...う~ん、悩むなぁ。
「やっほーレオ!何見てるの~?」
「...テイオー。チームのパンフレットだ。」
模擬レースが終わってから数日後、俺はチーム選びに苦悩していた。
「レオもスカウトいっぱい来てたよね!ボクの方が多かったけど!」
「...あぁ、正直実感が湧かない。」
実を言うと、俺は修業4日目辺りからの事をよく憶えていない。
能力が圧倒的に向上しているのはわかるんだが...
最近、知らんやつらから恐怖の視線を感じることもある。俺には全く心当たりがない。
後、岩が誰かによって砕かれていた。野生動物に出来るとも思えない。ひどい話だ。
マックイーンにも知らんやつの話を聞かれるし...誰だ岩本って。
まぁそれは置いとくとして、本格的にレースに出るにはトレーナーの力が必要だ。
でもスカウトされてる時の記憶もない。どこがどんな感じのトレーナーか分からん。
...まぁ、分からない事を悩んでてもしょうがねぇよな。
ずっとトレーニング続きだったし、何か息抜きがしたい。
...サッカーでもやろ。
放課後、人気の少ない空き地へやってきた。
ここは本当に稀にしか人が来ない。一人でボールを蹴るにはピッタリだ。
何故かゴールも設置されてるし、周りに家もない。
俺は鞄をベンチに置くと、リフティングから始めた。
「ッ!...」
スパーンッ!
鋭い縦回転のかかったボールがサイドネットに吸い込まれる。
ドライブシュートもだいぶマスターしてきたな。翼くんの再現も夢じゃないか...?
普通、ウマ娘が蹴ったボールなんて破裂すると思うだろ?
だから少しお高いのを使っております。重さは変わらず、更に耐久力が増した優れもの!
その名も『ウマ娘用サッカーボール』!そのまんまだね。
ホント、強すぎるって時に不便だよなぁ。
サッカーが好きになったきっかけは、アニメを見た影響だ。
登場する必殺技を再現するのが目標だったんだが、だんだん楽しくなってきてな。
まぁ、プロの試合とかはあんまり見ないんだけどね。見てるよりボール蹴った方が楽しいし。
マックイーンも観戦ばっかしてないで、皆で野球したらいいのに。
ん?俺はいいよ。やっぱ性別の壁ってあるからさ。
さて、日も落ちてきたしそろそろ帰るかな。
帰り道、この前ブルボンと会った公園の辺りに来た時、誰かの泣く声が聞こえた。
辺りを見回すが、人の姿は見えない。
...?どこだ?少なくとも公園の中にいるはず...
...あのドームかな。
こんな時間にどうしたんだろうと思い、近づこうとする。
...いや、待て。こんな時間に変なお兄さんに声かけられたらビビるだろ。
てか普通に通報案件では!?こんなところで捕まりたくねぇよ!
でも、泣いてる子供を見捨てていいのか!?それは人としてどうなんだ!?人じゃねぇけど!
...腹を括ろう。人助けだ、間違っちゃいないはずだ。
覚悟を決めて、俺はドームの中を覗く。
「...そんなとこで何してんだ?」
「!...誰っ?」
中では黒髪の小さなウマ娘がうずくまっていた。
「えっと...早く帰んねぇと、親が心配すんぞ。」
「...心配なんかしないもん。」
ははーん、この感じ...家出ってとこか。
俺は少女の向かい側に座る。
「...子供を心配しねぇ親なんかいねぇよ。余程のクズじゃねぇ限りはな。...それとも、お前の親はそのクズだったのか?」
「...!パパとママはクズなんかじゃないもん!」
ほら、やっぱり嫌いにはなれないんだよな。
「...喧嘩したなら、ちゃんと仲直りしねぇと。たとえ向こうに原因があったとしても、今こうして心配させてんだ。どっちもどっちだよ。」
「...でも...」
「...俺も一緒に謝っからさ。帰るぞ。」
「...うん。」
彼女はゆっくりと立ち上がってドームから出た。
「ほら、顔拭けよ。すげぇことになってるぞ。」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔じゃいかんて。
俺は彼女にハンカチを差し出す。
「ありがと...お兄ちゃん、おとめごころを分かってないよ...」
「え!?...悪ぃ...」
「ドラマだともっとカッコいい渡し方してくれるよ!」
「あー...そうね...」
彼女を家まで送る途中、他愛のない話に花が咲く。
「そういえばお兄ちゃん。」
「ん?」
「お兄ちゃんって、ウマ娘なの?」
「...一応な。」
「いくつ?」
「13。」
「どこの学校?」
「トレセン学園ってとこ。」
「えぇ!?」
俺がトレセン学園に通っていると知ると、彼女は驚いた。
「お兄ちゃんもレースに出るの?速い?」
「うーん...わかんね。」
「あたしもトレセン学園に入るんだ!友達のサトちゃんと一緒に!」
「...仲いいのか?」
「うん!あのね!この前サトちゃんがね!」
彼女の友人語りに耳を傾けている内に、少し向こうの家から夫婦が出てくるのが見えた。誰かを探しに行く所のようだ。
「あ...パパ...ママ...」
「...な?心配してただろ。...行くぞ。」
「...うん!パパー!ママー!」
「!?ブラック!!」
母親が彼女に駆け寄り抱きしめる。
「...あの、あんまり怒らないでやってください。彼女も反省してるみたいですし...」
「...君は...」
ん?...あぁそうか、テレビで俺の事見たことあるのか。
「娘が世話になったみたいだね。ありがとう、君は恩人だ。」
「何かお礼をしないと!ちょっと待ってて!」
母親が家の中へ駆けていく。
「いや、お礼なんてそんな...」
そこから譲り合いが発生し、結局俺が折れた。高そうなケーキ貰いましたぁ。
そして、少女が話しかけてくる。
「お兄ちゃん、名前なんていうの?」
「...ラウンドレオン。」
「あたしはキタサンブラック!レオお兄ちゃんの事、応援してるね!」
「...あぁ。俺の走り、しっかり見ててな。」
最後に彼女の頭を撫でて、トレセン学園に向かう。
...通報されなくてよかったぁー!!!やさしいせかい。いや、やさいせいかつ。
...普通に門限過ぎてるよ...まぁ、説明すれば分かってくれるだろ。
そんなことえお考えながら、寮の玄関に向かう。
「すみませーん!!スペシャルウィークですぅー!!遅くなっちゃいましたー!!」ドンドンッ!
...なんかいる。めっちゃ叩くやんあの人。
「...アンタ、そんなドンドン叩いたら壊れるよ。」
「あ、すみません!...あの、学園の方ですか?」
「ここの寮生。,,,アンタも門限間に合わなかったのか?」
「そうなんです!ウイニングライブ見てたらこんな時間になっちゃって!」
「...ちょっと待ってな。」
携帯を取り出し、マックイーンに電話をかけようとする。寮長の電話番号知らん。
「...あ。」
...またもや充電切れ。我ながら間抜けにも程がある。
そしてそれを悟った目の前のウマ娘と目が合う。
「「...」」コクリ...
こうなったら、俺達がやるべき事は一つしかねぇっ!
「すみませーん!!スペシャルウィークですぅー!!怪しいウマ娘じゃありませーん!!」ドンドンッ!
「誰かーッ!助けてーッ!せめてこの子だけでもォッー!」ドンドンッ!
夜のトレセン学園に、二人の情けない叫びが木霊した。
その後、開けてくれたフジキセキ寮長にキッチリ説明しました。いやー!理解ある寮長で助かったぜッ!
あと子猫ちゃんと呼ぶのをやめてくれ。
さっき一緒にいたあの人は転入生らしい。名前はスペシャルウィーク。
...めっちゃ純粋そうな人だった。ああいう子って...いいよな...
一緒にいてすげー楽しそうだなぁ...俺には縁のない話だけど。
そんな雑念を振り払うと、俺はベッドに横になった。
レオくんは片目隠れだといいなぁ...