宝登山に向けて、一隊が出発する。
夜の行軍にもかかわらず、やたら松明が多い。
見えるわけないが、三沢に脅しをかける。
そして、数を多く見せて宝登山から仏教徒を逃がそうとするため。
そして、ハハソ、カジカ、稲荷、天神がバレないようにするため。
日御碕は松明を多く持たせて宝登山に向けて出発した。
もう一隊は松明もなく、川を渡り、三沢に侵入するルートを進む。
巨人達が攻撃のため出撃した時と同じぐらい明るくなったところで、僕とカジカさんと天神様が別れ、美の山に向かった。
美の山では、兵士たちがソワソワしていた。
当たり前だ。
なにせ退路を絶たれるんじゃないか?
戻ったら家がないんじゃないか?
そう考えたらじっと座ってられる人などいないだろう。
しかし、その中で座っている人物がいた。
「ハハソくん。」
笠を被り、ミノを着たその人物が話しかけた。
「ジュゲムさんか!」
「ハハソさんも元気そうで。」
「なぜここに?」
「日野沢に戻ったんだが、傷が治ったんでまた来た。しかし、ちっとも出撃しないから帰ろうかと思ってたんだ。」
「傷は?宝登山から逃した時ですか?」
「そうだ。しかし、驚いたことに、あの巨人の付近で沸いた温泉に使ったら治った。」
「それは良かった。」
「で、これからどうするんだい?撤退?」
「…それも込みで今からオオカミ様に報告するんです。」
「そうか。近くで聞いてもいいのか?」
「…おそらく大丈夫かと。」
「じゃあ、天幕の近くに行っとくよ。」
そういうことで、ジュゲムさんも含めたメンバーで本陣の前まで来た。
中に入ろうとしたら、
「じゃあ、俺は」
と言って、座り込んでしまった。
驚いたが、まぁ、当たり前かと思い僕らは中に入った。
「おぉ!稲荷!そしてネブッチョウのお嬢さんまでいる。みなご苦労だった。」
「オオカミ様。無念であります。」
「緊急出動であったもんだから、利益が見えなかったのは仕方ない。で、日御碕と禍津日、天神がどうなったのほうが気になる。」
「…残念ながら粥仁田峠に布陣していた禍津日はいまだ行方不明。日御碕はこれを機に宝登山奪還に向かいまして、天神は、禍津日を探し、三沢から敵を追い出すため、三沢方面に向かいました。そして我々は天神と共にここまで参りました。」
「うん。現状は把握した。」
「しかし、三沢を抑えに行ったとはいえ、ここでは…どこか陣変えを行った方が良いかと…」
「……うーん。ただ、ここを捨てると…」
「なにか心配でも?」
「…私情を挟んでな。」
「あぁ。そういう…」
「申し訳ない。」
「……。」
黙って頭を振っているようだ。
「ハハソ。」
「うん?」
なにとても小さな声が聞こえた。
「もし聞こえたら少し来てくれ。」
なんかしゃべっている。
「オオカミ様。」
「どうした?ハハソくん。」
「少し所用で…」
「良い。下がれ。」
「はい。」
僕は陣から出る。
ジュゲムさんが立っていた。
「どうしました?」
「目のいいところで、宝登山方面を見てもらいたい。」
「なに?」
宝登山方面を見る。
驚いた。
虹色に光っている。
その虹色はなにか空の中途半端なところで空間に吸い込まれている。
もっとその吸い込んでいる空間を見る。
「あれは…」
僕は走って陣に戻る。
「稲荷さん!オオカミ様!大変です。敵に裏をかかれました!」
「なに?」
「どういう?」
「宝登山方面。日御碕軍がどうやら箱にやられてます。」
「「なに!」」
全員が宝登山方面に向けて陣から出る。
宝登山方面の空間が虹色に光り輝き、色が吸い込まれている。
「…どういうことだ?」
「…もしかして、三沢に向かったのは別働隊で、本隊はまだ宝登山にいたのでは?!」
「うーん…」
「日野沢も危ないかな?」
「…日野沢にはまだ兵士が必要最低限は残したからなんとか持ち堪えることは出来るかもしれないが。」
「…チッ。そうか。」
ジュゲムさんはなにか焦ったような口調だ。
「じゃあ、三沢は?」
「…旗が動いたくらいで、三沢は特に制圧されたわけじゃないかも。」
「なら良いが…」
その時、なにか爆発した音がした。
みんな身体を丸めるほどの轟音である。
草木が震え、動物が宝登山方面に走っていく。
「なんだ?」
みんなが、反対側を見る。
「おお!なんだあれは!?」
「すげえ…」
「はぁ……。」
「にゃ〜…」
山に囲まれた土地だが、黒煙があがり、なにか不穏な感を誰も感じていた。
「どういうことだ?」
「…天神がやったのか?」
「……。」
止められる者のいない負けが始まる。
地獄が強制終了するまであと21日。