意を払っています。ポッドによる降下の段階で事故を起こすなど、あり得ません』
ほんとォ?
実験体はみんな、五体満足でRimWorldに降下できたんですか?
『…………』
どうして黙るの。
『なんにせよ、ポッド事故の現場に居合わせるとは、なかなか珍しい体験ですね』
これは露骨な話題そらし。
『そらしてません』
とりあえずプロジェクトのことは置いといて、本当に宇宙からポッドが降ってくるものなんですね。
つまり、宇宙航行技術はRimWorld近辺でもポピュラーって証明された。俺にとっては明るいニュースではある。
『今後も宇宙ポッドや宇宙船の残骸が落ちてくる可能性はありますね。それらから有用な物資を回収することもできるでしょう』
それはありがたい。
『もっとも、宇宙は広大です。たまたま拠点の近くに落ちるなど、文字通り天文学的な確率。昨日のようなことなど、そうそう起きないでしょう』
やっぱり、そうか。
いいけど。ポッドが墜落する場面なんて、心臓に悪すぎて二度と見たくない。
ん?
あれ。
なんか、空に一筋の光が見えるような……。
二日連続でポッド事故ぉ!?
『それも、どうやら敵対的な派閥のようです。救助しても、なんのメリットもないでしょう』
……。
はあ、行くか。
『律儀に助けるんですね』
毒を食わらば皿まで、っていうでしょ。一人も二人も変わりませんから。
こうして誰かのためになることをしていれば、巡り巡ってそのうち良いことが起こりますよ。
『そのような非論理的な……。おや、これは?』
なんです。まさか、さっそく良いことが起こりました?
『これは……』
『熱波の襲来です。致命的なほどの高気温がしばらく続くでしょう』
なぜだ。
・宇宙歴5500年 秋
あ。
あ、あァ……。
あっつゥウウい!
もう秋に入ったのに、気温が40度超えてるよ! 干物になるわッ。
『まあ、熱波の最中ですから』
いやいや。いくら熱波でもおかしいでしょう。
ちょっと外をうろつくだけで熱中症になるんですけど。
それにしても、また季節が変わるまで生きていられるとは。
餓死しかけたり殺されかけたり、いろんなことがあったけど、人間やろうと思えばやれるものだなぁ。
『組織の方でも、アナタは注目を集めていますよ。劣悪な環境でもしぶとく生き延びてデータを提供する、予想以上のモルモットだと』
とうとう実験動物扱いを隠さなくなってきた。
『ですから、本部の方でもアナタに対して特別にボーナスを与えることになりました』
ボーナス?
なんです? 俺をRimWorldから回収してくれるとか?
『全く声に期待がこもってませんね』
人を裸で未開の惑星に放り出して殺すような連中に、期待なんてするわけないんだよなァ。
『誤解があるようですね。我々の目的は、宇宙開発のデータを収集することなのです。アナタたちに死んでほしいわけではありません』
なんだろ。
強盗殺人の犯人に、「金が欲しかっただけで殺したくはなかった」と言われた気分。
『回収はしませんが、当たらずとも遠からずといったところでしょうか。タブレットをご覧ください』
ん。なんか、新しいデータが送られてきているな。
『それは、RimWorldの地図です。そして、組織が用意した宇宙船の位置情報が載っています』
宇宙船!?
え、つまり、そこまで行けば、宇宙船を使ってRimWorldを脱出してもいいってこと?
『そうです』
俺は初めから組織の皆さんを信じていましたよ。
こうして、高尚な実験に参加できたことを光栄に思います。
『ためらいなく媚びを売り始めましたね』
プライドじゃ生きていけない。
こんなところからオサラバできるなら、靴だって舐めるわ。
さて。
さっそく、宇宙船の場所を確認しよう、っと。
数日ぐらいなら食料も余裕があるし、すぐにでも出発したいところだけども。
どいつもこいつも呪われてしまえ、マッドども。
『どうしたのです。せっかく脱出手段を用意してさしあげたのに』
たどりつくまで四十日近くかかるじゃないですか!
ただでさえ食糧難だっていうのに、どんな危険が潜んでるのか分からない星を縦断して行けるワケないでしょ!
『残念です。せっかくなので、長期移動のデータも欲しかったのですが』
そうそう思った通りに動いてやるもんか。
『しかたありません。他の実験体にもデータは送っていますから、そちらの方に期待しましょう』
俺への特別なボーナスとは、なんだったのか。
『やる気を煽るためのリップサービス。つまり、かわいいウソです』
投げ捨てていいかな、このタブレット。
ちなみに墜落した二人目は囚人にして、動けるようになりしだい解放。
落ちてた狙撃銃はもらいました。
なぜか武器だけ充実していく。