「君が、この短刀を…」
「はい。」
陣屋の中には、松明が焚かれ、奥永の机があり、中央奥に見覚えのあるオオカミ。
しかも、初めて見た夢の中に出てきたような甲冑を着込んでいる。
「チュー…フゥ。そして、宝登山から神人たちを逃し、仏教関係者も倒したと言うのです。」
マスクの間から器用にストローを差し込み、何か飲んでいるのは禍津日様。
「…君の目的はなんだ?」
甲冑が重いのか、椅子の背もたれを横にして、半身を預けているのが、日御碕様。
「ぼくは…自分は、オオカミさまと闘いたいんです。あんなことを許せません。」
「君のいうことはもっともだが、君は人間だろう?」
「ゴホゴホ…それが、…「それが、彼はあの宝登山を焼いた人物を倒したんです。」
禍津日様の肩に手を置き、遮って天神様が喋った。
「宝登山から出た坊主頭も空を飛び、神人たちを圧倒してました。しかし、彼も空を飛び、坊主頭を倒したのです。」
「「「「「……………」」」」」
みんな黙ってしまった。
「…ハハソ君と言ったね。」
「はい。」
「ここで全員が黙ったのは、あのような敵を前にして、どう対処したらいいか分からないからだ。気安く君を信用してしまうと、危険なのだ。もし、僕らに協力してくれるなら、なにか情報が欲しい。」
「情報ですか…」
「君と一緒にいたジュゲムは身元の確認が取れた。しかし、君は出身、父の名前を拒否している。それでは…」
「わかりました…では、…信じてもらえるような情報を持ってきたら、また来ます…」
そういうと、僕はこの凍りついた空間から下がった。
オオカミに信じてもらうより、この空間から逃げ出したかった。
美の山から、宝登山を観る。
目と鼻の先に宝登山が見える。
なんと、ドンドン木が切り倒され、焼け野原があるのか、真っ黒な山肌に赤い糸くずのようなものが張っている。
戦意を削ぐようにわざと燃えた箇所を目立たせているんだろう…
「…あそこまでして戦意を削ぐんじゃ、簡単には信じてもらえないぞ。だけど…どうしたら…」
ジュゲムさんには…いやまだ早い。
彼には頼めない…
銅三さんは起きないし…
カジカさんは!…そうだ!彼女はどこへ?
問題は山積みだ…本当にこんなんであの時代に帰れるのか?
ただ、僕には神の力がある。立ちくらみがする程度に五感を集中させて彼女の消息が掴めないのか?
やってみるしかない。
「なんか一言言ってからやってみるか…全集中…」
「助けてくれ!」
宝登山の逆から声が微かに聞こえた。