あと、銀次が銅三に襲いかかるシーン。
広目天は焦った。
川俣の大日如来に頼んでおいた監獄の仕事があまりにもずさんだったからだ。
指導しようにも大日如来の権威の前には、その方針に苦言を呈するというのは、自分の進退に関わる。なにせ、この監獄には四天王自分たちでも不当逮捕だと思う人物が何人かいるからだ。
慈愛に満ちた大日如来が自ら看守などして、囚人が不当逮捕を訴えられたらそれこそ自分のクビが飛ぶ。だから、天竺から連れてきた人食い鰐を住まわせることを条件に不干渉することに決めていたが、看守は一人ずつ山伏に頼んでいる。牢屋での過ごし方は自由。
鉄格子の点検もしていないという報告には目を丸くしてしまった。
「これは、虚空蔵様に一報入れた方が良い」と思い、自分も滝に入って囚人を確認すればいいものを、滝の目の前にまで行って、後ろを向いた時、嫌な予感がしてもう一度首だけ振り返った。
すると、滝に14人の生き物が打たれながら立っていた。
みんな、目を見開き、歯を食いしばり、広目天を威嚇している。
真ん中の男は、子どもを背負い、大太刀を肩にかけている。
ほかの人たちも、妙見宮のフクロウのように、動物の格好をしている。
「お前ら…」
「散々いじめてくれたじゃねぇか…」
広目天でこちらにきちんと振り向こうとしたとき、真ん中の男が大太刀をブーメランのように投げた。
大カーブして、広目天の鎖骨付近に刺さる。
鎧の隙間なので、ズブズブと入っていった。
「なにするんだ…」
広目天が膝から崩れる。
子どもを背負った男が近く。
刀を持って、グンっと顔を近づけた。
「よく聞け、四天王。てめぇら仏教は、限りなく平和主義だった連中を敵に回した。そのうち、後悔させてやる。ただな、お前はここで石抱きの刑でも受けてろ。」
そう言いながら、男は刀ごと広目天を持ち上げると、滝の方にブン!と降った。すると、広目天はそのままぶっ飛んで、滝壺に落ちた。
「なに?」
もがきながら、水面に顔を出すと、滝の上から石や木、泥などが一緒くたに落ちてきた。
「た、助け…て…」
さながら、鉄砲水にさらわれたかのように広目天は見えなくなって、水量のあった滝ですら、変なものになった。
「た…………。」
田代さんは滝の上を見上げた。
「ちょっとやりすぎだな…」
「みんな鬱憤が溜まってたからな。」
「滝の上を壊して、滝壺に沈めるとはなかなかえぐいことをしますな。」
「そう言うなよ。お天狗さま。おかげで、一人倒せたんだ。」
「そらならすぐ、銀次って人を助けようぜ。」
「その前に…」
14人は滝から離れて木がなく、遠くまで見通せるところに出た。
しかし、見渡す限り、山と山に挟まれた斜面、そして、一番下を小川が流れている渓谷だった。
「どこだ?ここ?」
はっ!と目が覚める。
銀次さんの家ではない。
なにか、テント見たいなところだ。
「気が付いたか?」
「河童さんか…ここは?」
「ここは室山城。」
「鰐は?」
「鰐ってか、あそこを守ってた大親分みたいなのも倒したよ。」
「…良かった。で、あそこは?あの牢屋のあったところはどこなんですか?」
「あそこは、浦山って言ってたな。川俣より川下だって。」
「浦山…この城があるのは?」
「浦山だよ。」
「ちょっと、見渡せる場所に…」
「いいよ。」
河童に起こしてもらって、秩父盆地が見える開けたところに連れてってもらう。
なんか、大昔見た覚えがある。それは、生きていた時の昔ということだ。
ちょっと記憶を辿る。
父親と見たような景色だ。
だけど、夏休みの自由研究って訳でもない…なぜか、雪景色も想像できる…
「大丈夫かい?」
「あっ?…あっぁ!河童さん。大丈夫だよ。」
「ふーん?どっか行ってたけど…まぁいいか。」
河童は、下の渓谷を流れる川を見てる。
「お父さんとお母さんとお姉さん、見つかるといいな。」
「うん。」
「僕にもいたんだけど…」
「いなくなったの?」
「うん?…あっ!違う、間違えた…えっと…いるんだけど、元気かなぁ?」
「うん。元気だよ。多分。」
「なんか暗くしちゃってごめん。」
「いいよ。おれ、今はこの自由を尊いものだと思ってるよ。なにをしようと自由っての、とっても嬉しい。」
「そっか。」
「この城だって、100年ぐらい前まで使われてたらしいけど、今は人がいなくなって荒れ放題だったけど、人が来て嬉しがってるはずだよ。だけど、かわいそうだよな。城として使われたあと、誰にも使われなかったんだから…また活躍できないかな?」
「時代が変われば誰かから必要とされるかもしれないね。」
「そうだね。…ハハソはさ、どんなところに住んでいたの?」
「僕も…大宮郷だよ。」
「お父さんとお母さんは?」
「お…ちょっと遠いところかな?銀次さんには、泊めてもらったお礼がまだ出来てないから、それを恩返ししたいんだ。」
「そうか〜…恩返しねぇ…」
「どうかしたの?」
「うん…実はね…
行方不明の姉ちゃんと増水した濁った濁流に流される遊びをしていた時のこと。
雨はザアザア降り、川の水はコーヒー牛乳のような飲んだらうまそうな色になっている。そこで河童なのに流されて遊んでいたところ、河岸で泣いている女の人を見つけた。
話しかけたところ、
「自分は寺尾の方に嫁に行ったが、お父さんが危篤だから来てくれと言われたのにこの大雨と増水で船が出ないから、この間にお父さんが死んでしまうんではないかと思って泣いていた。」
かわいそうに思ったが、背丈が半分以上もある人間を抱えて泳げる自信は二人にもなくなにも出来ずオロオロしていたら、薄暗い中、急に対岸側からオレンジ色の光がこちらに向かってきた。
イメージでは、千と千尋の神隠しで、千尋の体が透けて見えるシーンで神様たちが乗っていた船だ。
あのようなぼんぼり、提灯で身を固めた船がやってきた。
「はやく乗りなさい!」
裸にちゃんちゃんこと菅笠を被った男の子が竹竿一本持って乗っていた。
「あなたは?」
「説明はあとだ。はやくしないともっと川が増水するぞ!」
男の子に言われていそいそと女性と二人も乗った。そういえば乗りやすいように船の真正面に階段がついていた。
まだ階段に姉ちゃんがいたのに大急ぎで、船は離岸して市街を目指して船は動き出した。
船は、唐風造りの屋根で、前方に大空間があり、後方が幕で覆われてどうなっているのか分からなかった。
「こんな造りで沈没しないのかな?」
そう思ったが、船は女性を濡らさぬようにうまく川の上を走り、見事に近戸に接岸した。
三人が降りて、振り返ってお礼を言おうとした瞬間、すでに船は離岸して闇に去っていった。
「あれはなんだったんだろう?」
そう思ったが、いまはお父さんが心配だったので手を引いて大急ぎでお嫁さんの家に連れていったところ、お父さんは体調がなんとか回復したところだった。
ちなみに、その船の正体が変わったのはその年の妙見市だった。
人間のふりをして中町という町会の山車とすれ違ったが、車輪がついていただけで、屋型の部分は完全にあの船だったんだ。
で、夏のある日にお嫁さんにまた会って、中町の話をしたら、
「実は、あの子は私が持ってるお守りじゃないかと思うの。あの日、たまたま忘れてて、全部終わって家に帰ったら、なぜか泥だらけのお守りがあったの。だから、あれは私のお守りだったのよ。」
って言ってた。」
「その、お守りって?」
「多分、中町の屋台は妙見市に出るから、妙見宮だと思うよ。」
「………。」
「おーい!二人とも!」
空から声がした。
「重大事項だ!銀次殿の処刑日がわかった。」
その日の昼。
報告と昼飯のため一同に揃った。
「処刑決行日は明日、大般若を臨時で行うらしいからその前後。廣見寺五本松にくくりつけて、斧で一刀両断にするつもりらしい。」
「人が人にやることじゃないな。」
「まるで、畜生を殺す時のようだ。」
「時間がない。どうする?」
「五本松にくくりつけられる前か、つけられて首を撥ねられる前のどちらかしかない。」
「しかし、銀次をなぜ処刑するのだろうか?仮に、弟妹殺しとはいえ、判断が早すぎるぞ。」
「…僕を誘っているのかもしれません。」
「なに?」
「銀次さんを処刑するとなれば、目上のコブである僕が必ず助けに来ると踏みます。」
「だけど、なんで俺たちが逃げたって分かる?」
「おっしゃった話だと、四天王を滝壺に沈めたらしいですが、四天王の中には、地面に潜れるものや空が飛べるものがいます。だとしたら…」
「まだあいつは生きているのか…」
「…そうすりゃ、銀次を処刑するか…」
「仏教にとって、銀次さんを処刑すれば、ちち…妙見宮が危険な眷属を使っているとも噂を流しやすいですよ。」
「銀次はますます助け出さなきゃならんな…」
「しかし…」
「方法が…」
「うーん…」
「あの、僕に唯一と言っていいような…奇襲の案が…」
「どれどれ?」
ヒソヒソヒソ
「うーん…みんなどう思う?」
「しかし、時間がないのであれば…」
「それに賭けるしかないでしょう…」
「よし。なら、早速やるしかない。天狗とハハソは早速、新井組へ。我々は準備をして宮地へ行くぞ。」
「よし!行こうハハソくん。」
そう言うと、天狗は僕を抱えてパッと飛び上がった。
そしてその時思い出した。
下を見ると、茅葺、いや秩父だから藁葺屋根だと思う。
わずかな平地をおじいさんがクワを使い土をならし、子供たちも遊んでいるんだか、畑から石を外に出しているようだった。
思い出しちゃった…
ここは、お父さんが休みの時に連れてきてくれたんだ…
で、ここには、ダムが出来るんだ…僕が見た景色はダムだったんだ…
だけど、その景色で考えてみたら…あの室山城は、ダムの右岸側だ。
あの山は、また人の役に立つんだな…
これは浦山ダムのつもりです。
ダムに沈んでしまったことにしてもいろいろ書けますよね?