模擬レースまで後5日。今日からは筋トレグッズを使っていくぞ。
提供元は、筋トレマニアのメジロライアン。一応知り合いだ。
借りる時、偶々ドーベルのやつもいたんだが相変わらず嫌われている。
男が苦手なのはまぁしょうがないよな。目が合った瞬間どっか行っちゃったよ。
まぁそれはそれとして、早速ランニングに行こう。
もちろんマックイーンとは別行動。バレたくないしな。
めっちゃ不服そうだったから、後で機嫌取らねぇと...
2000mほど走りました。
めっっっっちゃきついです。ジャケット重すぎんよー。
でもへこたれてる場合じゃねぇ...俺は勝つんだ。
...少し休憩させてクレメンス...
公園のベンチにどっかり腰を下ろす。
今が20キロ...早く慣れて40キロに移行したいな...
だが根を詰めすぎるのもよくねぇし...
いざ本番って時に筋肉痛で走れねぇってことにはなりたくない。
物思いにふけっていると、突然視界が塞がれる。
「!?しまった!?」
誰かの手を乱暴に振りほどき、距離を取る。すっかり油断していた。
「...ブルボンかよ。心臓に悪いからやめてくれ。」
「...呼びかけても反応がなかったので、『だーれだ!』を実行しました。」
「...そうか。悪ぃ。」
ブルボンはさっきまで俺が座っていたベンチに座り、隣をポンポン叩く。...座れと。
呆れたようにため息を吐いた俺はベンチに座る。一人分のスペースを開けて。
「...むっ。」
だがこいつは容赦なくそのスペースを潰してきた。パーソナルスペース大事にしませんか?
「...離れろ。近い。」
「拒否。これが私達の適切な距離感だと判断します。」
「そうじゃねぇ。...俺が汗臭いから離れろって言ってんだ。」
「私は気にしません。むしろ嗅がせてください。」
「ヒェッ...」
ダメだこいつは。誰か何とかしてくれ。
恐怖で立ち上がろうとするが、ゴリラパワーで押さえつけられている。
「飲み物!飲み物買いに行くだけだから!お前も来いって!」
「分かりました。」
「ほれ。好きなの買えよ。」
俺はブルボンに200円を渡す。
「...では有難くいただきます。」
ブルボンは自販機にお金を入れるとこちらを向く。...?早く買えよ。
「すみません。ボタンを押していただけますか?」
「は?自分で押せよ。」
「私が機械に触ると何故か壊れてしまうので。」
「こないだビデオカメラ持ってたじゃねえか。」
「操作はしていないので。」
「試しに押してみろって。」
ブルボンは渋々ボタンに押す。
押した瞬間、自販機がショートした。
...は?いやいやそうはならんやろ。一体どういう原理!?
「...ね?」
「ね?じゃねぇよ!なんかプスプスいってるぞ!?」
「そう言われましても...」
えーっとこういう時は...あった!
「...もしもし。」
自販機には管理先の電話番号が書いてある。故障したらそこに連絡しようねっ!
幸い、もう一つ自販機があったのでそっちで買うことに。
「何がいいんだ?」
「あなたと同じ物を。」
「適当だな。」
スポドリを2本買い、片方を手渡す。
「...ふぅ。生き返るわ。」
「そうですね。」
開栓一口目って、結構がぶがぶ飲んじゃうよな。...それにしても汗が気持ち悪いや。
「...少し頭濡らしてくる。持っててくれ。」
「はい。」
ブルボンにスポドリを預けて、俺は水道に向かった。
「...」
「悪ぃ、サンキュな。」
「いえ。では私はこれで。」
「おう。...気を付けて帰れよ。」
「はい。...ふふ。」
...?なんか嬉しそうだなあいつ。スポドリの味が気にいったのか?
帰っていくブルボンを尻目にスポドリを飲む。
...あれ?もうちょい中身減ってた気がするけど...気のせいか。
それより、ランニングの続きだ。
「...『間接キス』を実行。...気分の高揚を検知。」
ここからは駆け足でいくぞ。ひたすらトレーニングするだけだからな。
ダイジェスト、スタート!
「ハッ...ハッ...!」タッタッタ...
「...」ギュッ...ギュッ...
「...レオ?」(なんで空気椅子でハンドグリップやりながら授業受けてるの...?)
「ウオオオオアアアア!!!!!」ズズズズ...
「...なぁ、お前の事岩本くんって呼んでいいか?」
「...」
「HAHAHA!無視することないじゃないか!」
「...フンッ...フンッ...」シュバッ!シュバッ!
模擬レースの日の朝...俺は岩本くんの元を訪れていた。
「...岩本くん。今まで世話になったな。見えるか?俺、お前をこんなに動かしたんだ!」
「...」
「あぁ、言われるまでもねぇ。今日のレースは俺が勝つ!」
「...」
「...だが、俺はまだ...完璧にお前を超えたわけじゃねぇ。」
「...」
「あぁ...最後の勝負だ。いくぞッ!!!」
俺は目を閉じて深く腰を落とし、正拳突きの構えに入る。
「...スゥゥゥ...シッッッ!!!」
目を見開き、至高の一突きを繰り出す。
拳が岩本くんのボディを捉える。
瞬間、俺の脳裏を岩本くんとの青春がよぎる。
『岩本くん!お疲れ!喉乾いただろ、ほら水!」ビシャアッ!
『...』
『ハハッ!今日も頑張ろうな!』
『ん?お前、随分汚れてるな。俺が綺麗に洗ってやるよ!』
『...』
『なぁに、困ったときはお互い様だろ?気にすんなって!』
岩本くん...お前は...最後まで無口なやつだったな...
ズガァァァン!!!
「...押忍。」
俺は、岩本くんだったものに背を向けて歩き出す。
「...お前との数日間、悪くなかったぜ。...見守っててくれ。」
俺は走るぞ。岩本くんの思いを乗せて。
「レオ...こんな時に何処へ...」
もうすぐ模擬レースが始まるというのに、レオの姿が見当たらない。
朝から何処かに出掛けたみたいですが...まさか事故に!?
一人焦っていると、向こうからレオが歩いてくるのが見えた。
「!...レオ!何処に行ってらしたの!もうすぐレー...ス..が..」
「...」
声が出ないとはこのことを言うのだろうか。
今日のレオはいつもと違う...なんなんですの?あの気迫は...
私のことなど眼中に無いかのように、傍を通り過ぎていく。
心なしか彼の背後に獅子の姿が見えた。
競技場のスタンドに着くと俺は上着を脱ぎ、折りたたんで近くにいたテイオーに預ける。自分でも驚くほど冷静だ。
準備を整えた俺は芝へと飛び降りる。
...あぁ。でもやっぱり抗えねぇよ...
この、レース前の高揚感にはッ!
早く走りたくてたまらない...
俺はこれから始まるレースにウキウキしながらゲートの前でスタートを待つ。
レースを見ていたトレーナー達は後にこう語る。
『まるで、狩りのようだった。』と。
ゲートに入ったウマ娘達は、その少年を見た瞬間恐怖で震えだす。
ゲートが開くと、彼から逃げるように全員が駆け出した。
それは余りにもハイペースなレースとなる。
最終コーナー手前、ペースを乱し体力が尽きた彼女達の後ろに獅子が迫る。
「ッハハハッ!どけぇッ!」
失速していく彼女達を追い抜き、ドンドン加速していく。
そして大差でレースを勝利した獅子は、勝利の雄叫びを上げた。
「岩本くんッ!!!見てるかァッ!!!」
「「「「...岩本くんって誰...?」」」」
岩本くん:レオの友達で壁のように巨大な男の子。無口。レオとの6日間の修業の末、彼に思いを託し散った。