ただ、オオカミが…
「ハハソ!カジカ!起きろ!」
懐かしい声にハッと起きる。
低い天井。
…銀次さんの家っぽい。
横を見る。
銀次さんがいる。
しかし、もうフクロウの服を着ていた。
「銀次さん!」
「ハハソ!…帰って来てそうそう申し訳ない。大変なことになった。」
「どうしたんですか?」
「オオカミ様が…」
「どうしたんですか!」
「…三峰神社、妙見山の宝物で武装した集団を率いて、影森を抜けて、上郷に攻め込んだ。」
「なんで?」
「お諏訪様が亡くなったこと、秩父中に仏教が広がっていたことがやはり信じられなかったらしい。それに加えて、お妙様のあの姿を見たら狂うのも分かる…」
「止めないと!」
「しかしどうやって!?」
「止めるのは、お妙様のほうです。
今の彼女は少し悪霊に取り憑かれているんです。ですから取り除けばオオカミ様が知っているお妙様に戻るんです。それをこの箱で、手助けするんです。」
そう言って、箱を見せる。
「よし!急ごう!そろそろお花畑で激突する可能性がある。」
「…カジカさんは?」
「無事だ。ヤマメと母が見てる。」
「静かに行きましょう。起きてたら、行くなと言われそうなので…」
「もう起きてるよ。」
「「えっ!?」」
襖が開く。
ヤマメさん、お母さん。そして、カジカさんがいた。
まだ、ネブッチョウとオーサキに憑かれている。
「カジカさん。僕はオオカミを止めてきます。そう言って帰ってきたじゃないですか!僕はカジカさんが止めても行きます!」
意思を持った、大きな声が出せた。
「……もう止める気はないよ。」
「はぁ……。」
「…ただ、ハハソくん。」
「はい。」
「絶対死なないで、ここに帰ってきて。約束して。」
「はい。死にません。絶対帰ってきます。」
「約束ね。」
「はい。」
カジカさんは泣きそうだった。
僕は元気に答えた。
すると少し顔が明るくなった。
「行こう。」
「はい!」
二人でそのまま縁側から飛び出して、お花畑に言う地名の場所に向かう。
「…ところで、今は僕がタイムスリップしてから、どのくらい経ったんですか?」
「あまり経ってない。君がオオカミ様の力で消えたら、オオカミ様がお妙様を引きつけながら、どこか行ってしまって、気がついたら二人で帰ってきたんだ。寝ながらな。」
「…きっと……見てきたから薄々思うんですけど、秩父…自分の守ってきた大宮郷が仏教だらけになって、愛する家族や信じる仲間もバラバラになり、お諏訪様まで亡くなられたと知ったら、どんなことするか,わからない……。なにがなんでも止めないと…。」
「そうだな。ところで、ハハソ。カジカとなんかあったか?」
「なんでですか?」
「あんだけがっちり腕を掴んでたもんだから、なにかあったと思ったんだが、本当になんもなかったのか?」
「…ないですよ。」
「ふーん…この小説で語られなかった『仲良くなった。』ときにもか?」
「…………。」
ハハソはもしかするとこの戦いで肉体が死ぬと思っていたが、銀次さんのせいで、精神が死にそうだった…