博多祇園は意地でも流行らせろ   作:胡椒こしょこしょ

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九州モチーフのキャラが居るなら、福岡モチーフのキャラが居ても良いでしょ!!!(郷土愛)


計画の始まり

朝。

ちゅんちゅんと小鳥が鳴く中、ゆっくりと1階のリビングに降りてくる。

この時間だ、両親は仕事に行ってしまっているだろう。

喉が渇いた。

お茶でも飲もう。

 

そう思って冷蔵庫を開ける。

すると、中には一色の緑。

中身が全てずんだ餅へと変わっていた。

冷蔵庫の中を制圧したかのごとく、所せましと並べられるずんだ餅。

 

「...馬鹿だろ。これ。」

 

両親は出る前に朝食を作っているはずだ。

なのに、それらしきものはなく、元々ある内容物の間を縫うようにずんだが並ぶ。

その中を占領したずんだ餅を見て、目を見張る。

こんなことが出来るのは、一人しか心当たりはない。

 

部屋中を見回す。

すると、クローゼットが微かに空いているのが分かる。

微かにではあるが、人が居ると分かる。

 

「...冷蔵庫のアレは、お前の仕業だろ?ずん子。」

 

そう言うと、ゆっくりとクローゼットが開く。

そして、悪戯っ子のような笑みを浮かべた緑髪の少女が立っていた。

 

「えへへ....見つかっちゃた.....。」

 

「...ところでさ、なんで居るの?」

 

冷蔵庫に気を取られていたが、冷静に考えるとなんで居るんだろう?

家の中にどうやって入ったのか。

もしや不法侵入ですかね....?

そう考えると、彼女は首を傾げた。

 

「えっ、ここに来た時に玄関で祇園ちゃんのお母さんに会って、起こして欲しいって言われたからだよ?」

 

「へぇ~。」

 

出る間際の母親と会ったのだろう。

彼女は幼馴染だ。

その辺、両親としては信用している....のかな?

だけど....。

 

「起こしてないじゃん。いや、別に今日は休日だから起こさなくても良いんだけど。」

 

俺がそう言うと、彼女は笑う。

 

「あっ、ごめんね。朝ごはん作ってたら起こす機会を失っちゃって....。起きて来たから驚かせようと思って隠れてたんだけど....」

 

「....朝ごはんって....、もしかしてアレ?アレ全部ってことは...ないよな?」

 

隠れていた理由はそういう理由だろうと予想はついた。

でも、朝ごはんってもしかして.....あの大量のずんだ餅とか言わないよな?

嫌な予感を感じながらも確認する。

すると、彼女は首を傾げる。

 

「えっ?全部だけど....何かおかしい?」

 

「いやおかしいでしょ。あんな量朝から食えるわけないよ。しかも全部ずんだ餅だぞ!?」

 

すると、彼女は更に不思議そうな表情をする。

 

「えっ?あの量を朝に食べるのって普通じゃないですか?ずんだ餅ですよ?」

 

「ちゃんにとってずんだ餅が一体何なのかを小一時間くらい聞きたいくらいだよ。」

 

どうやら目の前の少女にとってはあの量のずんだ餅を朝から食べるのは普通らしい。

東北家の食生活が心配になる瞬間だった。

彼女の妹は大丈夫なのだろうか....いや、姉の好みであるならあの少女は文句言わずに食べるだろうが。

 

すると、彼女が不安そうな表情になる。

 

「えっと...迷惑、だったかな?」

 

「....いや、食べます。ずんだ美味しいもんな。朝はずんだじゃないと力入んないっていうかさ。」

 

誤魔化すように二の句を継ぐ。

まぁまずいわけじゃない。

ずんだは上手い。

ただ朝にはあの量は辛いだけで。

でも、彼女のことだし言えば全部食べるのは勘弁してくれるだろう。

あの量だから.....昼に分けて食べるか?

 

「ですよね!祇園くん!」

 

眩しい笑顔を浮かべる彼女を見て、心中呆れながらもテーブルへと向かう。

すると冷蔵庫から沢山ずんだをテーブルに並べ始める彼女。

なんだろう、ずんだの品評会かな。

業者を家に呼んでるみたいだぁ....。

....この量、全部はやっぱり無理だなぁ。

 

「えーと、その。ずん子さん?この量全部は流石に無理なんで....食べられなかった分は昼とか夜に食べるってことで良いですかねぇ....?」

 

俺がそう聞くと彼女は笑顔でサムズアップする。

 

「いいよ!....それにしても、祇園くん案外少食なんだね....そんなんじゃ大きくなれないよ?」

 

「これ以上デカくなったら天井に頭付くでしょうが。」

 

それにこんなの全部朝食で食べられる方がおかしいでしょ。

そう思うも、そこは言葉に出さない。

目の前に並べられるずんだ餅を前に手を合わせる。

 

「頂きます。」

 

そう言うと、ずんだを一つ手に取って口に運んだ。

...うん、旨いね。

豆の香りと上品な甘さ、そしてもっちりとした餅。

多分これほどうまいずんだ餅は他にないのではないかと思う程のうまさだ。

だがそれとこれとは別。

いくらうまくても量と頻度が多ければ食傷気味になるというもの。

俺は笑顔で彼女に感想を告げる。

 

「うん、おいしいよ。」

 

「私のずんだですもの!当然!」

 

彼女はその感想に胸を張って自慢げに返す。

確か夢は東京にずんだカフェやずんだショップを作ってずんだを広めていく事だったか。

どんだけずんだが好きなのか。

彼女のずんだ好き具合には驚嘆させられる。

 

更に2~3個口に運ぶ。

...餅って結構腹に溜まるなぁ。

とにかく後に残せば残す程苦しくなるのは必然。

昼ご飯はさておき、一日ずんだは流石に食べたくない!

もっと別の物が食べたい!

そう思い、餅を口に運んでいく。

 

もはや味を楽しむと言うよりは腹に流し込むと言った要素が大部分を占めており、無心でただひたすら機械のように口に運び続けた。

そして10皿目。

もうね、腹はパンパンで苦しいんですわ。

身動き取りたくない。

 

「ご、ご馳走様でした....。」

 

「お粗末様でした!じゃ、後は冷蔵庫で保存しとくね」

 

「あ、あぁ....。」

 

自分が食べられたのは全体の3分の1。

まだ3分の2が....残っている。

少し、気持ちが暗くなった。

 

そうして、ふと思い立つ。

そう言えば彼女はここに来た時に母に言われてこの家に入った。

ならば、元々何しにここに来たんだろう?

 

「そう言えばさ、本当はお前何しに来たの?」

 

俺が問うと、ずん子は答える。

 

「いや、せっかくの休日だし、遊びに来たというか....」

 

遊びに来たか....。

なら、正直俺の家に来たってどうしようもない気がする。

あんまり最近のゲームがあるわけじゃないしな。

それなら....。

 

「なら、逆にそっち行こうよ。きりたんだって居るんだろ?」

 

思い浮かべるのは小生意気なずん子の妹。

先日、FPSでボロクソにやられて煽られたのでリベンジしたかったのだ。

大人を煽るとどうなるか....思い知らせてやる...秋田のガキィ!!

 

「祇園ちゃんが言うなら良いよ。」

 

「決まりだな。じゃあ着替えるから先に玄関で待っててくれ。」

 

そう言うと、俺は食器を全て洗い終えて2階の自分の部屋へと向かう。

そして出来るだけ急いで着替えたのだった。

 

 

 

 

 

 

「そうして態々私に負けに来たってわけですか?」

 

東北家の玄関で、彼女は勝気な笑みを浮かべる小さな少女。

ずん子の妹である東北きりたん。

背中にはきりたん砲なる大きなきりたんぽを背負っている。

狭い路地だと歩きにくそうなことこの上ない。

 

「この博多祇園を舐めるなよ....。俺は昨日までの俺じゃない。常に進化し続けているんだ。お邪魔します。」

 

「へぇ、大口叩いても知りませんよ?...また私がずん姉さまの目の前でボコボコにしてあげます!」

 

そう言うと、靴を脱いで家に上がる。

そして、きりたんに目を向けると彼女はある部屋へと歩き出す。

それはきりたんの部屋。

最早言葉は不要。

ゲームで決着をつけるってことか。

さすがは俺の好敵手。

 

すると、奥の方から戸を開けて白い髪の女性が歩いてくる。

 

「あら、誰かと思ったらおんちゃんでしたのね。」

 

東北三姉妹の長女、ずん子の姉である東北イタコさんだ。

なんでも、イタコ専門学校を主席で卒業するような凄いイタコで狐耳生えてたりするよく分からない人だ。

そもそもイタコ専門学校ってなんだ?

 

「どうも、イタコさん。ちょっとあなたの妹貸してもらいますよ。ケジメつけますから。」

 

「駄目ですわ!妹の指がなくなる瞬間を姉である私に黙ってみていろって言うんですの!?」

 

「....人の事、なんだと思ってるんですか?」

 

イタコさんをジト目で見ると、イタコさんは冗談と小さく笑う。

少し、イタコさんは苦手だ。

というより、年上の女の人が苦手なのだ。

そういうのは母親のせいでもあると思う。

 

反面、お父さんはまぁ....嫌いじゃないよ。

うん。

 

「うーん、おんさんは目つきが悪いですからね...」

 

「そ、そんなことないと思うけどなぁ....。」

 

「そんなことないですよ!祇園ちゃんはずんだを食べるときはそれはもういい笑顔で....」

 

多分それは嘘だと思う。

だが、目つきが悪いことは良く言われる。

なので慣れている。

慣れてはいるのだが少し傷つく。

 

「というか、せっかくおんちゃんも来たのなら外に行きますわよ!ちょうど運動しているずんちゃんの写真集を作る為にも外に行く必要がありましたの!それにセパタクローなるスポーツにも興味がありますもの!」

 

イタコさんが高らかにそう言うと、きりたんはどことなく顔を顰める。

 

「えぇ...外出たくないです....。」

 

「もうっ!偶には外に出なくてはなりませんよ?」

 

イタコさんはきりたんを説得している。

...写真集か。

イタコさんの夢はずん子を全国区のアイドルにすることだったか。

たしかずん子のずんだよりも彼女の写真集が売れるくらいだし、そのくらい注目されているのだろうか?

ずん子はスタイルも良いし、可愛いし明るくて親しみやすいから確かに人気が出そうだ。

それに髪飾りやなんか前に出してた枝豆みたいな弓とか弓道やってるとか個性豊かな少女だ。

それに比べて俺には何もない。

俺とは大違いだなとなんとはなしに思った。。

目つきが悪いって言われるし.....俺には何もない。

写真集とか....そういうのに、憧れるとかそういうことではないけど、でもそう考えるとなんというか....。

 

「....祇園ちゃん?」

 

「..あっ、いや.....何でもない何でもない。」

 

ずん子が心配した表情を浮かべて俺を覗き込む。

ちょっと表情が険しくなっていただろうか?

私は目つきが悪いって言われるしな....。

 

「そうだぞきりたん。やっぱ今日は復讐はなしだ。イタコさんが言っている通り、外でセパタクローでもやるか!」

 

「貴方までそういうこと言うんですか....。」

 

裏切られたような表情を浮かべるきりたん。

そんな彼女に耳打ちする。

 

「お前の面倒臭いという気持ちはわかる。...でもよく考えてみろ、写真集も撮る気なんだ。ずん子のあんな姿やこんな姿が見られるんだぞ?...それを、面倒だと言う気持ちで逃して良いのか?それは本当に東北ずん子の妹、東北きりたんだと言えるのか?」

 

「...確かに、ずん姉さまのあんな姿やこんな姿....ごくり。」

 

分かりやすく生唾を飲むきりたん。

まぁイタコさんの事だからそんないかがわしい服着せたりはしないだろう...しないよね?

すると、彼女はさっきまでとは違ってハキハキとした口調で続ける。

 

「イタコ姉さま!私、やっぱり行きます!」

 

「そう。よかった。ずんちゃんも行きますわね?」

 

「う、うん....。」

 

ずん子が返事する。

すると、善は急げとばかりにイタコさんは外に出る用意をする。

他の二人も同じだった。

昔から来ていた東北家の家の匂い。

俺は、この匂いが好きだ。

 

 

 

 

 

夜。

とあるチャットルームにて。

 

『...という事があったんですよ!多分、言い出せないだけで、祇園ちゃん気にしてます!』

 

一人の少女がはっきりとそう断言すると、その声に答える声。

 

『それは聞き捨てなりませんね。目つきが悪いってことは悪い事だけではないと私はつねづね.....』

 

くどくどと言葉を続ける少女。

そんな少女にお気楽な声が同調する。

 

『祇園ちゃん優しいし、話しよく聞いてくれるしね。まぁギャップ萌えって奴?ゆかりんが言いたいのってそういうことでしょ?』

 

三人の少女は博多祇園という少女について話をしている。

 

『それに目つきが悪いだけで可愛いですし、なにより胸が大きいですし!胸がっ!!大きいですしっ!!!』

 

『ゆかりん、そこめっちゃ言うじゃん。』

 

声を荒げる少女とそんな少女の声を聞いて呟く少女。

すると不意に二人の会話を切り裂くようにもう一人の少女が口を開く。

 

『これはもう、例の計画をするしかないです!』

 

すると、二人の少女もその言葉に反応する。

 

『それってもしかしてあの.....』

 

『本気ですか....?』

 

一人の少女が確認する。

すると、提案した少女は断言する。

 

『はい....今こそ、祇園ちゃんアイドル化計画を始める時です!合言葉は覚えていますね?』

 

そう言うと、息を吸う。

 

『当たり前です。』

 

『へぇ...いよいよ始まるんだ。』

 

そして二人も息を揃えて声を出した。

 

『『『博多祇園は意地でも流行らせろ』』』

 

かくして三人の少女による一人の少女の為の計画が始まったのだ。




僕はボイスロイドではきりたんが一番好きです。(頑固)

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