贋作 スペードの国のアリス   作:汐留ライス

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G is for Ghost. (1)

 ゴーランドがジェリコに説教されている間に、アリスはその後ろで控えていた長髪の男へ駆け寄る。

「ユリウスも無事だったのね。よかった」

「……おまえもな」

 『時計屋』ユリウス=モンレー。

 あちこちから送られてくる時計を集めて、修理して新しい持ち主の元へ届けるのが彼の仕事だ。

(……そう言うと、なんか普通の仕事っぽいけど)

 この世界では、『時計』の意味が元の世界とは少し違う。

(そもそも時間帯が不規則だから、文字盤の針を読んでも意味がないし)

 この世界の住民は、身体に心臓を持っていない。代わりに彼ら彼女らを動かしているのが時計。

 物が壊れても自然に元に戻ってしまうが、死んだ住民は消えてしまう。そして時計だけが残る。

 ユリウスが扱うのはその時計。彼が別名『葬儀屋』とも呼ばれる所以である。

「出不精のユリウスがどうしてジェリコと一緒に……ああ、抗争だからか」

 基本的にワーカホリックのユリウスは、美術館の一室からめったに外出しない。たまに心配したエースが連れ出しているようだが、大人の運動量としてはそれでも十分とは思えない。

 しかしマフィア同士の抗争では、どちらの陣営にも多くの死者が出る。ユリウスが直接その場へ出向く方が、時計を回収するのに都合がいいのだろう。

(結局、仕事第一主義なのよね……。そういうところ、ハートの国にいた頃から変わらないわ)

「……何か失礼なことを考えているだろう。顔で分かる」

 ユリウスの仏頂面がさらに険しくなる。

 そしてそんなユリウスが、この美術館に滞在しているのには理由がある。

 

 美術館の館長であるジェリコは、この世界での死が確定している。

 この世界には無数の分岐点が存在して、その分岐によって誰かが生きている世界、死んでいる世界というように無数に枝分かれを繰り返している。

 だから特定の誰かがどこかの世界では死んでいても、別の世界では生き続けているということが起こりうるし、実際に起きている。

 そして、その誰かに対して全ての世界の中で死んでいる世界の数が生きている数を上回ると、生きている世界の分岐は次第に消滅していき、最終的に死んでいる世界だけが残る。

 これが、この世界での『死』が確定するということ。

(ユリウスの受け売りだから、私もよく分かっていないんだけど……)

 中でも役持ちの死は大きな意味を持つので、もしジェリコに何かあった場合にその最期を見届けて、時計を回収できるようになるべく近くにいるのだと言う。

(それもあるだろうけど、ユリウスが他の領地の連中とうまくやっていけるとも思えないし)

 何しろ神経質で気難しい。悪人ではないけれど、協調性はほぼゼロ。そんなユリウスを受け入れられるのは、役持ちの中でも比較的常識のあるジェリコくらいかもしれない。

(それに……)

 ユリウスの背後に浮かび上がる、いくつもの影のような存在。『残像』というらしい。ユリウスの部下のような存在で、時計の回収を手伝っているらしい。

 アリスも最初に見た時は驚いた。今ではだいぶ慣れてきたけれど、それでも積極的に見たい存在ではない。

 そんな色々な理由が重なり合って、ユリウスはジェリコがいるこの美術館に滞在している。二人セットでいるのが自然なくらいに。

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