「しつけえ!…」
銀次さんの服の力で空を自由に飛び回って逃げ回るが、後から追ってくるのは、禿頭の若い男だ。しかし、目がおかしい。内側の寄り目はわかるが、逆に外側を向いている。
こちらはみえていないんじゃないかと思うが、ぴったりと、ついてくる。
「キィ…ギャァあ!」
言い忘れたが、禿頭は上裸だ。素手で追ってくるが、叫びながら、口からなにか吐き出した。
それは歯。20発限定の機関銃がハハソに迫る。
「やめろ!」
持ってきた脇差を抜き、歯を叩き落とす。
「良い加減に…」
脇差を右後ろにひく。
「ヒィアァが…あぁ!…あん?」
だんだんと刃が伸びて、あまりの出来事に禿頭は呆気にとられ動けなくなる。
「しろ!」
そのまま振り下ろし、禿頭を袈裟斬りにした。
すると、そのまま頭から地面に落っこち、動かなくなった。
「ふぅ〜…」
ゆっくり羽ばたきながら降りて、宝登山に奉仕に来ていた女性や子供、老人(妙見宮の神人と同じタイプの人たち)を宝登山より西の山間にある日野沢に人を誘導しているジュゲムの前に降りた。
「なんだったんだいあれは?」
「はぁ、ハア…ハァ…おそらく、あれが彼らの力です…」
「…ふーん。だけど倒したんだろう?」
「…まだまだあれくらいの強さの人はわんさかいる気がしますので。気が抜けません…」
「うん。それより、この人たちは、どうにかなりそうか?」
「おそらく、火を放つことが重要で、人を殺すことには考えてないでしょう。」
「君は襲われたが?」
「それは…(ぼくも神の力を持ってると言ったら、ジュゲムさんを混乱させてしまう。ここは、)…ぼくが、空を飛んだ力が秩父神社のフクロウだと分かったからでしょう。フクロウは人間なのに、人間離れした技が使えますから。しかも、自分たちが狙ってる秩父神社の関係者なら、例外的に殺そうとしたんだと…思います。」
「?フクロウがなんだか分からないが…まぁ、一般人が襲われないのなら大丈夫か。」
逃げている人たちを見たら、不安で怯えている様子だが、我先にと前へ前へ進んでいるからまだ追手が来ても自分たちの力で逃げるだけの力はあると思った。
「おーい!大丈夫かー!」
逃げ道と反対側から誰か来る。
小さな馬に乗った青年の一団が突っ込んで来る。
ジュゲムさんが、顔を隠し直して、矢を一本弓につがえた。
馬の一団は、なにか旗を掲げた。
イチョウの葉が左右に広がった旗。
秩父神社のマークである。
「おっと!?怪しいものではない。私は秩父神社の天神というものです。あなた方が宝登山の神人たちを誘導してくれたのですか?」
ジュゲムさんが弓を下に向け、マスクをグイッと下げた。
「はい。我々が誘導しました。日野沢に避難させています。」
「…仏からなにか攻撃があったか?」
「………。」「………。」
顔を見合わせたが、隠すことではないと思って、続けた。
「禿頭の空飛ぶ人に襲われましたが、ぼくが倒しました。」
「「なに!?あの仏を倒した!?」」
馬の一団の中央に、馬車が一台あった。
シンデレラ のかぼちゃの馬車のようではなく、人力車を、馬が引いているような形を想像して欲しい。
その馬車に乗っている、顔をほっかむりで隠した人物が声を上げた。
「…あなたは!?…禍津日様?」
「!…ゴホン!いかにも、私は、禍津日だ。そして、こちらが最近現れた天神である。」
「ご無礼をいたしました。」
ジュゲムさんは、正座をし、頭巾を取り、マスクを外して、低く頭を下げた。
「私は、宝登山の神人をしていました日野沢のジュゲムと言います。お目にかけていただきありがとうございます。」
「顔を上げてくれ。会話にならん。」
「はい。では…」
「もっと高く。…立ち上がって私の目を見なさい。…そして君は?君があの空飛ぶ人を倒したのか?」
「…はい。ぼくは、ハハソと言います。」
はい。と言ってから禍津日が天神を馬車の近くに呼び寄せ、耳を寄せ合い、
「…ヒソヒソ」
と相談をしている。
「あの、オオカミさまは…どこにいらっしゃいますか?」
「なに?」
ぼくは短刀を目の前に出す。
「「えっ?どうしてそれを」」
「ぼくは、オオカミさまに会いに来たんです。」
「「えっ?」」
太陽が沈んだ。
あと29日と深夜分。
オオカミとハハソを仲良くさせるのが難しいです…