ただ、宮地の七つ井戸をモデルに大きな城にするのは、我ながら趣味が爆発しています。
みなさんも、自分の住んでる近くを城に見立てる変な散歩をしたらどうでしょう?
愛宕神社に天狗党が詰めている情報はあったが、お諏訪様が撤退させたようで、もっと奥にある広見寺にすんなり着陸した。
広見寺について驚いたのが、なんと、総囲い。
異世界のように、都市一個を城郭で囲うように、宮地一帯が塀で囲まれていた。
しかし、塀といっても、コンクリートのようなものでなく、柵であった。急遽作ったような感じだ。
「やあ!ハハソくん!」
快活な女性、お妙さまだ。
「稲荷様から聞いたよ。私たちが撤退しやすいように川の水を減らして、敵には洪水を起こして、おぼらせたんだってね。ついでに自分も溺れたって!」
「それは言わないでください!」
「冗談だよ。オオカミには最後を言わないであげる。それより、敵、めちゃくちゃ増えたんだって?」
「…はい。だ」
「だけど、お諏訪様の作戦で大半倒したんでしょ?」
「まぁ、乗り込んできたのは大半倒したと思いますが…」
「いいねいいね!だけど、ここもどこまでやれるか分からないから、ハハソくんも下がった方がいいよ!」
「いえ、僕も…」
「ダメだよ。カジカちゃんがかわいそうだよ。」
「カジカさん?」
「いろいろ察しなよ。男でしょ?」
「えっ?うん…むぅ…」
「赤くなってる。」
「えっ!?…」
「本当にそう思うなら休む!いいね?アーユースタン?」
「お妙様…オーケーやアーユーなんてなんでわかるんですか?」
「えっ!…まじ、ハハソくん、英語わかるの?」
「…少しですが、だからなに言ってるかだいたい分かります。」
「オーマイガー!ということは、ハハソくんも?この世界の人じゃないの?」
「はい。」
「オー!エキサイティング!空間旅行者!握手握手!シェイクハンドシェイクハンド!」
「しかし、お妙様。このような装備で戦えるんですか?」
「うーん…私一人じゃ無理かな。だけど、みんながいるから、みんなを全力でサポートするよ。」
「じゃあ、作戦はあると?」
「敵も相当ビビってるからねぇ。普通そこまでやられたら撤退するのが普通なんだけど…あの箱を使ってくるかもね。だけど、あの箱の吸い取るのは神様の力だけだから、フクロウたちには効かないよ。彼らは人間だから。」
「だけど、気をつけてください。神の力は僕みたいに人間でも持てます。」
「分かってる。だけど、神の力を手に入れたらそれこそ敵は対応できないんじゃない?」
「そうかもしれませんが、ぼ、私みたいに
気絶するようになります。気絶するということは力を正しく使いこなせていないのでは?…」
「うーん…そうにも解釈できるね…いっそのこと、箱をこっちが持っちゃえば仏の力を吸い取れるんじゃない?」
「そんな都合のいいことが起こるでしょうか?」
「それもそうか!?ハハハ!」
「けど…(箱を奪ってしまうというのは得策かも…)お妙様!」
「だめ。特に君はダメ。箱を奪おうとか考えたでしょ?」
「ど、どうして…」
「当たり前でしょ。そんなことしたら、カジカちゃんに怒られちゃう。ここを守るにしても、箱を奪うにしても私たちがなんとかするから。ハハソくんはカジカちゃんの近くにいてあげること!いいね?」
「…けど、」
「まだ分からないかな?じゃあどうすれば諦めるの?」
「………分かりました。静かにしています。」
「おぉ!いい子ね。よしよししてあげます。」
「いいですよ…」
ワシャワシャ
「…で、ぼ、私はどこにいたら?」
「この塀の中には七箇所の井戸と、司令所があるんだけど、司令所はさん3の井戸と4の井戸の間にあるから…」
「えっ!?……それってもしかして『出口』」
「よく知ってるね。そこだよ。そこまでは撤退するかもしれないけど、必ず勝つから安心して。」
「勝つ?勝つ見込みがあるんですか?」
「だから、箱を奪うか、敵の親玉を倒せる策があるの。君に頼らず。」
「…なら、僕は出口に行きますよ。」
「素直でよろしい。ではお願いね。」
「はい。」
僕は広見寺を後にして、出口に向かった。
道中、数多くのフクロウとすれ違ったが、みんな緊張している様子はなかった。それどころか、どうやれば敵を倒せるのかなど話し合ったり、稽古したり、敵を迎え撃つ準備をしていた。
出口は、とても司令所とは言えないボロ屋が一軒あり、周りを田んぼと畑、石垣で囲われた簡素なものだった。
ボロ屋の中は病院のようになっていて、ゴザの上に何人も横になっている。
しかし、大怪我をしている人は見受けられなかった。
「よう。ハハソ。」
「日御碕様。」
「どうも逃げ帰ることに成功したみたいだな。大変な役を引き受けてもらって悪かった。」
「いえ。日御碕様も脱出に成功したようで…」
「無残なもんだ。俺なんかただ、オオカミ様の兵士に混ざって撤退だからな…僧兵と目があったが、あまりにも傷が目立ったのか同情したような目で見やがった。このお礼はいつかたっぷりさせてもらうつもりだ。フフフフ…
「ハハハ…ほかのみなさんは?」
「天神はその辺にいる。はず…稲荷は、秩父神社に謁見に行ってる。カジカは…」
僕を指さした。
「お…君の後ろ。」
パッと振り向く。
カジカさんが立っている。
泣きそうな顔をしていた。
申し訳ない。
「カジカさん…真っ先に挨拶すれば良かったのですが…」
「…眠くなったりは?」
「しません。銀次さんの服が助けてくれました。」
「良かった…。」
「ご心配をおかけしました。もう大丈夫です。」
ここから耳打ち
「あと二週間で強制的に銀次さんのところに戻されるようですが、このまま静かにして、なんとか帰りますか?」
「それがいいかもしれないけど、銅三は?」
「銅三さんは、日野沢で巨人特有の繭になってるのでもしかしたら、このまま1000年寝てるかもしれないけど…もしかして……満願の湯って分かります?」
「えぇ。日野沢の温泉ですよね。」
「えっ!?満願の湯ってあるんですか?」
「ありますよ。」
「満願の湯って山の中ですよね。」
「はい。」
「…なら、銅三さんはまだ寝てますよ!ぼくたち二人が戻れば大丈夫です。みんな助かってます。」
「なんだ?急に?…」
日御碕様が聞いてきた。
興奮して声を荒げたようだ。
「すみません…ただ、…」
「なにか良いことがあったんだろう?別に怒ってる訳じゃないよ。」
「はい…」
「…こんなボロ屋だと二人でいることも無理だが、二人の腕なら、屋根に登るぐらいなら出来るだろう。屋根にでも登っとれ。」
「ありがとうございます。」
二人で出ていこうと思ったとき、
「ハハソ!」
「はい?」
「調子に乗って押し倒したらボロ屋が壊れるかもしれないから、変なことするなよ。」
「し、しませんよ。」
「フッ、冗談だ。」
恥ずかしくて早く外に出た。
「ハハソくん。大丈夫?顔が赤いよ?」
「い、いえ。なんでもないです。日御碕様におちょくられたんです。」
「そう。で、これからなんだけど…どうするの?」
屋根に登りながら、カジカさんが聞く。
「あと、14日で強制的に戻されますからそこまで耐えるのが重要です。しかし…どうしてあのお妙様が冷血な女になったのかは分かりません。この二週間で何かが起こるのかも…」
銀次さんの服の力で飛んで、カジカさんの隣に着地した。
「そうだとしたら、お諏訪様もあれだけ影響力とリーダーシップに優れているのに、現代に伝わってないのはおかしい…」
「注意したほうがいいのかも。」
「だけど、お妙様はみんなをサポートするだけで、自分は前に出るとは言ってないんでしょ?」
「はい。」
「だとしたら、絶対に死ぬ気はないだろうから、また会えるでしょう?」
「たしかに、そうかもしれないです。」
「お諏訪様ももう一度戦うとなっても、また協力を求められるかもしれないですし。」
二人はほっとしたような顔をやっとすると、たわいもない話を始めた。
自分はどんな世界から来たのか、ここに来て驚いたことなど喋った。
天井を日御碕が見上げている。
「なんだよ…あの二人、そういうとこまで行ってないのか。」
「どういうことだ?」
ネズミの天神が日御碕の胸の上で聞く。
「あぁ?ガキに教える必要はないだろ?」
日御碕は、天神を鷲掴むと、隣の布団に置いた。
そこには猫がいた。
「ちくしょう!日御碕様!あとで身体が直ったら覚悟しておいてください!」
猫に追われながら、天神は叫んだ。
「そのころには俺も治ってるよ。」
タイムリミットまであと13日