淫魔「人間とかいう種族wwww」   作:へか帝

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後ろめたい野郎の日記シリーズ、第二弾。

先に言っておきますが、鋼の鉄格子くらい上位種なら暖簾をくぐるように引き裂けます。
最後の報告レポートも蛇足かなと思ってNo.1だけ公開にしました。


売人の日記

υ月Ν日

天使を誘拐した。

はっきり言って成功するとは思っていなかった。

天使が一人でいるところに偶然居合わせたのは幸運だった。

突発的な作戦だったから無茶をしたかとも思ったが、想像以上にうまくいった。

ホイホイと俺の言うことをなんでも信じやがるから、むしろ拍子抜けしたくらいだ。

天使は人を疑うということを知らないらしい。

こいつら、こんなんで人の世を生きていけると思ってるのかね?

素敵な天界とやらで平和に暮らしていれば良かったものを、馬鹿な連中だ。

人間の欲の醜悪さを知らないと見える。

天使の方はまだ事態に気づいていないらしい。

俺の方も慌てずに事を進めさせてもらおう。

なにせ天使だ、売りさばく先には困らないだろう。

間違いなく法外な値が付く。ツいてるぜ。

 

 

 

ξ月Π日

人の近寄らない廃工場を事前に確保してあったから、拠点をそっちに移した。

丁度払い下げの猛獣用の鉄格子を持て余していたので、天使は中にぶち込んである。

だが……天使は俺のことをキラキラした目でずっと眺めていた。

愚かな種族だ。この期に及んで自分の立場がわかっていない。

天使というのは理由もなく人間を心底から信じ切っているようだ。

ハッキリ言って気色が悪い。

根拠のない全幅の信頼は、なぜだか背筋が凍るほど恐ろしいものだ。

とっとと売りさばく先を見つけたいところだが。

 

 

 

Ε月δ日

思ったより面倒が付いて回っている。

天使という特ダネだ、慎重に慎重を重ねて商談を進めているが、どいつもこいつもビビって手を出しやしねえ。

もっと入れ食いになると思っていたから期待外れだ。

だが、天使という身分の値打ちは本物だ。大金はたいてでも手中に収めようとする富豪は絶対にいる。

だから慌てることはない。それに天使のやつは危機感ゼロで碌な抵抗もしねえ。

なにせお仲間に助けを呼ぶ素振りすらない。それにたとえ逃げようたって、ぶっとい鉄柱が並んだ大型動物用の檻だ。人の身でどうこうできるわけない。

俺はただ、おまわりさんに尻尾を掴まれないよう気を付けるだけでいい。

 

 

 

Ν月´日

こんなに売り飛ばすのに時間が掛かると思っていなかった。

客は思ったより食い付かない。いや、一度は声を上げるがしばらくすると音信不通になっちまう。密告でもされたかと思ったが、そうじゃねえのは調査してすぐわかった。ハッキリ言って商売の邪魔だが、元上客だから邪険にもできない。

こんな事が続くせいで時間ばかり食っちまう。

おかげ様で俺が天使の世話までするハメになった。

状態の悪さで偽物だと疑われちゃたまらんから、長いこと飯の世話をしてやっているがいい加減面倒くせぇ。

天使の不思議な体質のおかげで下の世話をしなくて済むのは不幸中の幸いか。

口に入れた食い物は全部尻と胸に行ってるのかね。

 

 

Ε月§日

何が嫌って、天使と毎日顔を合わせなくちゃならないのが一番嫌だ。

自分のされている仕打ちにも気づかず、屈託のない笑みを向けてきやがる。

初めは馬鹿だ世間知らずだと嘲っていたが、これほどまでに突き抜けているともはや一種の狂気を感じる。

四六時中にこにこと笑顔を向けてくるのが不気味で仕方がない。別室にいる時も監視カメラで動向は確認しているが、いつ画面を見てもカメラ越しに視線が合うし、その瞬間すーっと笑みが深くなる。

これに限った話ではないが、最近天使が人を超えた存在なのだと感じる事が多い。

天使は神聖で清廉な存在だと言うが、俺には人の形をした化け物にしか思えないね。

 

 

 

´月Н日

まだ買い手はつかない。連絡がどんどん途絶えていく。

ひょっとして、俺が逆にブラックリスト入りしてるのか?

この際どうだっていい、どんなに安値でも構わないから、とにかくこの天使を俺は早く手放したい。

監視カメラの映像を見ると、やはり天使のまなざしが映る。

気色悪い。監視しているのは俺のはずなのに、逆に見られているような感触だ。

映像を見ると自然と目が合って、背筋を冷たいものが這う感じがする。

嬉しそうに微笑んでいるが、何を考えているのかさっぱりだ。

ぞわぞわとして、薄気味が悪い。

 

 

 

¶月±日

ばかばかしい都市伝説がある。俺のような悪の処遇の話だ。

国はいつからか終身刑や死刑を実施しなくなった。

これに関して、信じがたいことに詳細な記録が見つからない。気づけばそうなっていた。誰も疑問に思わず、『そういうものなんだから』と納得している。

では重い罪を犯した人間は代わりにどうなるか?

明かされてない。一説には……天使に連れられて天界で"反省"させられる。

そういう都市伝説だ。はっきり言って子供だましの眉唾。

だが、試しに天使にこの話をしてみたところ、これが真実だと判明した。

国の上層と何か契約があったらしい。

事実"反省"している人間は、まだ一人も現世に帰ってきていない。

天使というのは、いったい何なんだ。

俺は一体なにに手を出した……?

 

 

 

÷月〇日

変だ。何かがおかしい。

天使のやつに飯をもって行ったら、あいつと目が離せなくなった。

それで、気づいたら日が暮れていた。

ずっと檻の向こうの天使に手を握られていたようで、手だけが異様な熱を帯びていた。

体も妙に硬い。自分の体じゃなくなったみたいだ。

俺は、何かされたのか?

だが、天使の様子は今までと何も変わらない。

平和ボケしきったいつもの調子だ。反抗する素振りもまるでない。

今さら何かに気づいて敵意を見せたわけでもない。

ただ風邪を引いただけなのかもな。

だが、どうにも不安だ。

体の調子が悪いのもそうだし、今日は早めに寝るとしよう。

 

 

 

υ月ξ日

今日の営業は休みだ。

やはり昨日からどうも体の調子がおかしい。

体の芯がうずくようで、うだるように熱い。

何をしていてもちっとも落ち着かない。

それに……あの天使の顔が脳裏から離れない。あの笑顔だ。

あとはやたら股座がいきり立っている。笑えないな、盛った猿でもあるまいし。

一番まずいのは、気が付くと体が勝手に天使様の方にいこうとすることだ。

昨日天使様と話したときに変な術でも掛けられたのか。ひょっとしたらお助けしようとしてるのかもしれない。

……? なんだ。うまく思考がまとまらない。

とにかく俺の体が勝手に天使様の所に行かないように、へやのドアの前にバリケードを組んだ。

絶対にこれ以上天使様に近づかないようにするためだ。

自分が開けないように内側にバリケードを組むなんて妙な話だが……

でもひひ必要だ。てん使様にあやつられて、あいつをかい放してしまうかもしれない。

あれ? いま何してるんだっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ξ月Π日

あたまぼーっとしてる。

てんしのこえが頭なかきこえる

あたま なか てんしいる

てんしは監視カメラからずーっとこっちみてる

こえ する

でも檻ある 大丈夫

体かってに動く。

俺があけなきゃ 大丈夫

てんし さわられた手 凄く熱い

大丈夫 おりある

バリケード ある

おれが あけなきゃだい じょぶ

おれが あけなきゃ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ι月ξ日

きぶん いい

てんしま ってる

バリケード じゃま

カメラ こっち見

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

報告レポート.01

 

人間さんと邂逅しました。

はっきり言って成功するとは思っていませんでした。

人間さんが一人でいるところに偶然居合わせられたのは幸運です。

突発的な天啓だったので無茶かもしれないと思いましたが、想像以上にうまくいきました。

ホイホイと私の言うことをなんでも信じてくださるから、むしろ拍子抜けしたくらいです。

人間さんは天使を疑うということを知らないみたいです。とてもいいこですね。

でもみなさん、こんな調子であぶない人の世を生きていけると思っているのでしょうか?

素敵な天界に今すぐ来て平和に暮らせば良いものを、お馬鹿な人間さんたちです。

天使に救済される重要さも知らないみたいです。

人間さんの方もまだ自分の本当の幸福に気づいていないみたいですね。

私の方も慌てずに事を進めさせてもらいます。

なにせ人間さんと二人きりです、幸せになる手段には困りません。

間違いなく神聖な未来が訪れます。ツいてます。

 

 




法:天使に犯されている。
人:天使に犯されている。
悪:天使に犯されている。
心:天使に犯されている。
脳:天使に犯されている。

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