ただ、ついてきてこれているかな?
宝登山の南、国神付近のひらけたところに、日御碕の軍は壊滅していた。
みんな気だるそうにひっくり返っている。
その中で、とくにだるそうにして、大の字でひっくり返っているのがいた。
「日御碕様!」
「…ぁ!…ハハソか。俺は。」
「あまり喋らずに!体力を使います。」
「うん…」鳥の格好ではないな。」
「友に貸してます。彼が兵士を日野沢に誘導してくれています。」
「そうか…おれは…」
「オオカミ様からの命令で、『諏訪城に入れ』と。」
「…(嬉しそう。)フフ!まだ俺に戦えと言ってくださるのか。」
「自決など考えないでください。」
「オオカミ様の命令とあれば、黄泉の国に蓋をして帰ってきてやる。」
「ただ、兵士たちは…」
「日野沢で英気を養ったら、吉田に抜けて、地元に帰れと伝えろ…で、ハハソ。」
「はい。」
「少し寝たい。」
「だと、思いました。」
稲荷と、カジカは美の山を降りて天神が陣を張ると言った笠山に向かった。
(この笠山、美の山に蓑を置いた巨人が、同時に笠を置いたため、笠山、美の山と呼ばれるようになったという)
しかし、笠山に登るでもなくすぐに、天神の部隊を見つけた。
見つけたが、悲惨な状況であった。
まるで爆弾で吹き飛ばされたように、木々や兵士は、めくれあがり、地や兵士に穴が空いていた。
「天神様!」
残念ながら、天神は半身吹き飛んで、上半身だけにも関わらず、生きていた。
「へへ、やられちまった。」
「死にそうではないのか?」
「私は神だ。死ぬわけはない。ただ、これだとしばしの間不便だ。」
「よし…」
「危ない!後ろ!」
天神様が急に叫んだ。
稲荷とカジカが後ろを見る。
「上!」
上を見る。
禿頭が浮かんでいる。
弓矢を持っている。
「お前ら…」
「貴様!この人間まで吹き飛ばしたのは貴様か!」
「…我々は良いことをしているのだ。お前らが歯向かうからこんなことになったのだ。」
「…それは傲慢だ。」
「…この土地から」
矢を番えた。やばい!
「出て行け!」
撃った。
稲荷がカジカを掴む。
カジカが天神を掴もうとした瞬間、なにかふわふわしたものを掴んだ。
カジカはつかみ直そうとしたが、稲荷がジャンプしたから、身体が硬直してつかみ変えることが出来なかった。
ひどい爆発にはならなかったが、ジャンプでなんとかなる距離だった。
その後も爆発が何回かしていた。
残念だが、兵士の生き残りを跡形もなくけしているのだろう。
美の山本陣
「と、言う事です。オオカミ様。」
「天神は?どうなった?稲荷。」
「私はここです。」
机の上にモルモットのような動物がいる。
「君、天神か?」
「はい。寸でのところで身体を小さくすることが出来ました。しかし、ネズミから元に戻るには時間がかかるようです。稲荷様のように人間になったりは出来ません。」
「うーん…ネズミではあるが、一応身体は戻るんだな?」
「その予定です。」
「それならまだ安心だ。」
「で、これからどちらへ?」
「…一つ思ったのだが、結局敵の本拠地はまだ宝登山で良いのか?」
ネズミの天神が答える。
「おそらく。我々は本陣を動かしたと思いましたが、どうやら動かしてないようです。
実力者のみと地元の協力者だけで三沢を占領したようですので…」
「だいぶ、信者が離れているようだが、力を持った狂信者のみなだから、強い者ばかりだろう。しかし、領民は恐怖政治に震えている可能性が高いな…」
稲荷が前に出る。
「…こうなったら、一人でも多くの者を鼓舞しながら、大宮郷に入ったほうが得策でしょう。」
「では?どうすると?」
天神が聞く。
オオカミが喋る。
「…実は、お諏訪からまた使者が届いた。それによると、大野原に関を設けて、天狗党にとにかく隊列を組んだ者を見かけたら問答無用で吹き飛ばせ。と伝えてあるらしい。」
「なんとも、お諏訪様らしい。」
「ただ、なぜこのようなことをしたのか考えたのだが、大野原を通り、我々は撤退出来なくなってしまったことも意味する。」
「…そうすると?」
「なにがなんでも三沢を通って撤退しろと言う意味だ。」
「なぜそのような?」
「稲荷。簡単だ。三沢の者たちを鼓舞して撤退しろと言う意味だ。もちろん。お諏訪には敵も味方も見えているはずだ。」
「分かってて、旦那に敵中を突破しろと?」
「お諏訪はそれぐらい出来なきゃ人を導くことなど出来ないと考えているんだろう。」
「フッ…すごい人だな。」
「ハハソくん。君は黒谷の聖神社にいる女性。『お妙』に会い、宮地に撤退するよう伝えてくれ。」
お妙…
「!!…お、お妙とは、オオカミ様の。」
「…まぁ、私の大切な人だ。しかし、美の山のほぼ真下にいる。彼女を無くす訳にいかない。力を貸してほしい。お妙を宮地に撤退させて欲しい。
そのための手紙も書いた。」
「うー…」
僕は思わず悩んだ。
オオカミ様を見下した、あの冷血な女性が大切な人だと…
いや、違うな。
おそらく、「あの時は」あの禿頭に唆されて、あのような冷血だったが、本当は違うかも…
うまくいけば、冷血化を止めて、優位に禿頭と戦えるかも…!
「オオカミ様。全力を尽くします。」
「すまん。ありがとう。」
「稲荷。いきなりすまんが、ハハソを導いてやってくれ。もはや私にとって一番信用出来るのは君だ。」
「心得ました。」
「天神。悪いが、どうすれば三沢を抜けられるか考えてくれ。」
「はい。」
「ネブッチョウ。君は、ここに旗を出来るだけ立てた後、横瀬川を下り、荒川との合流点を目指せ。そこに日御碕がいる。訳を話して、そこにいさせてもらえ。」
「ニャ。」
「私は軍を諏訪城か大野原に戻すために諏訪と天狗党に交渉する。」
「「はは!」」
各自行動を開始した。
「稲荷、ネブッチョウ。手紙を渡す。こっちへ。」
「はい。」
僕は陣の外に出た。
蓑と笠を着た人がいた。
「ジュゲムさん。」
「ハハソ。悪いが俺は日野沢に帰る。」
「そん…それは、どうして?」
「あの禿頭たち。宗教施設を造れば、日野沢の大神社は残すと言って、負傷者も逃走者も見逃すと言ったらしい。」
「あの禿頭たちが?」
「そうだ。どうも協調路線の者もいるらしいぞ。ただ、その仏教徒は少し違った。」
「なにがですか?」
「その宗教施設には仏という神を祀り、それにすがれば、これから先や、死後の幸福が約束されるとか、いままでの思想とはだいぶ違うんだ。」
「!ジュゲムさん。それが仏教なんです。元々、宝登山を焼いた連中とは別のきちんとした仏教なんです。」
「なに?本物の仏教?…信用出来るんか?」
「そうでしたら、武装したままでも良いので話をしに行ったらどうですか?本当の僧…仏教の師であれば、皆さんが納得する方法を教えてくれるはずです。」
「…うーん。そうか…話し合いか…まぁ、やってみるか。おっと!そろそろ、逃げ出さないと、偉い人たちに見つかって、どこかに連れていかれちまうぜ。あばよ。ハハソ。またどこかで会えたら会おうぜ。」
「なにかこれからするんですか?」
「巨人のところで温泉でもやろうかな?」
まさかとは思った。
だって、あの辺には現代でも温泉はある。.
「ハハソくん。」
「カジカさん。」
「三人ががまだ難しい話をしてたから。」
「少しでもプライベートな話ができて嬉しいです。」
「ハハソくん。君の力はだんだん弱まってるらしくて、気絶する時間がどんどん伸びてる。たがら、あまり無茶し過ぎないで。」
「はい。カジカさんも大丈夫ですか?ずっとネブッチョウの真似は疲れるでしょう?」
「うーん…威羅夢の教祖じゃないけど、他の世界や風習に慣れ過ぎて、とくに他の猫をかぶるのは辛いとは思わないよ。この猫耳に誓って。」
思わず、頬が緩む。声にはならなかった。
「ハハソくん。」
「はい。」
「お妙さんって方。多分優しい方だから、安心して。」
「どうしてそう言えるんですか?」
「オオカミ様ってお妙さんの話をすると,少し恥ずかしがるし、あの人が冷血な人をここまでわざわざ守ろうとするかしら?オオカミ様は神様だけど人間っぽいから。」
「たしかに。あの人は人間なんじゃないかと思うこともある…分かりました。全力を尽くして秩父に撤退させます。カジカさんも気をつけて。」
「うん。」
「ハハソ、行くぞ!」
陣から稲荷様が出てくる。
「はい!では、カジカさん。」
「また会いましょう。」
世界が凶変するまであと20日。
これからのお妙さまに会うのも楽しく書いてました。
横浜で書いてます。