「不正がまかり通っている!八百長ばかりじゃないですか!
アスコットでのレースの超音波事件を忘れたとは言わせない!」
食堂に俺の大声が響き渡る。
「おまけにレースでまだ幼い女の子に罵声を浴びせる異常者ばかりだ!マスコミなどは頭がイカレている!」
徐々に熱がこもり大声が響く。
「今のレースなんて犬のクソだ!まじめに努力している彼女たちの顔に泥をぬって老人たちは平気な顔をしている!」
「あなたちょっと落ち着きなさい!」
俺はキングヘイローの声ではっとなる。あたりを見回して慌てて椅子に座りなおす。
「すいません。失礼なことを言いました」
「いえいえ、いいんですよ。ですが私は不正は過去のことと信じています」
「・・・はい。おっしゃる通りです」
困ったように笑うたづなさんにひたすら俺は頭を下げる。
時折挨拶をしてくる彼女が受付嬢なんかではなく、事務局の最高責任者で理事長の片腕だと知ったのは最近のことだ。
知識も豊富でレースのことをよく熟知していて、レースの生き字引きともいわれるほど過去のレースにも詳しい。
こんなことになったのは食堂でキングヘイローを連れたたづなさんに話しかけられて、昔のレースのことに話が行ったからだ。
少し熱くなったせいでみんなの注目をあびてしまった。せっかく食堂の片隅で食事してたのに・・・
そこの女子学生たちこちらを見てコソコソ内緒話をするのやめてくれませんかね?
「あんたも熱くなりすぎよ。でも不正なんて行われてるの?」
「・・・今でもな。みんな自分の人生をかけてるんだミスはしたくないだろ?
話し合いで決まるならそれに越したことはない」
「それは・・・」
「なら言わせてもらいますが芝、中距離のG3レース後のライブ、どうして右前列はいつも同じメンバーなんですかね?」
「・・・」
押し黙ったたづなさんに俺は慌てて頭を下げて謝る。
「すいません。妄想ですよ。くだらない俺の妄想です」
俺は乾いた笑い声をあげる。どうもここにきてウマ娘に感情移入しすぎているきらいがある。
昔はこうじゃなかった。不正を見ても見ないふりをしてきたじゃないか。
そんなこと世の中ではよくあることだ。
それにキングヘイローたちのような将来のあるウマ娘を評価しない世間に憤りを感じている。
・・・いや今まで俺を評価しなかった世間に憤っているのか。これでは逆恨みだな。
「ですが・・・」
「ああ、そういえば俺になにか話があるんじゃないんですか?」
俺は慌てて話を変える。
「ええ・・・どうも書類が出てないようなんですが」
「え?」
おれは慌ててキングヘイローを見る。キングヘイローは思い当たることがないのか首をかしげているが。
「どうも書類を探したんですが無いんですよ」
「・・・はあ」
そんな話は聞いてないぞ・・・ひょっとして俺が一般人だとバレたのか?
背中を冷汗が流れる。
「ですから早く書類を出してください。チーム登録届と物品購入目録と消耗品請求届を。
3人もメンバー抱えてるんですからなるべく早くお願いしますね」
「申し訳ないです。すぐにお届けします」
俺はキングヘイローをにらみつける。
・・・あいつ目をそらしやがった。何が書類はこのキングに任せておけだ。
「それではなるべく早くお願いしますね」
「申し訳ないです。すぐに作成してお届けします」
俺は頭を下げてたづなさんを見送りその姿が食堂から見えなくなると盛大に息を吐く。
握りしめた汗でにじんだこぶしをゆっくりと開く。
「・・・緊張したぞ。書類のことなんて聞いてないぞ?」
「何言ってるのよ。端末にメール来てたでしょ」
「普通、あれが俺宛だと思わないだろ・・・」
部屋に置いているパソコン端末に届いていたメールを思い出す。
だいたい空いてるトレーナー室に潜りこんでるのに普通に過ごせてるのがおかしい。
キングヘイローはどんな届け出してたんだ?ハルウララのトレーナー君にフォローしてもらったとは聞いたが・・・
噂では切れ者らしい理事長に泳がされているとも考えられるが。
「あなた私のトレーナーなんだからしっかりしなさいよね!
一流の私には一流のトレーナーが必要なのだから努力しなさい」
「・・・善処するよ」
キングヘイローと言い合う気力すらなくなった俺は急いで書類作成のためにトレーナー室に向かうのだった。
どうしてライブでモブ子はいつも同じメンバーなんですかねということから思いついたネタ
エアグルーヴのカメラフラッシュとかもありますけど
スポーツではいまだにレーザー照射とかありますからね・・・