円卓の獅子がゆくトレセン生活   作:uahfuw

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主人公の容姿が少しだけ明らかに


第15話

時はラウンドレオンとマルゼンスキーの模擬レースが終わった後に遡る。夕暮れの生徒会室に二人のウマ娘の姿があった。

 

一人は模擬レースで見事勝利を収めたマルゼンスキー。そしてもう一人はトレセン学園生徒会長、『皇帝』シンボリルドルフだった。

 

「マルゼンスキー、なぜ急に模擬レースがしたいだなんて言い出した。よければ理由を聞かせてくれないか?」

 

「うぅーん...ちょっと気になったのよね。」

 

あまり中身のない返答をすると彼女はティーカップに口を付ける。

 

「彼の走る理由が一緒に走れば分かるんじゃないかと思って。実際感じたのは、勝たなきゃいけないっていう強迫観念に近いものだったけれど。」

 

「彼の存在は非常に希少だからな、世間からの期待も大きい。彼の活躍次第で、その後に生まれてくるかもしれない者達の評価が決まってくるだろう。」

 

「...まだ若いあの子が背負うには重すぎるわね。ルドルフは、彼の事どう思った?」

 

「...そうだな。」

 

作業の手を止めた彼女は、夕暮れの空を見上げながら口を開く。

 

「彼には才能がある。それもトウカイテイオーやメジロマックイーンに匹敵する程の。しかし、彼が自分を偽り続ける限り彼女らには勝てないし、いずれ潰れてしまうだろう。」

 

「そうね、あたしもあそこまで詰め寄られるとは思ってなかったもの...あたしの走りを通じて、彼にレースを楽しむ気持ちを伝えたかったのだけれど。」

 

「...既に道は示した。私達はただ見守るだけだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見た。小学生の頃の記憶。入学したての私は男のウマ娘がいると聞いて、好奇心で会いに行ったのが始まりだった。

 

ウマ娘という生物は皆、整った顔で生まれてくる。それは彼にも当てはまっていた。

 

美しい顔立ちに漆黒の髪の奥で輝く黄金の瞳。その姿を見た瞬間、心臓の鼓動が胸の奥で強く鳴り響くのを感じた。今思えば、一目惚れだったのだろう。

 

ただ美しい容姿に惹かれた訳では無い。その頃、私には大好きな絵本があった。

 

『太陽と月』。太陽の国のお姫様と月の国の王子様が恋に落ちる物語だ。しかし、二人が会えるのは日食が起こる日だけ。物語の最後に、愛の告白とまた会う約束を交わして二人はお別れをするのだ。私がこの終わり方に何度涙で枕を濡らしたことか。

 

話を戻そう。彼の姿と雰囲気がその月の王子様にそっくりだったのだ。最初は彼の前に立つと照れてしまい、中々話すのに苦労したのを憶えている。

 

彼は箱入りだった私に色々な事を教えてくれた。公園での遊び方や下校中のグリコ、駄菓子屋に連れて行ってくれた事もあった。毎日が本当に楽しかった。彼が裏でいじめられている事にも気付かず。

 

私が彼がいじめを受けていることに気付いたのは、2年生の頃だった。彼は何も言わなかったが、その時あった手首の傷を見てしまったのだ。

 

当然私は怒り、いじめていた人達に文句を言いに行った。私の家柄を知っていたのか、案外あっさり言うことを聞いてくれた。

 

それから数日後、私は放課後に彼を連れて空き教室へと向かっていた。その日は彼の誕生日で、私はこっそり用意していたプレゼントを渡したかったのだ。彼の誕生日はバレンタインデーも兼ねているのだが、チョコレートは別で渡してある。

 

プレゼントは私が育てたビオラという花。家で育てようとすると、メイド達が世話をしてしまうので学校で育てていた。私一人の力でやりたかった。

 

意気揚々と教室のドアを開き、窓際へ向かう。私の気持ちは呆気なく砕け散った。鉢から無造作に引き抜かれた花が床に捨てられていた。

 

たまらず私は泣き出してしまう。彼もこの事態の全てを悟り、その表情も曇っていた。

 

「...ごめん...ぼくのせいで...」

 

違う、貴方は何も悪くない。私が余りにも人の闇について無知だっただけ。

 

彼がいじめていた人達を殴ったのは、それからすぐの事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「...ここは...」

 

長い夢が終わり目が覚める。確か私は海で溺れた筈だ。服もジャージに着替えさせられている。

 

時計を見ると、朝の4時を指し示していた。少々眠り過ぎたようだ。

 

ベッドの横の机に書置きが置いてある。『レオに礼を言っとけよ。』...彼が私を助けてくれたのだろうか。それを考えて私は少し嬉しくなってしまう。先程まで見ていた夢の影響だろう。

 

部屋に戻って眠り直そうにも、目が冴えてしまって仕方がない。私は医務室を出て、海を散歩することにした。

 

宿舎の敷地内であるこの海に、今は私しかいない。この潮風や波音も今は私だけのものだ。

 

靴を脱ぎ、波打ち際に立つ。彼方に見える水平線からまだ太陽は顔を出さない。恥ずかしがり屋なお姫様。

 

一人黄昏ていると、波音に交じって誰かの足音が聞こえてきた。こんな早い時間に一体誰が...といっても私の身の回りには一人しか思い浮かばなかった。

 

案の定砂浜を駆ける彼は、私の姿を見つけると難しい表情をして言う。

 

「...こんな時間に何をしている。」

 

「それはこっちの台詞ですわ。話したい事がありますの、付き合ってくれますか?」

 

「断る...おい。」

 

彼の返答など聞かずに波打ち際へと引っ張って行く。今度こそちゃんと話し合うのだ。

 

 

 

 

 

 

マックイーンを医務室に運んでからというものの、いまいちトレーニングに集中出来ない。トレーニング後のランニングを終えて、シャワーを浴びたり飯を食ったりストレッチをしたりした後、布団に入る。

 

だが眠りは浅く、明朝の3時にふと目が覚める。こうなったらやることは一つ、ランニングだ。考え事をしながら砂浜を駆ける。

 

マックイーンを助けた後、ビート板を使わずに泳げるようになっていた。ゴールドシップが不満げな顔をしていたが知ったことではない。

 

あの時、俺はトレーニングよりマックイーンを助けることを選んだ。俺の目的は強くなること。では何故強くなる。レースに勝ち、両親への恩返しをする。そしてアイツに並び立つため。では何故並び立ちたい。それは...

 

自問自答するが中々答えが出ない。並び立つ事が出来ない姿を想像する。俺が足踏みをしている間にも彼女は先へ進んで行き、手を伸ばすも届かなくなってしまった。

 

...あぁ...そうか...俺は怖いんだ。彼女に手が届かなくなるのが、彼女が俺から離れていくのが。

 

だからあの時も必死になって助けたんだ。二度と会えなくなるのが怖かったから。

 

もしあの時助けられなかったら、今の関係のまま別れる事になっていた。そんなのは絶対に嫌だ。ナイスネイチャの言葉の意味がようやく分かった気がする。

 

ふと人の気配を感じる。波打ち際を見ると、渦中の人が立っていた。

 

 

 

 

 

 

「...貴方が私を助けてくれてくれたのですよね、ありがとうございました。」

 

「...別に。」

 

この態度も今は愛おしく感じてしまう。

 

「...前に貴方と口論になったでしょう?その時の事を謝りたいのです。」

 

「...お前が謝る必要がどこにある。」

 

「それでも、貴方に手を出してしまったのは事実です。」

 

二人の間に沈黙が流れる。何とか切り出さなくては。

 

「最近、必死になってトレーニングに励んでいますね...私、怖いんです。貴方がこのまま潰れてしまうんじゃないかって。そうなったら、私は...」

 

「...俺も怖い。」

 

「え?」

 

「...お前に...お前の背に追いつけなくなるのが怖い。お前が俺を置いて、何処かへ行ってしまうのが。」

 

ここ最近のレオについての謎が解けた気がした。でも、それなら私も同じ事。

 

「私だって、貴方とは対等でいたい。それでも今の貴方のトレーニングは度が過ぎているとしか言えませんわ。」

 

「...ならば...俺はどうすればいい...分かってるんだ...お前の才能に比べれば、俺なんてちっぽけなもんなんだって。だから俺は、その差を埋めるために努力し続けるしかない。」

 

「...そんな事はありません。私は貴方に憧れているのです。周りを圧倒する走りに、そして鳥籠の中の狭い世界しか知らなかった私を連れ出してくれた、絵本の王子様みたいな貴方に。」

 

かなり恥ずかしいことを言っているが、今の私には全く気にならなかった。

 

「...そんなの、ただの慰めだ。」

 

「慰めなんかではありません。それともこの私から評価を受けているというのに、不服とでも言いたいのですか?」

 

「...それでも、俺は勝たなきゃいけない。親父とお袋に楽させてやりたい。」

 

「勝たなきゃいけない、というのは間違いですわ。一人で背負い込まないでください。ご両親もきっと、貴方にはもっと走ることを楽しんで欲しいと言う筈です。」

 

「走ることを...楽しむ...」

 

「えぇ。以前、貴方がスペシャルウィークさんに言った事ではありませんか。」

 

「...盗み聞きは感心しないな。」

 

「何とでも仰って下さい。」

 

話していて、大分彼の表情が柔らかくなっているのを感じる。

 

「だから、トレーニングだって何も一人で頑張る必要はありません。これからは、私がご一緒してもよろしいですか?」

 

「...トレーナーに聞けよ。」

 

「えぇ、二人で一緒に強くなっていけば良いのです。」

 

「それじゃあ差が縮まらないじゃないか。」

 

「たとえどちらが上であろうと、私は貴方の傍にいます。ずっと...貴方もそうであって欲しい。」

 

「...あの時の様に、お前を守れないかもしれない。」

 

「貴方は何も悪くありません。それでも負い目に感じると言うのなら...」

 

彼の肩に頭を預ける。水平線の彼方から太陽が昇ってきた。

 

「これから一生を懸けて、私を守って下さい。私も一生を懸けて、貴方を支えますから。」

 

太陽に向けて左手をかざす。そうすると薬指に朝日色の指輪がはめられる。

 

「...あぁ...お前がそう言うのなら...くそっ汗が目に...」

 

ようやく伝えられたこの想い。これからはずっと一緒。私の、私だけの王子様。

 

 

 

波打ち際に並んで座り、互いに頭を預け合う二人。波音の中で日の登る音を聞いていた。




大胆な告白は女の子の特権。

ビオラの花言葉は「少女の恋」

絵本のタイトルはいぬぼくのEDから取りました。大好きなんじゃあれ。

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