王のもとに集いし騎士たち   作:しげもり

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学園の日常
お悩み相談 サイレンススズカ


「短距離向けだな。差しもいけるが距離的に先行に変えたほうがいいだろう。スタート技術を覚えることとパワーをつけることだ」

 

真剣な表情で俺の話を聞くのは。トレアンサンブル大和なでしこという感じの黒髪の少女だ。

 

「君は母親のダイナアクトレスと同じく完全な短距離よりだ。中距離ではスタミナが続かない」

「そうなんですね!気づきませんでした」

 

この子は面倒見のいいキングが連れてきた子だ。

キングが外国の名家なら彼女は日本の名家だ。

超優良な血統を言われているのに結果が出ないのでキングヘイローがシンパシーを感じたのだろう。

共にデビュー戦でレースを競った相手でもあるし。

学園にいる姉のステージチャンプも血統で有名だがレースでライスシャワーとウイニングチケットにぼこぼこにされていたが・・・

 

「ありがとうございます!私なにをやってもダメで・・・希望が持てました」

「いや・・・いつも隣にいる子が優秀だからだろう。君には君に合った場所がある」

 

彼女はいつも親友のグラスワンダーと共にいるが優秀で距離特性も違う子と練習してれば迷うのは当然だろう。

グラスワンダーが日本趣味なのはこの子の影響かもしれないなとキングに聞いた情報を考える。

 

「ありがとうございます!今度練習ご一緒してもいいですか?」

「・・・そこらへんはキングに許可を取ってくれ」

 

アドバイスを聞いた少女は嬉しそうにしながら何度も頭を下げて帰っていく。

 

 

 

「やっとおわった・・・キング、もう連れてこないでくれ」

 

犬や猫拾う感覚で連れてくるんじゃないよ。元に戻してきなさい。

 

「仕方ないでしょ。頼まれたらほっとけないし」

「面倒見が良すぎる。適当にあしらわないときりがないぞ・・・」

 

結果を出したキングヘイローを頼って学生たちがキングに相談にやってくる。

そして脚質やレースの距離の相談は自然と俺が相談に乗ることになる。

キングヘイローは面倒見が良いためここしばらくトレーナー室がお悩み相談室になっている。

 

「ホント安請け合いするのはやめてくれ」

「そんな嫌そうな顔をしないでよみんな喜んでるわよ」

「いやただでさえチームの加入を応募者に断ってるんだから・・・断るのは俺なんだし」

 

最近どこかしこで見られる「私に任せておきなさい」とかいうキングの態度は頼もしくも憎らしい。

希望者にチームの加入を断るのは俺としても心苦しい。

就職を失敗し続けた経験があるだけに胃が痛くなるので困る。

 

「時間がとられるのが嫌だ。あとは適当なこと言ってるので後で恨まれるのが怖い」

「そんなに時間かかってないでしょ。的確な助言だからみんなも感謝してるわよ」

 

いやいや一人12分でも10人だと2時間だろう。いっそのこと会話せずにメモだけ渡すか・・・

 

「あと俺はそんなに能力がない。キングが優秀なだけだ」

「そんな謙遜しなくても。・・・あと一人見て欲しいんだけど」

「今日はこれで最後だぞ。誰なんだ?」

「サイレンススズカさんなんだけど」

「はぁ!?」

 

 

 

目の前の少女を見ながら考える。

見れば見るほどとんでもない能力だ。

リギルからスピカへ移籍した後骨折からリハビリしてたらしいが。

 

「私はこれからも走っていいんでしょうか・・・」

「・・・お前が走りたいと望むならかなわない夢はないだろ」

 

耳がしゅんと垂れてるサイレンススズカに言葉をかけていく。

 

「お前の夢は”境地”ともいうべきものだ。焦ることはない。時間をかければ必ず夢はかなう。

お前にはその力があるんだから」

 

弱気になってるサイレンススズカに俺は声をかける。

 

「お前は”伝説級”の存在だ。望むなら国内だけでなく海外でも活躍できる

治療に専念することだ。スピカのトレーナーはなんて言ってたんだ」

 

「今は何も考えず治療に専念することだと」

 

「まあ、そうだな。彼は優秀だから助言を聞いておけばいい。大丈夫だ。ここの学園の医療は最新設備だからな」

 

実際理事長のおかげで最新医療で大きなけがから復帰するウマ娘は多い。理事長に足を向けて寝れないところだ。

それにケガで不安になっているのだろう。ずっと考えていると悪い方向ばかりに考えが行ってしまうものだ。

 

「俺にも経験があるがあまり考えこまないほうがいい。うまいもの食べて映画でも見て気持ちを切り替えることだ」

「・・はい」

 

「お前は100年、いや300年に一人の逸材だ。キングに協力してる俺が言うんだから間違いない」

 

「はい」

 

落ち込んでいるサイレンススズカをひたすら励ます。

少し明るくなったサイレンススズカは何度も礼をして帰って行った。

 

「ふう・・・疲れた。なんでこんなことをしなければならないのか」

 

俺は疲れて机に突っ伏す。

 

「ほっとけないでしょ。喜んでたんだからいいじゃない」

 

「なんで敵に塩どころじゃなくニンジン上げねばならんのだ。後悔しかない」

 

「なんかべた褒めだったけどそんなにすごいの?

他の子をウララさんたち以外にあんなに褒めてるあなたを見たことがないんだけど」

 

「・・・成長しきればマイルだけで言えばこの学園・・・いや日本で勝てるやつはいない。ただ、まだ成長途中だが・・・」

 

あれからまだ伸びるなんて悪夢でしかない。絶対に敵にはしたくない相手だ。

スタミナを増やせばマイルだけでなく中距離でも敵はいないだろう。

 

「あのままケガのままでいてくれれば・・・相談に乗るんじゃあなかった」

「嫌なこと言わないでよ!というか本当に勝てないの?」

 

弱音を吐いた俺を叱り飛ばすキングヘイローの言葉にレース方法をいくつか考える。

 

「勝てないわけじゃなく出がかりを潰すとかフェイントかけるとかあるけどからめ手だからな・・・」

 

いくつか方法があるがやはり序盤での位置取りなどのからめ手しか思い浮かばない。

セイウンスカイあたりならうまくやるだろう。

ただ逃げ足を潰せばあとはどうとでもなるともいえるが。

スズカにスタートダッシュを教え込めば・・・いやいやこれ以上強くしてどうする。

 

「しかし惜しいな・・・専属トレーナーがつけば世界を狙えるものを。

いや手が付けられなくなるからこのままの方がいいのか」

 

スピカは優秀なメンバーが多すぎる。いくら優秀でも自然と一人では見れないところも出てくるだろう。

トレーナーは優秀だが今はスペシャルウィークだけにかまいすぎるように思える。成長期だから仕方ないのか。

俺ならメンバーは骨折まではいかせないしリハビリだって・・・いや、うぬぼれが過ぎる。俺はそんなに優秀じゃない。

 

「気になるんだったらうちのチームに入れてみる?」

 

「やめてくれ。これ以上時間も人手も足りないしな。

彼女にはそばにいてメンタルケアしてくれるようなトレーナーが必要だ」

 

もっともみんな学園トップのチームスピカに遠慮してるのかもしれないが。

あとはリギルからの移籍の件もあるか。他の人にとって優秀な人材が自分のチームから敵に回るのは悪夢でしかない。

それにトレーナー探しなら俺より人付き合いの良いアオ君の方が適任だろう。

 

「それに俺はキング専属みたいなものだからな」

 

「へ?そ・・・そうよね!一流の私には一流のトレーナーが必要なのだから!」

 

高笑いを上げるキングヘイローに俺はもうこれ以上人を連れてこないでくれと祈るのだった.

 

 

 

 

後日おせっかいなキングヘイローと共にサイレンススズカのトレーナー探しに奔走することになるとはその時の俺はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 




スズカはあの史実もあってどうしても助けたい子ですよね
アニメ版スズカの話。チームスピカがいたらみんな彼らに遠慮するよねという話
ゲームのように専属トレーナーがついてる世界線なら骨折まで行かないのですが
史実補正がつけば最強の彼女がいるためマイル戦での勝ち目は・・・

しばらくは日常回。もしくはキングヘイローのおせっかいの話
ちなみにトレアンサンブルは史実でグラスワンダーの奥さんです

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