《完結》新たなHOPE! -もうひとりの戦士- 作:ねここねこねこ
良ければご覧くださいませ。
(…………浮いている? 俺はたしか19号と20号に……やはり死んだのか……?)
孫悟飯は浮遊感のようなものを覚えていた。身体を一切動かすことが出来ず、目を開くことも出来ないでいた。
今まで死を経験したことがなかった悟飯は──悟空やクリリンから話を聞く限り──すぐに閻魔大王のところへ行くとばかり思っていたため、不思議な感覚にとらわれていた。
(トランクスを置いて死んでしまったのは心残りだが……アイツなら大丈夫。きっと、きっと人造人間を倒してくれる。それよりも──)
母親であるチチに別れの言葉を告げることなく死んでしまったことに、彼は深い後悔の念を持っていた。
地球を守るという
だが自身のわがままで人造人間を倒すまで家に帰らないと伝えたときの母の泣き顔は、今も脳裏に焼き付いていた。
(最期くらい……母さんに親孝行しておけばよかったな……俺が死んだと聞いたら、また悲しむんだろうな)
ピッコロが死んでしまったため、地球のドラゴンボールは無くなってしまい、もう誰も蘇ることは出来ない。
ナメック星のドラゴンボールもあるのだが、新しい惑星を
仮に実際に場所が分かったとしても、今の地球の技術レベルでは一生を費やしても到達できない距離にあるのだが。
このまま閻魔大王のところまで運ばれていくのだと流れに身を任せていると、身体がゆっくりと地面に降り立ったという感触があった。
ようやく到着したのかと思うと、身体が動くようになったのが分かった。ゆっくりと目を開いてみると──
そこには半壊したはずの西の都が、完全な姿で建っていたのであった。
◇
「え……こ……ここは……?」
起き上がった悟飯は、不思議な現象に目を瞬かせていた。
人造人間にやられて死んだはずの自分がまだ現世にいるということ、左腕は無くなったままだが人造人間と最後に戦った時にやられた傷が一切無いこと、そして
死んだ自分が幻を見ているのかと思うくらい混乱しているのだが、頬をつねってみると確かに痛みを感じていた。
(もしかして走馬灯が、俺にもしも人造人間が来なかったらという平和な世界を見せてくれているのかな……? ピッコロさん達の気も感じるし……え?)
悟飯は確かに感じていた。悟空、クリリン、ヤムチャ、天津飯、チャオズ、ベジータ。そしてピッコロの気を。
他にも亀仙人などの気ももちろん感じているが、
これは本当に走馬灯なのかもしれないと感じたとき、後ろから懐かしい声で呼ばれた。
「あれ? 悟飯! 悟飯じゃないか! こんなところでなにを……」
「ク……クリリン……さん……」
兄と慕ったその声にゆっくりと振り向く。小さな頃から何かと気にかけてくれ、ナメック星に向かう宇宙船内で一緒に修行をしたりもした。
その技の豊富さ、器用さ、実戦経験の多さにはナメック星に着いてからも助けられることは多かった。
しかし、その本人は悟飯に向けてやや警戒の表情を見せる。
「お前……本当に悟飯……なのか?
「いや、その……」
クリリンは自身の知っている悟飯の姿と違うことに違和感を覚えていた。
左腕がないことや修行や戦闘でついた全身の傷なども、目の前の男が知っている孫悟飯とは違っていたのだろう。
悟飯はなんと答えて良いのか分からないまま悩んでいると、クリリンのことを呼ぶ女性の声が聞こえてその方向を向く。
「────ッ!」
「クリリン、先に行くなんて酷いじゃないか……って悟飯かい?」
「クリリンさん、離れて!! はああぁぁぁあ!」
悟飯は驚いていた。クリリンを呼ぶその声。それはベジータや他のZ戦士たちを殺しただけでなく、この世界の住人を遊びと称して殺し回った悪魔。
それがクリリンの名前を親しげに呼ぶだけでなく、自身の事まで下の名前で呼んだのだ。
しかし悟飯からするとそのことはすぐに頭の外に出ていってしまった。なぜか分からないがいつも一緒にいるはずの
チャンスは今しかないとばかりに
「きゃっ!」
「お前が……お前達のせいでこの世界は……クリリンさんやピッコロさん達が──」
油断していた
このまま押し切れば倒せるかもしれないと思ったそのとき──
「なっ!? ク、クリリンさん……なんで……?」
「……理由を聞きたいのはこっちだ。なんで
「お、奥……さん……?」
悟飯は訳が分からなくなっていた。ここは自分の走馬灯が見せている〝理想の世界〟のはずだ。
その理想の世界に人造人間がいるだけでなく、クリリンの伴侶となっていたのだ。
しかしクリリンの目は真剣そのもの──むしろ怒りを含んでいる──であり、悟飯は
悟飯の戦う意志が無くなったと分かったクリリンは、すぐに倒れた
「
「…………ああ」
クリリンはハンカチを手渡したあとに、服の埃を払っていた。
その姿はもはや仲睦まじい夫婦そのものであった。
(な……なん……で……?)
悟飯は目の前の光景が信じられず、ショックのあまりふらふらと歩いていってしまう。
「お、おい! 悟飯!?」
悟飯がどこかに歩いていく姿を呼び止めるが、今の彼は妻のことも心配なのであった。
「クリリン、行ってやりな」
「
「今の悟飯は様子がおかしい。見た目だけじゃなく、中身もだ。まるで……何かに追い詰められているような……」
「で、でも──」
「いいから行くんだよ! ……あたしの言うことが聞けないっていうのかい?」
彼女は優しく微笑む。そんな彼女の姿にクリリンは「……ありがとう!」という言葉だけ残して悟飯の後を追っていくのだった。
(まったく……男どもはいつになっても世話が焼けるね……)
◇
悟飯とクリリンはカフェにいた。クリリンが今にもどこかに飛び込みそうな雰囲気──実際に車に飛び込む寸前だった──の悟飯を呼び止めて、無理やり近くのカフェへと連れ込んでいたのだった。
「それで、なんであんなことをしたのかを聞きたいんだが……その前に、
「…………」
クリリンはまず目の前に座っている悟飯であろう人物の正体から問いただした。
悟飯は俯いて黙っているだけだったので、話してくれるまで辛抱強く待つことにした。
それは警官を職業としているクリリンにとって、そこまで苦ではなかった。少しの間の沈黙の後、悟飯が口を開く。
「……俺にも分からないんです。さっきいた人造人間
「ちょっと待て。さっきいた?
悟飯とクリリンには話の
(……何かがおかしい。あれ? そういえばこんなことが
クリリンは違和感の正体を突き止めようと過去の記憶を探る。
それは十数年前のことであった。当時は敵だった人造人間18号のことを同じように
地球に攻め込んできたフリーザとコルド大王を
「お前、もしかして未来から来たトランクスが言っていた悟飯……なのか?」
「え……?」
悟飯はクリリンが何を言っているのか分からず、疑問を返す。
クリリンは一度深呼吸をして考えをまとめると、悟飯に当時のときのことを話した。
「エイジ764の夏。フリーザが地球にやってきたときのことを覚えているか?」
「え、ええ。あのときはお父さんが
「……本当ならそういう歴史だったんだな。だが
クリリンは
フリーザ、コルド大王軍が地球に襲来した日。これで地球の命運が尽きたと思われたその時、超サイヤ人となった紫がかった青髪の青少年がフリーザ・コルド大王軍を撃退。
そして大将であるフリーザ達もあっさりと倒してしまったこと。
「ま、まさか……!?」
「ああ。それこそがお前の歴史にいた
悟飯は動揺する。なぜならそれはトランクスが過去を変えようとした事実に他ならないから。
そしてそれとは別に、もしかしてという期待も込み上げてきていた。
「それでな、トランクスの言ったとおり悟空が心臓病になったんだけど、お前達の世界ではもう特効薬が出来ていたんだろ?」
「ええ。俺も
「……そうだよな。でもこっちの世界の悟空はそれで助かったんだ」
「──ッ! で、ではお父さんは!?」
「ああ、今でもちゃんと生きてるよ」
クリリンは「そのあとも結局一回死んでたけどな」と笑いながら話していた。
悟飯はその瞬間、思わず飛び上がりそうであった。あの孫悟空が生きている世界があった。それを生き残ったトランクスが作ってくれたということ。
自身の死は決して無駄ではなかったのだと確信出来た喜びは、誰にも伝わらないであろう。
クリリンはその後に起きたセルが倒されるまでの出来事を余さずに話した。
この世界の17号、18号が悟飯の世界の19号、20号であるということや、性格なども若干違うこと、そして今は18号はクリリンの妻となっており、一児の母であるということから話す。
悟飯は動揺を隠せなかったが、トランクスの件を聞いた以上受け入れることに決めていた。
そしてセルが悟飯の世界からタイムマシンに乗ってやってきて、18号達を吸収し完全体になったこと。
それを悟空が身を挺して地球を守り、悟飯がセルにとどめを刺したことなど。
「お、俺が18号さん達を吸収したセルを倒した……のですか……?」
「おおよ! あの時の
鼻の下を指で擦りながら、この世界の孫悟飯の凄さを語るクリリン。
悟飯としては自身がやったことなのだが、まったく実感が湧かずに戸惑っていた。
今でも全く敵わなかった人造人間を吸収したセルという存在を、あの当時の自分が倒すことが本当に出来るのか。答えは否である。
(これが……お父さんを失った俺と、お父さんが生き残った世界の俺の決定的な差か……)
自身の成長に限界を感じていた悟飯。今以上の伸びはもはや無いと思っていたのだが、自分を導いてくれる師がいるだけでここまで変わるのだと理解する。
この世界の孫悟飯が羨ましいと感じる反面、それを羨んではいけないとも思っていた。
「あ、そうそう! セルを倒した後にトランクスがすぐにまた来てくれてさ──」
クリリンは悟飯の心中など分からないまま、セル戦後の話もしていた。
元の世界に戻ったトランクスは、その世界の
(そうか、やってくれたか。お前ならやってくれると信じていたよ)
二度と会えないと分かっている悟飯は、成長した自身の弟とも呼べる存在と会いたかったと思っていた。
だが話を聞く限り、あの世界では恐らく自分は死んでいる身。そしてやり直すという意思を強く持っていないこの世界では、タイムマシンなどきっと無いであろうとも感じていた。
「なぁ悟飯。お前はこのあとどうするんだ?」
「このあと……ですか……?」
話も一区切りしたところでクリリンは悟飯にこの後どうするのかを問う。
それは全く考えていなかったことであった。
「なんでお前がこっちの世界にいるのか分からないから、下手に知ってるやつに会うと混乱させちまうし……ああ、そうだ! 神様の神殿に行ってみるのはどうだ?」
「神様の……神殿?」
神の神殿。一度も行ったことはないが、生前の悟空やピッコロから話だけは聞いたことがあった。
ピッコロの分身である神様が住んでいる場所。カリン塔のはるか上空に位置する場所にそれがある。
「アイツならもしかしたら何か分かるかもしれないしな! ……くひひ、お前きっと驚くぞ?」
クリリンが神様に対して
そう思った悟飯は神の神殿へと赴くことを決める。
「そうですね。それじゃあ神様の神殿に行ってみようと思います」
「ああ! 俺は18号さんのところに戻るよ」
「あ……そ、その……」
「18号さんのことはもう気にすんな。俺からちゃんと説明しとく」
「あ、ありがとうございます!」
クリリンの男気に久々に触れた悟飯はお礼を言って店を出る。
お金を持っていない悟飯のために、カフェの代金も出してくれたのはやはりクリリンの優しさでもあった。
「また会えるかは分からないけど……元気でな」
「……はい!」
悟飯とクリリンはお互いに手を握り、別れるのであった。
悟飯って自分だけの修行ではあまり強くなれないタイプの気がするんですよね。
だから誰か師匠がいればどんどん伸びることが出来るタイプなのかなと。
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次話もなるべく早めに投稿します。