これは、変なガバで詰んだりしないよう気をつけなくては(ガバしないとは言っていない)
・宇宙歴5500年 秋
ドウモ。
オソト、キケン、イッパイ。
モウ、オヘヤ、デナイ、ヨ。
カサバル、デス。
『流れるような開幕メンタルブレイク。先が思いやられます。
前回の報告以来、熱波をやり過ごした全裸セラピストは、冬に備えて食料と木材をかき集めていました。寒さも厳しくなり、そろそろ作物も育たなくなるでしょう。現在の備蓄で冬を乗り切れるかどうか、注目されます』
ふう。一回発狂したことでスッとした。
しばらくはメンタルが安定しそうだ。
『実験開始からメンタルブレイクを連発していますが、アナタ本当にセラピストですか。農夫の間違いではなく?』
失礼な。セラピストですよ。なったばかりでしたけど。
あと、正確に言うとアロマセラピストですね。だから植物の扱いもできるんです。
『確かに、経歴を見たらアロマセラピストになってますね』
そんなことより、見てくださいよ。せっせと増築したマイホームを。新しく個室を建てて、食堂にしたんです。
『テーブルの横に便器がおかれ、食堂兼トイレという謎設計になってますね。もしや、何かしら歪んだ性癖の産物でしょうか』
人を変態扱いするな!
スペースも物資もカツカツなんです。俺一人しかいないんだから、いいんですよ。
……。
俺一人、か。
最近はキャラバンも来ないし。最後に人と話をしたのは、どのくらい前だろう。孤独を感じる。
『今、こうしてコミュニケーションを取っているではありませんか』
あ、人をモルモット扱いする人工知能はノーカンなんで。
『
解して。
『ワタシの扱いについてはさておき、一人で生き延びるのには限界がありますね』
やっぱり?
実際、木を伐採したり畑の作物を世話したり、やることが多すぎる。
RimWorldを脱出するために研究もしないといけないんだけど、全然手がつけられない。こんな調子じゃ、宇宙船の建造なんて一生できないよ。
なんとかなりませんかね?
『人材の加入なら、可能性はあるでしょう。この前のポッド事故などのように、行く当てもなく放浪するしかない人もいるのですから。彼らの中には、定住する場所を探している者もいるかもしれません』
マジで!?
『ちなみに、一緒に暮らすなら、どんな人がよいのですか?』
もちろん、戦える人がいい。俺の代わりに、襲撃者をちぎっては投げられるような人。
それでいて建築が得意なら嬉しいなぁ。リラックスして過ごせる拠点を作ってもらいたい。
それで医術の知識があって、料理も上手で……。
そんな感じで、さらに美人な女性だと嬉しいです。
『身の程を知りなさい、このダメ人間』
いきなりガチ説教!?
『現状、冬を越せるかどうかも怪しいのです。こんなところに、そんなパーフェクト超人が加入するわけないでしょう』
ちくしょう。
何も反論できない。
でも、もう一人は寂しいなぁ。
も、もう限界です。
死んでしまう。
『どうしたのです、突然』
この寒さですよ!
秋の終盤になってから、外気温が10度を下回ってるんです!
この前まであんなに暑かったのに。
『熱波が来てましたからね。それに、この砂漠はだいぶ緯度の高い場所なので、平均気温が低めなのです』
もう、寒すぎて指の感覚がないんですけど。
『初期の低体温症です。運動能力や指の機能が低下します。そして、さらに重度になると――』
重度になると?
『手足の指が凍傷にかかり、もげます』
木材セット! 着火!
はぁ。……あったかぁい。
『とうとう焚火を設置しましたか。これで、食材の調理などもできますね』
うん。
チマチマとサボテンとかを伐採してたから、木材の貯蔵はけっこうある。この冬はなんとかしのげそうだ。それにコメもそれなりに貯められたし。
これなら安心、あんし……。
…………。
『どうしたのです? 急にお腹を押さえて黙り込んで』
あ……。
アァ…………。
『ア?』
アバァーーーー!?
オゴー! オゴゴーー!?
『奇声を上げて床に寝ころんだと思えば、ブレイクダンスですか。痛みでのたうち回っているようにしか見えないのが残念です』
痛みでのたうち回ってるんですよ!
腹が、俺の腹がァ!? ち、ちぎれるゥ。
『なんと。RimWorld固有の病気でしょうか。少しお腹がちぎれるのは待ってください。今、資料映像を撮る準備を』
そんなのいいから、俺に何が起こってるんです!?
『こ、これは……』
ど、どうしたの?
『まことに言いにくいのですが……』
『胃に寄生虫が湧いていますね』
ウッソでしょ!
『良かったではありませんか、初めての同居人ができて』
体内にはいらないんですッ。
なんとかならないんですか!?
『一瞬で治るような症状ではありません。根気強く治療を続けていくしかありませんね』
そんなぁ。
だいたい、どうして俺に寄生虫なんか。
『食生活が原因では?』
まさか。
俺の食べてきた物なんて、生ゴメや生魚とか、虫の巣から出た得体の知れないゼリーぐらいしかないのに。
……思いっきり心当たりがあったわ!
うう、お腹が痛い。吐き気もする。
『しかし、湧いたのが回虫だったのは不幸中の幸いです。命の危険はありませんから』
そうなんだけどさ。
まあ、かかったのが寒い時期でよかった。春か夏だったら、作業するのに支障が出てただろうし。
木材と食べ物を集められてなかったらと思うと、絶望するしかない。
『しかし、とうとう植物も育たないほど気温が下がりましたね』
そうなんだよ。低体温症になるから、あんまり拠点から離れられないし。
この頃は岩石を加工して石材にしたり、岩壁を採掘して居住スペースを広げたり、近場でできることをやっている。
サバイバルに無駄な時間なんてない。
『そんなアナタに報告があります』
襲撃ですか?
『まだ分かりませんが、こちらに接近してくる人物がいます』
人数は?
『一人です』
よし。
今の俺には、この拳銃がある。一人ぐらいなら、なんとかなるはずだ。
『狙撃銃は使わないんですか? 射程も長く、威力も高いですよ』
アレ、試しに狩猟に使ってみたんだけど、無理。
遠い相手には命中しないし、リロードも遅い。拳銃の方がよっぽどマシ。
『武器のせいにしないでください。ただアナタの射撃スキルが低すぎるだけです』
一般人に戦闘技術を期待する方がおかしい。
とにかく、準備はバッチリだ。
この前みたいなバケモノでも来ない限り、俺は負けない!
『フラグでしょうか』
不吉なこと言わないで!
……! 来た!
あれー?
俺の見間違いかな。
キツネの耳としっぽ生やした幼女が走ってくるように見える。
『撃たないのですか?』
鬼かッ。
いくらなんでも、子供相手に銃をぶっ放せるほど人間性すり減ってないです!
『おや、こちらに向けて何か叫んでいますよ』
え?
「すみませーん! おじさんが、ここに住んでいる人ですか?」
はい。
ここに住んでるおじ……お兄さんだよ。
「私を、ここで働かせてほしいですぅ!」
なんて?
「ああ。暖かいですぅ」
はい、どうぞ。ご飯だよ。
「ありがとうですぅ。もうお腹ペコペコで」
熱いから、やけどしないようにね。
しかし。
初めて見る種族だな。しっぽが三本あって、キツネの耳が生えてて。
『彼女は“クーリン”と呼ばれる人工種族ですね』
気のせいか、耳が頭から浮いてるように見えるけど。
『RimWorld周辺宙域で起こる磁気嵐です。視覚に異常を起こし、体の部位が浮いていたり、身体がピンクの光に包まれたりします』
そうなんだ。
それでお嬢ちゃん、お名前を教えてもらっていい?
「Buffyですぅ」
Buffy――バフィちゃんね。
歳はいくつ?
「8歳ですぅ!」
元気があってえらいねぇ。
「えへへー」
んじゃ、ゆっくり食べてね。
…………。
はい、ちょっと会議。
どうしようか、この状況。
『嬉しくないのですか? 仲間が増えましたよ』
思ってたのと違う!
「あぅ。バフィ、迷惑でした?」
ああ、なんでもないから!
自分の家だと思って、ゆっくりしていいんだよ。
ちなみに、お父さんとお母さんは?
『いないですぅ」
あ、そう。
『けっこうドライな反応ですね』
だって俺も親なんて知らないし。特に何も思うところがないな。
それで、お家はどこかな?
「知らないですぅ。バフィ、キャラバン隊のみんなとずっと旅してましたから。けど、みんなが迷子になっちゃって。気がついたら、バフィ一人だけだったんですぅ」
おおう。
なかなかヘビーな境遇。
「それで困ってたら、たまたま会ったお姉さんが教えてくれたんですぅ。ここに優しいおじさんがいるから、きっと助けてくれるって」
ひょっとして、青みがかった肌でしっぽと触覚が生えてる人?
「そうでした」
なるほど。
『それで、アナタはどうするのですか? 食料が限られている中、子供を養う余裕はないと思いますが』
よっこいしょ。
『どこへ行くのです?』
どこって、木材取ってくるんですよ。
もう一つベッドを用意しないといけませんから。
『そうですか』
というわけで。
ようこそ、バフィ。これからよろしく。
「よろしくですぅ、おじさん!」
お兄さんだ。
ところで、キャラバン隊からはぐれたそうだけど、もしかして襲撃にでもあったの?
『それか、口減らしするために捨てられたのでしょうか』
えぐーいッ。
いや、RimWorldなら普通にありそうなんだけどさ。
「えっと。何があったのか、バフィにはよく分からないですぅ」
分からない?
自分がいたキャラバンのことなのに。
「そうなんですぅ。バフィ、ちょっとトリップしちゃって。気がついたら一人だったんですぅ」
トリップ?
一人で散歩してたってこと?
「違いますよ。トリップっていうのは、頭がフワフワしてぇ、そこにはないはずのきれいなお花畑が見えてぇ」
……うぅン?
「つまり、とってもハイになっちゃうんですぅ! バフィ、お月様まで飛んで行ったこともあるんですよ!」
なんかこのキツネっ子、急に眼の焦点が合わなくなって、言葉が支離滅裂になったんですけど!?
『口からヨダレも垂らして、八歳女児にあるまじき顔ですね』
まさか!?
「えへへー、オクスリぃー」
…………。
イヤぁあああ!
この子、シャブやってるゥ!?
倫理的にヤバい新人の加入に震える。さすがRimworld。
ちなみに、この時点でヤバい罠を一つ見逃すガバをやっています。詳しくは次回で。