僕はもうダッシュで山を降る。
「これは、立ちくらみじゃなく、気絶ルートだな〜」っと思いながら…
視力をカラーでなく、白黒にしてるのでどこに石が、段差が、木が邪魔をするのか分かる。
耳は常に悲鳴を捉えている。
だんだん近づいてくる。
そちら側からも近づいてくる。
ただ、一つ気になったのは、なにから逃げているのか分からない。
あの禿頭の分類なら捉えられるはずだが、まったく聞こえてこない。
目は近く、耳は遠くを聞いているもんだからか…近づいたら見るしかない…
目の前に何か動物!
慌てて回避。
しかし、首元に何か飛んできて噛みつかれた。
「痛!なんだお前!」
幸いなことに、噛み付いてきたのは人のような形をしていた。
頭を掴むと、無理やり首元から引き離す。
太い血管をやられたのか、血が噴水のように出る。
「はっ!」
僕の首の皮を噛んでいたそれは、皮を吐き捨ててこう言った。
「にゃ!?ハハソ君!?どうしたの〜?」
「カジカさん…なんで…?」
僕の血がカジカさんにドバドバと降り注ぐ。
「君こそどうしたの?こんなところにいると…」
ドン!と急に押し倒された。
「おい!ネブッチョウ!大丈夫か?」
山の下から声がする。
「だ…大丈夫ニャ〜。」
「これ以上上はオオカミ達に気づかれる。撤退するぞ。」
「分かったニャ〜…諦めるニャ〜。」
カジカさんが振り向く。
「カジカさん。」
「ハハソくん。よく聞いて。私は気がついたら、宝登山の近くに倒れてて、仏教に助けられたの。今日は強行偵察でここまで来てたけど、戻らないと…ハハソくんはどうする?」
「カジカさん!なんで…」
「…もし、あの時この力を持ってて仏教の誘いを断ったら敵だとみなされただろうし、神様のやり方に我慢できなくなった妖怪だって嘘ついたの。だけど、私は誰も殺してない。まだね。まだ…ハハソくんが止めてくれたから。」
「僕が止めた?」
「ネブッチョウ!?どうした?早くしないと夜が明けて追い回されるぞ!」
「ニャ〜…ニャアは、足が早いから先に戻っててニャ。実はまだ近くにいる臭いがするのニャ。」
「もういい。諦めろ。早く来い!」
「ニャ〜…」
「カジカさん。行ってください。僕はオオカミと仏教を追っ払う方法を考えますから、また会いましょう。それまで仏教の言うことを聞いててください。」
「…ハハソくん。そもそもここは、」
「1000年前。仏教が入ってきたその日の前。」
「だいたい分かったよ。じゃあ。」
カジカさんが起き上がる。
「首、ごめんね。」
「大丈夫です。これくらい…」
カジカさんはジャンプすると、風が葉に当たる音と一緒に去っていったと思う。
しばらく血が止まるのを待ちつつ考える。
良かった。とにかく生きていた。
ますはそれを喜ぼう。
それと、仏教と一緒ってことなら、死んでしまう心配もなさそうだ。
ところで、さっき避けたのは?
「大丈夫ですか?」
視界の上から頭が覗き込む。
人だ。だけど、さっきは動物とすれ違ったはず…ということは、仏教?
「首から血が出てますが、ドンドン小さくなっていますね。あなたも神ですか?」
「僕は…(仏教だとまずい。)
「あぁ!急にこうではあなたも驚きますよね。」
そういうと、頭はみるみるうちに小さくなり、耳が頭の上にきて狐になった。
「先程は助けていただき、ありがとうございます。私、稲荷と言います。先程はネブッチョウから助けていただきありがとうございます。」
「…ご、ごめんなさい。僕は、ハハソと言います。人間です。」
「ハハソさん。この再生力は人ではないでしょう?どうしてこんなことが出来るのですか?」
「実は…(稲荷と言えば、全国に名の知れた神様だ。なんとか仲間にしてもらわないと…)ある日突然、僕の前にオオカミ様が現れまして…そのオオカミ様が私にこの力を与えてくださったのです。」
「なに⁉︎オオカミ様はそんなことまで出来るのか!」
「いえ。少し違います。」
「んっ?」
「オオカミ様の力というより、持っていた道具のおかげです。」
「道具?」
両手で丸を作る。
「このぐらいの箱なんですが…そこから煙が出て、それを吸い込んだら、この力が使える様になったのです。」
「?…そうか。…」(小声で、「おかしいな」と言った。)
「おーい!」
山の上から声が聞こえてきた。
「稲荷かー?」
「そうだ!ここだ!」
素早く狐から人間の姿に戻る。
すぐに日御碕様と、天神様が兵士5、6人を率いてやってきた。兵士たちは、甲冑のほか、マスクのように顔を布でかくしている。
「先程、結界を大きくしたら、外に向かってなにか走り去ったから何事かと思ってきてみたのだが、稲荷が追っ払ったのか。」
「いや、彼に助けられたのだ。私は逃げてただけだ。」
「へぇ。小僧がか。だけど血だらけだな。」
傷口はほとんど塞がったが、溢れ出た血があたり一面に広がって水溜りになっている。」
「ネブッチョウと取っ組み合いになり、血だらけになりながらも助けてくれたんだ。」
「ふーん…少年!」
日御碕様が声をかけてきた。
「はい。」
「立ち上がろうとしなくていい。そのまま聞け。オオカミ様から伝言だ。「もし、情報じゃなく、我々の役に立つことをしてくれたでも良い。」とのことだ。今回のは良いことだ。」
「では…」
「と、言っても…少し…もう少し待ってもらえないか?」
「そ…わ、分かりました。」
「すまんな…我々もこの事態をどうすれば良いか分からないのだ。」
「…日御碕様。」
「うん?」
「いっそのこと、私を前線に出してください。」
「「「えっ!?」」」
神様も、兵士も声を上げた。
「前線なら、例え裏切っても寝首をかきません。しかも、内通していれば仏教達は「約束が違う。」というようなことを言うはずです。そうでしょう?」
「…と、言っても…次の作戦は極秘作戦だからな…」
「じゃあ、私につけてくださいよ。」
「しかし、稲荷よ…今度の作戦は単身移動じゃないか。」
「その辺は考えてますよ。」
そういうと、懐から手のひらサイズの赤い鳥居を持ち出した。
そして、僕の首にかけた。
「これならいいでしょう?」
「まぁ、そうだなぁ…」
「なんですか?これは?」
「わかりやすく言うと、私の意に反する行動をすると、首を締め上げる装置だ。君は復活するとは言え、呼吸困難で苦しみぐらいはあるだろう?」
「…あります。」
「ふふふ。なら良かった。さて、日御碕。そして、作戦決行日は?」
「それが…」
ポリポリ…
「なんだ?頭なんか掻いてないで早く言え。」
「明日の朝の予定なんだ…」
あと、29日。