王のもとに集いし騎士たち   作:しげもり

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出会い

 

 

 

「いつの間にかここへ来てしまったか」

 

俺はレース場の前で苦笑する。

 

 

あれから就職活動をしたものの、5年のブランクは長すぎてどこも雇ってくれそうなところは見つからなかった。

 

「結局賭けレースで稼ぐしかないのか・・・」

 

しかし賭博は違法だ。儲かってはいるがいつ捕まってもおかしくはない。

それに裏の世界は危険な人間だって多い。賭け場のあの男だって小指が・・・

重い気持ちであたりを見回すと人に囲まれたウマ娘を見つける

 

「…あれはキングヘイローか」

 

近づくとキングヘイローが高笑いをしながら新聞記者の相手をしていた。

能力の高さから注目してた子だ。今は適正の違いから結果が出せないようだけど。

 

「広報活動か」

 

走る競技者だけでなくアイドルの側面もあるウマ娘はよく広報活動をしている。

地方に行けば駅前や大型スーパーで歌うウマ娘がよく見られるものだ。

 

「おや、あれは・・・」

 

俺はその横で合の手を入れる知り合いに気づいてゆっくりと近づく。

 

「こんにちは。今日はどうしたんだ?」

「あ、こんにちは先生!」

 

ハルウララが元気よく返事を返す。

 

「今日はキングちゃんの手伝いをしに来たの」

「へえ、だけど人が集まりすぎてるので場所を移動した方がいいんじゃないか?」

「うん。そうだね!そうする」

 

どう見ても記者を含む見物人は最近の注目株のハルウララの方に注目している。

逆効果なんじゃないか?という言葉を飲み込んで俺がやんわりと助言すると。

明るく返事をしたハルウララがキングヘイローのもとに走ってゆく。

 

「・・・ってなんでこっちに来るんだ」

ハルウララはキングヘイローを引っ張ってこっちに走ってくる。

 

「・・・なんですのこの人は」

「先生だよ!トレーナーが言ってたんだ。すごい人だって」

 

胡散臭げにこちらを見たキングヘイローにハルウララは明るく説明を始める。

 

「・・・先生はやめてくれ。こんにちは」

「よろしく。キングヘイローよ。ところで・・・」

「ああ、話なら場所を変えないか?」

「・・・そうね。いいわよ」

 

俺はまわりのみんなの注目を集め始めたのに気が付くと二人と共に足早にそこを離れた。

俺みたいなものが注目を集めるとろくなことがない。

その経験はすぐにも的中することになるとはその時の俺は考えもしなかった。

 

 

 

喫茶店で二人にニンジンパフェを注文するとキングヘイローはこれまでのことを話し始める。

 

「・・レースで結果が出ないから、別の方法で注目を集めようとしたのか?」

「人聞きが悪いわね!次のレースでは勝つわよ!」

 

俺の言葉に怒ったようにキングヘイローが答える。

レースでも結果が出ずチームにも入れなかったキングヘイローは広報活動を決心したらしい。

話を聞けば困った同室のキングを見ていられないハルウララが持ち前の親切心から広報活動を手伝い始めたらしい。

 

「おかわり!」

「あ、ウララも!それで先生の目から見てどう?」

「先生はやめてくれ。そうだな・・・」

 

二人ともどれだけ食べるんですかね・・・まあ機嫌がよくなったみたいでいいことだけど。

 

俺はコーヒーを飲みながらハルウララの問いに考えたことをゆっくりと答える。

 

「いや、キングヘイローは優秀だぞ。短距離も強いがあと3年ほど専門の訓練を積めば

マイルも中距離も勝てるようになるだろう」

 

俺の言葉にキングヘイローは目を輝かす

 

「あなたよくわかってるじゃない!でも3年か・・・私は今すぐに結果が欲しいのだけど」

「それは焦りすぎだろう。今の状態では短距離しか勝てないぞ。トレーナーはなんて言ってるんだ」

 

俺はキングヘイローの能力を見ながら答える。この子は優秀だから短距離なら問題はないだろう。

他の距離特性は劣るものの成長期のこの子たちが化ける可能性は十分ある

 

「あら?私のように優秀なウマ娘にトレーナーなんて不要よ!」

 

そういってキングヘイローは高笑いをする。

確かにすぐトレセンに入学できるだけでも他の地方のウマ娘とは違って優秀だろう。

だが一人での練習には限界があるし他者の視点は重要だ。

メンタルのケアも特にこの年頃の子には重要になるだろう。

 

「・・・そうか。それでなんで結果が欲しいんだ」

「・・・それは」

 

話を聞くと家出同然で出てきたキングは実家に対してどうも隔意を持っているらしい。

 

「・・・要は母に実力を認めてほしいのか?」

「違うわよ!優秀な私をみんなは知るべきだって言ってるの!」

 

キングヘイローが怒ったように言う。パフェを顔につけたままでは迫力がないが。

 

「・・・でも短距離の方がいいのかしら?」

 

悩んだようにつぶやく彼女は悲し気に目を伏せる。

 

「・・・5年」

「え?」

 

思わず口をついた言葉にキングヘイローは不思議そうな顔をする。

 

「くだらない夢のために5年を無駄にした男を俺は知っている。

人には捨てられない夢があるだろう。たとえ失敗したとしても」

「捨てられない夢・・・」

 

俺はキングヘイローの言葉に頷く。

 

「そうだ。それが本当に自分の夢なら追いかけるべきだと思う。

逆に人から押し付けられた夢なら捨てるべきだろう」

 

「・・・私の夢」

 

キングヘイローは考えるようにつぶやく。

捨てられない夢なら追いかけるのもいいだろう。俺とは違って彼女には才能があるのだから。

もう少し彼女には将来を考える時間が必要なのかもしれない。

 

「あそこの学園はみんな優秀だけど少し急ぎすぎているように思うな」

「え?急いでないよ?のんびりもしてないけど」

「いやそういうことじゃなく」

 

首をかしげるハルウララの言葉に俺は苦笑する。

 

「3年縛りだったかな?3年では結果が出せない子もいるし期間があまりにも短い」

 

トレセン学園では新人は3年での結果を求められると聞いたことがある。

2千人以上を誇るマンモス校で教師やトレーナーも合わせて400人以上いる。

教育費や競技費用など年間何億もの金が動く場所では結果が求められるのは仕方がないことなのだろう。

ウマ娘も新人トレーナーの移り変わりもあまりにも早い。

ウマ娘のレース活動は続くとしても、その子と共にいるトレーナーは交代していく。

 

「あまりにも結果が早く求められていると俺は思う。まあ、みんな条件は同じなのであとはやり方だろう」

「やり方?」

 

俺は真剣な目をしているキングヘイローに考えたことを告げる。

 

「ああ、短距離のレースで結果を出しながら少しづつマイルや中距離で適応するスタミナをつければいい。

 別にデビューしたばかりで方向性を狭めることもないだろう。あとは優秀なトレーナーをつけることだな」

 

俺は考え付くままにほかにもいくつかの練習方法をキングヘイローに教える。

実際マイルから長距離まで対応する才能のあるウマ娘は多数存在する。

なら短距離から中距離まで適応するのは不可能ではない。

 

「・・・へえ。決めたわ!」

「え?何を」

 

キングヘイローは俺を指さしながら堂々と宣言する。

 

「あなたにこのキングのトレーナーになる栄誉を上げる!」

 

「・・・え?」

 

俺は突然の宣言にびっくりするが少しして苦笑して答える。

 

「・・・残念だけど俺はトレーナー資格持ってないんだ。ただの一般人なんだよ」

「そうなの?そんなに知識があるから私てっきり・・・残念だわ」

 

肩を落とすキングをなだめながら俺はなるべく早くトレーナーをつけることを彼女にすすめるのだった。

 

 

「ありがとう!ごちそうさま!」

「ええ、礼を言うわ。ありがとう」

「こちらこそ」

 

俺は手を振り彼女たちと別れる

 

「・・・本当にありがとう」

 

キングヘイローの一言は俺の胸を温かくした。

今までの苦労がなんだか報われたような気がして嬉しさがこみ上げた。

だけど自分にはその手を取る資格がなかった

 

「なりたかったよ・・・本当に。俺もキングのトレーナーに・・・」

 

二人の背中が小さくなり見えなくなると俺は首を振って背を向けて夜の道を歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




困っている人を見捨てておけない。それがキング
同室だけあってある意味人の良さはハルウララと共通なのかも

ただこの世界ではキングはダンシングブレーヴとグッバイヘイローの因子を受けついでるので十分行けるはず

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