王のもとに集いし騎士たち   作:しげもり

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砂嵐に棲む竜

――竜であるならば下々の小さな勝負や争いごとなどを気にかけるものであろうか。

  かの存在は存在自体が唯一無二であるのだから

デイリーレーシングフォーム著

 

 

「帰るか・・・」

「来たばかりで何言ってるのよ!」

「いや、ちょっと予想外でな・・・」

 

アメリカのダートが目の前に広がる。

今回はアメリカからの招待での参加だ。

ドバイの優勝記念の時に声をかけられて日本に帰る前にアメリカに寄ることになった。

これも経験だろうとみんなでやってきて今は下見中だ。

 

 

「土の下は硬い路面だ。土の下はレンガの上を走るようなものだぞ」

「ウララへの膝への負担が心配です」

「ウララさんなら大丈夫だろうが日本のウマ娘なら慣れないと足を痛めるだろうな。

上面の土はそんなにグリップ力は無いのだが・・・」

 

日本では砂が主だがアメリカでは土のダートだ。海砂と山砂・山土の違いもある。

日本ではクッション層が上に敷かれダートの質はグリップ力にも影響する。

アメリカのダートで高速の走破タイムが出るのはこの路面が理由らしい。

しかも排水性が高くないので雨が降れば泥の海になるので非常に天気に左右される。

 

 

「坂がなくて平坦なのは助かりますが」

「カーブでの摩擦の違いがな・・・蹄鉄はスパイク状の物に変えるか」

「そうでした。米国ではスパイク鉄の使用が認められているんでしたね」

「パワーを必要とし反動もあるがウララさんなら大丈夫だろう・・・」

 

金属加工はアオ君にお任せだ。

一通り見て回るとずいぶん時間が過ぎていた。

 

「・・・休憩を入れるか。ウララさんたちは時差に注意だな」

 

本当はもっと休息を入れておきたいところだが今でもハルウララの体調は万全だ。

キングヘイローたちがいるからだろう。

 

「ウララおなかすいたかも・・・」

「何か食べに行きましょうか!アメリカだとステーキかしら?」

 

「バーベキューもいいですわよ!チョコレートも有名です!下調べはばっちりです!」

 

とガイド本を持って意気込むカワカミプリンセスに連れていかれる彼女らを俺たちは見送った。

レキシントンは街全体に活気が感じられ家々は美しくこの州は寂れた感じがしない。

 

「米国の競馬は全て左回りで最後の直線が短いから・・・」

 

残った俺たちはレース用の蹄鉄や靴の種類を話し合うのだった。

 

 

――アメリカ・キーンランド競馬場

   マディソンステークス(G1) ダート1408m(7f)

 

 

 

どこまでも抜ける青空の下、多くのウマ娘たちがコースに集まっている。

 

「ヘイ!ジャパニーズ!おうちに帰ってな!」

 

ハルウララがコースに出るとウマ娘たちが声をかけてくる。

どの子もハルウララの倍ほどの身長がありハルウララは自然と彼女らを見上げる形になる。

 

どの子も日本では見たことがないような強い体をしたウマ娘だ。

 

「ウララだよーよろしくね!」

「オゥ!余裕ね~」

 

全く緊張してないハルウララの笑顔に他のウマ娘があきれる。

 

 

ハルウララは楽しくて思わず笑顔になる。こんな見たこともないコースをどこまでも走るのは気持ちいいだろう。

日本ではみんなと走るときも楽しかった。だけどその時の楽しさとはまた違う。

宝石箱の中身が全部自分のものになったような気持ちだ。観客の皆も喜んでくれるだろう。

大切な友人たちも。ここまで運んでくれた優しいトレーナーも。

 

 

 

『続いてUAEで圧倒的走りを見せた、東洋から来た砂上の怪物!

 砂嵐を呼ぶ竜!ハルウララ!』

 

ハルウララの紹介がおこなわれると会場がどよめく。

 

「今日はいいレースにしようね!」

「へっ、あたりまえだ!大物退治は得意なんでな!」

「ふふふ。ドラゴンさんが暴れないようにしないとネ」

 

彼女たちはゲートに入ると真剣な表情になる。

だけどハルウララだけはちょっと悲しげな表情になる。

1分もかからずこの楽しいレースが終わるのが悲しい。

大好きなデザートはゆっくり食べたいのに・・・

 

他のウマ娘はハルウララの表情を見て薄く笑った。

 

――なんだ、こいつは。おびえているじゃないか。

 

それが勘違いだったことに彼女たちはすぐに気づかされることになる。

 

 

そしてゲートが開く。

 

 

一斉にウマ娘たちが土を蹴散らして進む。

 

どのウマ娘も最初から飛ばしておりその後ろをハルウララがちょこんとついていく。

 

前のウマ娘たちの巻き上げて飛ばした土が後方のウマ娘たちに降りかかる。

 

「・・・これは差しの走行は厳しいな。タイキシャトルが先行脚質なのがわかる」

 

思わずハルウララは砂をよけてコースの手前で外側に出てしまう。

 

「ウララさん!」

「ウララっ!・・・だけどカーブを抜ければ!」

 

「いや、まだだ。理想的な走りだ。差しにかかるタイミングもいい・・・コースを抜けるぞ」

 

コースを抜けたウララが追い上げにかかる。

 

外から回り込んだウララの跳ね飛ばす砂が小さな砂嵐を巻きおこし一歩一歩踏み込む足がコースに穴を作る。

 

「「ウララーーッ!!」」

 

一人二人と次々とハルウララは他の子を追い抜いていく。

 

 

 

 

ウララは楽しさに思わず笑った。

 

どうしてみんな勝ち負けにこだわるのだろうか。そんな事ほんの些細なことだ。

 

風を切って走るのがこんなにも楽しい。

 

足を取るような土は逆に体の揺れを抑え体を前へ前と運んでくれる。

 

 

 

「嘘だろ・・・」

 

あるウマ娘はウララが地面を蹴るたびに地面が深くえぐれコースの地面が割れるように錯覚した。

 

「あれがドラゴン・・・」

 

あるウマ娘は舞い散る土がウララの翼のように見えた。

竜が飛んだ・・・それはあまりも早く走るウララの背を見失ったからかもしれない。

 

 

 

他のウマたちはハルウララを意識して速度を上げるが・・・

 

「みんなウララさんを意識しすぎだ。かかったな」

 

他のウマ娘はコース手前でペース配分をみだされている。

たとえ追い込み開始の4秒ほどの差でもその差は大きい。

 

 

 

 

 

みんなを抜き去りハルウララは前方に出る。

 

そして砕かれた砂は嵐を巻き起こし一瞬ウマ娘たちの姿が見えなくなる。

 

その砂のカーテンの中から一人のウマ娘が飛び出す・・・ハルウララだ。

 

そして風を切る音と共にハルウララはゴールを通過する。

 

多くのウマ娘を抜き去ってゴールしたハルウララは俺たちに笑って手を振る。

 

コースの外側をぐるりと回って他を引き離すハルウララの圧勝だ。

 

 

 

 

 

「ぐすっ。ウララさん良かったですわ・・・私もダートを目指します」

 

いやキングにダート適正ないから。

 

 

「ウララ・・・よかった。」

「ウララさん!素晴らしいです!」

 

「・・・ああ、勝つとわかっていても緊張する」

 

 

みんな喜んでいる中で俺はレースを分析する。

 

「しかし課題が出来たな・・・記録を狙えたところだが・・・」

 

コース取りが良ければ記録を狙えた。

集団からどう抜け出すかが大きな課題だろう。まだまだハルウララは上を狙えるはずだ。

 

 

「・・・今はウララさんをたたえよう」

「そうですわね!皆行きますわよ!」

 

 

「まだ勝負だ!走りやがれジャパニーズ!」

「オゥ!ジャパンには返さないネ~」

「うわわわっ!」

 

俺たちはアメリカのウマ娘たちにもみくちゃにされるハルウララのもとに駆け出して行った。

 

 

――後日

 

「英語の歌詞が歌えないのもウララさんの課題だな・・・」

「英語ですか・・・いえ、次回は練習すれば・・・」

「そんな時間は無い。スキヤキ(上を向いて歩こう)でも歌わせておけ・・・」

 

後日カウボーイハットをかぶるハルウララの写真で新聞は埋め尽くされていた。

 

 

 

 

 

 

 




上を向いて歩こうは名曲中の名曲。テンポはカントリーミュージックに近いかも

ウララさんに勝負心が足りない?争いは同レベルのものでしか発生しない!(キリッ)

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