円卓の獅子がゆくトレセン生活   作:uahfuw

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少しシリアスかも


第12話

『祝!模擬レース決定!スペシャルウィークVSタイキシャトル』

 

「トレーナーさん、これは?」

 

トレーニングを終えた俺達が部室に戻ってくると、トレーナーが待っていた。ホワイトボードと共に。

 

「喜べ!模擬レースをセッティングしてやったぞ!」

 

タイキ先輩、確か短距離とマイルが得意だったはず。あとめちゃくちゃ強いぐらいしか知らん。

 

「相手にとって不足無しじゃん!スぺちゃん、頑張れ!」

 

そもそもよく組んでくれたよな。リギルのトレーナーもスペ先輩の事をそれなりに認めているのかもしれない。

 

...俺もレースしてぇなぁ。

 

「...反対です。」

 

スペ先輩が意気込んでいるとスズカ先輩から声が上がる。

 

「スズカさん...どうして...」

 

「...心配なの...無茶したら怪我しちゃう事だってあるし、それにもし...」

 

...走るのが嫌になってしまわないだな...この間の負けもある。

 

でも、俺はスペ先輩を信じたい。必ず勝てる。

 

「今のお前じゃ勝てないかもな。強くなるためには、自分より強い奴にぶつかるのが一番の近道だ。」

 

...負けても経験が得られればそれでいいってか...俺はゴメンだな。

 

勝てなきゃ何の意味もねぇ。敗者はただ奪われる。だから俺は勝つんだ...もう敗者に甘んじていた頃の俺じゃないんだ...

 

 

 

 

 

模擬レース当日。短距離最強が出るということで、学園中のウマ娘が見に来ている。

 

俺はというとマックイーン、ゴールドシップと共に『スピカ特製焼きそば』を販売していた。もうツッコまないぞ。

 

「なぜ私がこのような事を...」

 

「...や、焼きそばいかがっすか~?」

 

でも何だかんだ楽しいんだよな。焼きそば作んのも得意だし。でも売り切らないとひどい目に遭いそう。

 

後ゴールドシップが料理も出来るなんて...アイツに出来ないことの方が少なさそうだ。

 

「すまない、10個貰えるだろうか。」

 

「あ、オグリ先輩。まいどありー。」

 

お腹を鳴らしながら現れたオグリ先輩。学園に来るまで食費大変だっただろうな。

 

オグリ先輩の横に張り付いていればすぐに完売出来そうだけど、俺としては色んな人に食べてもらいたい。卑怯な考えは捨てよう。

 

「...スピカ特製焼きそば~美味しいっすよ~」

 

...なかなか売れんなぁ...俺がダメなんかなぁ...

 

「レオ、何をしているのですか?」

 

「ん?おぉ、ブルボン。見ての通り、焼きそば売ってんだ。」

 

悩んでいる俺の前にブルボンと...この小さい人は...

 

「ライス、この方はラウンドレオン。私の幼馴染です。」

 

「...ラウンドレオンです。」

 

「ラ、ライスシャワーです...」

 

...何だろう...今一瞬、俺がこの人の兄なんじゃないかと錯覚してしまったんだが...

 

「...ブルボン、この人俺より年上か?」コソコソ

 

「そうなりますね。」

 

ライス先輩か。一見大人しそうだが、こういう人に限ってレース時のギャップが凄いもんだ。

 

...なんかお前が言うなって聞こえた気がした。疲れてんのかな俺。

 

「...まぁそれはそれとして、焼きそば食べないか?」

 

「そうですね...ライスはどうしますか?」

 

「うん...ライスも食べたい...かな。」

 

「では2つ。」

 

「まいどありー。」

 

 

 

 

半分くらい売った所で周りの声が大きくなった。どうやらレースが始まったみたいだ。

 

スペ先輩はタイキ先輩の後ろにベッタリくっついている...なるほど、スリップストリームってやつか。

 

前の奴を風の抵抗から自身を守る盾とするテクニック。マリカーをやってなかったら俺も分からなかった。

 

しかし坂に入ると差をつけられてしまう。ここが正念場だ。

 

二人の走り方を見比べてみる...タイキ先輩はなんかちょこちょこしてんな。

 

「ハァイ、ちょっといいかしら。」

 

「...いらっしゃい、いくつ...で...す...」

 

客が来てしまったので対応をすると、凄い人が来た事に気付く。

 

「マルゼンスキー...さん...」

 

「君がラウンドレオンくんね?あ、焼きそば一つ。」

 

まさかの大物の登場に俺の心臓がバクバクするのを感じる。

 

「は、はい!まいどありー...」

 

「ありがとう!...へぇ。」

 

...なんかすげー見られてる...品定めって感じがするなぁ...

 

「...なんです...?」

 

「ねぇ君、あたしとレースしてみない?」

 

「...え?...今、なんて...?」

 

流石に聞き間違いだろう。俺とこの人でレースなんて...

 

「だから、お姉さんとレースしない?」

 

...えぇぇぇぇぇ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「えぇぇぇぇぇ!!!!!!!」」」」」」」

 

うっさ!つか他の皆は分かるけど、トレーナーまで驚いてんじゃねぇよ。

 

「...お前はどうしたいんだ?」

 

「俺は...」

 

マックイーンが心配そうな顔をしている。俺を倒す役が奪われるとでも思っているのだろう。

 

俺も正直足が竦む...でも、逃げる訳にはいかない。

 

「...俺はやる。ここで勝てば箔が付くってもんだ。」

 

ここで躓いてる時間はない。絶対に勝って見せる。

 

「...分かった。行って来い!」

 

シューズを取りに行かないと...その前に。

 

「誰か焼きそば変わってくれ。」

 

「「「...じゃんけんポン!」」」

 

「っしゃー!」

 

「お願いね!スカーレット!」

 

「なんでアタシがーッ!!!」

 

 

 

 

 

コースは芝の2000m。さっき見てた人達がそのままこの競技場に移動してきた。

 

「準備は出来てる?」

 

「...あぁ、バッチリさ。」

 

スーパーカーだろうが何だろうが知ったことか。目の前の敵を喰らう事だけを考えろ。

 

「用意...始め!」

 

マルゼンスキーの作戦は逃げ。ハイペースでレースを進めていく。

 

脚を溜めねばならないが、離され過ぎないようにしないといかん。

 

他に走る奴がいないので相手のペースが崩れることも無い。

 

レース中盤、俺は少しずつペースを上げる。前にゴルシに借りた『不沈艦の心得』という意味の分からない本を読んだらこの走り方を思いついた。

 

離された距離を詰めていく。だが...

 

「...!っ!」

 

迫る俺に気づいたのかマルゼンスキーは更に加速した。まだ上があったのか!?

 

再び離され第三コーナーに差し掛かる...追いつけないのか...?

 

...嫌だ...負けたくないッ...俺は...

 

 

 

『...っ...!」

 

『...ごめん...僕のせいで...』

 

 

 

...これ以上...弱い自分に失望させないでくれッ!

 

自分への怒りに身を任せスパートを掛ける。体力なんてどうでもいい、今はただ脚を動かせ!

 

すると、周りの応援の声が一切聞こえなくなった。思考が冴えていくのを感じる。疲れも感じない。

 

レオの怒りは限界を超え、逆に極限の集中状態へ移行していた。

 

更なる加速を試みるレオ。無意識に自分が出来る最適解のフォームで走る。

 

...もっとだ...もっと速く...

 

「逃がすかァァァッ!!!」

 

「...!?」

 

始めようぜ...極限の闘いをッ!

 

最終コーナーを抜け、最後の直線に入った。もうすぐレースが終わってしまう。

 

このままずっと走っていたい。こいつを追い抜いたその先を。

 

獲物に牙が届く。このままぶち抜くッ!

 

誰もが、この闘い(デッドヒート)が最後まで続く事を予想し願っていた。

 

だが、終わりは突然訪れる。余りにも呆気なく。

 

「...あれ...なんで...」

 

夢のような感覚から、急に現実に引き戻される。

 

あぁ...待って...思わず伸ばした手は空を切った。

 

「ゴール!勝者、マルゼンスキー!」

 

「...ふぅ...」

 

「...あぁ...そんな...」

 

負けた...負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた

 

目の前が真っ黒になる。周りが騒がしい。意識が途切れる前に無意識にある言葉を口にした。

 

「...ごめん。」

 

 

 

 

 

 

「レオ...」

 

レオとマルゼンスキーさんが走ると聞いてから、急いで焼きそばを売り切る。

 

相手がどんな人であれ、レオが約束を破ったことは一度も無い。

 

だから...勝ちますわよね...?レオ...

 

 

 

 

 

レース終盤、レオの様子が一変する。あれはまるで...

 

「まるで獣だな...あの時と同じだ。」

 

隣でトレーナーさんが呟く。

 

「...あの時とは、最初の模擬レースの事ですか?」

 

「あぁ。」

 

珍しく深刻な顔をしている。

 

「あれは、極限の集中状態...俗に言うゾーンって奴だ。まさかまた入るとはな。」

 

「ゾーン...」

 

スポーツ選手に稀に起こりうる現象、というくらいしかマックイーンは分からなかった。

 

「人は本来、100%の力を発揮することは出来ない。どんなに鍛えようがな。だが、ゾーンはそれを可能にする。」

 

「じゃあ、めっちゃ良い事じゃねーか。」

 

ウオッカが口を挟む。自分も同意だ。

 

「ゾーンは普段以上に身体に負担が掛かる。大人なら大丈夫だが、まだ身体が出来上がっていないレオは...」

 

その瞬間、自分が想像した最悪の未来に背筋が凍る。

 

「トレーナー...レオの身体、壊れちゃうの...?」

 

テイオーが心配そうにトレーナーに問う。

 

「...分からん。」

 

そこからは祈る様にレースを見守る。どうか無事にレースが終わりますように。

 

残り200m、二人が並びかける。抜いてッ!

 

だがマックイーンの願いは届かず、レオの速度はみるみるうちに落ちていった。

 

「転ばなかったのが幸いだな...」

 

気が沈むマックイーンに更なる追い打ちが掛かる。レオが糸が切れたかのように倒れこんでしまった。

 

「俺が行ってくる!お前達はここで待ってろ!」

 

頭が真っ白になる。しかし、無意識にマックイーンはレオの元へ駆け出していた。

 

「レオ...レオッ!」

 

「おいっマックイーン!?」

 

ウオッカの引き止める声など耳に入らなかった。脚力をフルに使い、レオの元へ辿り着く。

 

「...ごめん。」

 

その言葉を耳にし、マックイーンはその場に崩れ落ちてしまった。

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