王のもとに集いし騎士たち   作:しげもり

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皐月賞の戦い

キングヘイローは実家とあまりうまくいっていない。この間も電話でひどく言い合いをしていた。

 

そういったときはひどく無謀なレースに出たがる。自分の力を証明したいのだろう。

 

俺たちは助言はするが強くは止めない。彼女たちが望むならば最大限希望をかなえるだけだ。

 

 

キングヘイローはセイウンスカイと何事か話していたようだが彼女たちはそれぞれゲートに入り始める。

 

セイウンスカイもスペシャルウィークも出走している。

 

――皐月賞

 

止めるべきだったかと考えるがかぶりを振る。

 

 

ゲートが開いてレースが始まり、一斉に皆がゲートから飛び出していく。

 

スタートは理想的、体軸もマイルに適応

 

しかし1600mでスタミナがきれる。1700mで首が上がり体が起き上がる。位置取りが悪い。

 

俺は唇を噛みしめる。

落ち着け。まだレースは続いている。

 

1800mでキングヘイローは完全に息が切れ集団の中に埋まる。集団から抜け出す手段を今のキングヘイローは持たない。

セイウンスカイは単独で逃げ切っていたがここでスペシャルウィークが集団から飛び出す。

 

1900mキングヘイローはもはや集団についていけず、速度も落ち始める。

そのはるか前をスペシャルウィークが単独でゴールを駆け抜けていく。

 

 

 

 

最初は行けると思った。

だがいまでは心臓は早鐘を打ち足が重い。

汗で髪が顔に張り付く。

練習で一緒に走っていた友人たち。

彼らの背中はいつもより遠くもう追いつけはしない。

 

皆より遅れてゴールした彼女は振り向くことなくコース上を後にした。

 

 

 

 

 

ずいぶんレースに集中してたようだ。気づくとレース場のざわめきが耳に入ってくる

 

『すごいなあの子!スペシャルウィークってこの走り見たか?』

『ああ・・・しかしキングヘイローはダメだな。なんだよあの走り』

『家柄がいいだけだろ?小さなレースしか通用しないよ』

『そうだな。しかしセイウンスカイって子も・・・』

 

俺は横のアオ君に問いかける

 

「お前はいつもこんな気持ちなのか?」

「・・・ファンっていうのは勝っても負けても全力で応援するもんです。

それにウララが笑っているのに僕が泣くわけにはいかないでしょ?」

 

アオ君はそういって「残念だったねー」と残念がるハルウララたちを慰める

 

「キングさんのところに行ってあげてください。彼女が待ってます」

「・・・ああ」

喧騒に包まれるレース場を俺は駆け出して離れていった。

 

 

 

 

 

 

「あんたひどい顔ね」

「え?」

 

控室のキングヘイローは思ったより普通そうだった。

 

「なんであなたが泣きそうな顔をしてるのよ

泣くのは私が優勝した時でしょ」

「あ、ああ・・・そうだな」

 

キングヘイローは負けたというのに平気そうだ。

 

「・・・負けるのはわかっていたからよ」

「え?」

「あなた顔に出すぎよ。走る前からあなたの顔に負けると書いてあればあきらめもつくわ」

「・・・そうか」

 

そんなに表情に出ているのだろうか?

 

「次のレースはどうしようかしら?もう挑戦なんてしなければ良かったのかしら?」

 

「・・・そんなことはないだろう」

 

その時スマートフォンの着信音が鳴り響く。

 

「……お母様」

 

キングヘイローが電話を取ると女性の声が響く。

 

『そういえば凄かったわね、スペシャルウィークさん』

 

『あんなに人を惹き付ける走りを見たのは久々よ』

 

母親か・・・

 

アメリカ人の母親はどうしても言い方が直接的だ。彼女の家系のことを考える。

 

 

・・・キングヘイローが本当に認めて欲しいのは世間の人大勢なんかじゃない。たった一人だ。

 

なら”彼女”と同じ位置にキングを立たせるだけの話だ。

 

 

電話を終えて潤んだ瞳のキングヘイローに俺はゆっくりと声をかける。

 

「少し話がある。俺についてきてくれないか?」

 

俺はキングヘイローと共に薄暗い通路を歩き始めた。


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