辺境の世界からSOS   作:銃病鉄

6 / 26
思ったより感想などをいただけて、驚いています。

これは、変なガバで詰んだりしないよう気をつけなくては(ガバしないとは言っていない)


5500年・秋 「初めての仲間」

・宇宙歴5500年 秋

 

 

 ドウモ。

 

 オソト、キケン、イッパイ。

 

 モウ、オヘヤ、デナイ、ヨ。

 

 カサバル、デス。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

『流れるような開幕メンタルブレイク。先が思いやられます。

 前回の報告以来、熱波をやり過ごした全裸セラピストは、冬に備えて食料と木材をかき集めていました。寒さも厳しくなり、そろそろ作物も育たなくなるでしょう。現在の備蓄で冬を乗り切れるかどうか、注目されます』

 

 

 

 ふう。一回発狂したことでスッとした。

 しばらくはメンタルが安定しそうだ。

 

『実験開始からメンタルブレイクを連発していますが、アナタ本当にセラピストですか。農夫の間違いではなく?』

 

 失礼な。セラピストですよ。なったばかりでしたけど。

 あと、正確に言うとアロマセラピストですね。だから植物の扱いもできるんです。

 

『確かに、経歴を見たらアロマセラピストになってますね』

 

 そんなことより、見てくださいよ。せっせと増築したマイホームを。新しく個室を建てて、食堂にしたんです。

 

『テーブルの横に便器がおかれ、食堂兼トイレという謎設計になってますね。もしや、何かしら歪んだ性癖の産物でしょうか』

 

 人を変態扱いするな! 

 スペースも物資もカツカツなんです。俺一人しかいないんだから、いいんですよ。

 

 ……。

 

 俺一人、か。

 最近はキャラバンも来ないし。最後に人と話をしたのは、どのくらい前だろう。孤独を感じる。

 

『今、こうしてコミュニケーションを取っているではありませんか』

 

 あ、人をモルモット扱いする人工知能はノーカンなんで。

 

()せません』

 

 解して。

 

『ワタシの扱いについてはさておき、一人で生き延びるのには限界がありますね』

 

 やっぱり?

 

 実際、木を伐採したり畑の作物を世話したり、やることが多すぎる。

 RimWorldを脱出するために研究もしないといけないんだけど、全然手がつけられない。こんな調子じゃ、宇宙船の建造なんて一生できないよ。

 

 なんとかなりませんかね?

 

『人材の加入なら、可能性はあるでしょう。この前のポッド事故などのように、行く当てもなく放浪するしかない人もいるのですから。彼らの中には、定住する場所を探している者もいるかもしれません』

 

 マジで!?

 

『ちなみに、一緒に暮らすなら、どんな人がよいのですか?』

 

 もちろん、戦える人がいい。俺の代わりに、襲撃者をちぎっては投げられるような人。

 それでいて建築が得意なら嬉しいなぁ。リラックスして過ごせる拠点を作ってもらいたい。

 それで医術の知識があって、料理も上手で……。

 

 そんな感じで、さらに美人な女性だと嬉しいです。

 

『身の程を知りなさい、このダメ人間』

 

 いきなりガチ説教!?

 

『現状、冬を越せるかどうかも怪しいのです。こんなところに、そんなパーフェクト超人が加入するわけないでしょう』

 

 ちくしょう。

 何も反論できない。

 

 でも、もう一人は寂しいなぁ。

 

 

 

 

 

 も、もう限界です。

 死んでしまう。

 

『どうしたのです、突然』

 

 この寒さですよ!

 秋の終盤になってから、外気温が10度を下回ってるんです!

 この前まであんなに暑かったのに。

 

『熱波が来てましたからね。それに、この砂漠はだいぶ緯度の高い場所なので、平均気温が低めなのです』

 

 もう、寒すぎて指の感覚がないんですけど。

 

『初期の低体温症です。運動能力や指の機能が低下します。そして、さらに重度になると――』

 

 重度になると?

 

『手足の指が凍傷にかかり、もげます』

 

 木材セット! 着火!

 

 

 はぁ。……あったかぁい。

 

 

『とうとう焚火を設置しましたか。これで、食材の調理などもできますね』

 

 うん。

 チマチマとサボテンとかを伐採してたから、木材の貯蔵はけっこうある。この冬はなんとかしのげそうだ。それにコメもそれなりに貯められたし。

 

 これなら安心、あんし……。

 

 

 …………。

 

 

『どうしたのです? 急にお腹を押さえて黙り込んで』

 

 

 あ……。

 

 アァ…………。

 

 

『ア?』

 

 

 アバァーーーー!?

 

 オゴー! オゴゴーー!?

 

 

『奇声を上げて床に寝ころんだと思えば、ブレイクダンスですか。痛みでのたうち回っているようにしか見えないのが残念です』

 

 痛みでのたうち回ってるんですよ!

 

 腹が、俺の腹がァ!? ち、ちぎれるゥ。

 

『なんと。RimWorld固有の病気でしょうか。少しお腹がちぎれるのは待ってください。今、資料映像を撮る準備を』

 

 そんなのいいから、俺に何が起こってるんです!?

 

『こ、これは……』

 

 ど、どうしたの?

 

『まことに言いにくいのですが……』

 

 

 

【挿絵表示】

  

 

 

『胃に寄生虫が湧いていますね』

 

 ウッソでしょ!

 

『良かったではありませんか、初めての同居人ができて』

 

 体内にはいらないんですッ。 

 なんとかならないんですか!?

 

『一瞬で治るような症状ではありません。根気強く治療を続けていくしかありませんね』

 

 そんなぁ。

 だいたい、どうして俺に寄生虫なんか。

 

『食生活が原因では?』

 

 まさか。

 俺の食べてきた物なんて、生ゴメや生魚とか、虫の巣から出た得体の知れないゼリーぐらいしかないのに。

 

 ……思いっきり心当たりがあったわ!

 

 

 

 

 

 うう、お腹が痛い。吐き気もする。

 

『しかし、湧いたのが回虫だったのは不幸中の幸いです。命の危険はありませんから』

 

 そうなんだけどさ。

 まあ、かかったのが寒い時期でよかった。春か夏だったら、作業するのに支障が出てただろうし。

 木材と食べ物を集められてなかったらと思うと、絶望するしかない。

 

『しかし、とうとう植物も育たないほど気温が下がりましたね』

 

 そうなんだよ。低体温症になるから、あんまり拠点から離れられないし。

 この頃は岩石を加工して石材にしたり、岩壁を採掘して居住スペースを広げたり、近場でできることをやっている。

 サバイバルに無駄な時間なんてない。

 

『そんなアナタに報告があります』

 

 襲撃ですか?

 

『まだ分かりませんが、こちらに接近してくる人物がいます』

 

 人数は?

 

『一人です』

 

 よし。

 今の俺には、この拳銃がある。一人ぐらいなら、なんとかなるはずだ。

 

『狙撃銃は使わないんですか? 射程も長く、威力も高いですよ』

 

 アレ、試しに狩猟に使ってみたんだけど、無理。

 遠い相手には命中しないし、リロードも遅い。拳銃の方がよっぽどマシ。

 

『武器のせいにしないでください。ただアナタの射撃スキルが低すぎるだけです』

 

 一般人に戦闘技術を期待する方がおかしい。

 

 とにかく、準備はバッチリだ。

 この前みたいなバケモノでも来ない限り、俺は負けない!

 

『フラグでしょうか』

 

 不吉なこと言わないで!

 

 ……! 来た!

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 あれー?

 

 俺の見間違いかな。

 キツネの耳としっぽ生やした幼女が走ってくるように見える。

 

『撃たないのですか?』

 

 鬼かッ。

 いくらなんでも、子供相手に銃をぶっ放せるほど人間性すり減ってないです!

 

『おや、こちらに向けて何か叫んでいますよ』

 

 え?

 

「すみませーん! おじさんが、ここに住んでいる人ですか?」 

 

 はい。

 ここに住んでるおじ……お兄さんだよ。

 

「私を、ここで働かせてほしいですぅ!」

 

 なんて?

 

 

 

「ああ。暖かいですぅ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 はい、どうぞ。ご飯だよ。

 

「ありがとうですぅ。もうお腹ペコペコで」

 

 熱いから、やけどしないようにね。

 

 しかし。

 初めて見る種族だな。しっぽが三本あって、キツネの耳が生えてて。

 

『彼女は“クーリン”と呼ばれる人工種族ですね』

 

 気のせいか、耳が頭から浮いてるように見えるけど。

 

『RimWorld周辺宙域で起こる磁気嵐です。視覚に異常を起こし、体の部位が浮いていたり、身体がピンクの光に包まれたりします』

 

 そうなんだ。

 

 それでお嬢ちゃん、お名前を教えてもらっていい?

 

「Buffyですぅ」

 

 Buffy――バフィちゃんね。

 歳はいくつ?

 

「8歳ですぅ!」

 

 元気があってえらいねぇ。

 

「えへへー」

 

 んじゃ、ゆっくり食べてね。

 

 

 …………。

 

 

 はい、ちょっと会議。

 どうしようか、この状況。

 

『嬉しくないのですか? 仲間が増えましたよ』

 

 思ってたのと違う!

 

「あぅ。バフィ、迷惑でした?」

 

 ああ、なんでもないから!

 自分の家だと思って、ゆっくりしていいんだよ。

 

 ちなみに、お父さんとお母さんは?

 

『いないですぅ」

 

 あ、そう。

 

『けっこうドライな反応ですね』

 

 だって俺も親なんて知らないし。特に何も思うところがないな。

 

 それで、お家はどこかな?

 

「知らないですぅ。バフィ、キャラバン隊のみんなとずっと旅してましたから。けど、みんなが迷子になっちゃって。気がついたら、バフィ一人だけだったんですぅ」

 

 おおう。

 なかなかヘビーな境遇。

 

「それで困ってたら、たまたま会ったお姉さんが教えてくれたんですぅ。ここに優しいおじさんがいるから、きっと助けてくれるって」 

 

 ひょっとして、青みがかった肌でしっぽと触覚が生えてる人?

 

「そうでした」

 

 なるほど。

 

『それで、アナタはどうするのですか? 食料が限られている中、子供を養う余裕はないと思いますが』

 

 よっこいしょ。

 

『どこへ行くのです?』

 

 どこって、木材取ってくるんですよ。

 もう一つベッドを用意しないといけませんから。

 

『そうですか』

 

 というわけで。

 ようこそ、バフィ。これからよろしく。

 

「よろしくですぅ、おじさん!」

 

 お兄さんだ。

 

 ところで、キャラバン隊からはぐれたそうだけど、もしかして襲撃にでもあったの?

 

『それか、口減らしするために捨てられたのでしょうか』

 

 えぐーいッ。

 

 いや、RimWorldなら普通にありそうなんだけどさ。

 

「えっと。何があったのか、バフィにはよく分からないですぅ」

 

 分からない?

 自分がいたキャラバンのことなのに。

 

「そうなんですぅ。バフィ、ちょっとトリップしちゃって。気がついたら一人だったんですぅ」

 

 トリップ?

 一人で散歩してたってこと?

 

「違いますよ。トリップっていうのは、頭がフワフワしてぇ、そこにはないはずのきれいなお花畑が見えてぇ」

 

 ……うぅン?

 

「つまり、とってもハイになっちゃうんですぅ! バフィ、お月様まで飛んで行ったこともあるんですよ!」

 

 なんかこのキツネっ子、急に眼の焦点が合わなくなって、言葉が支離滅裂になったんですけど!?

 

『口からヨダレも垂らして、八歳女児にあるまじき顔ですね』

 

 まさか!?

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「えへへー、オクスリぃー」

 

 

 …………。

 

 

 イヤぁあああ!

 この子、シャブやってるゥ!?




倫理的にヤバい新人の加入に震える。さすがRimworld。

ちなみに、この時点でヤバい罠を一つ見逃すガバをやっています。詳しくは次回で。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。