(分ければ良いんですが、どこで分けたら…)
静かな、まことに平穏な時が過ぎた。
あと一週間であちらの世界に帰れる。
だけど、お諏訪様が死ぬのを止めて、お妙様が凶変するのをとめて、オオカミがタイムスリップした理由を突き止めることは出来るのか?
気ばかり焦るが、とくになにも起きない。
ただ言えば、日御碕様が体力作りを開始し、天人様がネズミから人型に姿を移したこと。
そして、ぼくとカジカさんが仲良くなったぐらいであった。
仲良くなったというのは、仲良くなったのであって、仲良くなったのである。
とにかく、自然の摂理に沿った穏やかな数日が過ぎた。
しかし、それは我々の力をつけるだけでなく、敵の力も蓄えられる貴重な時間であった。
また巨大な閃光が落ちた。
と、僕は思った。
ボロ屋だが、日御碕、ネズミになった天神、カジカ、僕が屋根に登っている。
その登ったメンバーのうち、真っ白な光の束が上がったように見えたのは、日御碕、カジカさんで、光が落ちたように感じたのはぼくと、天神様であった。
「川の近くみたいでしたが…」
「あの辺は、宮崎城があるあたりですね…」
「宮崎城?」
「知らないのかハハソ?大畑周辺はお妙様の姉が隠居なさっている城があるんだ。元々フクロウはその姉が率いていたらしいぞ。」
「お妙様の姉?…ということは、目が…」
「そぅよ。察しがいいな。お姉様は目が見えなくなったから隠居したんだ。お妙様は三姉妹でな、元々このボロ屋に住んでいたらしい。ただ、製鉄や製錬の技術を買われてオオカミに出仕して、三姉妹には、独自の部隊『フクロウ』と、自由に採掘を行なえる許可、宮地30石を拝領して、お妙様は側室という地位を手に入れた。」
「…お諏訪様はそれでいいんですか?」
「そりゃ、正妻としては大宮郷発展のために自分のできないことが出来る人材は確保すべきだし、まぁ、自分が『正』っていう心の余裕もあるらしいしな。」
「それじゃ、二人が戦うことは?」
「足の引っ張り合いすらしないだろうな。」
「そうですか…」
「意外!みたいな対応だな。」
「…好きな人が違う人といちゃついてたらヤキモチを妬くと思うんですよね。」
「そんなことはない。婚姻は、家の強化だ。恋愛感情は残念だが二の次だ。」
「…… そうですよね。」
「で、あの光、なんだと思う?」
「…箱を使ったのでしょう。」
「しかし、うん?」
「うん?」「あれ?」
今度はもっと右手で同じような光の束が現れた。
「うん?………またやったな…」
「…おかしくないですか?」
「なにが?」
「あのすぴ…早さで光を発動するには、莫大な力がいりますから、一つでは出来ない…」
「…宮崎城で吸い取って、その力を天神の部隊にやったように攻撃したのでは?」
「…吸い取ったなら、虹色に光るはずですが…しかも、天神様の部隊に落ちた光はただの色のない光でした。」
「じゃあ、2回攻撃されたとしたら…」
「箱をもう一つ作った。」
「…最悪だ。」
「…お妙様方危ない。」
日御碕様が降りる。
「みんな来るな。俺一人で十分だ。」
そう言って、広見寺に向かっていった。
「…稲荷はなにしてるんだ?」
「どうしたんですかいきなり?」
「いや、秩父神社に行ったきり、どうしたんだ?と思ってな。そんなに重要なことでもあったのか?と思いまして。」
「俺ならここにいるぞ。」
急に足元に狐が現れて、ジャンプと共に人間になった。
「今までどうしてたんですか?」
「まぁ、オオカミ様と一緒にいたんだ。秩父神社にはいなかったけどな。」
「どういうことですか?」
「三峰神社まで行ってたんだ。」
「三峰…」
「撤退理由を聞こうと思って。そしたらどうも仏教側から金銭と保身の約束があったらしい。ただ、それがバレない程度、強さの秘訣も聞いてきた。これがあればその戦い方を真似すれば大丈夫だ。被害が少なく済む。」
「だとすれば、急いだほうが良い。おそらく、仏教と広見寺で戦闘になりますよ!」
「それはまずい。戦い方も分からず正面から行くと全滅するぞ!」
稲荷はもう走り出した。
「ぼく…いや…行っちゃだめだ…」
カジカさんも後ろから肩を掴んでくる感覚があった。
なにか嫌な空気感が、広見寺方面から漂っていた。
広見寺
目と鼻の先に、古墳の上に造られていた愛宕神社があったのだが、謎の光を浴びてなくなった。
光で真っ白になったと思うと、古墳だけになって、建物がなくなった。
「………。」
「………。」
「………。」
山がカーブになっているため、直接広見寺は見えない。
裏山に柵をつくり、柵の間、柵より外にあるタコツボに入ったフクロウたちが思わず声を呑んだ。
「やった!」
「破壊されるのは建物だと人工物だけだ。」
「まだ光はあるぞ!」
「「「うぉー!」」」
「弓!放て!」
仏教側も対策は取っていた。
竹を束にした盾を持ってきていた。
丸みがあるため、矢が曲がるだけで刺さらない。
刺さったとしても、束になってるから貫通しないもんだから傷つけられない。
「ちくしょう…」
「…火。火を矢先につけて撃って!」
「はい!」
山の中に一緒に潜むお妙様が叫ぶ。
それに呼応するように、矢先に草をつけて火をつけた。
「放て!」
グサグサ竹束にささる。
刺さったものは火がつく。
「アチあち!」
竹束を持ってる人が竹束を捨てる。
「今だ!もう一度撃って!」
「「はい!」」
これで、大半が逃げ出す…
いや、逃げ出さない。
「小賢しい真似を!」
飛んだ矢がはやく落ちた。
「なに!?」
「風向きが…」
急に風向きがこちら向きになった。
すると燃えてる竹束を山に放り投げてきた。
するとだんだん火が大きくなった。
「あの風だ!なんだ?なんで急に風が吹いた?」
「………箱!?箱の敵?」
しかし、禿頭は見えない。
ちなみに、ほっかむりと、薙刀を持った人はいるが、大半は普通の服を来た髪の毛もある人である。
「箱を持ってる禿頭はいないぞ!」
「しかし、ここまで強い風は、自然には吹かないぞ…」
「………。」
「お妙様!どうしましょう!?」
「しっ!…あのほっかむり…」
木の影から指を指す方向を何人か見る。
輿に乗り、経を唱えているように見える。
「あいつが!」
「待って!確信は持てない。ただ、…仮にこの風が自然風だとしても彼を倒すことは敵味方にとって転機になる。」
たしかに。
押し寄せる仏教側の一般人たちも大声を張り上げ、「いいぞ!勝てるぞ!」
と叫んでいる。
「では。そのように。」
そう言うと、近くにいたアナグマとオコジョがぱーっと山を降り、タコツボに落ちていった。
どんどん火は迫る。
しかし、人々は上がってこない。
「多分、落石攻撃を警戒してるんだ!」
木の上で待機の鳥型フクロウたちが言う。
「火を止めるために落として、木を消すか?」
「そんなことしたら、俺たちが丸裸にされるぞ!」
「………。」
「あっ!まずい!」
輿の一団が、こちらではなく、山を迂回し始めた。どうも、広見寺自体を攻撃するようだ。
「モグラ部隊は何をしてるんだ!」
弓矢部隊が急いで移動し、弓矢を撃ちかけるが、ほっかむりをした別の僧兵に阻まれ、輿が止まらない。
完全に回り込まれ、五本松の付近まで来た時。
輿の一団が急に落ちた。
落とし穴に落ちた感じだ。
全身が見えなくなるほどの落差だ。
「見ろ!モグラ部隊が到着したようだぞ!」
拝んでいたほっかむり、護衛の僧兵も埋まっている。
「ほら!総攻撃だ!」
穴掘り部隊の交代要員たちが落ちている僧兵たちに一斉に襲いかかる。
木の上で待機のフクロウ型部隊と、地上待機のオオカミ部隊もこれを見守った。
「埋まっているのだからあっという間に……あれ?結構手こずるな…」
「………。」
「………!フクロウ部隊!爆竹を持って出撃!目標、あの穴の僧侶ら!」
「はぁ?お妙様、なにを?…」
その時、数名のモグラ部隊員が外に放り出された。
そして中から、身体が切り傷だらけの男が出てきた。
筋骨隆々、まるで仁王様のような男だ。
なぜ男だと分かったのか?
ほぼ、衣服が切られ乱れていたからである。
「あっ!なんだあの男は!?」
「あの三人はおそらく、ハハソくんと同じ。神の力がある。だけど、ハハソくんぐらい馴染んでいる訳じゃない。多分無理やりくっつけられている…」
その男が雄叫びをあげる。
風がまた一段と強く吹く。
木の上で待機しているフクロウ部隊も爆竹を持ちすぐ飛ばないと吹き飛ばされそうである。
爆竹とは、あの諏訪城で爆発させたものに導火線をつけたもので、現代のとは違う。
火をつけ、次々と落とす。
男の上や傍で爆発するが、よろける程度。
全く効いていない。
「…………。(オオカミに聞いたハハソくんの弱点は寝てしまうことだけど、寝るには全ての危険がなくなってからだから、危険が及べばいつまでも起きている。彼らにとっても同じだとすれば、寝させないといけないんだけど…)。」
「ああっ!男がこちらでなく、広見寺のほうに!」
弓矢が刺さろうが、爆竹が当たろうが関係なしに、広見寺に向かう。
「お妙様!」
「アナグマか!どうしてああなったぁ!?」
身体がブスブスと燃えている。
山の周りはほとんど火がまわっている。
「実はあの男、拝んでいた男です。護衛の僧兵はあっという間…もう死んでました。拝んでいた奴が一番弱いと思っていたのに、一番強いんです。」
「………穴は埋めたな?」
「ほぼやられましたが、埋めました。」
「愛宕神社への道は?」
「それはあります。」
「良し。」
「お妙様!」
「うん?…稲荷様か!」
「お妙様。これは!?なんですかあいつは?襲われて殺されるかと思いましたぞ。」
広見寺の方向から登ったので、燃えてないが、彼から見れば、お妙様が炎の中に立っている。
「ごめん。だけど、ちょっと良い子で待っててね。」
「お妙様。なにを?」
「箱を奪いに。」
「えっ!?」
「稲荷様も来る?」
「えっ!?どうやって?」
「それじゃ、お願い。あの男を止めて。」
肩をガシっと掴まれた。
「………。」
なにか言おうとしたが言う間も無く、炎に向かって走っていった。
「お妙様!」
稲荷は追うことも出来ず、手を伸ばすだけだった。
しかし、彼も神だった。
立ち上がると、号令をかけた。
「あの男を止めるぞ!作戦を変える。
フクロウ部隊は、爆竹を他の人々に使い足を止めろ!
地上部隊は男を弓で止めるぞ!
地下部隊は、迷路を掘って、男と仏教徒を落とせ!」
「「「おぉー!」」」
フクロウは飛び、オオカミは走り、モグラはまた地下に潜った。
お妙は炎を飛び越え、山の下に造ったタコツボに転がり込んだ。
実はこのタコツボ、トンネルになっていて、愛宕神社まで繋がっていた。
ちなみに、このトンネルの出口近くに潜んでいたフクロウがいたため、人工物であったこのトンネルの出口は壊れたが、他はなんともなかったため、冒頭で安堵の雄叫びをあげたのだ。
お妙はこのトンネルをガムシャラに走る。
そして一気に埋まった出口にたどり着いた。
「くっ!」
そのまま体当たり。爪でガリガリかくと、土を押し除け、外に出た。
「いた!禿頭!」
刀を持った禿頭と弓を持った禿頭が驚いた顔をしながら、古墳の手前で陣を張っていた。
お妙は古墳から飛び出した。
「なんだ!?どこに潜んでた!?」
弓持ちは、矢を探しながら呟いた。
「続けぇ!」
5、6人のフクロウ達も飛び出す。
「小癪な!」
刀持ちは、素早く箱を掴むと、お妙達に向かって箱を開けた。
紫の光が吸い込まれていく。
「「ぎゃー!」」
お妙、フクロウともに、悲鳴をあげ、バタバタ倒れた。
「なんだよ…驚かせやがって…」
弓から矢を外しながら禿頭は言う。
「もう無理だってので特攻か…」
箱をまた自分の近くの台に置きながら刀を持つ禿頭が言う。
「しかし、特攻と言えば、あの男に神の力をつけて特攻させたのも中々だな。」
お互いに顔を見ながら会話を始める。
「神の力を信じさせて、絶対に死なないし、死んだとしても極楽浄土が約束されてるって信じてるからな…まさか肉体まで変わるとは思っても……
あれ?あの女は?」
「うん!?」
二人でお妙の方を見た。
しかし、そこに倒れていない。
「取った!」
無意識に、刀の禿頭は箱がある辺りを掴んだ。
しかし、掴むのは空ばかり。
見ると、箱を置く台の奥に女が立っている。
腰をかがめ、体制を低くし、箱を持む右手を隠している。
その箱を右後ろに投げる。
そこにフクロウがいて、受け取ると、また違うフクロウに投げる。
ホイホイ、パスを続けるうちに、トンネルで控えるフクロウが持っていってしまった。
「はなから、箱狙いか…」
「箱の重要性に気付いてるのか…あのガキか…」
「………。」
「女!勝った気になるのはまだ早いぞ!」
「もう一つの箱でしょ?姉さんを吹き飛ばした箱を言いなさい!」
「…男勝りだと思ったがこんなに大きな声を出すとはな。箱の位置さえばれてなきゃこっちのもんよ…それと質問だ。なんで動ける?あの燃える男は一歩も動けなかったんだぞ!」
「そうね。私たちが特別だからかしら?」
「…ふざけるのも良い加減にしろよ。」
「お前の部下の命もないぞ!」
会話の途中ならいけると思ったのか、全員斬り込んだ。
しかし、見事な身の捌き!左に体をひねりながら、全員斬った。
「うっ…」
お妙が思わず一歩前へ出る。
「動揺してるな。」
「安心しろよ。考える間も無く、そっちの世界にあんたも送ってやるよ。」
「…それはどうも。だけど、私。まだやりたいことがあるんで。」
ビュ!
矢が飛ぶ。
「人が喋ってるのに…」
「倒せる時に倒さないと…」
「怒った…怒ったから…」
「なにするんだ?」
「あっ!あれはなんだ!」
「うん?」「なに?」
ビュ!
「あっ!」
とくになにか見つけたわけでない。
なんもないところを指さしたので、そっちを見させている間にジャンプして、古墳に向かって飛んだ。
「オオカミとの約束があるんで…」
「そんな、」
「ことを、」
「させる、」
「訳がない!」
急に、網が降ってきて、お妙を捕まえた。
お妙は勢い余って古墳に飛び込んだが、それが仇となり、余計に絡まった。
「「「「せーの!」」」」
網を四人の男?が引っ張って外に引き摺り出された。
しかも網が絡まって動けば動くほど動けなくなってしまう。
「良く合わせられたな。四天王。」
刀持ちの禿頭は話しかけた。
「なんのなんの。」あの箱のおかげです。」
「身体を直してくれただけでなく。」
「身体的能力も向上したおかげで、この女が飛び込むのが分かりました。
「また、お互い何を考えているのか、分かるので、一切遅れることもなく。」
四人で一つの文章になるちょっと変わった話し方をした。
「お二人。」
「この箱を。」
「お返しします。」
「宮崎城は見事潰せました。」
「あなたたちが…」
網の中からお妙が聞く。
「そうです。」
「お嬢さん。」
「宮崎城は。」
「我々が綺麗にしました。」
「…姉さん。」
「しかし。」
「なぜ。」
「この女性に。」
「箱が効かないんでしょう?」
「…それもこれから分かる。」
「四人とも。あの少年にやられた傷は大丈夫か?」
「ありがとうございます。」
「おかげでどこも。」
「痛くありません。」
「1秒でも早く悪ガキを殺したいです。」
「まぁ、そう慌てるな。今はまた戦力を増強させる時だ。」
「この女を。」
「どういう風に。」
「改造。」
「するのですか?」
「それはこの先にある寺で考える。」
「寺は攻略出来たか?」
「出来ましたが…」
「箱によって…」
「男は。」
「負けてしまいました…」
「まぁ仕方ない。『人間に神の力をつければあぁなる…仮に生き残っても、意思はなく、阿修羅のように、血や戦いを求める人ならざるモノになってしまう』。」
「では、」
「我々を倒した。」
「少年は」
「なぜ?」
「それも含めて、この女で実験するのだ。さぁ、寺まで運んでくれ。」
「「「「はい!」」」」
悪夢の1日目が終わった。
これが後6日間
つじつまが合わなくなって、無駄に1週間使いました…すみません。