日が明けても、お堂には雲がかかり続けていた。
中に取り残されているのは磔にされたお妙様。
「…………。(ハハソくん…もうダメかも)」
「なかなかしぶといなぁ。」
禿二人が見ている。
「そろそろ交代か。」
松がざわざわっと鳴る。
「こいつ!何度言ったら分かるんだ!」
「なんだ?」
松林から、農民のような一般の人が手足を縛った猫風の女を大八車に乗せてやってきた。
「こんな朝っぱらにどうした?」
「はい。私は、下宮地に住む者ですが、この泥棒猫が昨日に続き今日も盗みを働いたので、広見寺の坊様たちに懲らしめてもらおうと思い連れてきたのです。」
大八車を引くおとこに剣の禿げが話しかけ、弓の禿げが荷台にまわる。
「ほう。昨日見た女だ。」
「是非、この中の人と同じような目に合わせてください。」
「いや、そういうわけにもいきません。」
「だいたい…ここは……うん?…どうして、どうしてここで人が捕まっていることを知ってるんだ!?」
「案外あっさりばれたな。」
「なに!?」
剣の禿げが抜こうと手を伸ばした瞬間、ハハソは隠していた短刀を左手で逆手に持ち、腕を振り上げることで禿げの右腕を斬った。
「うぉ!」
次に車を振って、弓の禿げをタイヤに巻き込んだ。
「ゔぁ!なにをする!」
「こちらも命かかってんだから手荒にやらせてもらいますよ!」
短刀で、カジカさんの両腕の綱を斬る。(足は自分で外してもらう。)
その隙に、お妙様救出に向かう手筈だった。
「そんなことさせるか!」
剣の禿げが笛を吹いた。
甲高く、どこまでも届くような笛だ。
目覚ましでもかかった。いや、パチンコが当たった時のように参道を見ると人や僧兵、四天王がこちらに向かって走り出す。
「余計なことを!」
「こちらとて、命かけてるんだ!」
「ハハソくん!?」
「お妙様!意識がある!迎えに来ました!」
「…ハハソくん。」
「近づくな!」
地面がせり上がり、槍のようになった。
「また。」
「おま。」
「え。」
「か!」
四天王の登場である。
お堂まであと少しだったが、地面からの槍に阻まれ、近づけなかった。
「ここは、」
「我々が、」
「お相手、」
「しよう!」
「邪魔だ!どいてくれ!」
「そんな、」
「こと、」
「出来るわけ!」
「ないだろう!」
四天王が地中、陸上、空中から迫る。
「ハハソくん!」
「なに!」
大八車を飛び越え、空飛ぶ多聞天に一撃を加えた。
見事に決まり、地上に落下して、派手な音を立てた。
「ここは、私も。」
「カジカさん!大半任せてしまいますが…」
「こうなったのは、私の責任なの。早く行って!」
後ろから、銀次さんの服をかけてもらう。
「はい!」
力を溜めて、短刀を振り下ろす。
「ぎゃぁ!」
地面に潜る持国天を目を使い探し、見事に突き刺した。
「お妙様!」
空はガラ空き。
銀次さんの力で飛ぶ。
一回目を使ったとはいえ、あまり神の力を使うのはまずい。眠くなる。
「オオカミ様のところに行きましょう!」
「……ごめんね。もぅ…ダメみたい…逃げて!危ないから。」
「えっ!?なぜ?」
その時、お妙様を巻き込んだ白い光が御堂から伸びて、ハハソに光が襲いかかった。
「危ない!」
寸前のところで避けることに成功した。
しかし、残した左の翼部分がもっていかれてしまった。
なんとか体勢を立て直そうとするが、右腕だけではうまく飛べない。
「禿げ、その弓と矢を貸せ。」
大八車に轢かれている弓の禿げに近づく。
すると、左足で、大八車をひょいっとどかした。
「助かった。ところで何に使う?」
起き上がりながら禿頭は聞く。
「あのふざけた鳥を殺す。」
「…(ニヤリ)よく言った!」
ほくそ笑んで、弓と矢を渡す。
受け取るとすぐに矢をつがえて、
「もう少し早く来てよ…そうしたら、安心して吸い込むとかなかったのに…」
「マジで…それじゃ僕の…」
撃った。
自分は空中。神の力は使えない。
空が飛べず、きりもみで落ちるのみ。
「ハハソくん!」
当たる寸前。カジカさんがジャンプ!
咥えられながら、上昇し、出口に向かって撤退した。
短刀は左手が持っていた。
「ははは!これで、四天王だけでなく、神の力を持つ者が手に入った訳だ!」
「おい!お前ら。剣と箱を私に渡せ!」
「えっ!?」
「聞こえなかったのか?」
四天王と、坊主、民衆までもが周りに集まる。
「剣と弓と箱を渡せと言ったんだ!」
「それは分かります。ただ、なんで!?」
「それは、私が偉いからだ!」
「うん?」
「お前らではその剣と弓は使い物になるまい。私が持つ。それと、縛り付けられてよくわかった。その箱は強力だ。私が管理する。」
「と言われて、納得するとでも?」
「嫌なら…」
バシっ!ゴキっ!
「「「おおっ!」」」
弓の端を持ち、剣の禿の顔ギリギリを横に薙ぎ払った。
すると、首が一方向にクルクルクルっと回った。
「…こんなものなど……」
腰にささっている剣を拾い、抜きながらお妙はつぶやく。
ふと見ると、大八車の奥に弓の禿頭が立っている。
「フフフフ。いいこと思いついた。おい!弓の禿頭。どうしてそんなところにいるんだ!?」
「どうしてって…」
「もっとこっちに来いよ。」
「いや、お…「早く来い。」」
「喋ってんだろうが…」
「なに!?」
「なんだ!?お前急に、えらくなったつもりか!?我々が力を与えてやったのに、そんなに偉くなったつもりか!?いいか!?よく聞け!俺たちはお前を…」
「うるさい!」
「い」で、大八車を斬った。大八車だけでなく、奥にいた弓の禿頭まで斬撃は飛んだ。
ビシン!と衝撃があったのだろう。
喋ってる途中で喋ることをやめ、衝撃があったあたりを撫でた。
「なわだこりゃ!」
まるで松田優作殉職シーンを彷彿とさせる言葉と行動である。
胸ぐらを掴まれ、口の中に剣を入れられた。
「どうする?箱は大人しく渡す?」
グサっ!
「んーん!んんんん!んー!」
ためらいもなく上顎を貫通させ、左目を内側から突き潰した。
「ねぇ!」
「んー!んんんんんんんんんゆー!」
刺してる剣を手前に引く。
骨の内側を通っているからめちゃくちゃ痛い。
左手が忙しなく動き始める。
「そう。初めから大人しくしてればこんなことにはならなかったのよ!?」
「あー!ぁぁぁぁぁああ!」
「よ!?」と言いながら、鼻と唇を削ぎ落とした。
「あらごめん。あまりに遅いから、命令が聞こえてないのかと思っちゃった。ウフフ。」
「ふぅフぅ…」
一つ出した。
すかさず剣を人差し指と親指で支えて、中指と薬指で箱を掴む。
「あら!?もう一つは?」
「剣の…ぐわぅぁぁぁぁぁ!」
喋ってる最中に剣を腹に突き刺し、グリグリ回転させた。
「なに!?聞こえない。」
グリグリして、手前に引くとなにか長い綱のようなものが出てきた。
「剣の禿頭が持ってるから、俺は知らない!」
「朝からキンキン高い声を出さないで!不愉快。」
「ぎやぁーーーぁぁぁぁぁ…ーん…んぁー!」
その紐を口に突っ込ませた。
「少し静かに!」
ポイっと弓の禿頭を捨てると、剣の禿頭を足で蹴りながら、箱を探す。
ポロッと懐から箱が落ちる。
「あっ!あっ…」
足を大きく振り上げ、
「た!」
こちらを見ている剣の禿頭を踏みつけた。
バガングチャン!
まるでスイカを割ったように頭が粉々になった。
お妙様は箱に歩み寄り、拾い上げた。
箱を二つ手に入れた。
「さて。」
弓の禿頭に歩み寄り、また胸ぐらを掴んだ。
「で、ここにいる全員に私に従うよう言いなさい。」
グサ
「いででてぇえ!」
左足の太ももを刺した。
「痛いではなく。私に従うよう言うの!」
「ぬぐぁあぁ!」
そのまま、下に剣を下ろした。
骨と剣が触れ合う。
「はやぁくぅ」
「あああぁぁああ!」
「はやぁくう!」
「いっぐぁあー…ぎぃゃあぁ!」
左足が二本になった。
「どうする?」
「…分かった…分かったからぁぁああ…全軍、妙見大菩薩のいうことを聞けぇぇええええ!」
「はい。よく言えました。で、」
剣を持つ手で、左足を掴み、撫でるとなんと傷が消えていった。
「フフフフ…実はこんなこと出来るんだ。すごいでしょう?」
「……はぁハァはい。」
「けどね。」
グサっ!
「えっ!?…なんで?」
もう一度太ももに刺した。
「なんどでも、繰り返せる。で、みんな。私に従うの?それともこの禿頭?まぁ、従わなかったら…」
「げぐぅぁぉぁあ!」
剣を太ももから抜いて、けつの穴に突き刺した。
「絶対殺さない。で、みんなどうするの?」
「ぎぇぁああああ!みんな!妙見のいうことを聞けええええええ!」
「……妙見」
「大菩薩様」
「我々一同」
「従います。」
「フフフフ。それでいい。ではみなさん。動かず、静聴。」
けつから剣を抜き出す。
シュバシュバシュバシュバ
っと、弓の禿頭の手足を斬った。
「えっ!」
四肢から血が噴水のように噴き出す。
「ぎゃあぁ!絶対死ぬ!」
「あなたは死なない。」
ブン!
お堂の中に吹っ飛ぶ。
中にある磔に頭をぶつける。
剣の禿頭の潰れた頭を掴む。すると、みるみるうちに頭だけ復活する。
「えっ!?俺どうなった?」
喋る禿頭を無視して、磔のT字の上に乗せた。
「おい!お前。お前は殺さない。お前はこのまま仲間の叫び声を聞け!」
「なに!?」
「こういうことだよ。」
手足を斬られた上に、腹を割られ、内臓が飛び出している仲間。
「お前…」
「叫べ!」
内臓を引っ張る。
「ぐわぁあああぁぁあああ!」
「やめろ!」
「…あんたたちは私がやめて欲しかったのにやめなかったじゃない。だから、やめない。」
腹の底から叫ぶ悲鳴は、あたり一面に反響した。
あと3日…
悪夢は仏教側も同じなようだ。
いや、まだ続きがある。
「妙見」
「大菩薩様」
「一つ」
「質問があります。」
「なんだ?」
「その、」
「二人、」
「死んだら、」
「どうすればいいですか?」
「…このままだとしばらくは死なないけど、もし、死んだら、1の井戸の近くにある『音窪』に捨てなさい。」
「「「「はい。」」」」
数日後、しばらくの間、音窪からは謎のうめき声とも、叫び声とも分からぬ声が聞こえたという。
ついに耐えきれず、お妙様が妙見大菩薩になってしまいました。
これは決めてました。
次があれば、お妙さまとオオカミがどのように仲良くなったのか書いてみたいです。