秩父周辺の地図を見ながらご覧ください。
「諸君!宝登山焼き討ちはここにいるハハソくんのおかげで、鎮火した。なんでも雲を動かして、雨を呼んでくれたようだ。これに乗じて、一気に宝登山を奪還しよう!」
「「「うおー!」」」
日野沢に潜んでいる部隊は、自分たちが特に何かした訳でないが、士気を上げたままであった。
それはありがたい。脱走したり裏切ったりする者はいないのだから。
改めて神社内で日御碕、天神、そして、僕ハハソと、カジカさんは地図を広げた。
美の山を中央として、左下から美の山と同緯度で東に折れて、美の山の北側でまた、北に向かって流れる荒川があり、川を挟んだ北部に宝登山。東の山脈に釜伏せ、二本木、粥仁田、その南の裾。美の山の南東にある 三沢 と書かれている。
我々がいるのは西の端っこ。宝登山の南西の山の中である。
宝登山と、釜伏せに「仏」と書かれ、日野沢に「日」、美の山に「大」、美の山の南の小山に「妙」、美の山の南西にある川の合流点に「諏」、二本木に「三」と書かれた地図を見ている。
ちなみに、稲荷様がいないのは、二本木に向かっているとのことだった。
「まったく、今度は泣きながら飛んできたと思ったら、傷だらけの猫耳のお嬢さんを担いで来て、なんも言わず倒れて3日。起きたと思ったら、いろいろ聞いて、聞かれて…信じ難いが、確かにそうなんだろう?」
日御碕様はハハソを見た。
だいぶ始めて会った時より顔が柔らかい。
「はい。あれらは仏教ではないです。仏教は人を正しい、優しい心を他人に与えて、自分も豊かになろうという考えです。あれらは全く違う宗教です。しかも、指導者を失ったテロリスト…、武装過激集団です。」
「…テロリストがなんだか分からなかったが、奴らはもう戦えないのだろう?」
「あの、…僕をバラバラにしたあの箱は、…盗もうとしたのですが、失敗して…」
「それも聞いた。ネブッチョウのお嬢さんに頑張ってもらったらしいな。まぁ、良い。池に沈んで、拾い上げたとしても、君の左手が抑えているのだろう?」
「はい。それは確認してあります。…ただ、力は有限だそうです。」
「その前に、宝登山と釜伏せ峠から追い出してやるよ。さて、次の宝登山攻めだが…」
日御碕が机の地図に向かうと、
「日御碕!」
と、外から声がかけられた。
「稲荷か!」
日御碕は待ってましたとばかりに、社殿を出ようとすると、障子を倒して、稲荷様が入ってきた。
「どうした?そんなに慌てて…」
「…はぁ、ハァ、大変だ…」
稲荷はだんだん身体を狐から人間に治してくると、顔色悪く、悪い情報を教えてくれた。
「三峰神社が撤退して、禍津日様が敗走しました。」
「「なに!」」
いままでの三峰神社はこうだ。
巨人が進撃した後を辿って、二本木峠山頂付近に布陣したのは、僕が岩畳まで飛んだ日。
その日のうちに、峠の山頂の木を切り落とし、箸に三峰神社の旗をたくさん掲げた。
癪に触った釜伏せ峠に布陣した部隊が攻撃を仕掛けると、切った木を全て釜伏せの部隊に落とし、撤退させたり、山頂の手前にぐるりと囲む堀を掘り、その中に敵を入れ、一気に土砂崩れを起こし、生き埋めにするなど、釜伏せの部隊を着実に弱らせていたはずだった。
日御碕は宝登山攻めより釜伏せの方が早く落ちると思っていたため、撤退されたのはショックだった。
「なぜ撤退した!?」
「…どうも裏取引があったそうです。
オオカミ様は、『義をもって出陣してほしい』と要請してましたから、三峰領の安全と、金でも約束されたら…」
「……チッ。」
日御碕は稲荷を押し除け、外に出ようとした。
えらい猫背だ。
「見てきたんだが、三峰神社は仏教徒ととに三沢に侵入して、陣を敷いたぞ。」
「なに!」
急に猫背が直った。
なおって、社殿に入ると、「三」と、場外の「仏」を三沢に置いた。
「仏」は二本木と粥仁田にも置かれた。
「陣に仏教の旗が上がってた。」
「…俺たちが今、最前線じゃないか!」
「禍津日様も行方不明だ。美の山にいるのは、本隊のみ。これはオオカミ様を下げて、陣を引き直すのが作戦かと…」
「…大将がいないのにどう戦う?」
「撤退するとしたら、オオカミ様を説得する必要もあるな…」
僕はそのやりとりを見てたが、どうもしっくりこない。
「ハハソくん。」
袖を引っ張られる。
「カジカさん。」
「あの二人、会話になってない。互いに独り言を言ってるだけ。」
「えっ?」
「だって、会話が成立してないでしょ?」
「は、…はい。」
「あれで話がまとまるのかしら?」
「さぁ?」
「ハハソ!」
「はい!」
急に日御碕様に呼ばれた。
「君に頼みがある。」
「はい。」
「君は早々に美の山へ行って、現状を報告し、オオカミ様を大宮郷へ戻せ。」
「御三方は?」
「…俺はこのまま宝登山を攻める。残党なら、移動して、攻撃をはぐらかすはずだから、宝登山はからっぽなはずだ。そこを取り返して、我々の旗を上げることで、やつらに圧をかける。二人、稲荷は君と同行する。信用がいるからな。天神は、足止めのため、三沢から出てくる敵を叩いてもらう。」
「よし。やろう。」
「はやくオオカミ様に伝えなければ。」
「もし、はやく攻めることが出来れば、三峰神社にもう一度出撃を命じられるかもしれないな。」
「みんな。また会おう!」
日が暮れる。
タイムアップまで22日。