王のもとに集いし騎士たち   作:しげもり

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海外から来たウマ娘

 

 

 

 

「なぜこんなことに・・・許せない」

 

金色の長い髪の少女がつぶやく。

目の前では明るく手を振るハルウララがいる。

その可憐な笑顔に目を奪われるが、周りからはハルウララを笑う声が聞こえる。

 

 

『やっぱり駄目だなぁ』

『海外で活躍したなんてフェイクニュースだろ』

『連敗記録を更新するんじゃないか?』

『また負けちゃったねえ』

『まあ、次があるさ。いつか勝つだろうさ』

 

観客席で笑い声が起こる。

ハルウララは人気があるため好意的な意見もあるが、彼女を笑うものも多い。

ゼンデンは思う。こんなことが許されていいはずがない。

彼女は史上最速。ダートの王者ともいえるウマ娘だ。もっと敬意を払われるべきだ。

 

こんな適性の合わないレースで笑われるべき存在ではない。

 

「決めたわ・・・」

 

 

 

 

「ウララさん!一緒にアメリカに帰りましょう」

「ええっ!?・・・そんなこと言われても」

「突然現れて勝手なこと言わないで!」

 

突然部屋に現れたゼンデンというウマ娘とキングヘイローが言い合いを始める。

ハルウララは二人にそれぞれ腕を持たれて困り果てている。

 

「二人ともちょっと落ち着け」

「そうですよ、ウララが困ってます」

「あわわっ。腕を引っ張るのはやめてー」

「あっ・・・ウララさん。ごめんなさい。でも私は許せないんです!」

 

アオ君が間に入りなんとか二人を止める。落ち着いたウマ娘に話を聞くと・・・

 

 

 

ゼンデンは引退したウマ娘だ。思い入れのあるドバイのレースを見に来た時ハルウララを見た。

その時の感情は一言では言い表せない。驚き、羨望、期待・・・そして大きな悲しみ。

一度でいいからあの子と走ってみたかった。ハルウララの走りはゼンデンを虜にした。

 

レースで最低人気で相手にされなかったところから勝利をもぎ取った経歴もあり

ハルウララに強い親近感を抱いてますますファンになった。

 

そして彼女がその熱意で日本語を学び日本行きを決めるのもそう時間はかからなかった。

しかしやってきた日本でハルウララの置かれた状況を知ってしまう。

 

「ウララさんが笑われるのが我慢なりません!」

「気持ちはわかるが、ウララさんに人気が出る以上仕方ないからな・・・」

「むつかしいところですが、ウララは皆にバカにされてるわけではないんですよね・・・」

 

本当にウマ娘に観客が興味がなければ彼らの行う反応は無視だ。

走っても無視され新聞にも載らず悲しい思いをするウマ娘は大勢いる。

ハルウララは人気があるためバカにされて笑われているというわけではない。

いわばお笑い芸人枠というかレースにお約束のオチをつける存在というか・・・

まあハルウララの能力を知る人が、そんな芸人に甘んじている状態が許せないのはわかる。

 

 

「それでも許せない!ハルウララさんを連れて帰ります!」

 

「そんなことできるわけないでしょう!」

 

ゼンデンとキングヘイローが言い合いを始める。

 

「ウララさんもその方がいいに決まっています!聞くまでもないでしょう!」

「それなら聞いてみればいいわ!」

 

二人が一斉にハルウララの方を向いて尋ねる。

 

「「どっちですの!?」」

「う~ん、私は日本にいるほうがいいよ」

 

ウララはあまり悩むこともなく明るく答える。

 

「日本にはみんながいるし・・・それに私、英語ができないから!」

 

「はぁ?・・・いやそんなはずは・・・ええ!?」

 

ゼンデンは混乱しているが無理もない。

 

ハルウララはジェスチャーと独特の明るい雰囲気で乗り切っているので一見気づかないが英語が喋れない。

そのくせなぜか各国のウマ娘と意思疎通が成り立っている。

とんでもないコミュニケーション能力ともいえるが・・・

だからこそ諸外国の人に囲まれるハルウララを遠くから見るとみんな勘違いをしてしまう。

 

「そんな・・・あっ、痛たたっ」

 

力が抜けて座り込んだゼンデンは足を抑えて苦しみ始める。

 

「あなた、大丈夫?」

「どうしたの?足が痛いの?」

「足の痛みが消えないんです・・・骨折の痛みが消えなくて」

 

ゼンデンは顔をしかめながら答える。

 

「それならこれ飲んで見てよ!よく効くから」

「あっ、それは・・・タキオンの・・・」

 

ハルウララは部屋の隅に置いてあった瓶を手に取って渡す。

 

「ウララさんがそうおっしゃるなら」

 

俺たちが止める間もなくゼンデンは瓶の中の薬を飲み干してしまう。

するとゼンデンは驚きで目を丸くする。

 

「これは!足の痛みが消えた!?・・・ウララ様!ありがとう・・・ありがとうございます!!」

 

号泣してゼンデンはハルウララに抱き着く。

 

「・・・なんともないようね。良かったのかしら?」

「筋肉密度と骨密度のテスト用なんだが・・・」

 

キングヘイローが首をかしげるが、あれはアグネスタキオンが置いていった新開発の薬だ。

みんなには絶対に飲むなといっていた薬なんだが・・・

 

喜んで飛び跳ねるゼンデンとハルウララを、俺たちは複雑な気持ちで見つめるのだった。

 

 

 

 

 

「私はきっとまた戻ってきます。その時はウララ様を必ずアメリカに連れ戻して見せます!」

 

ゼンデンはリハビリのためアメリカに帰ることになった。

ゼンデンは出発時間ギリギリまでハルウララの手を放そうとはせず名残を惜しんでいる。

 

「いろいろと突っ込みどころが多いがウララさんが英語を話せないと無理だと思うな・・・」

 

「うん!また遊びに来てくれるとうれしいな!」

「ええ・・・その時には共にダートを駆け抜けましょう」

 

俺たちは手を振って去ってゆくゼンデンを見送る。

 

「先生、ほかにも海外からウマ娘が来そうですね」

「・・・言うな。とりあえず学園の警備を強化してもらわないとな」

 

アオ君の言葉が現実になりそうで怖い。

ハルウララへの海外からのファンレターが増え続けているからな・・・

 

 

俺は飛び立っていく飛行機を見送る。

これ以上問題を連れてこないでくれと願いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




かがち様、矛盾者様 誤字報告ありがとうございます。感謝です。

感想をもらったのでもう少し続けることに。次回はもう少し後になるかも

海外オリキャラ登場です。海外編で登場予定。

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