この辺も楽しく書いています。
山の黒さと、空の黒に違いが現れ、山のシルエットがなんとか判断できる様になる時刻。
時間にして朝4時
銅三のような巨人、50名が美の山の後方にある峠で粥を食べて腹越しらえを済ませた。
全員その粥を煮た釜を頭に被り兜の代わりにして、使った箸を器用に伸ばし、一本は杖に、もう一本は腰に刺して、北上を開始した。
美の山の東にある山脈を巨人達が列をなして進む。
次の峠に差し掛かった時、一斉に巨人達が使っていた杖を山頂に刺した。
まるで、箸でも刺したかのようになった。
すると、巨人達の目の前に凧が上がってきた。
巨人たちが一斉に下を向く。
人が二人見える。
一人の巨人が二人を手の上に乗せた。
「巨人族の皆さん。私は稲荷です。今回はオオカミ様に賛同してくださりありがとうございます。」
「なぁに。訳のわからん連中をオオカミ様が追い出そうというのだ。宝登山も焼き討ちにするなど、酷いありようと聞いたしな。それに参加しない巨人はおらんよ。」
手に乗せている髭を蓄えた、さらに大きな巨人が喋る。
「もう一人は?」
「この者は、私の部下です。初陣ですので、連れて参りました。」
「随分と目が鋭い様だが?」
巨人の質問に稲荷がハッとして、ハハソを見た。
巨人をグッと見つめている。
「ハハソ!どうした?緊張しすぎて目と眉が隈取のようになってるぞ?」
稲荷が肩や腕を揺らす。
「巨人様。一つ質問があります。」
手をメガホンにして叫ぶ。
「なんだ?」
「僕の友達の巨人が山になってしまったのですが、どうすれば巨人に戻りますか?」
巨人は、参ったなぁ…という感じに顔を歪めるとこう続けてしまった。
「実は巨人同士でも分からん。あれはさなぎが蝶に、卵から雛がかえるように、自らが出てくるまでどうにもならない代物でな。自らの傷が癒えたと思わないと出てこないんだ。」
「そうですか…」
「しかも、1000年も2000年も寝る場合がある。秩父の山々がそうであろう?本当に土や岩で出来た山など一つ二つ。あとは全部巨人だ。」
「えっ!?」
もし本当なら、進撃の巨人の壁どころじゃない…
しかし、ここは異世界。天狗も河童もいるのだ。なにがいても不思議じゃない。
「で、彼はずいぶん焦っていることはわかった。安心しろといっても安心出来ないが、この騒ぎが終わったら、巨人族として手助けしてやろう。」
「ありがとうございます。」
「で、稲荷。作戦というのは?」
「極秘事項ですので…」
「そうか。」
そういうと巨人はもう片方の手に稲荷を乗せると、耳元に連れて行った。
しばらく喋ると、
「良し。分かった。」
と言って僕と稲荷様をおろした。
「こちら側は任せろ。派手に暴れてやるぜ。」
と言うと、全員抜刀して、また北にある峠に向かって行った。
「よし。我々も行くぞ。」
そう言うと、巨人達と逆の方向に稲荷は山を降り出した。
「どうして追いかけないのですか?」
「……彼らは囮だ。もう一つ動いている部隊があるが、それもこちらが囮だと思っている。ただ、巨人には、日御碕が囮になっていると言ってある。」
「互いに騙してるんですか?」
「そうでもしなければ、囮役なんかやるか?」
箸を刺した峠を南に降り、沢づたいに美の山方面を降りる予定だったが、ここで問題が起きた。
沢に丸太を三本横にした橋がかかっているのだが、河霧が出ていた。
橋の向こう側が見えないくらい。
ただ、「足元を見ていれば落ちることはない。」
と、下を見ながら稲荷が橋を渡り出したが、僕はなにか嫌な予感がした。
なにか橋の上がボヤァ〜と黒くなっている。木だと思ったが、影が広がったりしぼんだりする。木はそうにならない。
「めまいがする程度だろう…」
そう思って、視力を少し上げた。
その瞬間、僕は前を渡る稲荷の尻尾を掴んだ。
人間の姿だが、尻尾や耳を隠すのは面倒らしく、僕といるときはそのままにしているのだ。
しかし、尻尾を掴んだのはいけなかった?
「ヒィ!な!なに?」「うわっ!」
高く、大きな声を出してしまった。
「しまった!」と思ったが、構うことなく、ひっぱって橋の上からこちら側の岸まで下げた。
「なにするホガホガ…」
大きな声を出すので手で口を押さえた。
「シィ!なにか向こう側にいます。あの影は旗みたいなやつです。」
「…なに?」
声が小さくなったので手を外す。
橋の上を見る。確かに、黒い影が無くなった。
急に目の前がグワングワンする。
頭を少し前に出しただけなのに、90度の礼をしたような視界になる…
「ハハソ。大丈夫か?」
「はい…旗を見た後遺症ですが…」
目を瞑る。稲荷の声がする。
「橋の向こうにいるのは…」
「仏教か?」
ウンウン…
喋るのも面倒なので頷いたら、吐きそう…
「ちくしょう…先回りされたのか……ハハソくん。君はあとどのくらい戦える?」
「はい?」
「巨人を呼んでくる。ここで騒いでも宝登山の近くまで進んで騒いでもかわらん。」
「…これは、力を使った後遺症なので、すぐ治りますし…力を使って押さえ込むことも出来ます…」「後で気絶してしまうが…」とは言えなかった…
すると、太陽が刺した。
霧が蒸発してゆく…
橋の上がだんだん晴れ、虹の様な旗を持った禿頭の集団が現れた。
「ハハソ。頼むぞ。」
そういうと、稲荷様は狐の姿になって、元来た峠を走り去った。
「やや?あんなところに人がいるぞ?」
禿頭達が僕を見つけたようだ。
どうやら、稲荷様の姿は見えなかったようだ。
「…あなた達は?」
「我々か?我々は仏教の考えに賛同したもの達だ。」
「人っことですか?」
「そうだ。君は?」
「ぼ、私は…ちょっと急ぎの用で長瀞に行こうと思い、ここを通りかかって、誰か前方にいたので、驚いたのです。」
「そうかそうか。それは悪いことをした。さぁ、お通りください。」
禿頭達は橋を戻って道をあけた。
「あなた方は?」
「我々は、仏教の教えに従って、この三つの峠にこの旗をあげに行くんです。」
「そうですか。では…」
そう言って僕は、丸太橋をこちら側に引っ張り上げてしまった。
「「「あっ!なにするんだ!?」」」
「僕は、オオカミ様の味方です。」
「「おま…え…」」
「それと、あなた方も私も人間です。これでなにも出来ないでしょう?」
「お前が人間?一人で橋を引っ張ったのにか?お前こそ化物だろう?」
「…ぼくは。」
丸太を見る。
一人の力、まして力を使わない僕にこんな丸太をひっぱれるわけが無い。
確かにそうだ。
あの信者からすれば僕は化け物かもしれない。
「僕は…それでも人間です。僕はこの力を神様に返上したい。神様に認められるために僕は外敵、秩父の民をいじめるものと戦います。」
「我々も秩父のことを思って仏教に賛同したのだ。」
「えっ?」
「あの仏という勢力は、秩父の神など目ではない。たちまち武力で制圧されてしまうよ。」
「………。」
確かに。
元の時代(銀次さんがいた時代)、どうやって仏教と秩父神社がくっついたのかは謎だ。…ここまで仲が悪くては、本地垂迹で統一された訳ではなさそうだ。
「それは違う!」
仏教徒も、僕も上流を見る。
先程見送った巨人だ。
先頭の巨人がなにか持っている。
稲荷だ。
稲荷が地上に降ろされながらまた叫ぶ。
「旗を持った人々よ。私は稲荷。オオカミの部下だ。」
「「「ハハァ。」」」
仏教徒達が頭を下げた。
稲荷が僕の隣に降りる。
「あのような暴力と武力で制圧しようとするものが栄えた試しはない。必ず民衆の怒りを買い、滅亡する。あのようなものに臆する必要はない。今すぐその旗を捨てて、日常生活に戻るんだ。」
「「「は…「その必要はない!」
上から声がした。
巨人達より上。
空から声がした。
また禿頭が空に浮かんでいる。
しかし、宝登山と見た禿頭とは違う。
「諸君。そんな異神のことを信じてはならん。あのような間違った教えを広めるから、我々仏教が正しい方向へ導いているのだ。」
「なにを勝手な。」
「導けないから、宝登山は丸焼けとなって、今でも燻っている。かわいそうな宝登山。ただ、この異神共はなにもせず、それどころかこんなところで遊んでいる。これが諸君の信仰してきた神なのだ!分かりますか?」
「「「…確かに」」」
「しょ、諸君。」
「ハハハ!そうと決まれば、諸君。このなにも出来ない異神を自分たちの領地から追い出すよう頑張ってくれ!」
「そうはさせるか!」
巨人が、箸を振り回して、禿頭を攻撃しようとした。
「馬鹿共が!」
箸が禿頭に到達したと思ったら、巨人が前につんのめって、そのまま倒れた。
周囲に大きな音が広がり、木がメリメリと倒れる。
そして、巨人が銅三のように木に埋もれていく。
「「「なんだ!?」」」
禿頭は、両手でカメハメ波のような構えをしている。
手の真ん中にはあの箱がある。
「あの箱で、巨人の力を吸ったのか…」
「ハハソ。それはどういう?「伏せてください!」
稲荷の後頭部を無理やり掴み、二人で川に落ちた。
仏教徒達は、二人が川に落ちたもんだから、「「あっ!」」
と声を上げた。しかし、もっと驚くことが起きた。
あたり一面が紫の光に包まれたかと思うと、その光が禿頭の手に集中した。
その手の中の箱に光が吸い込まれると、残りの巨人達がバタバタ、ドカドカと崩れ倒れ、みるみるうちに身体を木々に覆われていった。
「さあ、仏教の諸君。これで異神はいなくなった。すぐに、この旗を峠の先の集落まで持っていき、仏教を広めるのだぞ。」
禿頭は妖力を使い、丸太を一気に元に戻すと、そう行って、美の山方面に飛んで行ってしまった。
「一体…巨人になにがあったんだ?」
「そもそも仏教は信用して大丈夫なのか?」
そんなことを言いながら、仏教徒たちは渡っていった。
川の下で、ハハソと稲荷がひっそり聞いているとも知らずに…