このシリーズはドラッグを推奨するものではありません。
・宇宙歴5500年 秋
どうも。
迷子のキツネっ子がやって来たと思ったら、まさかのジャンキーで呆然としてしまいました。
カサバルです。
「白い粉末をスンスンするのが大好き、バフィですぅ」
初手からフルスロットルでブチかますのやめて。ダメ、絶対。
「ありがとうですぅ。バフィ、あたたかいご飯をもらって、ベッドまで作ってもらえるなんて」
子供がそんなこと気にするんじゃありません。
ここまで来るの、大変だっただろう。今晩はゆっくり休んでね。
「えへへー」
ああ、癒される。
ジャンキーだけど。
『不幸中の幸いと言うべきか、特定のドラッグへの中毒症状はありません。彼女は、いたって健康体です』
健康とは一体。
『冗談で言っているのではありません。もし特定の中毒になっていれば、そのドラッグを摂取できなければ禁断症状が起こります。メンタルブレイク一直線です。突然に殺人衝動を起こした八歳児に襲われたいのですか?』
地獄かよ。今さらだけど。
しかし、こんな子供がドラッグを使ってるなんて。信じられない。
『RimWorldでは、そう珍しくもありません。ドラッグは一般的に流通しています』
また世界の闇に触れてしまった。
どうしてそんなことに?
『必要だからです。過酷な長距離の移動や襲撃が日常のRimWorldでは、疲労やストレス、そして痛みを緩和する目的で主に使われています。少なからず有害でも、死ぬよりはマシということでしょう』
けっこうガチな理由があった。
バフィも、厳しい環境を生きるためにドラッグに頼っていたというわけか。なんか、悲しい話だなぁ。
「えへへー、気持ちよくなれるオクスリぃ」
いや、明らかに快楽目的ですね、コレ。
シンミリした気分帰して。
「ところで、おじさん。さっきからタブレットに向かって、誰とお話してるですぅ?」
お兄さんだ。それか、カサバルと呼んで。
気にしないで、バフィ。
君は知らなくていいものだから。関わると悪影響が出る。手の届かないところに置いておこう。
『初めまして、ワタシは人工知能です。よろしくお願いします』
「よろしくですぅ」
ちょっと待った。
ナニ、今の電子音声。始めて聞いたんですけど。
『タブレットに搭載されているスピーカー機能です』
当然のように新機能出すな。
「それよりもおじ……カサバルさん。ここ、派閥のお名前はなんていうんですぅ?」
派閥? 二人しかいないのに?
「それでも名前があった方がいいですう。キャラバンとのお買い物とか、他の派閥とのお話とか、何か名前があれば便利ですよ」
さっきまで脳がふやけたような言動してたのに、急にマトモなことを言い始めた。
子供でも、やっぱりRimWorldの住民というべきか。シビアな感覚を持ってる。
『アナタよりしっかりしているのでは?』
あんまりいじめると泣きますよ。
しかし、派閥の名前か。たしかに名前があって不都合があるわけでもないし、考えるべきかな。
でも、そんな急に言われてもなぁ。思い浮かばない。
『“パーフェクトAI
自分を前面に出すな。
「“バッド・トリッパーズ”はどうですぅ?」
ドラッグも推すな。
どうしてそんな自己主張が激しいの?
一応さ、現状のリーダーは俺だよ。せめて、俺にちなんだネーミングにして。
『露出狂エセセラピスト』
単に俺の悪口!
決まったァ!
よその人に対し、俺たちがサバイバル生活中というのを端的に示すために、“サバイバーズ”!
そして、これだけでは味気ない。
俺が空から降って来たこと。それと最終的に宇宙への脱出をゴールにしている要素を加えて……。
――星くずサバイバーズ!
これでどうだい、バフィ!
「スゥ、スゥ……」
いつの間にか寝てる。
『アナタが考え込んで三時間たった頃に寝ました』
気づかなかった。
まあ、いいや。ようやく派閥の名前も決まったし、朝が来ないうちに出かけるとしようか。
『もう朝です』
……しまった!
今日も、虫さんたちから食料をもらってこないといけなかったのに。
『完全にルーチンワークになっていますね』
・宇宙歴5500年 冬
とうとう冬になってしまったか。
『バフィが加入して数日たちましたが、どうですか彼女の働きぶりは?』
正直、微妙。
やっぱり大人と比べると、一度に運べる物の量も少ないし、移動も遅い。
研究はそれなりにできるらしいんだけど、研究するのにも設備が必要だから、まだ始められていない。
今のところは、拠点の掃除ぐらいしか任せられるものがないんです。
『研究もそうですが、工芸品や芸術品の作成なども、専用の設備を用意する必要があります。この貧相な拠点では、できる作業の幅が少ないのです』
貧相で悪かったな。
それでも、バフィが俺の代わりに雑用をしてくれるだけで助かる。なんとかスチールを集められたから、研究用設備を作るとしよう。
ただ……。
『どうしたのです。難しい顔をして』
いや、食料が心配で。
バフィが加わるのは完全に予想外だった。二人と一頭が食べていけるかどうか。
『一頭?』
あれ、知らなかったんですか?
回虫にかかったばかりの時、ラクダを一頭手なづけていたんですよ。
『なぜラクダを』
いや、一人で寂しかったから。食料に余裕もあると思ってたし。
『チョイスはともかく、動物を家畜化するのは良い手です。ミルクや毛などの畜産物を定期的に入手できます。うまく調教すれば、襲撃者と戦わせることも可能です』
すごい。
『いざという時には、非常食にもなります』
むごい。
まあ、そんなことにはならないでしょう。
この調子でいくと、コメとかの作物だけじゃ冬は越せないだろうけど、せっせと貯めたインセクトゼリーがあるし。
これから一緒にがんばろうな、ゴクラクダ。
『ネーミングセンス』
へえ、バフィはキャラバンでずっと動物の世話をしてたんだ。
「そうですぅ。動物さんと仲良くなるのは、大人にだって負けないですぅ!」
いいね。俺も動物好きなんだ。
「一緒ですぅ。バフィは誰かとお話したり、お絵かきするのも好きですぅ」
すごーい。今度、俺の絵も描いてもらいたいな。
この天才児!
「えへへー」
かわいい。
『予想外に会話が盛り上がっていますね。そんなに気が合うのですか?』
うん。最初はどうなることかと思ったけど、話をしてみたら素直でイイ子ですよ。
もはや“親友”と言ってもいいでしょう。
「カサバルさんとお話するの、とっても楽しいですぅ」
『なるほど、八歳児と同レベルと』
表現に悪意がある。
「もう。せっかくのお食事なんだから、あんまりプンスカすると食べ物がまずくなっちゃうよ、バルちゃん」
急に敬語やめるな!
「ところで、お食事についてなんですけど……。バフィ、一つお願いを言ってもいいですか?」
いいよ。
けれど、もっとおいしいもの食べたいとか、食堂を広くしてほしいとか言われても無理だからね。
厳しいこと言うけど、俺もやらないといけないことがいっぱいあるんだ。よっぽどのことじゃない限り、すぐには叶えられないよ。
「あの、お食事するテーブルの横にトイレがあるの、なんとかなりませんか? せめて、見えないように壁で囲ってほしいですぅ」
あ、はい。
食べ終えたら、すぐにトイレ用の個室を作ります。
『とうとう、この変態建築にツッコミが入りましたね』
正直、よくこれまで我慢してもらえたと思う。
『どうして放置していたのですか?』
だって、石材で建築するのに時間がかかりすぎて、手が回らなかったんですよ!
木材は全然ないし、スチールは他の用途に取っておきたいし。そうなると建材は石を使うしかない。
けれど、石はまず石材に加工してからでないと建築に使えないんです。
岩石を拾ってきて、それを石材にして、そこから建築するとなるとすごい手間なんですよ。おまけに、木やスチールと比べて、石材だと壁を一つ建てるのにもえらい時間がかかる。
『一応、石材のメリットを挙げるなら、とにかく頑丈なことでしょう。耐久力が高く、火にも強い。後のことを考えると悪い話ではないかと』
そうなんだけども。
本職の大工とか、加入してくれないものかな。
ギ。
ギ、ギギギ…………。
ぎゃあああああああ!?
「悲鳴ですぅ!? 何かあったですか?」
な、な……。
ない!
まだ冬の半ばなのに、インセクトゼリー以外の食料がなくなったァ!?
どうして!? 量からいって、こんなに早くなくなるはずがないのに! インセクトゼリーだけじゃ、とうてい春までしのげないぞ!
『フッフッフ』
……!
『ようやく能天気なアナタにも事態が飲み込めたようですね』
ど、どういうことだ!
『アナタが、致命的なトラップを見逃していたということですよ』
そんな。
冬に備えて、食料はチマチマ蓄えていた! たしかに人数が増えるという想定外の事態だったけど、充分に対応できたはずッ。
『アナタ、秋の終盤に回虫に寄生されましたね?』
それがどうしたっていうんです?
いまだに胃はキリキリ痛むし、不意にゲエゲエ吐いてしまうし。この上なく体調は悪いですけど、食料には関係ないはず。
『まだ気づけないのですか? 寄生されているということは、アナタのエネルギーが回虫に奪われているということですよ。よく自分のことを振り返ってみなさい』
そ、そう言えば、あれ以来やけにお腹がすいてしまうような。
『アナタの摂取する栄養の半分が、胃の回虫に盗まれています。生活するためには、通常の倍の食料が必要となっていたのです』
ま、まさか……。
『そう。つまりアナタだけで二人ぶんの食事を取らなければいけません。アナタたちが冬を越すには、二人と一頭ではなく、三人と一頭ぶんの食料が必要だったのです』
ウソだぁあああああ!?
『ずっと二倍の量の食事を取っていて、今まで気づかなかったんですか?』
だ、だって、毎日忙しくて、色々と考えないといけないこともあったし。
そこまで考えが及ばなかったというか。
『バカですね』
「バフィ、ちょっと何も言えないですぅ」
ち、ちくしょう!
この寄生虫が! 吐き出せ、今まで俺から奪ったカロリーを吐き出せよ!
「自分のお腹を殴っちゃダメですぅ!」
『完全に錯乱しています』
許せないよォ。虫が、人間から栄養を奪うなんて……。
『散々、虫から食料盗んできた人間の言うことじゃないですね』
何も反論できない。
『このままでは、春を迎えることなく全滅してしまいます』
イヤだぁああ!
き、寄生虫の一匹や二匹で死んでたまるかッ。
まずは、なけなしの木材を使って、海にしかける罠を増やす。
そして、俺とバフィの作業は全部釣りに変更。昼間は魚を狙って、夜には虫の巣からインセクトゼリーを拾ってくる。
全ての労力を食料確保に振り分けるぞ。
星くずサバイバーズは、こんなところで負けない!
『かっこいいこと言っていますが、アナタがもっと早く問題に気づいていたら、対策のしようがあったと思いますよ』
あ、はい。
それは全力で反省しております。
回虫については、一応冬に入って少ししてから、「なんかおかしい」と気づきました。
そして症状を確認すると、「空腹率増減量+100%」の文字が。
かかった時点で気づいていれば、もっと対策のとりようがあったのに、ひどいガバであることだなぁ。