王のもとに集いし騎士たち   作:しげもり

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迫る闇

 

 

 

 

「証拠は取れた?」

「ばっちりです!」

「良くこんなの撮れたな・・・」

 

俺はキングヘイローの取り巻きたちが撮ってきた映像を見て驚く。

映像には脅されているウマ娘と薬を打たれる瞬間が映し出されている。

 

「どこも隠そうとはしてませんでしたからね余裕でした」

「それだけ日常的に行われてるってことね」

 

これをネットで公開するか。ウマ娘の身元は分からないようにしないとな

 

「映像を消されないようにウマッター社に工作費も払わないといけませんわね・・・」

「それは賞金をあてるしかないか・・・」

 

パソコンを操作しているカワカミプリンセスが難しい顔をする。

ネット工作費もいくらかは払わないといけないだろう。

戦争には金がかかる。頭の痛い問題だ。

 

「セクレタリアトさんやシービスケットさんを仲間に引き入れました!」

 

ゼンデンが部屋に飛び込んでくる。彼女はウマ娘を仲間に引き入れるために飛び回っていた。

 

「本当?!すごいわね」

「よく仲間になってくれたな」

 

歴史的ウマ娘で映画にもなった大女優の二人だ。

 

「もちろん親族の娘たちの治療が条件ですが。

あとはサージェントレックレスさんもです!

戦友の治療に困ってましたので」

 

思っていたよりも有名人の親族にまで被害は広がっていたらしい。

 

軍曹(サージェント)?そんな子いたかしら」

「レースには出ないが超大物だぞ。それに彼女は今は大佐のはずだ」

「彼女が仲間になれば一気に社会問題化しますね」

 

サージェントレックレスはアメリカ軍のウマ娘トップだ。

コカイン入りのコカ・コーラや覚せい剤製造の過去もあるように

軍部は薬物と切り離せない。

今の軍隊も薬物関係は深刻な問題だ。

 

「これで勝ったも同然ね!」

 

キングヘイローは高笑いするが、かかった費用を考えると頭が痛い。

 

大至急に薬を送ってもらったが製造費を含めて結構かかった。

”治療結果を送ってくれたまえ”とアグネスタキオンには言われたが

資料の取りまとめと薬の送付で大忙しだ。

 

 

「あとはウララ様に実地指導してもらえるとSNSに書けば登録者はうなぎ上りです!」

「いや無理だろう。現実的に考えて。車で各地を回ることなんて無理だ。」

 

俺はゼンデンの言葉に冷静にツッコミを入れる。

 

「このままで済めばいいがな」

 

俺はため息をつくのだった。

 

 

 

 

 

ハルウララはじっとレース場を見つめていた

 

「ウララどうした?」

「あ、トレーナー。どうやったらみんなが楽しくなるのか考えてたんだ」

 

アオ君の言葉にまたハルウララは考え込む

 

「レースに勝てばいいのかな?」

「勝たなくてもいいんじゃないかな?」

「えっ?」

 

ハルウララは驚いてアオ君を見る。

 

「空が青いよね。この青空の下を走ったら楽しくなると思うよ。

みんな大切なことを忘れてるだけさ」

「トレーナー・・・」

 

ハルウララは空を見上げる。

 

「みんなが笑えるようになるかな?」

「もう笑えてますよ。ウララ様」

「そうです。ウララさんたちの気持ちは皆に通じています!!」

「えへへ、そうかな?」

 

ゼンデンとビッグブラウンの言葉にハルウララは笑う。

 

――デルマー 競馬場

  ビングクロスビーステークス(G1) ダート1207m(6f)

 

 

 

「ウララさんのあのサングラスはどうにかならないのか・・・」

 

「ウララが気に入ってしまって・・・」

 

 

コースに出てきたハルウララはハート形のピンク色のサングラスをしている。レーザー照射などの妨害を防ぐためだ。

これからは妨害工作もひどくなるだろう。ネットにも攻撃的な書き込みが多くなりつつある。

 

「帰ったらタキオンに頼み込んでコンタクトレンズの開発をお願いしよう」

 

ウマ娘のためなら協力してくれるだろう。開発費は取られるだろうが・・・

 

 

 

 

ハルウララがサングラスを上げて周りを見回すと調子のおかしい子が何人かいる。

熱があるのか顔が赤かったり逆に震えているような子だ。

みんなが言っていた脱水症状になっているのだろう。

 

「みんな大丈夫だよ。なんとかするからね」

 

「お前何言ってるんだ」

 

小柄な白い前髪と黒色の髪をした軍服を着たウマ娘がハルウララをバカにしたように笑う。

 

「勝ち負けなんかじゃないんだよ。

 本当のレースってねここがポカポカあたたかくなるんだよ」

 

そう言ってハルウララは胸に手を当てる。

 

「みんながまた笑えるようにするよ。もちろんあなたもね」

「・・・ふん。一人で何とかしようってか?頭がどうかしてるぜ」

 

きつい言葉を言うウマ娘だが尻尾が勢い良く揺れている。彼女も期待しているのかもしれない。

 

 

 

「えへへ、ウララいきま~す」

 

ウララはゲートに入る。そして土をゆっくりと踏みしめる。

 

――走ろう。みんなを笑顔にするために

 

そしてゲートが開いた。

 

 

 

乾燥して岩のように固い地面。

 

その土を削るようにハルウララは駆ける。

 

 

蹄鉄が固い路面を砕き砂が空を舞う。

 

「嘘だろ・・・」

 

軍服を着たウマ娘はハルウララの脚力に驚愕する。

 

「岩を砕くような重い蹄鉄をつけてなんであの速度を出せる!?」

 

ウマ娘たちは速度を上げるがハルウララに次々に抜かされていく。

 

 

竜が咆哮を上げる。それは巻き起こる風が聞かせる幻聴なのかもしれない。

 

 

ハルウララの振りぬく腕が風を巻き起こす。

ハルウララはふと青空が高知の青空と同じ色をしていることに気づいて笑みを浮かべる。

 

踏み込んだ脚は砂を巻き上げていった。

 

 

 

 

 

「ウララさーん!」

「ウララ様―!」

 

応援席で俺たちは声を張り上げて応援する。

 

「全く勝たなくてもいいなんてとんでもないこと言うのね」

「あはは・・・まずかったですかね?」

 

笑うアオ君にキングヘイローがため息をつく。

 

「そんなこと言ったらウララさんが勝つに決まってるじゃない」

 

 

 

 

見つめるその先にはコース上に砂嵐が巻き起こり始めていた。

後続のウマ娘たちはハルウララに追いすがろうとするが誰も追いつけない。

 

砂嵐を突風と主に抜け出たハルウララはゴールに飛び込んでいった。

 

 

 

「新記録!新記録が出ました!1分3秒8!歴代最速です!」

 

アナウンスと共に観客席がどよめく。

 

『おい、あの子凄いぞ!』

『なんだ、あの走りは。以前のレースで故障したんじゃないのか?』

『あの子海外から来たのか?本当に?』

 

 

「やったわ!」

「勝ちましたね」

 

観客席は興奮に包まれている。

 

「しかしあの人が出るとは思いませんでしたね」

「ああ・・・ウララさんの顔を見に来たのだろう」

 

自分が信頼できるウマ娘かどうか見に来たというところか。

しかし大佐直々とは大げさな。テロでもあるまいし・・・

 

「しまった!」

 

そこまで考えて俺は大声を上げる。

 

「え?どうしたの?」

「ウララさんが危ない!」

 

 

 

 

 

レースが終わりハルウララは控室への通路を歩いていた。

ハルウララが通路を歩いていると三人の黒服を着た男たちに前をふさがれる。

 

「あれ?ウララに何か用?そこを通して欲しいんだけど・・・」

 

男たちはハルウララの言葉に答えずに服の中から銃を取り出す。

 

「我々についてきてもらおう」

「うわわわっ!」

 

ハルウララは驚いてもと来た道を全速力で戻り始める。

 

 

「ちっ、殺すな。捕まえろ!」

 

 

黒服を着た男に追われるハルウララは通路を必死に走る。

 

 

「こっちだ!」

 

そのとき横の通路から現れた軍服を着たウマ娘がハルウララを引っ張り通路わきの扉に押し込む。

そこは非常階段が上に続いていた。

 

「いいか、ここを上って突き当りをまっすぐ行くと仲間のところに行ける。すぐに行け」

「で、でも・・・」

 

突然のことにハルウララは慌ててしまう。

 

「ハルウララ。仲間のことを頼む」

 

軍服のウマ娘はハルウララの瞳をじっと見つめる。

 

「よそから来たお前にこんなこと頼むのは間違ってるとわかってはいる。

だけど俺たちにはお前しか頼るものがいないんだ。お前は俺たちの希望だ」

 

そう言ってハルウララの頭を乱暴に撫でた後ウマ娘は扉の外に飛び出していった。

扉の外から争う物音が聞こえてくる。

ハルウララも扉を飛び出そうとしたが、何かに扉がふさがれているのかびくともしない。

 

 

「まだ名前も聞いてないのに・・・」

 

ハルウララはこぼれそうな涙をぬぐうと振り返らずに駆け出して行った。

 

 

 

 

俺たちはハルウララと出会った後、話を聞くと慌ててレース会場を飛び出す。

 

「競馬場協会に助けを求めればどうでしょうか?」

「いや、競馬場に武器を持ち込んでいるからな。会場や協会の一部が敵になっている危険がある」

 

武器を競馬場に持ち込んでいるとすれば内部に協力者がいると考えたほうがいいだろう。

 

「ウララが心配です。レース出場は見合わせないと・・・」

「それもだが警備だな。相手は銃を持っている」

 

日本とは違うとわかってはいたが、実際に事件に合うとどうしようもなくなる。

 

 

「それなら心当たりがあります!」

 

俺たちの話を聞いていたゼンデンが自信ありげに声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




軍服ウマ娘 

軍曹と呼ばれた馬

軍馬サージェントレックレス(Sergeant Reckless)モンゴルで生まれた馬
朝鮮戦争の戦火の中で負傷者を背負って走り抜け単独での補給も成功させる
アメリカに戻った後は司令部より正式に参謀軍曹へと任命された
米軍の歴史において最も多くの勲章を受けている

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