「ウオッカも”海外をめざすー”なんて言ってるのよ」
「・・・そうか」
ダイワスカーレットの前に紅茶を運ぶ。
今回もおせっかいなキングヘイローが彼女をつれてきた。
「ありがとう・・・私も今のチームで伸び悩んでるのよね」
・・・もう連れてくるなといってるのに。キングヘイローは絶対許さない。
「でも今のチームを移動しても当てがないのよね・・・フリーになるからは・・・その、一人だと困るし」
・・・明日は休みだしトレーニングを2倍ほど増やすか。今の体力と筋力ならたぶんいけるだろう。
「ねえ、ちょっと聞いてる?」
「・・・ああ、専属トレーナーを探して欲しいということだな」
「そんなこと言ってないし!・・・そうだけど」
俺は彼女の前に5枚の紙を並べる。
「性格や相性を考えればこのあたりだろう」
5枚の調査書の写真には人のよさそうな優しげな顔が並んでいる。
「この人たちが・・・」
ごくりとスカーレットが喉を鳴らす。
「新人だから経験不足は仕方ないがここに来る以上能力は問題ない」
「この中から決めるのね・・・じっくり考えて・・・」
スカーレットはじっと穴のあくほど写真を見つめる。
「残念ながら時間はあまり無い。できれば今からでも会いに行って欲しい」
もう学生とトレーナーの組み合わせはほとんど決まりかけて残りは少ないからな。
相手が決まらないトレーナーはいずれ他のチーム入りになる。
「そ・・そんな、この中からなんて・・・」
スカーレットは迷ったように書類に目を落とす。
「その中からというわけじゃない。性格が合わなければまた来年見つければいい。
自分の人生を左右することになるのだから」
「人生を左右・・・」
「それにキングに言わせると運命の相手は会った瞬間に分かるそうだ。そうでなければ違うのだと」
「会った瞬間わかる・・・」
スカーレットは壊れ物を扱うように書類を抱え込む。
「ありがとう!相談してよかったわ!」
「ああ、いい出会いがあることを願っている」
俺は礼を言って喜ぶスカーレットを見送った後、盛大にため息をつくのだった。
「もう連れてくるなって言っただろ!なんで結婚相談所のようなまねごとしなきゃならんのだ!」
「大声出さなくでも聞こえてるわよ・・・」
俺はキングヘイローに大声を上げるがキングヘイローはこりた様子もない。
トレーニング後のぐったりした姿勢のままカワカミプリンセスに飲み物を渡されている。
「仕方ないでしょ。スズカさんやネイチャさんやクリークさんを見たら・・・
他の子たちに泣きつかれるのよ」
サイレンススズカもナイスネイチャもスーパークリークも
専属トレーナーとの出会いのきっかけは俺たちだと思われているが・・・
「そんなもの彼女たちの運が良かっただけだろ」
「彼女たちはそう思ってないわ・・・」
サイレンススズカはまだしもナイスネイチャはアオ君が友人と歩いてた時のことだし、
スーパークリークは迷子・・・いやハルウララが迷っている彼に学園を案内してた時の出会いだ。
どちらも全くの偶然だ。結果的に彼女たちの運の良さにすぎない。
「みんな王子様に出会いたいのですわ」
「うぐっ・・・核心を突くことを言いますわね」
カワカミプリンセスの言葉は真実でもある。
・・・いやトレーナー探しは言い訳や方便だとも言える。
要は相談にくる子たちは彼女達を見て恋人が欲しくなったのだ。それが優秀なトレーナーであるならなお良い。
「とにかく俺はもうしないぞ!もうやめる!」
「ここまできたら辞めれるわけないでしょ・・・」
キングヘイローはため息をつくが・・・
今年のトレーナーなんて相手が決まってない人は残り少ないので、相談してくる学生全員に紹介するのはもう無理な話だ。
「そういえば今、スカーレットさんが引退するかもとか言ってましたわ。トレーナーと結婚するかもしれないんですって!」
カワカミプリンセスの言葉に俺たちは驚く。
「もう見つけたのか!?そういえば彼女先行脚質だったな・・・」
「冗談言ってる場合かしら。見つかったなら良いのだけれど・・・」
「一目惚れなんて運命ですわね~」
カワカミプリンセスの説明だともう相手のトレーナーを見つけたらしい。1日たってないだろ・・・
「部屋を飛び出して一人目に出会った瞬間決めたとおっしゃってましたわ!」
「・・・それ本当に大丈夫か?責任持てないぞ!」
「相手のトレーナーの性格に問題は無いでしょ・・・というか相手のことあなたたちが調べたんでしょ」
そこまで言ってキングは慌てて俺を引っ張って物陰に隠れる。
「おい、どうしたんだ?」
「静かに!」
やがて廊下を走る音と共にドアが蹴破られるように開く。
「おいっ!キングとあの噂のトレーナーはここにいるかあっ!」
「いえ?まだこちらにはきておりませんが。ご用件があれば伝えておきますが・・・」
部屋に入ってきたウオッカにカワカミプリンセスはにこやかに対応する。
「チッ。邪魔したな!俺も早く探さねえと・・・」
そしてまたドタドタと足音が遠ざかる。
「なんだあれは?」
「おおかたスカーレットさんに自慢されて自分も専属トレーナーが欲しくなったんでしょ」
俺たちは隠れていた物陰からはい出す。
「・・・俺の噂ってなんだ?」
「・・・あなたは知らないほうがいいわ」
そう言ってキングヘイローはそっと目をそらす。おい、めちゃくちゃ気になるんですけど!
「しかしどうするか・・・きっとまたやってくるぞ」
「もうこの部屋は使えないわね・・・」
「それならお引越しをすればよろしいのでは?
反対側の建物にはまだいくつか空き部屋があったはずです」
カワカミプリンセスはそういって窓の外の建物を指さす。
「仕方ないわね・・・」
「そうするしかないか・・・」
そして俺たちは別の部屋に引っ越しをしてしばらくは彼女たちから隠れながら過ごすのだった。
後日ダイワスカーレットに渡した書類を巡って、血で血を洗う争奪戦が繰り広げられたと聞くのはもう少し後のことである。
残り4枚のうち1枚はトウカイテイオーがとったと聞きますが残り3枚の行方は依然不明。
ダイワスカーレットさんは身の危険を感じて理事長に保護を求めたとも言われる都市伝説があるようです。
あと第3棟にはおじさんの姿をした愛のキューピッドが住むという都市伝説が・・・
orione様、あのときの様、誤字報告ありがとございます。感謝です!