「一週間みっちりトレーニングすればデビュー戦くらい何とかなるだろ。」
そんな適当な...このトレーナーホントに大丈夫か...?
案の定、他のメンバーから非難の声が上がる。
「適当過ぎんだろ!」
「ちょっとは真面目にやんなさいよ!」
そしてこいつら結構暴力的だぁ...トレーナーの尻を踏みつけている。
キーンコーンカーンコーン...
ん?もうそんな時間か。
メンバーも次々に部室を出ていく。俺も帰ろうかな...とその前に...
「あれ?レオンさんは帰らないんですか?」
「少しトレーナーと話があるんで。お気になさらず。」
「それではまた!」ガチャ
...皆行ったな...
「さてトレーナー、聞きたいことがあるんだが...」
「ん?」ダンッ!
立ち上がったトレーナーを壁際に追い詰める。
「さっきの痴漢ってなんだ?あぁん?」
まだテメェの容疑は晴れちゃいねぇぞコラ。
「いやだから誤解なんだって...」
「あの子が言い掛かりつけてるって言いてぇのかコラ。」
「少し脚の筋肉をだな...」
「やっぱテメェが悪いんじゃねぇか!!」
スペ先輩の純粋さに付け込むなんて許せん!トレーニングに支障が出ない程度にぶちのめすッ!
「すみません!忘れ物...」
「「ん?」」
どうやらスペ先輩が忘れ物をしてしまったらしい。まったくおっちょこちょいだなぁ。
...あれ、なんで顔赤くしてんの?
...あ。
ここで今の態勢を思い出してほしい。
俺はトレーナーを壁際に追い詰めている。...そう、壁ドンだ。
「...ごめんなさーいーッ!!!」
「待ってくれッ!違うッ!...違うんだァッー!!!」
スペ先輩は自慢の末脚で逃げていった。...そんな...
俺がこの世の終わりのような顔をしていると、トレーナーが肩ポンしてくる。
「...仕方ないね♂」
「...」(#^ω^)ピキピキ
...ウゼェェェェェェェ!!!
「「アァァァァァ!!!!!」」
渾身のバックドロップを繰り出すレオと悲痛なトレーナーの叫びが響き渡った。
「えぇ!?チームスピカに入ったのぉ!?」
「あぁ。」
翌日、俺はテイオーに昨日の話をしていた。
「スピカと言えば、転入生が入ったとこじゃん。」
「...そうだ。」
昨日の一件のせいで、俺はスペ先輩に変なイメージを持たれている。早急に何とかせねば。
「...レオ?」
どう誤解を解くか思案していると、横からマックイーンが話しかけてきた。
「...私に何の相談もせずに...チームを決めたのですか...?」
「...なんだよ。そのくらい一人で決められる。」
ここまで子ども扱いされちゃあ、俺も少し機嫌が悪くなりそうだ。
「...どこですの...」
「あ?」
「入部届はどこですのッ!!!」
「ハァッ!?」
「私もスピカに入りますッ!早くお出しなさいッ!」
俺の襟を掴み揺さぶるマックイーン。離せよ破けちゃうだろうがッ!
「...そんな簡単に決めるなよ。お前に合うところがもっと他に...」
「レオがいないとダメなんですッ!」
「えぇ...」
こいつ俺が死んだらどうする気なん?
「ボクもスピカにしよっかな~。なんか面白そうだし!」
「じゃあ俺から話通しとくわ。」
「私は!?」
「...お前は少し俺離れをだなぁ...」
「...」
「...そんな涙目で見たってなぁ...」
「...」
「...好きにしろよ。」
駄目だな俺は...一生女の尻に敷かれて生きるんだ...
そして放課後、俺とスペ先輩は初のチーム練習となる。
なのに...
「次、右手青。」
なんで初練習がツイスターゲーム!?
「...体幹鍛えるにしても、これは...」
「お、分かってるみたいだな。」
確かに、レース中にバランスを崩して転倒なんかしたら終わりだ。そのためにも体幹は鍛えなくちゃならない。
...まぁでも、楽しい方がいいよな。だからこのチームにしたんだ。
「じゃあ次、スペとレオ。」
「はい!」
「...俺も!?」
先にやっていたウオッカとスカーレットがどいた。
俺だとセクハラになりませんかね...細心の注意を払わんと...
「よろしくお願いします!」
「...はい。」
「レオからスタートな。右手黄色。」
今の状況は、俺が右手青、左手青、右足赤、左足緑。ポーズで例えるとクラウチングスタートみたいな感じだ。
スペ先輩は、右手黄色、左手黄色、右足緑、左足緑。
「次、左手青。」
これは簡単だ。2と3は駄目だから4に...
「次、右手黄色。」
スペ先輩は黄色の4と5を使ってしまっている。3にいくしかない。
「くっ...」
スペ先輩がやりやすいよう肘を曲げ、胸を下げる。
「うぅっ...」
よし成功。だがこの態勢はまずい。スペ先輩が俺に上から覆い被さる形。
俺が油断して肘を伸ばそうものなら...背中にスペ先輩のむ...むね...が...
「...わわっ!」
ふに...
「あ...」
スペ先輩が態勢を崩し、俺の上に倒れこむ。
...背中に柔らかい感触が...
「うぅ...すみませーん...」
「...いえ...」
...はわわ...これが...ブフーッ!
「おいっ!?なに急に鼻血出してんだー!?」
そこから厳しいトレーニングを乗り越え、スペ先輩のデビュー戦当日。
チーム一同で見守る。
それとこの間、マックイーンとテイオーが加入しましたーいぇーい。
「あ、パドックでの見せ方教えるの忘れてた。」
「何やってんのお前、スペ先輩に恥かかす気か?あ?」
「ちょっとーしっかりしてよー。」
こいつに敬語を使うんのはやめた。うぜぇし。
「続いて8枠14番、スペシャルウィーク!」
お、出てきた。...やっぱ動きガッチガチだ。
頑張れぇ...はよジャージ脱いで!
あぁ...転んじゃった...でもかわいい。
「...スぺちゃん...」
スズカ先輩もスペ先輩とはすっかり仲良し。いいなぁ...
「...あ、ゼッケン。渡すの忘れてた。いや、参ったなぁ...」
なんてわざとらしい。演技下手か?
「レオ、これスペシャルウィークに渡してきてくれ。」
「...了解っと。」
いいんですか...?緊張をほぐす役割もらっちゃっていいんですか?
...なんて声かければいいんだろ...
ターフに出る前の通路で待っていると、スペ先輩が来るのが見える。
「あ...レオンさんどうしてここに?」
「...これ、ゼッケン。トレーナーが渡し忘れたみたいで。...着けれます?」
「あ...えっと...お願いします...」
「はい。...すげー緊張してるみたいですけど。」
ゼッケンをつけながら話を振る。
「...こんなにたくさんの人の前に出るのは初めてで...」
...確かになぁ。俺は嫌でも目立つから人の目には慣れてるけど...
何か緊張をほぐす方法はないか...
「...緊張をほぐすには、手の平に人って書いてそれを飲み込んだり、あと観客を全部ニンジンだと思ったりとか...あぁクソ、そうじゃなくて...」
ダメだ...こんなしょうもないことしか出てこねぇよ...
「...ふふ。ニンジンが何千個もあるなんて...」
「...やっと笑った。」
「えっ...?」
「そうやっていつものようにニコニコしてれば大丈夫。レースを楽しんでください。...なんて、デビュー前のやつが言うなって感じですけど。」
「...いえ、ありがとうございます。...そうですよね、楽しまなきゃ損ですよね!」
良かった、いつもの調子に戻ったようだ。なんだよ...俺にも出来んじゃねぇか...へっ...
「...それじゃあ、いってらっしゃい。...スペ先輩。」
「...行ってきます。...レオくん。」
ズキューンッ!!!
...ヤバイ...今俺の中で何かが弾ける音がしたぞ。
ずきゅんどきゅん走り出し...?ばきゅんぶきゅん駆けてゆくよ...?
こんな思いは初めてぇーッ!!!
スペ先輩を見送る俺の脳内は、何処かで聞いた電波ソングによって支配されていた。
そして、スペ先輩の勝利でデビュー戦は幕を閉じた。
「...あ、やべ。ウイニングステージの練習、マジで全然やってなかった。」
「「「「「「「え?」」」」」」」
案の定、スペ先輩はライブ中ずっと棒立ちで過ごすより他ならなかった。
レオくんライブする時絶対キー合わない