淫魔「人間とかいう種族wwww」   作:へか帝

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後ろめたい人の日記シリーズ第三弾。
前のアルラウネ回の日記版です。
あまり目新しさはありませんが、没にするのももったいないので投稿。


いけない栽培

Ε月±日

麻薬の水耕栽培は止めにした。

明日から魔界産だっていう植物の栽培をする。

今日のうちに土や肥料の準備だけ行っておいた。

あとは、どれくらい大きく育つかわからないので場所の確保もか。

結構な大掃除になったが、玄関のすぐ隣に広いスペースを設けることができた。

育成が上手くいく目途はまったくないが、俺は期待されている。

成功すれば組織での躍進は間違いない。

必ずこのチャンスをものにしてやる。

この観察日記も上からの指示だ。

夏休みの宿題にあった朝顔の観察日記を思い出す。

当時はろくに手も付けなかったが、今回は真面目にやらないとな。

 

 

´月Τ日

魔界の植物の種子が届いた。

流石は魔界産。ファンタジーな模様の刻まれた小箱に包まれて送られてきた。

お札のようなもので厳重に巻かれており、なにか呪いの品のようですらあった。

まあ、風変わりな梱包みたいなものだろう。

中身の種子だが、俺はそれが魔界の産物だと一目見て分かった。

刃物で切り付けたら紫色の体液が飛び出しそうな外見だ。

素手で触ったら肌がかぶれるんじゃとか気にするような……。

とにかくこれを飼育、じゃない。栽培する。

あまり視界に入れておきたくなかったので、段取りよく土に埋めた。

埋めが浅いと土をかき分けて地上に這い出てきそうだったので、気持ち深めに埋めた。

どんな花が咲くかさっぱりだが、うまくいってくれ。

俺の地位向上を願い、愛情を注いで一連の作業を行った。

 

 

÷月〈日

ヤバすぎる。

朝起きて苗の様子を見に行ったら、既に花が咲いていた。

成長速度が地球の植物の常識を超えている。あまりに異常だ。

花の形状はラフレシアが最も近いだろうか?

数メートルにも渡る巨大な窪みを中央に、大きすぎる花弁が広がっている。

あの種子のどこにこんな質量が隠されていたっていうんだ。

極めつけに、窪みの中央からは全裸の女が生えている。

花の蜜らしき頭から被ったような、どろどろした金色の液体でずぶ濡れだった。

あれは花の蜜か? 甘く濃厚な匂いが部屋に充満していた。

まだ経過してたった一日。

育成はうまくいっているが、不安しかない。

 

 

Ф月Φ日

最悪だ。

家の出口に繋がる通路があの植物に封鎖されてしまった。

窓もそうだ。ツルが伸びて埋め尽くされている。

あの不気味な植物は、とうとう人の言葉すら喋り始めた。

「こわくないよ」「だいすき」「ちゅうしよう」

こんな内容の言葉を繰り返しながら、俺に向かって腕を伸ばしてくる。

美しい女の姿をしているが、俺だってそこまで馬鹿にはなれない。

様子を見に行って、すぐに引き返した。

そしたらあの花の野郎、俺に向けて蔓をムチのように伸ばしてきやがった。

運よく間一髪で躱すことができて、この部屋に逃げ込めたものの……

とにかく場所が悪い。あの花が門番のように玄関の前に立ちふさがっている。

次また俺があの花の前に躍り出れば、確実にあの蔓に絡めとられてしまうだろう。

もう八方塞がりだ。

 

 

Ν月°日

未だこの家を脱出する手立ては見つかっていない。

なりふり構わず壁をぶち破って脱出しようとしたが、それを実行するより早く壁が蔓で埋め尽くされた。

包丁の刃はまるで通らないし、火を使っても燃え移る気配はない。

今や俺のいる家は、壁も床も天井もあの魔界の植物の蔓で敷き詰められてしまった。

屋内だっていうのに、まるで熱帯雨林にいるみたいだ。

外に繋がる出口は一つ残らず蔓で塞がれている。

ただ幸いなことにまだ家の中は自由に行き来ができる。

食べ物を蓄えも取りに行けるし、喉が渇いて死ぬ心配もない。

なんとかしてこの家を出よう。

 

 

ρ月Κ日

今日はかなり危なかった。

にっちもさっちもいかないので、本体の花がいる部屋を覗いてみることにしたのだ。

ドアはもう開かない。四方の隙間から捻じ込むように蔓が侵入してきて動かなくなっていた。

ただ、ドアには小さい曇りガラスが嵌め込んである。

だからこいつをぶち破って部屋の様子を窺ってみた。

部屋の中はもう酷い状態だった。

それこそ、腐海の森のような姿になっていた。

たった一つの種子で、まさかこんなことになるなんて。

恐ろしくて引き返した。

 

 

Π月Γ日

覚悟を決めて部屋の中を覗きに行ったら、突如蔓が凄まじい速さで伸びてきた。

当たり前の話だが植物は成長する。ムチのような蔓の射程も伸びていたらしい。

もしもガラスを割るだけでなく、ドアを丸ごと外していたら俺はやられていただろう。

尻もちをついたお陰で、頭に蔓が巻き付くこともなかった。

もう一度、今度はしっかりと警戒しながら恐る恐る中の様子を窺ってみた。

奥で吸入器のような器官を構えた女がじっと俺を見ていた。

にちゃにちゃと音を立てながら内面が蠢いている。あの吸入口がついた壺のような器官は何に使うのだろうか。

裏面をこちらに向けていること、丁度人間の頭を鷲掴みにできるような位置にかぎ爪がついている事から……。

用途を考えるとだんだん怖くなってくる。

おそらく、あれが顔面に吸い付いてきたらもう自力では外せない。

余計な推測はこの辺でやめておこう。

 

 

Κ月〈日

懸念事項がある。

この家の内側を覆う蔓のことだ。

蔓の側面にしばしば小さな花が咲いているんだが、これを俺は不安視している。

この小さな花がぷしゅぷしゅと花粉のようなものを噴出しているのだ。

現在のこの家の換気状態は最悪。

密閉状態でこの花粉を毎日空気のように吸っているが、健康に害はないのか?

花粉症程度で済めばいいが。

いや。ただの現実逃避だ。

ここ数日、かなり頭がぼーっとしている。

身体も四肢がやんわりと痺れてきた。

ドアの曇りガラスを割ったせいで、例の諸悪の根源から醸し出す蜜の香りが家全体に充満しているんだ。

もう機敏な動きや、筋力を使った力任せの運動はできないだろう。

じわじわと詰みの状況に近づいているのを感じる。

もうダメかもしれない。

 

 

ξ月§日

性欲の昂りが尋常じゃない。

間違いなくあの花の仕業だろう。

あの蜜がおかしいんだ。

手の内は分かっている。

こうやって香りで人間を興奮させ、あの女の部分で馬鹿な男を誘い込もうっていうんだろう。

自分で発散してもまるで収まらない。この香りも普通じゃないんだ。

ずっとあの蜜まみれの肢体が頭から離れない。

自分の欲望に負けたら、終わりだ。

誰か助けてくれ。

 

 

η月Α日

様子が変わった。

霞掛かった思考でふらふらと花の方へと近づいてしまった。

だがあの花は萎れ切っていて、花弁も閉じていた。

俺はそれを見て何とか理性を取り戻すことができた。

水が足りなくなって、とうとう萎れだしたか?

昨日確認したが、玄関の扉の蔓も枯れて剥がれていた。

もうあきらめていたが、助かるかもしれない。

明日、意を決して横を通ってみようと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

 理由もなく息が荒くなる、この数日ずっとこうだ。

 息苦しさはないが、体がうずくように熱くて仕様がない。

 部屋中に充満したガスが原因で間違いないだろう。

 ……ちらりと例の花の様子を窺う。

 花弁は閉じている。心なしか元気がない。

 助かった。今の俺の状態で、あの官能的な花の女を見たら理性が崩壊してしまう。

 不気味な魔界の植物といえど、水が無ければしおれるらしい。

 一時はどうなることかと思ったが、俺の粘り勝ちだ。

 花の傍らを、物音を立てないようにひっそりと歩く。

 

 ぱさり。隣で柔らかい音が聞こえた。

 慌てて音の方向を見れば閉じられていた花弁が僅かに開き、隙間からあの女がこちらを覗いていた。

 女が細腕を伸ばす。俺の手首が凄まじい力で掴まれた。

 咄嗟に振りほどこうとするが、それより早く全身に蔓がきつく巻き付く。

 声すら出すこともできずに、俺は閉じた花弁の中に引きずり込まれてしまった。

 

「まってた」

 

 抑揚のない声で、あの花の女が言う。

 花の中は黄金の蜜と芳醇な香りで満たされていた。みるみる内に俺の衣服が溶かされていく。

 俺は……このまま食われちまうのか?

 

「は、離せ!」

「今から……お礼するからね」

 

 花の女は恍惚とした笑みを向けてくる。俺の言葉なんて聞いちゃいない。

 蔓に巻きつけられたまま、唯一無事な足をばたつかせて脱出を図るがぼふぼふと閉じた花びらを無意味に叩くのみ。

 事態はちっとも好転しない。

 

「ずっとずっと……まってた」

 

 首をもたげるようにゆっくりと持ち上げたのは、生理的嫌悪を催すあの壺のような器官。

 内部には瑞々しい桃色のいぼいぼが敷き詰められている。ぬちゃぬちゃと水音を立てながら蠢いていた。

 むわぁっと甘い香りを放ちながら、身動き一つとれない俺の顔にゆっくりゆっくり近づいてくる。

 これを顔面に取り付けられたら、俺はどうなってしまうのだろう。

 

「やめろ! やめてくれ!」 

「うん。うん。一緒になろうね……」

 

 必死に首を振りながら女に訴えかけるが、まるで聞く耳を持たない。

 吸入器はどんどん近づいてきて、ザクロのようなグロテスクな内面で視界がいっぱいになる。

 

「ひっ」

 

 ぶちゅ。

 生暖かい感触とともに、吸入器に口づけされた。

 視界が真っ暗闇に包まれ、ずちゅずちゅと気色の悪い粘液の音だけしか聞こえなくなる。

 けれど同時に、俺を縛っていた蔓が解かれた。すぐに自由になった両手ですぐ引き剥がしにかかる。

 

「──! ───!」

「そんなに喜んでくれるの? 嬉しい……」

 

 だが吸入器は凄まじい力で顔面に吸い付いていて、金具で固定されたかのように離れない。

 必死に引っ張ったり、全力で叩いてみたりしてもびくともしなかった。

 繋がっている管まで手探りで見つけて、腕を伸ばして引き千切ろうとしたり、脚を使って押し退けようともしたが、それでもダメ。

 顔面を覆いつくされて何も見えないまま、どたばたと暴れて必死に吸入器を外そうと動き続ける。

 

 ──ばふ、ばふ。ぼふん。

 何も見えない視界の中でがむしゃらにもがき続けていると、ふとそんな音が耳朶を打った。

 

「ッッl!!!????」

 

 布団を叩くような音と共に、埃っぽい何かを吸引させられた。

 そう思った次の瞬間には、がくがくと全身が震え体中の力が抜けていく。

 脳みその中でばちばちと電流が走る。真っ黒だった視界が眩い白で埋め尽くされる。

 ぴくぴくと痙攣の止まらない手足をピンと放り出し、脳に流し込まれる濁流のような快感から何とか逃れようとする。

 筋肉が壊れたように収縮を繰り返す。息を吸うことさえままならない。

 それでも呼吸に限界が訪れ、過呼吸によって強引に外気を吸い込もうとした瞬間──

 

 ばふっ!ばふっ!ばふっ!ばふっ!

 

「ッ──!?!? ッ!!?」 

 

 肺の中いっぱいにあの埃っぽい何かを大量に送り込まれた。

 脳回路が焼き付くほどの快楽信号。

 言葉も記憶も、何もかも分からなくなる。

 過度の快楽で脳みそがどろどろに溶かされて、空っぽにされていく。

 前も後ろもわからない。

 快楽の奔流によって人体が蹂躙されていく。

 明滅する白一色の視界で、自分の体が壊れたように跳ねまわる感触だけがあった。

 

「たしゅっ、たしゅけ──」

「いっぱいいっぱい……ご奉仕するから」

 

 どぶっ。どぷぷぷっ。

 今度は吸入器の内部が熱くてドロドロの液体で満たされていく。

 喉が焼けつくように甘ったるい液体がどくどくと絶え間なく口内に侵入してくる。

 濃厚な甘い香りが脳髄を犯し尽くしていく。

 これを飲み込んだら本当に終わる。

 僅かに残った思考力は、けれど無駄だった。

 飲むのを我慢して、鼻から埃っぽい何かを吸引してしまったから。

 

 ごくっ。ごきゅっごきゅっ。

 一度ダムが決壊したら、もう止まらない。

 溺れるように蜜を呑み続ける。

 止めようとしても、蜜に意思があるかのように喉奥へと飲み込まれていく。

 まるで溶けた鉄を流し込まれているような熱さ。

 どろりとした濃厚な液体が絶え間なく体内に注入されていく。

 コントロールの聞かなくなった身体が悦びで痙攣し続けている。

 飲めば飲むほど、頭の中が快楽で埋め尽くされていく。

 蜜によって脳のメモリが塗り潰されていくの感じる。

 段々、まともに自我すら保てなくなっていって──

 

 

「続きは……魔界で」

 

 




とうとう掲示板形式・日記形式に限界を感じて通常の小説パートを挟んでしまいました……。
R18の壁を突破しないように短めになってます。
壁を突破した魔界編はありません。もしパンツを下ろした人がいたらちゃんと履いてください。

アルラウネ:開花後しばらく経っても最大の栄養である人間の精と愛情を調達できなかった場合、徹底的に退路を塞ぎ限界状態に追い込んだ上で仮病を使い、脱出のストーリーを演出してターゲットの油断を誘うことがある。
万が一この状態のアルラウネに捕まった場合、欠乏していた栄養を十分補填できるように、そして今後二度と困ることが無いように念入りにお礼を施す。

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