贋作 スペードの国のアリス   作:汐留ライス

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A is for Alice.

 アリス=リデルが目を覚ますと、そこはプラットホーム。

「……え?」

 ベンチから起き上がると、布団代わりにかかっていた枯れ葉がバラバラと落ちる。

 ホームにも、線路の上にも同じように枯れ葉が積もっている。

 まるで、ずっと使われていない廃駅のように。

「……」

 目覚めたばかりの寝ぼけた頭で、アリスは記憶をたどる。

 眠りについた時は、こんな状態ではなかった。駅にはちゃんと汽車が出入りしていたし、アリスも部屋のベッドに入った。

「何時間帯が経ったのかわからないけど」

 昼と夕方と夜の順序が決まっていない世界。

 昼と夜だけが繰り返したり、夕方だけが続いたりする不安定な世界。

 ダイヤの国。

 

「でも、これはおかしいわ」

 眠っている間に駅がこんなにさびれるなんて、この世界の常識で考えてもおかしい。

 けれど、常識を覆されたことはこれまでにも何度かあった。

「……引越し!」

 すぐに思い至る。

 実際、この世界でアリスは引越しを2度経験している。

 『白ウサギ』ペーター=ホワイトに連れられ、庭の穴から落ちてきたハートの国。その後ペーターたちのいるハートの城に滞在することになるのだが、ある時周りの地形が突然変わって、ハートの城にいながらクローバーの国になってしまったのが最初の引越し。

 その時はハートの国にあった遊園地と時計塔がなくなって、代わりに森とクローバーの塔が現れた。遊園地のゴーランドや時計塔のユリウスがどこへ行ったのか、アリスは知らない。

 

 ゴーランドたちのように、アリスがいなくなる側になったのが2度目の引越し。

 この時アリスは、クローバーの国からダイヤの国へと移ってきた。

 ここはクローバーの国よりも過去の世界らしく、両方の国に共通していた帽子屋屋敷の面々や、再会したユリウスはアリスのことを覚えていなかった。

(……エースに至っては、子どもになっているし)

 それでも駅に滞在して働きながら、帽子屋屋敷やユリウスのいる美術館へ何度も遊びに通い新しい関係を結び直して、ようやくダイヤの国にも慣れてきたと思った矢先。

(これが、3度目の引越し)

 確かめないといけないことは、たくさんある。

 今度はどこが動いて、どこが元のままなのか。

 そして駅にいた仲間たちはどこへ行ったのか。

 

「ボリス?」

 プラットホームを歩くと、足の下で枯れ葉が乾いた音を立てる。

「ナイトメア?」

 眠りにつく前まで一緒にいた、駅の面々の名を口々に呼ぶ。

「グレイ?」

 返事はない。

 駅にはアリスの他に、誰もいない。

「……」

 引越しだと分かった瞬間から薄々予感はしていたが、改めて思い知らされるとショックは大きい。

 しかし、立ち止まってばかりもいられない。

(他のところも見に行かなきゃ)

 ここはもうダイヤの国ではない。

 新しい国ではどんな場所が、相手が待っているのか。

 未知の世界へ向かって、アリスは一歩を踏み出した。

「……まずはどこへ行こうかしら」

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