王のもとに集いし騎士たち   作:しげもり

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アグネスタキオンの薬

「理屈はわかるが・・・」

「なぜだい?今も変わらないだろう」

 

机に置かれた瓶を前に俺は押し黙る。

いくつかは小瓶に小分けにされて中身の分量を変えられている。

隣にはアオ君や後輩君もいて熱心にメモを取っている。

 

「あら、めずらしいわね」

「やあ、おじゃましているよ」

 

部屋に入ってきたキングヘイローにアグネスタキオンは気軽に返事を返す。

 

「どうしたのよ」

「ああ、皆に新しく開発した薬を飲んでもらおうと思ってね」

「えっ?」

「・・・いや驚くことじゃない。効果が良いのはわかるんだが」

 

難しい顔をしたキングに俺は説明する。

 

「俺たちは人生で何回注射うってると思う?」

 

「う~ん。1年で予防接種やワクチンなんかで2回としても80歳までで140回ほどかしら?」

 

「薬だけでももう少しいくけど、ケガや骨折、病気をすればその2倍はいくだろうけどな」

「アメリカのウマ娘はその4倍はいくけどねぇ」

 

「そんなに!?」

 

キングヘイローは驚くが、アメリカのウマ娘はレース前に予防としてプロセミド(ラシックス)うつからな・・・

その他にも薬物使用は多いので回数が多くなる。

改正されつつあるがドーピングはアメリカ競馬の問題でもある。

 

注射だけでこれだ。飲み薬などを考えると俺たちが体に取り入れている薬は相当なものになるだろう。

 

「私はね、この状況を変えたいんだよ。せめて関節を傷めることがないように

現状のヒアルロン酸とトリアムシノロンはなんとかしたい」

 

「関節内注射ですか・・・トウカイテイオーの時に考えましたが・・・」

 

トウカイテイオーの専属だけに後輩君は彼女の言葉を熱心に聞いている。

 

「皆への飲み薬の件、考えておいてくれたまえよ」

 

そういって帰っていくアグネスタキオンを見送り俺はため息をつく。

 

「また薬の話?相手にしちゃダメよ」

 

「いや、彼女の言うことは一理ある。今でも俺たちは薬漬けなのだし

注射よりも副作用の無い飲み薬で何とかしたいというのもわかる」

 

タキオンの説明を聞く限りではこの薬はだだの関節用の薬だし、成分も危険物は入ってはいない。

 

「しかも彼女にその技術がありますからね・・・」

 

アオ君がメモを見返して感心したようにつぶやく。

 

多くの人やウマ娘は病気になれば薬を打つが、現状それしか対応策がなければ薬に頼るしかない。

アグネスタキオンと医者の違いは単なる信用度の差でしかない。実績の差とも言える。

 

アグネスタキオンの熱意と科学技術は本物だが、副作用がないと完全に判断するには時間がかかるものが多すぎる。

 

「彼女なりに骨折の多い現状を何とかしたいんだろうな。この間は妊娠薬を開発したと言っていたが」

 

「妊娠薬!?」

 

「出産での死亡率を何とかしたいんだと・・・スペシャルウィークには言うなよ。被検体になりかねん」

 

「言わないわよ!」

 

顔を赤くしてキングが反論する。

 

ウマ娘は出産前後や産褥熱などで多くの薬使うからな。

母体の影響減らすために時期をコントロールして妊娠させるのは本末転倒だと思うが。

 

 

「・・・それじゃあ」

「・・・飲みますか」

 

話を聞いていたアオ君や後輩君は瓶を手に持つ。

 

「それじゃ飲むか。各自体温の計測を忘れずに」

 

俺は腕のスマートウォッチを確かめる。

 

「ちょっとちょっと!」

 

小瓶を手に持った俺たちにキングが慌てる。

 

「なんだ?」

「それ・・・大丈夫なの?」

「タキオンの知識は信用できるぞ。それに被検者は多い方がいいだろ。治験バイトみたいなもんだ」

 

俺も瓶を手に持つ。

 

「・・・あ、俺たちだけだとウマ娘への影響がわからないか」

「・・・仕方ないわね」

 

俺のつぶやきにキングヘイローは残った瓶を片手に持つ。

 

「おい、キング!」

「なによ・・・あなたたちがタキオンさん信じてるなら私も信じるわよ

それにみんなのためになるなら飲まないわけにはいかないでしょ!」

 

キングヘイローはそう言って高笑いをする。

 

「・・・お人よしめ」

「あなたたちもでしょ」

 

まあ、トレーナーみんなウマ娘のためならなんだってやるだろう。

学園の中のトレーナーはバカばっかりだ。俺もそうかもしれないが。

 

俺たちはそろって小瓶の中身を飲み干す。

 

「・・・何も起きませんね」

「関節用の薬だからなぁ」

「・・・体温、血圧異常なし。これどれくらい続けるんですかね」

「最低1カ月はいるだろうなぁ」

「これ少し苦いのよね。成分はヒアルロン酸とかコラーゲンとか?」

「飲めなくはないが・・・さすがに彼女のことだから経口摂取できるようにしてるだろうけどな」

「分子結合変えたと言ってましたし」

 

俺たちはしばらくの間、黙々とデーター取りを行うのだった。

 

 

 

 

――後日

 

「え?タキオンさんから薬?もらってるけど」

「薬を見つけたぞ!スカーレットを捕まえろ!!」

「えっ?えっ?」

 

後日タキオン印の関節痛の薬が美肌効果があることがわかり、学園の生徒の間で奪い合いの騒動になるのはもう少し後の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ダイワスカーレットさんは身の危険を感じて理事長に保護を求めたとも言われる都市伝説があるようです

ウマも人も薬は共通だよねというネタ。アメリカの獣医師が馬に応用したのが始まりらしいですが。
タキオン先輩はウマ娘の中で実際に歴史を変える知識を持つのでは?という話(医学的に)



やはりスマートファルコンがダートAで実装されましたね
ストーリー見る限りでは思ってたのと性格が違うw

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