淫魔「人間とかいう種族wwww」   作:にんげん

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パン屋さんの制服は本当に性癖


パン屋さん

 学校の帰りにいつも寄るパン屋さんがある。

 通りがかったときに漂ってくる焼きたてのパンの香しい匂いに誘われて、つい立ち寄ってしまうのだ。

 このパン屋さんのパンは本当に絶品で、我慢しようにも我慢できずもう僕は毎日通っていた。

 それに……僕がこのパン屋さんに通ってしまう理由はもう一つある。

 

「あっ♡いらっしゃいませー♡」

 

 そう、店員さんがかわいいのだ。

 三角巾とエプロンを着用し、厚手の手袋をはめてトレーに乗せた焼きたてのパンを運ぶお姉さんたち。

 中でも僕が心惹かれるのは、ひまわりのように屈託のない眩しい笑顔を浮かべる彼女。見る者をすべてを癒してくれる女神だ。

 パンの焼きあがった芳醇な香りと、じんわりと温かく心の休まる店内、そしてとびっきりかわいい店員さん。

 僕がこのパン屋さんに足しげく通ってしまう理由はこの三つにあった。

 

 それに、ここの店員さんはみんなとてつもない美人さんで、さらにはとっても身長が高くスタイルも凄くいい。

 本人に確認したことはないけれど、彼女たちこそが噂に聞く『淫魔』という種族なのではないだろうか。

 でももしそうだとしたら、ちょっと印象と違うかもしれない。

 だって淫魔と聞くとこう、淫靡な雰囲気を想像してしまうから。彼女たちはそんな淫らな雰囲気をおくびにも出していない。

 いたずらに肌を露出させていないし、男を誘うようないやらしい視線を誰かに向けているところも見たことはない。

 あ、でも……。

 僕の視線がつい笑顔の眩しい彼女の胸元に向く。

 

 ──デカい。

 

 大きい。

 いや、すごく大きい。

 いや、ものすごく大きい。

 

 店員さんの制服はぴっちりと体のラインを浮かび上がらせるようなものではない。

 だというのに彼女の制服は女性らしい膨らみによってこれでもかというほど持ち上げられており、霊峰の如き丘を作り出している。

 エプロンの裾が胸よりも下にあるため、膨らみ上がる純白の布地を強調する形になっているのも非常によろしくない。

 パンよりもふんわりと柔らかそうな双丘が、制服の構造の妙によって更に大きく見えてしまう。

 こんなの不可抗力じゃないか。視線が吸い込まれてしまうに決まってる。

 

「……?」

「っ!」

 

 しまった、ガン見してしまった!

 店員さんが振り向いたので咄嗟に目を逸らしたが、気づかれただろうか。

 

「──♡」 

 

 と、思ったがそんなことはなさそうだ。微笑みながら小さく手を振ってくれている。

 かわいい。癒される。……そして、背筋を伝う罪悪感。

 あんな天真爛漫な女性に、僕はなんて不躾な視線を。

 彼女はあんな無垢に温かい笑顔を向けてくれているのに。

 うおお、自己嫌悪でどうにかなりそう。なぜ男はこうも悲しい生き物なんだ。

 本来直線にしか進まないはずの光がブラックホールの前では為すすべなく吸い込まれていくのと同じだ。

 僕の視線もどんなに強く理性を持っていようと彼女のやわらかまっしろふわふわパンに吸い込まれてしまう。

 

 ところで、最近雑誌でこの店にまつわる奇妙な噂を目にした。

 その噂とは、『店に入る人数と出ていく人数が合わない』というものだ。

 そして、『常連が一人減ると店員が入れ替わる』と続けていた。

 正直、何言ってんだ? というのが僕の素直な感想。

 まるでこのパン屋さんがお客さんを食べる怪物かのような書き方ではないか。

 まったく馬鹿馬鹿しい。

 そりゃ確かに、僕がこのお店を見つけた当初にいた常連さんらしき人たちの姿をめっきり見かけなくなったりはしたけどさ。

 でも別に、そんなの良くあることじゃないか。引っ越しとか好みの変化とかお金の都合とか、理由なんていくらでもある。

 そういえばその常連さんと別の店員さんがいなくなったのも同時期かもだけど、まさか関係なんてないだろうし。

 まったくふざけた陰謀論だ。あんな子供だましの記事、真に受ける人なんていないだろ。

 

 あ、でもその雑誌の翌週記事は全然違うものになってたんだよな。

 確か前回は『突撃取材予定!潜入してスクープを手に入れる!』と締めくくっていたはずだが、次週の記事は何もなかったかのようにこのお店の食レポを掲載していた。

 当初の疑問なんて完全無視で、肝心の都市伝説の話題は一文字たりとも触れていなかった。

 結局なんにも見つからなかったからお茶を濁したんだろうな。

 あ、でもその記事ではイチオシ商品として『契りパン』を猛烈に推していた。まだ僕が注文したことのないやつだ。

 前週の内容は眉唾だったけど食レポ記事の方はよくできていたし、頼んでみよっかな。

 さっきの彼女は別のところにいるけど、罪悪感もあるし他の店員さんにお願いしよう。

 

 

「すみません、この『契りパン』っていうのくださ──」 

 

 シュバァァッ!!

 

「承りました♡♡♡」

 

 ……あれ?

 なにか突風が吹いたと思ったら店員さんが入れ替わってる。

 おかしいな、さっきまで別のカウンターにいたはずなんだけど。いつの間にこんな側に来たんだろう。

 まあいっか。とりあえずお代を払おう。

 そう思ってお財布を取り出そうとしたらお姉さんに手首をガシィッ!と掴まれた。

 突然の出来事に目を白黒させている僕を置いてけぼりに、お姉さんは僕の手を鼻先まで近づける。

 

「……すんすん」

 

 ……?。

 

 え!?

 

 匂いを嗅がれている!?!?!??

 ヤバイヤバイヤバイ!。

 冷や汗がドバドバと流れ出す。なぜって、その、昨日の夜に、お姉さんのことを思い浮かべながらこの右手で……。

 いやいやいやいや! 大丈夫!

 手はちゃんと洗ったし、だいたい昨日の夜のことだし! 

 突然の出来事にパニックになりながらも周囲の目を気にして店内の様子を窺う。

 こんなに人に見られたら……と思って、挙動不審になりながら辺りを見回して、異変に気付いた。

 

 僕以外のお客さんが誰もいない。

 一瞬にして雰囲気の変わった店内。突然奇行を行う店員さん。

 突如として巻き起こった異常事態に、僕は客を食べる店という一笑に伏した都市伝説が脳裏をよぎった。

 

「は、離してください!」

「すぅーーーーー……っ♡ んっ♡ すぅぅぅーーーっ……♡ ふっ♡」

 

 言いながら引っ張っても、お姉さんは匂いに夢中になっていて僕の声が届いていない。

 僕の手のひらの匂いを嗅ぎながら小さく喘ぎ声を繰り返すばかりで、ちっとも話が通じない。

 仕方なく無理やりお姉さんの手を振りほどこうとするも、彼女は尋常ならざる握力で僕の手首を掴んでおりびくともしなかった。 

 お姉さんは狂ったように、ただ一心不乱に僕の手の匂いを嗅ぎ続けていた。

 とろんと蕩けた瞳で、夢心地の表情で恍惚としている。

 だ、ダメだ、明らかに正気じゃない!

 

「に、逃げなき──んむぅぅぅぅ!?」

 

 お姉さんから逃げれずにいた僕は、突如としてお姉さんに腕を引かれその白無垢の胸元に頭から飛び込んでしまった。

 顔面を包み込む優しい感触。焼きたてのパンのようにふかふかしたもので顔が覆われる。

 あったかくて、ふわふわしてて、柔らかくて──。

 って違う! 堪能してる場合じゃない! 逃げなくちゃいけないんだ!

 

「むぅぅぅ! むぅぅぅぅっ!」 

 

 そう思ってお姉さんの抱擁を振りほどこうとするも、ちっともうまくいかない。

 僕の後頭部と背中に腕を回したお姉さんが力強く僕を胸にうずめており、お姉さんから離れられない。

 強く押し付けられた胸によって何も見えないまま、柔らかい感触だけが僕の意識を支配していく。

 ま、まずい。呼吸ができない。は、はやく離してくれないとお姉さんの甘くて柔らかい匂いで頭がいっぱいになって、意識が……。

 だめだ、もう手足に力が入らない……。

 

「ぅぅ……、むぅぅ……」

 

 強く抱き潰されたまま体を持ち上げられ、どこかに運ばれる感触を最後に僕は意識を失った。

 




パン
 おいしい
 
契りパン
 買っちゃダメ
   
パン屋さん
 何事も無かったように店員さんを補充し営業を再開している。
 
店員さん
 たまにお客さんを凝視しながらトングをカチカチしてる 
 
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