3月の後半に暑い日差しを手で遮る。
目の前には全長1キロメートルを超えるスタンドが伸びる。
隣接するのは巨大なホテルでその設備は見る者を圧倒する。
ドバイにあるメイダン競馬場はその豪華絢爛さで見る者を圧倒する。
俺たちはUAEメイダンにきている。日差しが熱い中をコースを歩く。
「ホントにここ走るの?砂漠みたいなんだけど」
「ああ・・・歩くだけで足が沈み込むな」
「砂が深いですね・・・こんなのどう走るんですか?」
コースをみんなで歩きながら調査する。
「うわ!足が沈むよ!このコースたのしーねー」
「こんなほこりっぽいコースを喜ぶのウララさんくらいのものですわ!コースの向うに砂丘ができてますわよ!」
「いやそこまでじゃないから。砂の筋が日本庭園みたいだなとは思ったが」
はっきり言って普通のウマ娘では歯が立たないだろう。聞くと見るとではやはり大違いだ。
昔はアメリカからコース用に土だけ運んできたらしい。海外はスケールが違う。
「昔はアメリカのような土だったらしいが最近変更されたからな。ウララさんにはチャンスでもある」
海外コースを見たいと言ったらキングヘイローの家が旅費を出してくれた・・・どれだけ金あるんですかね。
「日本のような砂質だがクッション層よりも深い。掘り進める馬に有利になる」
他にもコースを見に来ている外国のウマ娘をざっと見て俺はみんなに声をかける。
「それじゃウララさんには明後日・・・次に行われるレースに出てもらうか。強いウマ娘はいなさそうだし?」
「「えええっ!?」」
「うん!い~よ。こんな見たことない場所は走るの楽しそうだし!」
みんなの叫び声と共に明るいハルウララの声が真っ青な空に響き渡った。
「足跡が1センチ沈み込んでます。蹄鉄は変えたほうがいいかも・・・」
「気温は大丈夫か?湿度は問題ないだろうけど」
「ウララの服は耐熱機能もありますから、しかし脚部が・・・」
「そこはなるべく外にいる時間を短く取ろう。レース開始までストールを腰に巻いてもいいだろうし。練習後のマッサージは念入りにな」
夏場気温が50度にもなると言われる気温は思った以上に暑い。体力がどんどん削られていく。
「ちょっとちょっと!いきなり走るわけ?大丈夫なの?」
「いや他に強いウマ娘が見えないからな。どう考えてもここボーナスステージだろう」
「・・・とてもそうは見えないのだけど」
外国から来たどの馬も体格がごつく身長もハルウララの2倍くらいある。
アメリカから来たものも多く上半身が鋼のような筋肉に覆われている。
外見だけ見れば勝てる気がしないだろう。
「まあキングが出れないのは残念だけどな。もう少し練習を積んでからだ」
「ええ。勉強させてもらうわ。それに今回はウララさんを応援しないといけませんもの!」
キングヘイローは高笑いをするが面倒見のいいキングヘイローのことだ。
ハルウララのフォローも万全だろう。一緒に観光で遊ぶこともリラックスするメンタル面で必要なことだ。
「観光にでも行ってリラックスしてくればいい。体調は万全にな」
「はい!私、この日のために計画をしてまいりました!」
カワカミプリンセスがガイド本を片手に意気込む。
俺は彼女らを見送ってアオ君と二人でコースの調査を続けるのだった。
――狙うはドバイゴールデンシャヒーン
左回り ダート 1200m (G1)
「胃が痛くなってきた・・・胃薬持ってるか?」
「あなた緊張しすぎよ!もって来てるけど」
キングヘイローは腰のポーチから薬を取り出し渡してくれる。
「僕も緊張して何も食べれませんでしたよ・・・」
ハルウララたちはケバブを気に入って肉の塔をぺろりと平らげていたが。
俺たちは食事をする気になれなかった。まあこの試合が終われば食欲も出るだろう。
「先生勝てますか?」
「・・・勝負は時の運だがウララさんより強い馬はいない」
俺はコースに出てくる海外のウマ娘を見てつぶやく。
「そういえばウララを呼ぶとき先生はいつもさん付けしてるんですね」
「・・・逆になんでみんながウララさんに敬意を払わないのか本気でわからん。
最強とはあいつのためにある言葉だぞ」
「そこまで言いますか」
「俺は今までダートに関しては彼女より強いウマ娘を見たことがない」
最強ともいわれたオグリキャップですら短距離ではハルウララに勝てない。
いい勝負になるとしたらタイキシャトルか。
ダートにいる彼女に比べたらシンボリルドルフなど仔馬に見えてくる。
もし彼女とダートレースで戦うとかキングヘイローが言い出したら全力で止めるだろう。
「唯一短距離が得意な適性は神とやらが強すぎる彼女に与えたハンデだと思う。時間があればマイルもいけるんだが
・・・これで勝てないなら詐欺だ。ドバイワールドの2000mが出れないのは欲張りすぎるなということなのだろう」
みんなで美しいモスクを観光したせいか普通は言わない運命論を考えてしまう。
「・・・いや先生にそこまで言ってもらえると助かります」
アオ君の顔に笑みが戻る。
コースに出たハルウララは楽しくて思わず隣のウマ娘に話しかけてしまう。
みんなと走ればきっともっと楽しくなるだろう。
「えへへ、たのしーね」
「余裕デスね・・・」
隣の身長の高いウマ娘はあきれたように言う。
「えへへ、みんな今日のレースは喜んでくれると思うよ!」
私は集中力がなくてあきっぽいとみんなに言われた。走ると体軸がぶれて壊れたポンコツだとさじを投げられた。
だけど今のトレーナーに出会ってレースを走ることだけは飽きることがなくなった。
私はみんなの笑顔が見たかったから走り続けた。だけど最近はふとこんなことを思ってしまう。
――勝てばもっと喜んでくれるだろうか。応援してくれるみんなと・・・私をいつも応援してくれるトレーナー君は。
「「ウララさーん!!」」
キングヘイローとカワカミプリンセスが大声で応援している。
コース上に出てきたハルウララにキングヘイローと俺たちは大きく手を振る。
ゆっくりとゲートに入るハルウララはこちらに大きく手を振っている。気負ってはいない。好調だ。
「ダート1200は350mの直線、正面コーナーを左に回ると直線400mが続く。学園でいつも走るコースに近い」
「直線が長いので差しが決まりそうですが」
「普通はハイペースでないと差しの追い込みは決まらない。だがウララさんの速度ならひっくり返せるはずだ」
ゲートが開き一斉にみんなが飛び出す。先頭集団は内側のコースに寄りハルウララは前をふさがれる形になる。
「ウララさーん!」
「ウララっ!」
「・・・まだ早い。カーブが終わる時だ」
そのまま先頭集団に前をふさがれながらハルウララはカーブを曲がり大回りをしてコースの真ん中に躍り出る。
誰も走ろうとしないコースの真ん中。
壊れたスプリングといわれた脚は砂を蹴る反動を受け流す。
揺れる体とバカにされた体軸は砂に固定されしなやかに前に進む。
踊るようだと言われた腕の振りは砂の上で彼女の体を加速させる。
ハルウララの脚が砂を蹴るたびにコースに穴が開き砂が舞い上がる。
ハルウララの前には何も邪魔者はいない。
どこまでもその前には砂の道が続いている。
「「「いっけぇえええ!」」」
その時砂嵐が巻き起こった。一瞬あたりが暗くなる。
いや、ウララの踏み込みで砂が巻き上がっていると気づいたときには
ハルウララは他のウマ娘をはるか彼方に置き去りにしていた。
砂の嵐から飛び出したハルウララは風を切りながらゴールを目指して駆ける。
そして勝負は一瞬だった。気づけば一人でゴールした後こちらに手を振っているハルウララが見えた。
わずか1分の攻防。それをハルウララは見事に制した。
「うっ・・・ウララぁ・・・よかった・・・」
男泣きに泣いているアオ君を始めキングヘイローたちも泣いている。
「ウララさん・・・すばらしい走りですぅぅ」
「うっ・・・すばらしいですわ。私もダートを目指します」
いやキングにダートの適性ないから。
「あなたなんで泣いてないのよ!」
「俺が泣くときはキングが優勝した時だと決めてある。
それに・・・勝つのがわかっていたからな」
だか大いに緊張した。この汗は暑さのせいばかりではない。
「「「おおおお!!!」」」
一瞬静まり返った会場は大勢のどよめきと喧騒に包まれる。
人々のどよめきがスタンドを揺らす。
それはそうだろう。誰も勝つと思ってなかった小さな馬が圧倒的な走りで勝利するのだから。
レース場を見るとハルウララは大きな外国のウマ娘に囲まれて健闘をたたえられている。
ハルウララはどこでも人気者だ。いや彼女たちの心に残るレースを見せたからだろうか。
遠くからでも「ミーは心が震えたね」とかハルウララを抱きしめているウマ娘の姿が見える。
「・・・さあ、みんな急いでウララさんを迎えに行くぞ!」
「はい!」「ええ!」
俺たちは走ってハルウララのもとに向かっていった。
その後巨大な黄金のトロフィーを持ち上げるハルウララに笑ったりウイニングライブで応援に大声を張り上げたり。
商店街の人たちへのお土産の買い物や観光など
俺たちは大いに羽を伸ばすのだった。
ガチャ回す金があるのだったらハルウララの会に入会するべきなのでは・・・
と思ったら入会の受付が休止されてた・・・
そんなー・・・献金するか・・・
ゴールデンシャヒーンは最低人気から圧倒的勝利をつかみ消えていったゼンデンが悲しすぎる。