昔々、まず宮地には「関根」一族が住んでいました。
その関根には優秀な弟がいて、広げた土地の半分をその弟にあげて分家しました。
同時期に「斎藤」一族がやってきて、関根と分家がまだ開墾していない、北側を中心に開拓を始めました。
だから宮地には関根と斎藤が多いのですが、この弟は本家と分からなくなるので、「新井組」を名乗った。
新井組当主は、宮地にある7つ井戸のうち、五の井戸の周辺に家を構えた。
この家は秩父特有の養蚕農家で、現代の秩父でも残っていないとても古い家だ。
その家がまだ若々しいある夜に、カジカとハハソがやってきた。
土間に入るとカジカさんは僕を家の中に入れず、玄関の戸とともにトウセンボをした。
「徳栄さん。こんな夜遅くにすみませ〜ん。」
ちなみに、カジカさんのこの伸ばす喋り方は相手が貧富老若男女問わずこの喋り方である。
「鋼太郎んとこから聞いたよ。フクロウの精鋭は薗田についていかねばならず、田畑の銀次は指名されたと聞いたから気になってたんだ。」
なにか難しい話をしている。
カジカさんの後ろからヒョイっと覗く。
新井組現組頭 徳栄
四十代ぐらいのがっしりした男性で、目が大きく、色が日に焼けて濃く、落語家のように丁寧に着物を着こなしている。頭や組長をするために生まれてきたような風格がある。
「ところで、なんだね?銀次さんの出立を見なくていいのか?」
「兄はぁ、もう送り出しました〜。そこでぇ〜夜遅くだけどぉ〜徳栄さんにぃ〜ハハソくんを〜見てもらった方が良いって〜言われましたのでぇ〜…」
「どんな人だい?」
そこで、カジカさんが退いて、僕は中に入ることが出来た。
「そぅしてぇ〜こんな夢を見たんだってぇ〜ー」
「実は…」
夢で武甲山まで飛ばされて、不思議な岩の前で落ちた夢を細かく説明した。
話をしつつ、土間の東側(この家は、銀次さんの家に似た長方形を部屋ごとに区切った造りをしているが、土間は南の西端である。)の部屋に通され、徳栄さんはジッと僕の話を聞いていた。
「そうか。ちょっと待ってみ。」
話の最後もそこそこに、奥の部屋から、木箱を持ってきた。
中を開けると、
「祭費取立帳 新井組」
「御祭禮ノ通 宮地大行事様」
「祭禮諸品買物帳 宮地大行事総代」
などなど、秩父夜祭りの出納帳が出てきた。
それをかき分け、一番下の
「新井覚書」
をめくった。
「ここだ。『宮地に住んだもので[大蛇窪]の夢を見た者、[秩父ヶ嶽]に参詣し、神官より訓示を受けよ。その後、[妙見宮]にて、同じく訓示を受け、[大神]、[妙見]の札をもらい、家の神棚に飾れ。』とある。だから、秩父ヶ嶽、すなわち妙見山に登れば分かるだろう。」
「…では、僕の手をひいた、爆発の中から現れた人は誰でしょう?」
「…それや、フクロウについては記述がない。ただ、」
「ただぁ〜?」
「…ただ、その人物が秩父大神(ちちぶおおがみ)であるかもしれん。その神自らが現れたということは、なにか起こる前触れかもしれないな。」
「徳栄さん。僕は…」
「明日になったら、銅三に頼んで一緒に妙見山に行ってきなさい。そうすれば、なにか分かるだろう。」
左腕の時計を見る。
寝てたのは、深夜に思えるが10時ごろだったから、まだ12時近くである。
提灯一つで家に戻る。
「なんかぁ〜徳栄さんとぉ〜ややこしいことを言ったからぁ〜いろいろ教えるねぇ〜。」
「!…例えば、…薗田とか…田畑とか…フクロウとか…?」
「そうそう〜まずぅ〜田畑だけどぉ〜それ屋号だよ〜。」
「屋号?…お店の名前みたいな?」
「そうそう!お店はぁ〜やってないけどぉ〜おうちの〜名前みたいなやつぅ〜。」
「じゃあ、薗田は?」
「薗田はぁ〜妙見宮の神官かなぁ〜だけど、屋号じゃなくてぇ〜名字だよぉ〜」
「その薗田と銀次さんはなにか関係が?」
「金一兄さんがぁ〜いた頃ぉ〜銀次はぁ〜妙見宮のぉ〜手伝いに行ってたんだよぉ〜死んじゃってっからはぁ〜たまぁ〜に行ってたんだけどぉ〜今度はなんかぁ〜薗田さん直々にぃ〜旅に出ることになったんだってぇ〜」
「…じゃあ、鳥みたいな格好は?」
「お手伝いってのが〜、妙見宮の警護でぇ〜警備する人はああいう鳥みたいな格好をするんだ〜。だから、秩父の人たちはぁ〜警備する人を『フクロウ』って呼ぶんだよ〜。」
「それでフクロウと言ってたんですか。」
じゃあ、秩父神社のフクロウが僕を武甲山に連れて行くというのはどんな意味があるんだろう。と僕は考えたとき、ここを東にまっすぐ歩けば家に着く坂道の下にやってきた。
大きな椿がはえている。
そのとき、誰かが大声で、
「ニャハハハハ!」
と鳴いた。
「なんだ!?」
「あぁ〜あれは…」
「ニャハハハハ!おい、人間!」
「上か!」
椿の枝に猫や猿より大きなものが四つん這いになってこちらを見ている。
月明かりをバックにシルエットが浮かび上がる。猫耳な女性に見える。しかしら光が弱く顔は見えない。
「あれはぁ〜『オーサキ』だよ〜。ハハソくんのぉ〜肩に乗ってた〜。」
「だけど、あれは猫で…あんなに大きくはなかったような…」
「あ「ニャーは、太陽光線がなくなると人間の形になれるニャ。」んだよ〜」
カジカさんが喋るのに合わせてオーサキが喋る。
「僕たちになにか用ですか?」
「ニャハハ。あの家の人間でニャーに興味を持ったってことは、付き纏われるってことににゃる。」
「オーサキはぁ〜人にとりつく憑物の一種だよぉ〜。江戸の方だとぉ〜狐ぇ〜、佐渡の方だとぉ〜狸ぃ〜。四国の方だとぉ〜狸に加えてぇ〜犬とかが〜憑くらしいよぉ〜。」
「にゃーから、おミャーをニャーの子分にしてやるから、ニャーと勝負するにゃ。」
「勝負に負けると死んじゃうよ〜。」
「カジカさんは、勝ったんですか?」
「ニャハハハハ。カジカは、おミャーの秘密を教えてくれたから、カジカの勝ちにして、おみゃーのために働くことにしたニャー。」
「なんでみなさん、教えてくれないんですか?」
「銀次兄さんがぁ〜注意する前に触っちゃったから〜まぁ〜、秘密を言えばぁ〜殺さないって言うしぃ〜、誰かにばらすってこともないからぁ〜そっちに持ち込めばいいかって〜。…言うなればぁ〜私ももっとハハソくんのことを〜知りたいし〜。」
「………。」
異世界から来たと言うのが最大の秘密だが、それを言ってもいいのか?証明出来ないが…
「ないのかニャー?ニャア…」
肩から背中にかけて、そりあがる。
まさに、猫が怒っているように。
「死ぬかにゃ?」
「いや、僕は…僕の秘密は、…僕は、ここじゃない世界から来たんです!」
黒い霧が、僕を包み、心臓を握り潰す。
というとこは起きなかった。
「で…それの証明は出来るんかニャ?」
「…いや、時計も服も家だし…」
「ハハソくん!」
カジカさんが、〜を使わずに喋った。
「このオーサキは、嘘をつかれると、必ず殺すから…」
「ニャら、そういうことだから…
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さようなら」
「ギャー!」
これを書いたのは昨年なのでオーサキが『青天を衝け』で出るとは思ってませんでした。
また、しゃべり方は悩んだあげく、猫が擬人化したようなしゃべり方になってしまいました。(ご勘弁ください。)